若者が結婚しにくい理由
昨年末に公表された、2017年の人口動態統計(年間推計)によると、国内で生まれた日本人の赤ちゃんは94万1千人で、統計の残る1899年以降、過去最少を更新したという(日本経済新聞 2017年12月22日など)。
筆者はこれまで、「日本の少子化の要因は、結婚した夫婦が子どもを多く産まなくなっていることにあるのではなく、結婚しない人の割合が増加したことにある」と強調してきた。
なぜ若い男女が、結婚という選択をしなくなっているのか。
少子化対策を熱心に言挙げする人々は、しばしば仕事と子育ての両立難や、若年男性の経済的困窮をとりあげて、「若者は結婚したくても、できない」というリアリティを強調してきた。
しかし、それは事態の半面でしかないことは、前回のコラムでも取り上げた(参照「家族はコスパが悪すぎる?結婚しない若者たち、結婚教の信者たち」)。
今回は別の角度から、若者が結婚しにくくなっている理由を考えたい。
それは格差婚、すなわち女性が自分よりも学歴や収入など社会的地位の低い男性と結婚する傾向が少ないままだから、ではなかろうか。
家族社会学では、上で見たような「格差婚」のことを女性下降婚(ハイポガミー、以降、下降婚)と呼ぶ。逆に、女性が自分より社会的地位の高い男性と結婚することを女性上昇婚(ハイパガミー、以降、上昇婚)、同等の男性と結婚することを同類婚(ホモガミー)という。
かつての日本社会では、上昇婚が一般的であった。農家出身や、女中として働いていた未婚女性が、やや格上の男性と結婚して一家の主婦となる、という姿を思い起こすとわかりやすいだろう。
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実は、学歴や収入などの社会的地位に男女の不平等が存在する社会では、上昇婚の規範や風習が存在すると、多くの人が結婚できる確率が高くなる(図1左側)。
しかし男女の不平等が徐々に解消されていったとき、なおも上昇婚が存在し続けると、上層の女性、すなわち高学歴でバリバリ働く女性(ひところ流行った「負け犬」や「おひとりさま」)と、下層の男性(ひところ流行った「萌える男」や「草食系男子」)が相対的に結婚しづらくなる(図1右側)。
ここで一部の人々、たとえば男女共同参画に好意的な人々は、「男女平等な社会が実現すれば、同類婚や下降婚も増えて、結婚のあり方も多様化する。その結果、結婚も増えて、出生率が高くなるはずだ」と言いたくなるかもしれない。
だが、日本の現実は、そうはなっていない。
下降婚率が増えると、出生率が高まる
上昇婚/同類婚/下降婚を測定する際には、学歴(大卒/高卒/中卒、あるいは教育年数)を指標として使うことが多い。
そこで、社会科学の世界では有名な国際社会調査プログラム(The International Social Survey Programme, ISSP)の2012年版のデータを用いて、学歴上昇婚/同類婚/下降婚の国際的な趨勢を確認してみた。
この調査は、欧米を中心に48ヵ国の専門機関が共同実施しており、2012年版では「家族とジェンダー役割の変化」をテーマとしている。下降婚の比率を計算できたのは、このうち25ヵ国であった。
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もし本人学歴と配偶者の学歴に何の関連性もないならば、上昇婚率/同類婚率/下降婚率は3分の1、すなわち約33%になる。
ここで日本の下降婚率は、約16.3%である。下降婚率が20%を下回るような社会は、やはり格差婚が少ない社会というべきだろう。
日本以外では韓国(8.1%)、トルコ(9.7%)、スイス(16.0%)、チャイナ(16.3%)、台湾(17.6%)などが該当する。
逆に下降婚が3分の1を大きく上回る社会も存在する。
ベネズエラ(45.2%)、ポーランド(38.0%)、スウェーデン(37.0%)、クロアチア(35.4%)、フィンランド(34.8%)、リトアニア(33.3%)、インド(33.1%)などである。ちなみにフランスも30.6%でかなり高い。
ちなみに下降婚率と出生率の関連を、相関係数という統計学の指標でみると、0.370となり、中くらいの相関がある。つまり下降婚の多い国では出生率が高いという傾向が、統計上も確認できるわけである。
なぜ下降婚率が増えると、出生率が高まるのか。
格差婚のススメ?
次のように考えることができる。
男女が比較的平等な社会で上昇婚の規範が保たれていると、上層の女性が結婚できない確率が高まることはすでにみた。ここで女性が取りうる選択肢は、
(1)より社会的地位の高い男性を国外に求める(アラブの富豪?)
(2)未婚にとどまる
(3)(未婚にとどまるより)自分より社会的地位の低い男性と結婚する
の3つのパターンであろう。
実は同類婚という選択についても、男女が比較的平等な社会で、女性が自分より社会的地位の高い男性と結婚することをあきらめて、自分と同等の男性を選ぶように変化したからだ、と説明する学者もいる(Bereczkei & Csanaky 1996)。
これと同じように、下降婚を選択する女性が増えれば、結婚が全体の出生率を高める効果はそもそも大きいので、出生率が高まっていくことになる。
つまり男女が比較的平等な社会では、未婚女性が増えるか、下降婚が増えるか、という分岐点が、出生率回復の鍵を握っている可能性がある。
筆者が昨年刊行した『これが答えだ!少子化問題』(ちくま新書)では、学歴下降婚の少なさには、女性自身の遺伝子を残す成功度合(包括適応度)を高める進化上の理由があるという可能性を示唆した(同書90頁)。
進化上の理由があるのなら、その性向は容易には代えがたい。下降婚を選ばなかったからといって、現代の女性が責を負ういわれはないと、そのときは考えていた。
しかし世界を広く眺めてみると、下降婚が多い国は、先進国/発展途上国を問わず、多く存在する。少なくとも下降婚の少なさが、人間にとって普遍的な性向でも慣行でもないことは明らかになった。
というわけで、前著での記述は訂正しなければならない。学歴下降婚の少なさには、進化上の理由はない、と。
とはいえ、今回調べたような「下降婚が少ない社会では出生率が低い」という知見は、これまでの少子化対策の文脈ではみかけることがなかった。
単に気づかれていないのか、意図的に隠されているのかは定かでないが、興味深いことではある。