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音楽の権利・完全ガイド

今回は音楽(特にゲーム音楽)の「権利」まわりについて書きます。

著作権

ゲーム会社に所属していたときに作った楽曲の著作権は、そのゲーム会社のもの(会社の著作権)になってしまいます。入社時にサインする「入社承諾書」や「職務発明・職務著作に関する規定」あるいは「就業規則」にその旨がはっきりと明記されているのが一般的です。この仕組みは日本の著作権法第15条に定められている「職務著作(法人著作)」という制度に基づいています。

以下の条件をすべて満たしている場合、契約書にわざわざ書かれていなくても、法律上、最初から「会社が著作者」になります。
・会社の指示で作成されたものであること
・業務の一環(職務)として作成されたものであること
・会社の名義で公表されるものであること
・契約や就業規則に「著作権は社員のものにする」という特別な取り決めがないこと

ゲーム開発はチームで行う巨大なプロジェクトなので、後から退職したクリエイターと権利トラブルにならないよう、会社側はここを極めて厳格に固めています。したがって退職した後であっても自分が在籍中に作った曲を会社の許可なく自分のアルバムに入れたりイベントで演奏して有料で配信したりすることは厳密に言えば権利侵害になってしまうケースがほとんどです。


著作人格権

著作権(財産権)が「お金やビジネスに関する権利」であるのに対して、著作人格権はクリエイターの「プライドやこだわり、作品への愛着」を守るための権利です。これは「人格権」という名前の通り、作者の魂や名誉と結びついているため、他人に売ったり、譲ったり、相続させたりすることが絶対にできません。(これを「一身専属(いっしんせんぞく)」と言います)。たとえゲーム会社に著作権(財産権)が移っていても作った本人が人間である以上、この著作人格権のベースは(法律上は)常にクリエイター本人に帰属します。

著作人格権を構成する3つの権利

  1. 公表権(こうひょうけん)
    未発表の作品を「いつ、どこで、どんな形で世の中に出すか(あるいは出さないか)」を自分で決められる権利です。
     具体例: まだ開発途中で納得がいっていない没曲を、会社や他人が勝手にネット上に公開したら、この権利の侵害になります。

  2. 氏名表示権(しめいひょうじけん)
    作品が世に出るときに、「自分の名前(本名やスタッフロールのクレジット名)を載せるか、載せないか」を決められる権利です。
     具体例: 「この曲は自分が作ったので、ちゃんとクレジットに名前を載せてください」と要求したり、逆に「出来に納得がいかないから、偽名(ペンネーム)にしてほしい」「名前を載せないでほしい」と指定したりできます。

  3. 同一性保持権(どういつせいほじけん)
    これが最も強力で、トラブルになりやすい権利です。作品の「内容やタイトルを、自分の意に反して勝手に改変されない(いじらせない)」という権利です。
     具体例: 「自分が作った厳かなオーケストラ曲を、勝手にピコピコした電波ソング風にリミックスされた」「勝手にテンポを速くされた」「曲のタイトルをダサいものに変えられた」といった行為に対して、「勝手に変えるな!」と文句を言える権利です。 


ゲーム業界の「現実」と契約書

法律上これほど強力な権利がクリエイターに守られているなら「会社に所属していても、自分の曲が勝手にいじられたら文句を言えるのでは?」と思いますよね。しかしゲーム開発の現場でこれを100%認めると、会社側は「退職したサウンドスタッフと連絡がつかないからゲームの移植版で音質調整(リマスター)ができない」「スマホ移植のときに曲をカットできない」といった大問題に直面してしまいます。そのため入社時や楽曲制作の契約書には、ほぼ間違いなく以下のような恐ろしい一文が入っています。
「著作者は会社(および会社が指定する第三者)に対して
                著作人格権を行使しないものとする。」
これを「著作人格権の不行使(ふこうし)特約」と呼びます。
著作人格権を会社に「譲渡」することは法律上できないので、代わりに「持っているのは君の自由だけど会社に対してその権利を使って文句は言わないって約束してね」という形でクリエイターの武器を事前に封印してしまうのです。

イベントで演奏する際の注意点

演奏するだけ(原曲通り)
→著作権
を持っているゲーム会社に許諾を取れば(あるいはJASRAC等の管理楽曲ならそこを通せば)法律上はクリアできます。

アレンジ・編曲する場合
→著作人格権
を持つ作曲家本人のこだわりやプライドを傷つけないよう本人の許諾が必要です。しかし先述の通りゲーム業界には「著作人格権の不行使特約」という絶対的なルールが最初から敷かれています。この特約があるため法律の建前としては「作曲家に聞くべき」であってもビジネスの現実としては以下のような扱いになります。
会社の一存で決められる:
ゲーム会社が「うちが著作権を持ってるから、アレンジして演奏していいよ(どうせ作曲家からは文句言われない契約になってるし)」と許可を出せばそれで手続きは終了してしまいます。
作曲家本人はノータッチ:
結果としてイベント主催者がわざわざ退職した元社員の作曲家を捜索して
「アレンジしていいですか?」と聞きに行くケースはほとんどありません。


原盤権

原盤(マスター音源)とは、スタジオで録音しミキシングやマスタリングを経て最終的に完成した「最初の完成版音源データ」のことです。この音源を作るには、スタジオ代、機材費、エンジニアや演奏者へのギャラなど、多額の資金が必要になります。そのため著作権法では「これだけのリスクとお金を投資して音源を作った人を守ろう」としてレコード製作者(ゲーム音楽ならゲーム会社)に特別な権利を与えました。これが「原盤権」です。

なぜ原盤権は「最強」と言われるのか?

JASRACなどの管理団体に預けられることが多い「著作権(作詞・作曲)」と違い、原盤権は「作った会社(または個人)が100%手元で握りしめている」ケースがほとんどだからです。これによりビジネスにおいて以下のような絶対的な権力を持つことになります。
JASRACが介入できない:
JASRACに「お金を払うのでサントラ音源を使わせて」と言っても「原盤権はうちの管轄外だからゲーム会社に直接味判(個別交渉)してね」と断られます。
拒否権がめちゃくちゃ強い:
ゲーム会社が「そのイベントには音源を貸したくない」「そのサントラCDの再販は許可しない」と言えば第三者はどれだけお金を積んでもその音源を一切使えません。

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各権利 まとめ

著作人格権、著作権、そして原盤権
シンプルにまとめると以下のような感じとなります。

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ゲーム音楽を演奏するために

各権利に関して説明しましたが、さて、ゲーム音楽をライブで演奏するためにはどうするのか?を説明していきます。権利まわりの法律の知識だけでなく、泥臭い「捜索フェーズ」と「交渉フェーズ」が楽曲ごとに発生するので、演奏する楽曲数が増えれば増えるほどクリアするのは並大抵の労力ではありません。

1. 著作権の管理元

まず最初の関門は、「どこにお願いすればいいか」の特定です。

  • JASRACやNextToneなどの管理団体にある場合: まだマシなパターンです。データベースで検索して信託されていれば、イベント会場側が包括契約を結んでいるライブハウスやホールなら、セトリ(演奏曲目)を報告して規定の利用料を支払うだけで「演奏権」はクリアできます。

  • ゲーム会社が自社で管理している(信託していない)場合: これがレトロゲームや特定のメーカーに非常に多いパターンです。この場合は、管理団体を通せないため、ゲーム会社と直接交渉(直判)するしかありません。

2. 許諾申請窓口の有無

直接交渉しようとしても、多くのゲーム会社には「個人のライブ演奏専用の申請フォーム」なんてものは用意されていません。

  • 企業としての「ライセンス窓口」や「総合問い合わせ」から送る形になりますが、そもそも企画書が法務や権利担当の部署まで届くかどうかも運次第です。

  • さらに、合併・倒産・版権の売却を繰り返しているレトロゲームの場合、「現在の権利を持っている会社」を探し出すだけで何週間もかかるケースがザラにあります。

3. 個人に許諾を出してもらえるか

窓口が見つかり、メールが送れたとしても、ここが一番高い壁になります。

  • 多くのゲーム会社は、「個人主催のイベントに対して、個別に正式な許諾書を発行する」という業務フロー自体を持っていません。

  • なぜなら、個人相手に1通ずつリーガルチェック(法務確認)をして許諾を出すのは、会社側にとってコスト(人件費や時間)に見合わないからです。トラブルが起きたときのリスクも高いため、大抵は「一律で個人の申請はお断り」「お答えできません」という定型文で返されるか、無視されてしまいます。

  • 一部のメーカー(インディーゲームや、ファン活動に非常に寛容な一部の会社)が「非営利ならガイドラインの範囲でやっていいよ」と明記してくれているケースは稀な救いです。


レトロゲーム音楽の権利問題

レトロゲームの権利処理において、実務上最も頭を抱えるのがその「企業の消滅と権利の迷子(孤児著作物)」問題です。ゲーム業界はM&A(合併・買収)や倒産、ブランドの切り売りが非常に激しい世界です。すでに存在しない会社のゲームの場合、以下のようなカオスな状況に陥っており、調べようにも調べがつかないケースが多発します。

倒産・消滅した会社の著作権が辿る「4つの迷宮」

1. 破産管財人によってバラバラに売却された
会社が倒産(破産)すると、会社の資産はお金に換えて債権者に配るため、知的財産権(IP)がオークションや入札にかけられます。 このとき、「このタイトルの権利はA社へ」「あのタイトルの権利はB氏へ」とタイトルごとにバラバラの買い手に引き取られることがよくあります。
 結果: かつて同じメーカーが作ったシリーズ物なのに、1作目と2作目で権利を持っている会社が全く違う、という現象が起きます。

2. 権利を買い取った会社が、さらに倒産した
売却先の会社が数年後にまた倒産し、別の会社に権利が移り、そこもまた消滅し……を繰り返すパターンです。
 結果: 転売の歴史を誰も記録していないため、現在の最終的な権利者が誰なのか、業界の誰も分からない「生きる行方不明」状態になります。

3. 社長や創業者個人の「遺産」になっている
会社が綺麗に解散手続きをした際、知的財産権だけを「当時の社長個人」や「役員」が引き取ってそのままになっているケースです。
 結果: 登記簿を追っても会社は消滅しているため、個人名義の連絡先など一般人には絶対に突き止められません。

4. 完全に「消滅」して著作権がフリーになっている?
法律上、著作権を持つ法人が解散し、その権利を誰も引き継がなかった(清算されずに残った)場合、その著作権は消滅します(著作権法第62条)。
 結果: 「じゃあフリー素材として使っていいんだ!」と思いがちですが、本当に誰も引き継いでいないのか(実はどこかの投資会社が握っているのではないか等)を「100%証明する」ことは不可能なため、結局リスクが高すぎて誰も手をつけられません。

文化庁すら「探せなくて困っている」現実

実際、過去に公的なゲーム保存プロジェクトや美術館がレトロゲームの展示・上映を行おうとした際、「メーカーと連絡が取れなくて困っています。知っている人は情報提供してください」と公式に呼びかけた事例がいくつもあります。もしどうしても権利者が分からない場合、法律上は「文化庁長官の裁定制度」という仕組みを使い、供託金を払うことで国から一時的な利用許可をもらう手続き(未管理著作物裁定制度など)が存在します。 ですが、これを利用するには「これだけ手を尽くして探しましたが、本当に見つかりませんでした」という膨大な調査実績の証明が必要です。当然、個人のライブイベント程度で使えるような手軽な制度ではありません。


その他の許諾申請

更にイベントの宣伝で「ゲームのタイトル(商標)」を使ったり、ゲーム画面(著作物)」を使ったりする、となると別の許諾が必要になります。

1. 会場でゲーム画面を流す 「上映権」

日本の著作権法において、テレビゲームは「映画の著作物」と同じ扱いになります。映画館が無断で映画を流してはいけないのと同じで、ゲーム画面を不特定多数の人に見せる行為にはゲーム会社の「上映権(じょうえいけん)」という許可が必要です。

  • 静止画(スクリーンショット)ならセーフ?: 「動画じゃなくて、ゲームのロゴやパッケージ、ドット絵のキャラの静止画を背景に映すだけならセーフでしょ?」というのもNGです。それらは「美術の著作物」にあたるため、無断で引き伸ばしてステージに映せば「複製権」や「公衆への提示」の侵害になります。

  • 「ゲーム実況」のガイドラインは使えない: 最近は多くのゲーム会社が「プレイ動画の配信ガイドライン」を出していますが、あれはあくまで「個人のYouTubeや配信サイトへの投稿」に限ったルールです。ライブ会場というリアルな商業スペース(あるいはチケット代をとるイベント)で大画面に映す行為はガイドラインの対象外ですので、会社への個別交渉が必須になります。

2. 告知でタイトルやロゴを使う 「商標権」

イベントのフライヤー、SNSでの告知、チケット販売ページなどで、ゲームのタイトルやロゴを使う行為も非常に危険です。

  • ロゴの無断転載: ゲームのタイトルロゴ(デザインされた文字や意匠)は完全にアウトです。

  • 文字としてのタイトル使用: ロゴではなく「〇〇(ゲーム名)の音楽を演奏!」とテキストで書くだけなら、事実に反していなければ「商標のパロディ・引用」としてグレーで済むケースもあります。しかし、それを大々的に掲げて集客(商売)に利用しているとみなされた場合、ゲーム会社から「うちの公式イベントだと誤認させて客を釣っている(不正競争防止法違反)」として訴えられるリスクが跳ね上がります。


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