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私が京都に適応できなかった時、最寄りの自然が鴨川デルタだった

これは、2020年に適応障害になった時の記録です。あの頃の自分を忘れないための記録でもあります。

今でもふとした音楽や空気で、当時のことを思い出します。

オフィスで流れていたラジオ、京都の気温、鴨川沿いの空気。

今もし同じように苦しんでいる人がいるなら、少しでも救いになれば嬉しいです。

「普通」に適応できなくても、生きていていい。

これは、そんな話です。

1. 京都での就職と、コロナ禍

2020年4月。

私は新卒で、滋賀の実家から京都へ引っ越しました。
Web制作会社で、フロントエンドエンジニアとして働くことになったのです。

元々私は京都の芸術系の学校に通っていて、在学中には京都市のポスターに作品が選ばれ、街中に掲示されたこともありました。
だから、ものづくりに対する気持ちは昔から強かったと思います。

新卒の私は、「早く即戦力になりたい」と思っていました。
でも実際は、技術力も経験も全然足りませんでした。

そんな中、入社してすぐにコロナ禍になりました。
会社はフルリモート勤務に切り替わり、オンラインでやり取りをしながら仕事をしていました。

今思えば、ずっと肩に力が入っていたのだと思います。

2. 出社

2ヶ月ほどのリモート期間が終わり、出社勤務が再開しました。
そこから少しずつ、何かがおかしくなっていきました。

職場での人間関係が、当時の私にはどうしても合いませんでした。
残業が夜11時頃まで続く日もありました。

限界だと思い、上司に相談しました。
でも、その頃にはもう神経がかなり擦り切れていたのです。

そして入社3ヶ月目。
朝礼中、私はそのまま倒れました。

次の日。
出勤途中、突然涙が止まらなくなりました。

職場へ向かう途中で泣きながら引き返し、そのまま心療内科へ向かいました。

そこで、「適応障害」と診断されました。

3. 人間ではなくなっていく感覚

そこからの半年間、私はほとんどベッドの上で生活していました。

傷病手当は11万円。

新卒で貯金もほとんどなく、実家にも戻れませんでした。
食事は3日に1回、雑炊を少し食べる程度。
お風呂もそのくらいの頻度でした。

薬は多い時で20種類近く飲んでいて、持ち歩いている量を見て周囲に引かれることもありました。
でも、飲まないともっと苦しかった。

何もしていなくても涙が出る。
歩いている途中で吐きそうになる。
息が上手く吸えなくなる。
皮膚がずっとヒリヒリする。

人工的な光も、生活音も、全部が辛かった。

本も読めなくなりました。
文字が、意味として頭に入ってこなかったのです。
元々好きだった絵も描けなくなりました。

人間じゃなくなっていくみたいでした。

そして私は、その頃京都のことも苦手になっていました。

温度差、気圧、逃げ場のない細い道、観光客、街の空気。

全部がしんどかったです。

4. 鴨川デルタ

そんな生活の中で、辛うじて外に出る理由になっていたのが鴨川デルタでした。

でも、別に「鴨川デルタが好き」だったわけではありません。
ただ、最寄りの自然だった。
それだけです。

ある時から、友人が頻繁に鴨川デルタへ誘ってくれるようになりました。

その友人は近くの大学の学生で、「寂しい」と言う私をサークルの集まりへ呼んでくれました。

鴨川デルタで飲みをしたり、網を持って生き物を探したり、ただぼーっとしたり。

元々、私の両親は博物館の学芸員で、幼い頃から川の生物観察会を開いていました。
だから、生物観察は昔から生活の一部でした。

鴨川デルタは私にとって神聖な場所ではなく、ただ「辛うじて生きていられる場所」だったのです。

5. 普通じゃない人たち

ある日、関東から来た友人が京都御所で熱中症になったと聞き、家に呼んだことがありました。

その友人は助けたお礼に、傷病手当の手続きや休職について色々教えてくれました。
当時の私は、そのような制度のことすら何も知りませんでした。

後日、その友人の家へ遊びに行った時、色んな人に出会いました。

その人たちは、世間一般でいう「普通の人」ではありませんでした。

でも皆、それぞれ自分の変さや得意なことを受け入れて生きていました。
むしろ、それを活かして活動し、評価されていました。

その光景を見た時、私は初めて本気で思いました。

「あぁ、別に普通じゃなくても、生きていけるんだ」

と。

今思えば、それが最初の本当の治療だった気がします。

6. 復職とアクセシビリティ

半年後、私は職場復帰しました。

もちろん症状はまだ残っていました。
勤務中に突然苦しくなったり、途中退社したり、休んだりもしていました。

それでも、辛うじて出勤していました。

復帰後、ある優しい社員の方がずっと横について教えてくれました。

本当に基礎から丁寧に。

その方のおかげで、私は少しずつ実務を覚えられるようになりました。

そしてその時、「アクセシビリティ」という考え方を学びました。

どんな人でも、難なくサイトを使えること。
見えにくい人も、操作が苦手な人も。
みんながちゃんと使える設計にすること。

私は、その考え方に救われました。
「できない側」になったからこそ分かったことがあったのです。

今の私が、「なるべく誰も傷つかない作品を作りたい」と思っている根っこの部分は、多分あの頃にできたものです。

7. 出町柳パラレルユニバース

そんな頃、深夜に『四畳半神話大系』の再放送をやっていました。

画面の中には、見慣れた鴨川デルタが映っていました。

最終回の後、『四畳半タイムマシンブルース』の映画化が発表されました。

さらに、主題歌としてASIAN KUNG-FU GENERATIONの『出町柳パラレルユニバース』が公開されました。

私はその歌詞に衝撃を受けました。

少しずつ影が背を伸ばしても
まだまだ終わりじゃないさ
今日
午後からは街の風になって
君らしく踊ればいいじゃない

まず、大好きだったアジカンが「出町柳」の曲を作ったことに驚きました。

でもそれ以上に、「君らしく踊ればいいじゃない」という言葉に救われました。

「あ、自分らしくいていいんだ」

そう思えたのです。

8. 鴨川デルタ勢力図

そこで私は、「鴨川デルタ勢力図」を描こうと思いました。

元々、左岸に京大生、右岸に同志社生が集まっている様子を見ていて、「なんか面白いな」と思っていたのです。

でも、それだけではありませんでした。

適応障害になってから、私は絵が描けなくなっていました。

だからその代わりに、人を観察し、文字を置きました。

それが、自分なりのリハビリだったのです。

完成したものを、そのままTwitterへ投稿しました。
すると、思ったよりずっと広がっていきました。

9. 最後に

今でも、当時オフィスで流れていたYOASOBIの『夜に駆ける』を聞くと、2020年のあの頃を思い出します。

だからこれは、「全部乗り越えた」という話ではありません。
今でもまだ、当時の自分は今の私の中に残っています。

でも、あの頃の私は、「普通じゃないと生きていけない」と思っていました。
今は、「普通じゃなくても、生きていていい」と思っています。

鴨川デルタ勢力図は、多分その証拠みたいなものです。

もし今、適応障害や環境の変化で苦しんでいる人がいるなら。
もし、京都という街に上手く馴染めず、息苦しさを感じている人がいるなら。

あの頃の私は、毎日「ちゃんとした人」になろうとして、上手く呼吸ができなくなっていました。

でも、人と少し違っていても、生きていていい。

この記録が、そんなことを少しでも伝えられるものになっていたら嬉しいです。

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