第297話 林さんの気持ち

 ―愛視点―


「気になっている人? その人って私が知っている人?」

 そう聞くと、彼女は恥ずかしそうに首肯した。その反応が初々しくてかわいい。


「誰?」

 どこまで踏み込んでいいのだろうか。そう少しだけ躊躇しながらも、やっぱり気になって聞いてしまう。たぶん、相談したいからこの話をしてくれたわけで、私も大丈夫だと判断した。もし、嫌がるなら匿名で相談に乗ればいい。


「うん。恥ずかしいんだけど、一条さんだけには話すね」

 私はそう言ってもらえたことが誇らしい。誰かの信用を勝ち取ったという事実がどうしようもなく嬉しい。


「ありがとう」

 心の底から感謝を伝えると、彼女はぽつりと漏らした。


「実は……今井センパイ」

 一瞬だけ驚いて、すぐに納得した。そういえば、今井先輩は立花さんが暴走した時に、林さんを守ってくれた。あの時の彼は本当にかっこよかったし、すごいと思った。それが当事者ならどんなに嬉しくて心強かったか。


 そう言えば、私もそうだったなと思った。あの屋上で、何も知らないはずの彼が私を助けるために行動で示してくれた時……本当の意味で心が救われた。私たちは似ているのかもしれない。


「そっか」

 思わず納得してしまったことで声まで出てしまった。変な男の人を林さんが選ぶはずはないと思っていたけど、今井先輩なら大丈夫ということすらおこがましい。


 センパイのピンチに一番早く気付いて手を差し伸べてくれたことは彼から聞いていた。学校の先生たちとの調整も調査にも協力してくれたらしい。すごい人だと思う。


「どうかな。やっぱり、私じゃ……だめだよね」

 そんなか細い声で聴いてくる林さんを見て、「えっ、どうして?」と驚きながら答えてしまう。


「だって、今井センパイって頭もいいし、運動もできるし。それに優しくて友達思いだよ。私と釣り合いなんて取れていないよ。私は不器用だし、うまく他の人と話せないし……」

 そんな心配をしている彼女の様子を見て苦笑してしまう。

 林さんは清楚で奥ゆかしいと男子にひそかに人気があるし、国語を中心に文系科目は学校でもトップクラスだ。冷静に自分を見ることはできないのだろう。


「そんなことないと思うよ」


「それは一条さんの身内びいきだよ」


「そうかな」

 

「どうしよう。気持ちを伝えるなんてできないし、でも、このままじゃ苦しいだけだし」

 彼女は相当悩んでいるように見えた。たしかに、林さんの性格を考えたら自分からアプローチをかけることは難しいだろう。でも、彼女の純粋な気持ちを大事にしたい。


「じゃあ、私とセンパイたちと一緒にみんなでどこかに行かない? それならそこまで緊張しないで一緒に過ごせるじゃない」

 少しずつお互いを知っていくこともできるしという言葉は飲みこむ。それにみんなで遊べば、必然的に二人の距離は近づくだろう。あの事件以降、たびたびメッセージのやり取りもしていると言っていたし。


「いいの?」


「うん。ちょっと予定を立ててみるね」

 それに純粋にみんなと遊べることが楽しみだった。


――――

(作者)

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