知っている優しさ
エミリアが自分をサテラと名乗るシーンまでです。
今回から少し書き方を変えました。
少しでも読みやすかったら嬉しいです。
相変わらずあんまり喋らないです。
基本的にWeb準拠でやってますが、スバルがいい名前だと褒めるシーンは好きな描写だったので取り入れました。
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意識を失ったスバルがパックに膝枕をされ、『これぞまさに美少女の膝枕か…なんか美少女って思ったより毛深いんだな、って、そんなわけあるか――!』と叫んで目を覚ます。
「そんな急に起きたら危ないですよスバルくん!」
レムがそう叫び、エミリアは何となく耳馴染みのいいスバルの言葉選びに笑みをこぼす。
(…偽物に決まってるけど、話すことも、動きも、全部本物みたい)
エミリアは何となく過ぎる思考を振り払うため頭を振り、パックと戯れるスバルを微笑ましく見る。
『なんか、けっきょく目が覚めるまでいてもらって……』
『勘違いしないで。聞きたいことがあるから仕方なく残ったの。それがなかったらあなたのことなんて置き去りにしたわ。そう、してたの。だから勘違いしないこと』
『だから私があなたの体の傷に治癒魔法をかけたのも、目覚めるまでパックの腹枕を堪能させてたのも、全部が全部、自分の都合のため。だから、その分に応えてもらうわ』
『なんか恩着せがましい感じを演出しつつも一周回って普通の要求だな』
不器用な優しさを見せるエミリアに一同は苦笑し、エミリアはなんだかむず痒いような気持ちになる。
『そんなことない、一方的よ。――それで、あなたは私の盗まれた徽章に心当たりがあるわね?』
再度聞かれた質問にスバルは心当たりはないと答えた。
『そう。それじゃ仕方ないわ。でも、あなたには何も知らないという情報をもらうことができたわけだから、ちゃんとケガを治した対価は貰っているわね』
「…エミリア様のお人好しはもはや恐ろしいですね〜えぇ」
損得勘定が要のオットーもロズワールの言葉に頷く。
『じゃあ、もう行くわね。悪いけど急いでるの。ケガは一通り治ってるはずだし、脅したから連中ももう関わってこないと思うけど、こんな時間に人気のない路地にひとりで入るなんて自殺志願者と一緒だから。あ、これは心配じゃなくて忠告よ。次に同じような現場に出くわしても、私があなたを助けるメリットがないから助けなんて期待されても困るから』
早口で捲したてるエミリアにクルシュは眉を下げて笑う。
「...言葉の端々に相手への気遣いが見えているのは流石としか言えないな」
『ゴメンね。素直じゃないんだよ、うちの子。変に思わないであげて』
そうフォローを入れるパックを反芻するようにスバルはエミリアの背中を見つめ、『そんな生き方、メチャクチャ損するじゃねぇか』と言いながら立ち上がり、エミリアの方へ走っていった。
「...損をする生き方なのはスバルも余程だと思うのだけどね」
「…スバル様らしい言葉ではありますな」
ユリウスやヴィルヘルムはスバルの優しさに頬を緩ませ、エミリアはしょうがないんだから、とでも言いたげに優しく見つめている。
エミリアの力になりたい、とそう言いたげな顔で言葉を並べるスバルにエミリアは『――変な人』と言い、笑う。
『言っておくけど、なんのお礼もできません。こう見えて無一文なので』
頑なな姿勢を崩さないエミリアにスバルは『お礼なんていらない。そもそも、俺が礼をしたいから手伝いたいんだ』と苦笑する。
「流石スバルくんです!レムは感服しました!」
レムはそう言って満面の笑みを浮かべる。
レムと出会う前の知らないスバル。
それでも、優しい笑顔と大好きな優しさだけは変わってなどいなかった。
『俺も俺のために君を手伝う。俺の目的はそう、だな。そう、善行を積むことだ!』
『善行?』
『そう、それを積むと死んだあとに天国に行ける。そこでは夢のくっちゃね自堕落ライフが俺を待っているらしい。だからそのために、俺に君を手伝わせてくれ』
先程のエミリアの言い分と変わらないほどに自分の損を見ない考えにオットーは困ったように笑う。
「ナツキさんは本当に変わりませんね……エミリア様とどっこいどっこいですよ、この他人への優しさは」
エミリアは少し悩み、『――本当に、なんのお礼もできないからね』と言い、スバルの手を取った。
場面は切り替わり、スバルとエミリアは王都を歩き探し続ける。
だが、その操作は難航していた。
「ーーそういえば、スバルって字もあんまり読めないし、ルグニカの地理も詳しくないし…これってかなり絶望的な状況なんじゃない?」
エミリアがそうこぼした通り、30分経っても何も分かっていなかった。
スバルが人を呼んだほうがいいというが、エミリアは頼れない理由があるといいそれを拒否。
パックは制限時間があり夜には出てこられない。
そんな絶望的な状況の中、パックは『そういえば、まだ名前も聞いてないね。自己紹介とかしてないんじゃないかな』と空気を変えるひとことを発する。
『そういや、そうだな。んじゃ、俺の方から。俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!』
『それだけ聞くともう絶体絶命だよね。うん、そしてボクはパック。よろしく』
スバルの独特すぎる自己紹介にラムは「言わなくていい事まで言うのだから、スバルの頭の回らなさが伺えるわね」と鼻で笑う。
スバルが自分の故郷を東の国だと答え、『ルグニカは大陸図で見て一番東の国だから……この国より東なんてないけど』とエミリアに言われテンプレ外れた!と言わんばかりの顔で慌てふためく。
自分の居場所も把握出来ていないスバルの危うさにエミリアは少しソワソワし始める。
スバルはエミリアの表情が曇ってばかりで笑っていないことを気にしているのか急にダジャレをいい始めエミリアに引かれている。
「ーースバルきゅんはやっぱり話すと残念な子だね」
そう言って苦笑するフェリスに皆無言の肯定をした。
『けっきょく、飼い猫の名前は聞いたけど、君の名前は聞いてないなと思ったり』
『――サテラ』
しん、と空気が凍りつく。
他でもないエミリアが、自らをサテラと名乗る。
その行動には、明確な意味がある。
再度注目を浴びたエミリアは、絶望をしたような顔でその光景を見つめる。
言葉にならないエミリアの想いは周りにいる全員に伝わった。
「……趣味が悪いのよ」
ぼそり、とベアトリスがそう零す。
『ーーそうか、サテラか。』
『いい名前だ!』
スバルが紡いだ言葉に、エミリア達は顔を上げる。
『ーーえっ』
「……え」
画面内のエミリアと現実のエミリア達がリンクする。
サテラと、その名前が意味することを分からないものなどこの世界にはいない。
それでも、スバルはその名前を褒めた。
「……スバルは、優しすぎるわ」
紫紺の瞳を宝石のように潤ませ、エミリアは涙をこぼす。
その言葉が優しさから来たものだとエミリアは思ったからだ。
レムは眉を下げて笑い、ベアトリスはぽかんとした顔で見る。
各々が様々な反応をしたが、エミリアの言葉が、皆の総意だろう。
そんなことなど露知らず、スバルはもう暫く見せることの無い笑顔を、浮かべていた。
サテラって呼んでたもんな最初