泣きたくなるほど優しい人
今回はいつもよりすこーし短いです!
膝枕は個人的にリゼロの中でも少し色の変わるシーンだと思っているので、ここはひとつの話にしたかったです。
次回から勝ちルートの話なので少し筆が遅くなるかもしれませんが、気長に待って頂ければと!
毎日投稿したいのですが、中々そうもいかず...!
そういえば、前回の話ランキング入ってました!
ありがとうございます!
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仮面のように張り付いた笑顔をスバルが浮かべる。
いつもの優しい顔とは違う、まるで道化師のような。
『どったの、浮かない顔をしてるね?』
『なんだかこう、もやもやしてるの。うまく言葉にできないんだけど』
『スバルが気にかかるかな?珍しいね。リアがそんなに他人のことを気にかけるなんて』
『勝手に人付き合いが下手な人みたいな言い方しない。私は他人と接するのが下手なんじゃなくて、接する機会が少なかっただけですー』
『まぁ、リアが戸惑うのも無理はないよ。少しばっかり困ったことになってるからね』
『困った、こと?』
『ぼんやりと触ってみたけどね。スバルの心、だーいぶごちゃごちゃしていたよ。外身と中身でぐっちゃぐちゃだ。あのままじゃ、そう遠くない内に擦り切れちゃうんじゃにゃいかなぁ』
「スバル...」
その会話には覚えがあった。
それは、スバルが死なずにすんだルートだということで。
でも、それよりもエミリアはスバルの笑顔の裏に隠された感情が、辛くて仕方がなかった。
「...当たり前、よね。ずっと、あんな思いして...辛くないわけないもの。きっと、ただ見てるだけの私たちなんかよりも、ずっと...」
その言葉は、エミリアが思うよりもずっと鋭く、皆の心に刺さるものだった。
気持ち悪い、とスバルの心の声が響く。
もっと上手く笑おうとスバルが笑う度、スバルの心が罅割れていく。
失敗できない、とスバルの心の声が聞こえる。
頭をずっと回して、少しも笑顔を絶やさない。
洗面所から、吐瀉物の吐き出される音がする。
ちゃんと出来ているだろうか、と自分の死に目を思い出す。
「...スバルくん、レムは...」
そのスバルの笑顔を、警戒していた自分を思い出す。
「...他人を笑わせるために自分が笑えなくなるなんて、なんて皮肉な話かしら。...スバルは、優しいけど、その優しさで自分が傷ついてたら世話ないかしら」
ベアトリスの語気が少し強くなる。
どこか息苦しい空気は、和らぎそうになかった。
ここにスバルがいたら、変えてくれただろうか。
『やっと見つけた』
エミリアの声に、スバルは笑みを浮かべ、ペラペラと話す。
エミリアの、痛ましい表情が強くなる。
スバルは焦る。
作り笑いがバレている、と。
表情が一気に弱々しくなり、言葉を紡ぐことすら出来ない。
『スバル、きなさい』
『……へ?』
『いいから』
『じゃあ、座って、スバル』
『座るならベッドでも椅子でもよくね?わざわざ床に……』
『いいから座るのっ』
「...スバルのこんな顔は初めて見たな」
「...うん、僕もだよ。スバルは、いつも笑って、背中を押してくれることが多かったから...」
眉をきゅっとあげて快活に笑うスバルの顔が浮かぶ。
だからこそ、ユリウスとラインハルトには、弱々しく黙り込むスバルが酷く痛ましく見えるのだ。
『特別、だからね』
そう言って、エミリアが膝枕をする。
『恥じらうエミリアたんも最高だけど……そもそも、これってどういう状況?俺、いつの間にご褒美貰える手柄立てたっけ?』
『そういう変な強がり、よくないわよ』
まるで叱られる前の子供のように、スバルの強がりはエミリアに見透かされる。
『言ってたでしょ、スバル。疲れ切ったら膝枕してって。だからしてあげる。いつもってわけにはいかないけど、今日は特別』
『特別もなにも、まだ二日目ですよ?これで疲労困憊のグロッキーに見えたってんなら、俺ってば古今無双の虚弱体質……』
『打ちのめされてるの、見てればわかるもの。詳しい事情は、きっと話してくれないんでしょ?こんなことで楽になるだなんて思わないけど……こんなことしかできないから』
スバルが虚勢を張ろうとする。
が、既に痛みきった心にはそんな余裕などなかった。
声が上擦り、喉が詰まる。
まるで子供のようだと、クルシュは思う。
クルシュが知っている彼は、いつも笑っていて、泣き顔など思い出せなかった。
だから、彼の心の傷が、クルシュには酷く悲しく思えるのだ。
「...人の二面性、だな。どんな人間にも、弱い面がある。」
例えそれが、気味の悪いほどに正解を引き当てる男だとしても。
『疲れてる?』
『ま、まだまだ、やれる。全然、平気だし……』
『困ってる?』
『優しくされると、ほら、惚れちゃうぜ?そうやって、また……そんな……はは』
『――大変、だったね』
もう誤魔化しきれないのはわかっていた。
それでも、誤魔化すことしか出来なかった。
そんなスバルの心を、エミリアの言葉が甘やかに溶かし、その瞳から涙を流させた。
「...スバル殿、貴方は...」
太陽のような彼の、弱く柔らかい部分を見た。
年相応の、子供らしい面を。
英雄などと謳われても、彼はまだ子供だ。
それをヴィルヘルムは知っていた。
だが、彼の傷は、想像を優に超える───
『大変……だった。すっげぇ、辛かった。すげぇ恐かった。めちゃくちゃ悲しかった。死ぬかと思うぐらい、痛かったんだよ……!』
『俺、頑張ったんだよ。頑張ってたんだよ。必死だった。必死で色々、全部よくしようって頑張ったんだよ……!ホントだ。ホントのホントに、今までこんな頑張ったことなんてなかったってぐらい!』
『好きだったからさぁ、この場所が……大事だと、思えてたからさぁ、この場所が……! だから、取り戻したいって必死だったんだよ。恐かったよ。すげぇ恐かったよ。また、あの目で、見られたらって……そう思う自分が、嫌で嫌で仕方なかったよ……ッ』
ナツキ・スバルは、英雄などという器では無い。
臆病で、死を恐れ、でもそれらを抑え込めるほどに人を大切に思っていて。
ただ、抑え込めるだけで、消える訳ではなくて。
守りたいと思っていた人に殺された時、信頼したかった人に嫌な目で見られた時。
彼の心は簡単に殺されてしまう。
「...スバル...ごめんね。」
ナツキ・スバルの本音は、全てを知った今、あの時よりも数倍、悲痛に聞こえる。
彼の涙を知っているものは少ない。
彼は虚勢を貼るのが得意だから。
だからこそ、彼の等身大の弱音が、心に鉤爪のような傷をつけるのだ。
泣き声が少しづつ弱くなり、それは静かな寝息となる。
『スバルくんは、寝ているだけですか?』
『そう。ふふ、ほら見て、子どもみたいでしょ。頭、撫でるとホッとしたみたいな顔するの』
『今日は、スバルくんにこれ以上の仕事はできそうにありませんね』
『そうね、今日はお休み。働き始めて二日で休んじゃうなんて、すごーく悪い子。元気になったら、お仕置きしてあげてね』
『こうして寝ているところを見ると、その気も失せますね』
無邪気な寝顔に、密かな警戒が少しだけ緩む。
『姉様に、スバルくんが今日は役立たずだと伝えてきます。仕事の分担をやり直さないといけませんから』
『レム』
『――スバルは、いい子よ?』
「...スバルは、本当にいい子。」
エミリアが悲しそうに笑う。
「スバルは優しいのよ。...その優しさを、自分に向けられたら満点かしら」