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「氷の魂(ヒノタマ)」とネタの着想法

はじめに:

個人的に一番苦手な創作のアドバイスは、「とにかく始めろ」です。このアドバイスは、何を作っていいか分からない人にとっては、耳が痛い(うえに、ほとんど参考にならない)ものです。
ネタの着想法は、創作において最も重要であるにも関わらず、これについてリアリティを持った説明はあまり見かけないように思います。世に溢れているネタの着想法の説明は、どれもあまりにも整ったものであり、ある種、偉人の伝記のような理想論のように見えます。いわば、「読みやすく綺麗」なものです。あるネタの着想に至るまでの一直線でない道筋が詳細に述べられたものがないのは、大きな問題です。
その隙間を埋めるべく、私は、拙作「氷の魂(ヒノタマ)」について、その紆余曲折をなるべく詳細に話すこととします。

注意:

紆余曲折を話すので、話題が非常に広くなります。この記事において「ネタの着想」という表現は、「何についての曲作ろう」「次のコードどうしよう」「歌詞どうしよう」など、広い意味で使います。

この曲をつくろうと思ったきっかけ

下のnote記事も参照。

この記事に書いてある通り、アリストテレスの四元素それぞれに関する曲を作りたいと私は思っていました。そう考えたとき、欠けているのは、「火」だったので、火に関する曲を作ることに決めました。あと、単に可愛いからという理由でインストールして使ってなかったUTAU音源たちを使ってあげたかったというのもあります。

方向性?

さあ、「火」に関する曲を作るとなると困ったものです。どうも暑苦しいものは自分のサガではありません。そうこう考えていると、「暑苦しくない火」という、不思議な概念が浮かんできました。そこで、色々検索してみることにしました。
例えば、「冷たい炎」とか。既にこのタイトルの曲がいくつか出ているみたいです。
「冷たい炎」- やしきたかじん
「冷たい炎」- 前田敦子
他にも、Wikipediaで「火」の項目からはじめて、ダラダラ見てみたり。

参考曲探し

やっぱりネタが固まらないので、他の人が「火」についてどう描写しているのか見るために、自作の再生リスト「ランダム好きです」から「火」や「赤」に関する曲を取り出しました。(以下引用ラッシュ注意、もっとも引用だけでは文脈を理解するのに不十分)

遠き記し纏て 世の狭間差し込む
灯籠を追い掛けた 星々の記録
道半ば交わした 約束の言葉も
惨禍の果て 意味など 行く宛無くした虚像

「新しき名も無き詩」- ききない

今輝いたのは
夜伝える星明かり
寒空にぬくもりが咲いて
夜が色づいてく
さあ灯しに行こう
星々が眠ってる
夜に光灯し廻る
イルミネイトフェアリー

「イルミネイトフェアリー」- 水無月まーる

カンテラを掲げて、
浮雲を融かしたら、
あの日の記憶も
写真も
灼けてしまったの!
アンテナに飽き飽き
しちゃった頃に、
灯火辿って
またここで。

「そらいろレヴェリー」- 麩貍鰭鴉 / フリギア 

せめてあなただけの
犠牲者でいさせてと抱きしめた
今度は愛してよ
二人きりで生きていくのよ
枯れ果てたとしても
火が怖くて蝋燭を消したの
月明かりがなぜか落ち着くんだ
無意識に選びなおしたのよ
そこの路地裏、天国への近道

「花便りは遺書」- あられみこみ

堕胎脱退怠惰の痕跡 筆跡巡る奇跡なんて
生にすがりつき死にしがみつき 精神崩壊お墨付き
廻廊めぐって胎内回帰 解放目指して要介護
存在不正の揺蕩う幻覚 鑑定不能の断面図

「でんでん心電図」- ぺぽよ

これら、(他にもたくさんありますが)を参考にしてテーマを考えていました。その時、まだWikipediaのタブは開いたままでした。そうこうしていると、「狐火」の項目に辿り着きました。特に、「でんでん心電図」- ぺぽよの歌詞を見て、「生き生きしたものだけが対象ではない」と気づかされたのも大きいと思います。すると、今回の曲のタイトル「氷の魂(ヒノタマ)」という言葉遊びが急に降ってきました。これなら暑苦しくないし、何より運命のようなものを感じました。
やっぱり、YouTubeで自分の好きな曲の再生リストを作ることを強くオススメします。ネタの着想元として役に立つし、何より便利だし。

作曲に取り掛かる

作曲のとっかかりは、遊びや実験くらいの気持ちで始めるのがいいと思っています。「氷の魂(ヒノタマ)」の作曲の始まりは、
「小さな男猫の物語」- daidarobot
を分析していて、和音およびメロディの平行移動に興味を持ったことです。

[ここに小さな男猫の参考動画をドロップ]
0:18「揺蕩う~」と、0:23「男猫は~」の部分が対になっていることがわかります。
0:18の方から0:23にかけて、長2度下に平行移動したような形になっていて、それによって生み出される曲調の揺らぎが面白いです。あと、前後のコード進行をもってそれを自然に聞かせているのも面白いところ。

特にコードの平行移動について深堀りしたいと思って、実際にいろいろ打ち込んでみることとしました。そこで目を付けたのは、Ⅳ→Ⅴの流れです。これを上側に長三度平行移動して続けると、Ⅳ→Ⅴ→Ⅵ→Ⅶとなって面白そうです。それをアルペジオで表現して、何となくでメロディをつけた結果が下の通りとなります。(G/Emキー)
[ここにヒノタマ前奏の参考動画]
うん。ふわふわして素敵だし、何より作りたい曲のテーマに合っているような気がしました。それから楽しくなって、各コードの短三度下にベースを付け足して(すなわち全体のコードとしてはマイナーセブンスとなる)、気がかりだったUTAU音源たちをコーラスに入れてアレンジしちゃいました。
[ここにヒノタマ前奏の参考動画2]
めっちゃ幸せ。前奏に使おう。

全体の構成を考える

それから、「氷の魂」と関連する曲が既にあることに気づきました。


まばたきをしました。
眩しさのあまり、
赫く染まりました。
暖かい氷を抱きしめ、
溶け出してしまいました。

「暖かい氷を抱きしめて」-  いつもあなたの傍にいます。

この曲と、先述の「参考曲」などを合わせて考えました。
そうして、UTAU音源が使われずに放置されている状態を、氷の中に閉じ込められている状態に喩えたら面白そうじゃね?と思いつきました。そして、デフォ子がそれを溶かすために冒険に出かける。ムネアツ。

そうして、妄想が膨らんでいきました。すると、クライマックスまでに入れたい内容も増えていきました。
サビ前までに長い時間を持てるように、構成は「アブジェ」に則ることにしました。つまり、

前奏
一番Aメロ
一番Bメロ
間奏
二番Aメロ
二番Bメロ
サビ
後奏


一番Aメロ

コードを平行移動するのが面白かったので、曲中で多様することにしました。前奏では、上側に平行移動したのですから、Aメロでは下側に平行移動したい。そうして、色々なパターンを試してみて、特に素敵なものを見つけました。それは、Ⅵm→Ⅲmの塊を下側に長三度移動していくパターンです。
これを続けていくと、ルートの動きとしては、vi→iii→iv→i→ii♭→vi♭となります。ルートがノンダイアトニックになっているのが気になったので、最後の二つを半音上げて、vi→iii→iv→i→ii→viというルートの動きにすることにしました。あと、前々から、Ⅶ♭△7→Ⅲ7→Ⅵmというコード進行を使いたいと思っていたので、それを後ろに付け足して、vi→iii→iv→i→ii→vi→vii♭→iii(→vi)というベースの流れができました。8つとなるので、数としても丁度いい。
それからそれぞれのコードをどのように実現するかを組み立てていきました。もとがⅥm→Ⅲmの平行移動なので、マイナーコード寄りな肉付けが多くなりました。どんよりとした曲調が表現できて、成功だったと思います。
歌詞については、「四元素」の最後の曲ということで、「水」「土」「風」「火」を全て入れることにしました。それを意識すると、歌詞を考えるのはそれほど難しくなかったです。

一番Bメロ

前半
曲全体を通してコード進行を複雑にするのもよくないと思ったので、Ⅱm→Ⅵmというシンプルなコード進行にしました。また、リズムに締まりがないと感じたので、先述の
「新しき名も無き詩」- ききない
のBメロ(0:49~)を参考にしました。キレがあるリズムになったのでよかったと思います。

歌詞を書く際に行き詰ったので、先述の
「小さな男猫の物語」- daidarobot
の歌詞をちょっと変更して組み込みました。

胸の奥に響く声
信じて闇夜を切り裂いた

「小さな男猫の物語」- daidarobot

後半
最初に作った前奏からベルを持ってくると、いい感じにサウンドしたので、そこからコード進行をちょっとアレンジしました。Ⅱm→Ⅲm→Ⅵm→Ⅳ♯7→Ⅳ…と続くんですが、とくにⅣ♯7に意志の強さみたいなのが感じられていいと思います。(没になった案としては、Ⅳ♯m7(♭5)やⅣ♯m7があります。)

間奏

(やばい適当に作ったから説明できない)このセクションは、ただどんよりした雰囲気を出したかったので、それを意識してⅣmを使ったりしました。「アブジェ」のあの妖しげな間奏も頭をよぎっていました。このセクションは、あまり曲の他の部分とは関連していません。

二番Aメロ

基本的には一番Aメロと同じですが、さらに絶望的な雰囲気にしたいと思っていました。そこで、一番Aメロで却下していたvi→iii→iv→i→ii♭→vi♭というベースの流れを使って、後ろ二つのコードで半音下に転調することにしました。規則的な繰り返しの中で転調できたので、自然になったと思います。

歌詞について。やっぱり行き詰ったので、
「遠灯」- :𐡉
を参考にしました。

遠く灯る灯りは 住居棟
桟橋から見たの

「遠灯」- :𐡉

(ところで、この曲の作者さんは、UTAU音源「比条咲」のプロデューサーであり、こちらは今回の「氷の魂(ヒノタマ)」で使った音源の一つです。)

二番Bメロ

前半
一番と比べて、半音下げた以外はあまり違いがありません。

後半
こちらも一番を踏襲していますが、ここから半音上に転調して(つまりもとの調に戻って)サビにつなぐために、最後を少々変更しました。ストリングス(風)の音色の上に一人づつUTAU音源を加えていってます。これは自分でも楽しいと思いました。

サビ

[ここにヒノタマ前奏の参考動画]

前半(16小節)
ここまで作ってきた段階で、私は気付きました。「自分今まで、まともにツーファイブワンしたことなくね?」と。自分はついひねくれたコード進行を選びがちです。
そこで、サビでキラッキラなツーファイブワンをしたくなってきました。そして、ずっと意識してきた平行移動を組み合わせて、
[Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ]→Ⅵ→[Ⅶm→Ⅲm→Ⅵ]→Ⅵ7
というコード進行になりました。[ ]内は、ツーファイブワンの塊を示しています。
あと、またもや前奏のベルをちょっといじって持って来ました。使いまわしは悪いことではなく、むしろ曲の統一性を保つために重要だと考えています。
最後の「でもさ」の部分では、炎をイメージして、コーラス5人でパワーコード(完全4度堆積)的なコードをつくりました。

後半1(8小節)
ここまで作ってきて、コーラスだけに使ってきたUTAU音源5人が少し可哀想になってきました。彼らにもちゃんと歌詞を歌わせてあげたい。ということで、5人に一気に別々の歌詞を歌ってもらうことにしました。(Vocalの暴力、略してVo力)
それぞれの歌詞は、各音源の設定、「ネウマフ」の非公式botなどを参考にして書きました。メロディがぶつからないように計画するのが非常に難しかったです。
コード進行については、Ⅵm→Ⅱ7の反復としました。ドリアンで、ファンタジーな感じを出したかった。メロディが複雑なことをやっているときは、コードはシンプルでいいということを、
「翠碑に居て、」- 全て事象の所為です。
から学びました。
伴奏のベルのフレーズには、
「Piano Phase」- Steve Reich
のフレーズをそのまま入れています。伴奏がさみしいと思って加えたらなんか上手くいったので。
あと、背景のテクスチャとして、自作の「謎のノイズ」を入れています。

炎な感じがして素敵。

後半2(8小節)

ここでは、前奏の伏線回収的なことをしました。もっとも、前奏を作っていたときには、それを伏線にしようなどと思っていなかったわけですが…。
ついでに太鼓の音なんかも入れてみたり。いやあ楽しかったです。

後奏

各UTAU音源を紹介するセクションが最後にないと不親切かなと思ったので、加えることにしました。伴奏のベルは、サビの後半1とほぼ同じです。また、各UTAU音源の歌うフレーズもサビの後半1から抜粋したり、アレンジしたりしたものです。
ちなみに、「水土風火 - EP」では、ここはカットしています。「おつきさまのおぼしめし」とのつながりを考えてのことです。

Special Thanks

この曲を最後まで完成させることができたのは、こちらのDiscordサーバーのおかげでもあります。(以下、このサーバーの管理人を南極ニキと呼ぶ)

このサーバーでは、wip(途中経過)を気軽に投稿する環境が整っています。それに加え、比較的少人数であることも、心理的なハードルを下げると思います。
ということで、南極ニキと、アドバイスをくれたこのサーバーの人たちに感謝します。

最後に:

長すぎる。3行でまとめろ

私は根性論が嫌いだよ。
参考曲さがしは、ネタの着想で一番重要だよ。
それでもネタが切れたら、歌詞を拝借しよう。多分バレないよ。

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「氷の魂(ヒノタマ)」とネタの着想法|あさぎ色25号
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