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Dmitri Tymoczko 『A Geometry of Music/音楽の幾何学』を読んでみよう!第1章

Dmitri Tymoczko 『A Geometry of Music』を読んでみよう!
音楽を幾何学としてとらえるという分野の代表的な本のひとつです。

全編和訳・逐語訳ではないためご了承ください。
今回は1章の内容をまとめてみました。

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全体構成
第1部(1〜5章)では、調性音楽における5つの特徴を考えるための理論的なツールを紹介し、
第2部(6〜10章)では、その理論で「西洋音楽の伝統」をより広く捉える視点を紹介します。

第一部 理論

トーナル/調性とは?

狭義
・18〜19世紀の西洋芸術音楽
・それ以降の音楽は「ポスト調性音楽」

広義
・アトーナル(無調音楽)でないこと
・ロック、フォーク、ジャズ、印象主義、ミニマリズム、中世やルネサンス音楽、さらには多くの非西洋音楽まで含む

どのような音楽的特徴が「トーナル」と見なす根拠になるのか?という問いに、現代の音楽理論では答えが出ていない。

本書の目的

「古典的な調性でも完全な無調でもない音楽」を論じるための一般的な枠組みを提供すること。

経験的・理論的・歴史的観点から、以下5つの特徴を「可能性空間を決定する要素」として扱い、音楽を幾何的に捉える試み。

トーナリティ/調性の「5つの特徴」

西洋/非西洋を問わず幅広いジャンルに共通する5つの特徴があり、これらが互いに作用することで「トーナリティ(調性)」を形成している。

  1. 旋律の順次進行(Conjunct melodic motion)
    旋律は音から音へと移動する際、比較的短い距離(=隣接した音)で動く。

  2. 音響的協和(Acoustic consonance)
    不協和よりも協和的な響きが好まれる。音楽的な安定点において使用される。

  3. 和声的一貫性(Harmonic consistency)
    どのようなハーモニー(和声)を用いていても、ある音楽の一節における和声同士は構造的に互いに似ている。

  4. 限定されたマクロハーモニー(Limited macroharmony
    「マクロハーモニー」とは、(フレーズ等)任意の時間範囲で聴かれる音の全体集合のこと。
    調性音楽ではマクロハーモニーが比較的小さく、通常は5〜8音程度で構成される。

  5. 中心性(Centricity)
    任意の時間範囲において、他の音よりも際立って頻繁に現れ、音楽的な運きの目的地として機能する音「中心音」が存在する。


1.1 五つの特徴について

この特徴が西洋・非西洋に関わらず普遍的なのは一体なぜなのか?トーナリティ/調性を構成する五つの特徴をより詳しく見ていきます。

1.旋律の順次進行
人間の耳は、音高の近い音を同じ音源としてグループ化する傾向を持つ。
鼓膜は1次元的な前後の振動。しかし、その振動で私たちは3次元の音響空間を想起する。したがって、近い音高でのフレーズは「ひとつのメロディ」と認識されるのに対して、音の飛躍が大きいフレーズは「複数の旋律」として認識される。
→ 「旋律」という概念そのものに、順次進行は本質的に含まれている。

2.音響的協和
音自体に内在する安らぎ・安定のこと。
西洋・非西洋を問わず広い音楽様式において、オクターヴや完全五度といった協和音程が頻繁に用いられ、旋律的・和声的に特別な役割を与えられている。
さらに乳児心理学の研究からは、協和音への好みが生得的である可能性も示されている。
重要なのは、文化圏に関わらず多くの聞き手が協和音に対して共通した好みを持っているということ。

3.和声的一貫性
響きが互いに似通った和音を用いる傾向のこと。聞き手は無意識のうちに、和声に一貫性があることを期待している。
例えばメジャー/マイナーコードといった似ているコードが連続すると滑らかに感じ、トーンクラスターや脈絡のない不協和の連続には強い違和感を覚える。

4.限定されたマクロハーモニー
ほとんどの西洋・非西洋音楽において、音高は限られた数の音の集合(通常5〜8音)から選ばれる。その結果、西洋音楽では二層構造的な「和声的一貫性」が見られる。

部分的な時間範囲では、メジャーやマイナーの和音が連なり、互いに聴感上で関連する。
一方、より広範囲の時間では使用する音が7つに限定され、スケール(音階)がはっきりと明示される。このスケールは、個々の和音を内包する 「大きなハーモニー(マクロハーモニー)」と見なされる。マクロハーモニーには相対的に協和的なもの(全音階・五音音階など)もあれば、不協和なもの(半音階など)もある。
また、それらは個々の和音をつなぐ「ボイスリーディング」と似た形で、より高次のレベルでも相互に関係する。

5.中心性(Centricity)
私たちが音楽を聴く時、特定の音高を"重要な音"として聴く傾向にある。
こうした中心的な音は、音楽的な「到達点」として機能し、他の音がそこへ導かれる・向かうように聴こえる。
世界中の多くの音楽文化に共通する非常に広範な特徴。ただし、スタイルによって中心音の強調の度合いは異なる。

──
2.音響的協和と3.和声的一貫性は、「音楽が次々と変化する和音から構成されるべき」という西洋文化特有のもの。
一方、1.4.5の要素はほぼ全ての文化圏で共通しており、生物的な由来を含む可能性がある。


1.2 知覚と5つの特徴

「調性」「秩序性」「快さ」と5つの特徴は正の相関を持つと推測されます。つまり、他の条件が同じであれば、5つの特徴を多く備えた音楽の方が、そうでない音楽よりも好まれる傾向にあるのではないでしょうか。

たとえば、聴き手の知覚に最も大きな影響を与えるのは「和声的一貫性」、「音響的協和」、それとも「順次的旋律運動」のどれなのか?
現在の音楽理論では、まだ答えが出ていません。

※5つの特徴において、リズム・音色・形式・ルバート(テンポの揺れ)といった要素は本書で意図的に省略されています。


1.3 4つの主張

この本は4つの主張を中心に展開します。
それぞれの主張は、「五つの特徴」がどのように相互作用し、またどのように互いを制約し合うかという点に関わる内容です。
それぞれの概要を見ていきましょう。

主張①和声と対位法は互いに制約し合う

ここで作曲家のリリコが登場します。
彼は「1.旋律の順次進行」と「3.和声的一貫性」を両立させたい。
実はこれを両立させる方法は限られています。

1.なじみのある響きを、比較的伝統的な方法で用いる
2.音が密集したクロマティックな和音を使う
このどちらかです。

◆メジャーコードの特性 
構成音が広く分散している和音では、その音だけは滑らかな旋律を作りにくいですが、「経過音」を加えることで和声音と非和声音が交互に現れるスケールができます。和音を「効率的な声部進行」によって結びつけることができるため、対位法的音楽(複数旋律が動く音楽)に適します。

例: Cメジャーで持続する和声に旋律を組み合わせるとき(図1.3.1)

(a)和声的一貫性は、低音の和声が1種類のため自動的に保たれます。
しかし旋律も[C, E, G]で構成すると、メロディーとはいえない飛躍した音の連続となります。
(b)そこで経過音を加えると、旋律は安定した和声音と不安定な非和声音が交互に現れるスケールとなります。

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図1.3.1

◆クロマティック・クラスターの特性
構成音が互いに近い和音では、その音だけで順次進行の旋律を書くことが可能ですが、和声音と経過音が規則的に交互に現れるスケールを作ることはできません。
和声が変化しない静的な音楽に理想的です。

例: 持続和声を[B,C,D♭]の不協和音にした場合

(a)[B, C, ♭D]は隣接するため、構成音だけで「旋律の順次進行」ができた。
(b)しかし、♭Dからオクターブ上のBまでは多くの経過音が必要。
和声音と非和声音が規則的に交互に現れず、これらの非和声音を「ベースの和声を装飾するつなぎ」として聴き取ることは難しくなります。

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図1.3.2

ここから分かるのは、「和声と旋律は互いに制約し合う」ということです。

◆メジャーコードは対位法に理想的
任意の二つのメジャーコードは、2半音以内の声部移動で結べるため、滑らかな旋律を維持したまま自在に和声進行を作ることができます。
また、これらの和音は音響的にも協和的で、聴覚的に安定しています。

例: Cメジャーの和音の後、Fメジャーの和音(完全四度上への転調)をした場合

(a)Cメジャー[ドミソ]とFメジャー[ドファラ]は
Cが共通、ミ→ファ、ソ→ラ が半音〜全音の距離。
この和音を連続させると、それぞれの音が小さな音程差で動く三つの旋律を同時に描くことができます。これが「対位法」
複数の声部が同時に進行しながら、それぞれが次の隣りあう和音へと対応するボイスリーディングを形作ります。
(b)それぞれの声部が短い音程で動くため、「効率的な声部進行」であるといえます。

※補足: 対位法≒旋律によるハモリのこと。ここでの和音とは、ハモリによって生まれる響きです。

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3つのパートがハモっている楽譜

つまり、効率的な声部進行とは、対位法的(ポリフォニー的)なテクスチュアにおいて、すべての声部が「旋律の順次進行」で動いている状態を指します。

◆過剰決定
 最も均等にオクターヴを分割する和音とは、西洋音楽でおなじみの和音(完全五度・三和音・七の和音・九の和音・スケール)です。

構造的にも(=滑らかな旋律との両立)、音響的にも(=協和・安定)優れており、自然に選ばれてきました。

リチャード・コーンの「過剰決定 =ある音楽的対象が複数の理由で優れている」の一例でもある。「ほぼ均等な分割をもつ和音」は、単に和声的一貫性と滑らかな旋律進行を両立できるという理由だけでなく、協和的な響きを持ちます。

以上のように、和声的一貫性と旋律の順次進行を両立する方法は限られており、
ルネサンスからジャズまで共通で、歴史的な慣習ではなく音楽の構造的必然性に基づいています。


主張②スケール、マクロハーモニー、中心性は独立している

「スケール」「マクロハーモニー」「中心性」は密接に関係しているように見えて実はそれぞれ独立しており、明確に区別すべきものです。

◆スケール
スケールとは、音楽的距離を測るための基準です。
つまり、スケールは「音楽上の物差し」であり、その単位が「スケール・ステップ」です。

例: 音程C–EとE–Gの距離は、
(a) ダイアトニックスケールにおいてはそれぞれ2ステップ
(b) ペンタトニックスケールにおいてはそれぞれ2ステップと1ステップ
(c) クロマティックスケールにおいてはそれぞれ4ステップと3ステップ

図1.3.7
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図1.3.7

したがって、「C–EとE–Gは同じ大きさの音程か?」と問うとき、どのスケール(定規)を使って測っているのかを明示しなければなりません。

◆マクロハーモニー

マクロハーモニーとは、ある短い時間の範囲で使われる音の集合のこと。
一般的に、マクロハーモニーはスケールと一致しますが、異なる場合があります。

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上声部がCダイアトニック、
下声部がGペンタトニックで
クロマティックなマクロハーモニーを生み出している。

スケールは各声部の内部構造を記述するため、
マクロハーモニーは、それらの声部が合わさって生み出す全体的な和声構造を記述するために使用されます。

◆中心性
「中心性」とは、ある特定の音が他の音よりも安定・重要に感じられる現象を指します。

伝統的な調性音楽においては、トニック・終止音にあたりますが、
理論的にはマクロハーモニーと独立しています。
ダイアトニックでも中心を欠いた音楽があり得るし、
クロマティックでも明確な中心をもつ音楽があり得る。

ただし、歴史的には「ダイアトニックスケールには自然で唯一のトニック(主音)が存在する」という考えが強いため、
ダイアトニック音楽は中心を持ちやすく、
クロマティック音楽は中心を欠きやすいという傾向が見られます。

(第5章では、ドビュッシーやシェーンベルクといった作曲家に見られる「スケール的伝統」と「クロマティック的伝統」の断絶は、マクロハーモニーと中心性の関係に対する根本的な見解の相違によって深められたものである、という仮説を提示します。)

一般化された調

スケールは距離の構造、マクロハーモニーは音の集合、中心性は安定感。
この三つをまとめたのが、筆者Tymozckoが提唱する「一般化された調の理論」。
これは18世紀的な“調性”の枠を超えて、広義の調性音楽を分析・記述するための、理論的ツールとなります。

西洋の初期音楽では「固定スケール内の中心移動」、
古典派では「長調/短調を対置した大きな和声的変化」、
19〜20世紀では「多様なスケールと中心の自由な組み合わせ」
という流れで、これら三要素の独立性と結合の可能性が徐々に拡張されてきたのです。


主張③転調はボイスリーディングを伴う

調性音楽は、二つの異なる時間の範囲において、同じ声部進行(ボイスリーディグ)の技法を用いているという主張です。

・和声進行(コード進行)では、構造的に類似した「和音同士」を結びつけるために、効率的な声部進行を用いている
→短い時間範囲、局所的

・転調では、構造的に類似した音階(スケール)同士≒マクロハーモニー同士を結びつけるために、同じく効率的な声部進行を用いている
→長い時間範囲、大局的

その結果、調性音楽は自己相似的かつ階層的な構造を持ち、和声と転調の進行は異なる時間スケールで同じ法則に従っているのです。

◆クレメンティの例

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図1.3.10
⭐︎の辺りで、ソ→ソ♯の半音移動を入口にして大局的な異なるスケール(マクロハーモニー)を最短距離で繋いでいる

セカンダリードミナントを、分数コードとして捉えるのではなく、マクロハーモニーを最短距離で繋いでいるととらえる。

(ドビュッシーの20世紀で同じ手法を拡張している例は省略)

◆シェンカー理論との比較

この「二重レベルの声部進行」という考え方は、ハインリヒ・シェンカーの理論と似ています。
調性音楽が「階層的に自己相似的である」という考え方は、シェンカー理論の中心的要素です。彼もまた、調性音楽は再帰的に埋め込まれた階層的パターンで成り立っていると主張しました。

しかし、両者には明確な違いがあります。
Tymozckoは長期的な和声進行の主要な単位を
和音や旋律線ではなく、マクロハーモニーやスケールとして捉えています。

  • シェンカー:長期構造の単位は「和音」や「旋律線」

  • Tymozcko:長期構造の単位は「スケール」や「マクロハーモニー」

図1.3.10 長期的な声部進行は、シェンカー的「DメジャーとAメジャーの、トニック三和音の関係」ではなく、
「DメジャーとAメジャーの、スケールそのものの動き」と解釈します。
シェンカー学派であれば、その箇所・さらには曲全体を、あらゆる階層レベルにおける「コード進行」として理解するでしょう。

◆主張③まとめ
転調は声部進行で説明できる
「階層的自己相似性」の本質は、「調性音楽は、和音進行とスケール進行という二重の階層構造をもち、両者が同じ “滑らかさの原理” に従って展開される」ということです。

これを本書は「シェンカー理論ほど厳密ではない」と認めつつ、
作曲家の実際の思考や認知過程をよりよく反映していると主張しています。


主張④ 音楽は幾何的に捉えられる

幾何学は音楽構造をモデル化するための強力な道具です。和音やスケール間のボイスリーディング(声部進行)の関係は、数学的な幾何学的空間により描写できるためです。
 例:シンプルな五度圏、二音の和音からなるメビウスの輪(補足:下の動画が分かりやすいかも)


◆ダイアトニック・サークル
Cダイアトニックの要素7つの音集合[ドレミファソラシ]を使った三和音だけを使うとき、それらは「三度の円」で結ばれます。
この円では、CメジャーとAマイナーのように隣接する和音ほど「距離が近い」と定義できます。

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図1.3.12 左のC→Amの方が「近い」と定義
半音の「1ステップ」の移動で変換できるため。
右は全ての音が1ステップ移動となるため「遠い」
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「三度の輪」隣り合う和音では、
1ステップで隣の和音に変換できる
※調ではなくコード

◆クロマティックスケールへの拡張

ここで今度はリリコのライバル、アヴァンタが登場し、先程の7音集合をクロマティック(半音階)に拡張します。

例えば、先程ダイアトニックの1ステップではCがAmとなるだけだったCメジャーは、
(a)半音1ステップ移動で4つの和音に、
(b)2ステップで7つの和音に変換できます。

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半音階に拡張した体系をまとめたのが下図です。
40のコードを繋ぐ、3次元格子状のモデルです。
「対位法的可能性」をこの図で示しています。

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各クロマティックコードの 1半音による声部進行の関係を表す。
●メジャー○マイナーコード
◆オーギュメント◇ディミニッシュコード


この格子構造は、「上下で120°ねじれた三角形状の二重トーラス」の内部に存在します。(詳細は第3章)
あらゆるスケールと3和音は、全て三角形のドーナツ空間の中にあるのです。
同様の空間を構築すれば、四音・五音和音…と、より多くの音を持つ和音間の声部進行関係も表現できます。

一見複雑なこの図は、音楽における「よくある問い」が、しばしば非自明な幾何学的な答えになることを示唆しています。

この空間構造によって、
19世紀の半音階・無調への移行は「伝統的なものからの、気まぐれ・常識外れな逸脱」というよくある評価ではなく、精密で体系的な探索であったことが見えてきます。
ショパンやワーグナーの音楽も、この幾何学的観点から見れば古典的調性と同じくらい厳密な内部理論をもっているといえるのです。

1.4 音楽と、手品と、言語

著者の音楽理論への立場について。

この理論は理想化された(特定の作品分析により歴史をたどるのではなく、より抽象的な)作曲家の視点であり、「曲を聴く際に働く作用や構造」ではなく、「作曲時に利用できる概念構造」を記述するものです。

◆聴き手の認知と、作り手の認知は必ずしも一致しない。
作曲は、音楽的な技術を用いて聴衆に特定の種類の体験を与えるプロセスですが、聴衆がその選択に気が付き、意識的に追うことは期待していません。
聴き手が細部まで作り手の意図を細部まで聞き取るというのは、マジシャンが他のマジシャンの手品を見るようなものです。

◆このアプローチは「言語」とも異なる
例えば音楽が「言語」とするアプローチ、つまり作曲者と聴衆の視点がより近い場合、作曲者はより多くのパターンを組み込み、聞き手はその意図を聞き取ることが求められます。

ある程度正しい部分もありますが、下記3点において異なります。
・音楽的な能力(情報を受け取る幅)は、作曲者・聴衆ともに幅広い
・言語は「話す人=聞く人」だが、音楽は「作る=聞く」ではない
・音楽家でも複雑な音の情報を全て聞き取れるわけではない

──────────
調和・旋律の滑らかさを排除した前衛的な現代音楽は、その結果として聴き手には理解不能な音楽となりました。
しかし聴き手を排除せず、直観的に関心を持たせる「聴きやすさ」と「構造的な深さ」は本来両立可能です。

聴き手に大事なのは、曲の文法を正確に理解することではなく、聴く意思を持つこと、
つまり、手品の仕掛けを見抜くことではなく、イリュージョンの力を感じることです。

1.5 忙しい人のための概要と主張まとめ

この本は2部構成です。

第一部

最初の5章で理論を解説します。
第2章:理論のコンセプトと、シンプルな幾何モデルの提案。音高を線分上の点、ピッチクラスを円上の点とする。

第3章:より ”高次元の” 音楽空間マップの提案。和声と対位法=ハーモニーと旋律の相互作用を可視化する試み。

第4章:音同士の距離を測る ”定規” となるスケールを提案し、主要な音高群を取り上げる。

第5章:「一般化された調整理論」の構成要素を説明し、「マクロハーモニー」や「重心性」を表すための様々なツールの提案。
さらに、20世紀音楽のふたつの系譜「半音階的伝統」と「音階的伝統」の対比。
半音階的伝統:音階を放棄し、高度にクロマティック(半音階的)にしたもの
音階的伝統:音階・旋法を拡張したもの

※2~4章が特にややこしいため、演習問題があります。

第二部

後半部では、これらの理論で西洋音楽史を新たに解釈しなおします。

第6章:「拡張された一般的方法」つまり、西洋の対位法の始まりから20世紀調性音楽までの流れ。
「音楽は縦(和声)と横(旋律)で二次元の統一性を持つべき」という考え、つまり「和声的一貫性」と「旋律の順次進行」の結合が、これらの異なる音楽様式を結び付けている。

第7章:幾何学モデルで古典派時代の機能和声を調べ、伝統的な和声理論とシェンカー理論との関係を扱う。

第8章:19世紀の作曲家が
クロマティック空間における「効率的な声部進行」を活用した方法と、クロマティシズム(スケールを超えた音空間)の構造性

第9章:20世紀の調性作曲家が
飽和したクロマティシズムの流れに対抗するために、スケールを利用して「クロマティックな声部進行」と「より限定されたマクロハーモニー」を融合させたことを示す。

第10章:「モダンジャズ統合」と筆者が呼ぶ、印象主義的な和音やスケール、クロマティックな声部進行、古典的な機能和声を統合する現代の一般的方法。


2~4章は完全に理解しなくても後半は読めるから気にせず先に進んで、戻ってきても良いよ by Tymoczko


以上、まとめでした!


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