六十五話 召喚とは手札からクリーチャーを場に出すことである





 うろうろ。

 うろうろ。

 うろうろうろ。


「落ち着け、セト」


「だってぇ」


 右に、左に、うろうろと歩いていた店長が涙目で振り返る。可愛いかよ。

 まあ気持ちもわからないわけじゃない。


「もうすぐでしたっけ、例の修復者が市長と来るのは」


「そうなんだよー! あー! 落ち着かない!」


 頭を抱えてうずくまる店長である。

 今日はいつにも増して動きがポンコツである。


「さっきまで居眠りしてたのにねー」


「ねー」


「朝まで寝れなかったの!」


 そんで気が抜けたら椅子でうたた寝してたんですね、わかります。

 そんな店長を起こしたのが30分前。

 寝ぼけ眼だった店長が頭ごと顔を洗ってきてしまって、バニラから貰ったタオルで髪を拭き直したところである。

 うーんカオス。

 本日は日曜日。

 またまた臨時休業の看板を出して、関係者ユウキちゃんたち含むが集まったMeeKingである。


 ……1人だけ野郎なのが辛いんですけど。


 闇カード関連だっていうのに、スカーさんは来ていない。

 なにやらやることがあるということで遅れるとのことだ。

 そもそも闇ファイターなのに居ていいのかというと、まあスカーだからいいんじゃねえかな? 警察に信用されてるし。

 ……本当に闇ファイターか?

 なんて考えつつも、深刻に思うことは一つ。


 この店の男女比率おかしくね?


 どこにでもいるような一般人じゃなかったら耐えられなかった! 存在感を消して見守る姿勢になってなかったらきつい。

 野郎のバイトとか増やそうよ!

 普通に話が通じて、常連で、三時のおやつに闇ファイターとかをボコすのが生きがいとかの、普段は紳士な人とかさ!

 いないかなぁ?

 探してもいないか?

 いやいねえか、いたら怖いわ。

 正社員でそんな人がいたら安心して店長とバニラのこと託して、がんばえーって言えるのになぁ! ちくしょうめ。


「そういえば力札修復者カード・コンサバターってなんなんです?」


 なんて考えてたら、ユウキちゃんが店長に訪ねていた。

 確かに、カードの修復者ってなんだ?

 新しいカード仕入れたほうが早そうだけど。


「力札修復者は、カードデザイナーでも特別な人間だけが行える仕事なんだよ」


 カードデザイナー?


「あの……カードデザインってイラストレーターと文面を考える人ですよね?」


 ユウキちゃんが同じ疑問を思ったのか、首を傾げる。

 僕も前世で別段カードデザインに関わっていたわけじゃないが、カードをデザインするというのはかなりの人間の手が関わっている。

 まず、カードに必要な絵柄。イラスト部分のイラストレーター。

 そして、カードの能力、どういう動きをするか、どれだけ強いかのバランスを含めて考えるカードデザイナー。

 さらに文面が正しい記述かどうかチェックをする校正や、これまでに出したカードとのパワーバランスなども含めたテストを行う人員。

 小さな小規模開発ならともかく、Lifeレベルの世界規模、アメリカ以外にも海外展開をしていたものならば翻訳なども含めてものすごい人数が関わっていたのは雑誌記事やSNSなどからも伺えた。

 著名なイラストレーターならばそのデザインだけでイラアドも高いし、イラストレーター本人から表面にサインを貰ったサインドなんていうカードもあるぐらいだ。

 とまあ影響力があるが、とりわけ言われるのがカードデザイナー。

 強いカード、癖のあるカード、あ、これあのデザイナーが造ったカードだななんていうのはプレイヤーには語り草になる。

 例えばクソ強くてこれ毎ターン使えたらまずくね? ターン1制限かけるべきだろというカードを。


 それはCOOLじゃないな。


 なんていう理由で文面から外した結果大暴れしたカードが出て、二ケタ単位のカードが禁止や制限指定されたとか。

 その結果社長室に呼び出されて叱責されたなんていう有名な人もいる。

 いやめちゃくちゃかっこよくて、スタイリッシュなシステムで使ってて楽しいけど、加減しろ。傑作とぶっ壊れの間をタップダンスするギリギリなカード作るから困るんだよなぁ、あの人はさぁ!

 しかし、そんなデザイナーで修復が出来る? どういうことだ?



「違うよ?」



「違うの?!」


 違うんの!?


「イラストレーターは確かにいるけどね、完全な分割作業はあまりないよ。交信画家チャネラー刻字作業者トランスレーターの作業だから」


「ちゃねらーととらんすれーたー?」


「媒介者、そして翻訳家って意味だね」


 翻訳?


「Lifeのカードはね。誰かが描いて決めて作ってるわけじゃないの」


 そういって店長が取り出したのは自分のデッキケース。

 そこから取り出したカード、銀河乙女アウターアムニオンのエロスと魔法カードをテーブルの上に置いた。


「例えばこの<色見えぬエロス>と<顔料抽出>これのイラスト、誰がどうやって描いたと思う?」


「? そりゃあなにかの設定とか、想像で?」


「違う。これは誰かの想像じゃなくて、


「見たって……」



交信画家チャネラーというのは別の世界、どこかにいる実在の存在を幻視して、姿



「は?」


「インスピレーションを受けた画家のセンスとか解釈で多少変わってるらしいんだけどね。所謂一つの似顔絵とかみたいなものらしいの」


 それでねと、店長がなぞったのはエロスの絵がある部分の下。

 テキストが書かれている部分だ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<銀河乙女 色見えぬエロス> コスト(1)

 0/1

 銀河乙女アウターアムニオンのクリーチャー


 あなたがこのカードをプレイした時、追加で(X)支払ってもよい。

 そうしたならば、色見えぬエロスはX/0の修整を受ける。

 この(X)はこのゲーム中に除外された枚数までしか支払えない。


 銀河乙女のクリーチャーは自分の場に2体までしか存在出来ない。

 このクリーチャーがあなたの場に存在する限り、このカードのコントローラーは銀河乙女以外の召喚が出来ない。

 このクリーチャーは場に存在する時、全ての色として扱う。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「このカードの文面はね、


「イラストから?」


「そう。ボクたち人間……ファイターが理解して、解釈できる形に


「翻訳」


「そう。Lifeのカードっていうのはね、どこからか存在する存在の似姿を写し取って、その力を受け止める器を造ってるの。だから自由に作れないの」


「そうなんですか?」


「うん。だってさ、そうじゃなければこのエロスの下の3つの文面なんて誰がどう見たっていらないじゃない? 削っていいじゃん、強いカードを作りたければさ」


 トントンとカードの表紙を指で叩く。

 その動きは優しくて、そしてそれをする店長の横顔は寂しそうだった。


「そもそもさ。教会や企業がさ、本当に勝ちたければ「これを出したら絶対完璧になにをどうやっても自分の勝ちです」ってカードを作ればいいんだよ」


「でもそんなのゲームにならないんじゃあ」


「なんで? 造った人が一番偉いんだよ? 好きに造ったっていいじゃん、最強になれるじゃん。ファイト一つでの勝ち負けで人生を賭けたり、命を賭けたりするぐらいならガンガン強いのを刷ればいい」


「それは……」


 一発で禁止送りにされるだけでは?


「……じゃあこっちのカードも?」


 そういってユウキちゃんが指差したのは魔法カード。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<顔料抽出> コスト(3)

 通常魔法

 あなたのメインゾーンのオブジェクト1つを破壊する。

 そうしたならば、破壊したカードの色のコスト(1)を加える。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「こっちはその逆。


「能力に合わせて?」


「そう。欲しかった能力、その文面システムの力を引き出せる光景、出来事、摂理を求めてそれを描き記したの」


 そう告げて店長は2つのカードを拾い上げた。


「幾多のカードを造り続ける奴らの願いは1つだけ。、そんな無敵の……


 寂しそうに微笑んで。


「でも誰も出来ない。だってこのゲームの創造主ゲームマスターは人じゃないから」


 Lifeってやつはさ、とニヘラと店長は笑った。



Life



「こんなカード一枚一枚に無数の法則システムが組み込まれていて、たちファイターはそれを出来るだけ上手に利用しているだけに過ぎないんだ」


 ん?

 なんか今店長の口調がおかしかったような……。

 いつもか。


「……と、まあこんな感じ」


 パンと店長が夢から覚めるように手を叩いた。


「以上、あまり一般的には知られてない事実でしたー。ごめんね? ショックだった?」


「……ぅーん」


 店長の言葉に暗い顔を浮かべたのはユウキちゃん。

 彼女だけだった。


「知ってた」


「サレンさん?!」


「ししょーから昔教わったよー」


「マリカちゃん?」


「よくわかんない」


「バニラちゃんはまだ知らなくていいよぉ」


 よしよしと、ユウキちゃんがバニラの頭を撫でていた。

 まあ想定通りの反応である。


 ん? 店長がこっちを見てる。


「フツオくんは、知ってた、のかな?」


「いえ」


 前世も今も一般人だ。

 なんで初情報だ。


「でもまあ、


 Lifeのカードストーリーとかまさにそんなんだし。

 あれ多次元に渡る殺し合いとか、神と勇者とか、魔王とそれを超える邪神の殴り合いとか、果てには宇宙開発でスターなウォーズしてたりしてたんだぜ?

 Lifeをやり込む前に学生時代でやってたTRPGなんか、公式で地球と別次元を渡る魔術師から情報貰ってるとかそういう設定だったしなぁ。

 なんもかんも今更だし、そもそもだ。


 カードゲームが社会を支配している世界で、普通にカード作ってるわけないだろ!


 むしろそうだったら開発企業可哀想だろ。

 遊戯として作ったゲームが世界中に大ヒットしたならともかく、それの勝ち負けで社会的な立場決まったり、命のやり取りしてたり、なんか闇のファイターとかなんで発生したらきついわ。

 どんだけ損害賠償で訴えられるのか、まともな良識あったらこんなゲーム辞めよう!? ってなるよ。

 なるだろ。

 でもそうじゃないってことは、この世界ではまともじゃないってことだ。


「そ、そう……」


 と言った旨をわかりやすく告げたのだが、何故か店長が上を仰いだ。

 そこで見えるのは天井だけですよ?


「やっぱり……どこかで訓練された子だったとか、死した神々の残響フロム・ヘルとか? でもあんな反体制の連中とは思いたくないし……」


 なんか悩んできちゃってるけど、どこにでもいる一般人ですって。

 ちょっとLifeにはそこらへんの奴よりは相対的に詳しいけどさ。


「あの、それじゃあ修復者コンサバターってなにするんですか? カードを生み出すとか?」


「いやいや、違うよ、修復者ってのはねー」


 コンコンコンと扉が叩かれた。

 全員が一斉に扉を見る。


 見ている中ですすーと油を差したような滑らかな動きでドアが開いて。



力札修復者カード・コンサバターとは奇跡の復活を行うことである!」



 カランカランとベルが鳴ると同時にクルクルと回る人影が踊り出ていた。

 そう。

 踊って出てきた。

 クルクルとオールバックにした長髪長身の、高そうなスーツを纏った男がクルクルと片足で廻っていた。



「奇跡の伝道者! 喜劇、喝采、大興奮! そう! つまーり、ワターシだ!!」



 パチーン。と口に出して、ウインクした。

 不審者である。


「店長、通報を」


「もう押したよ」


「まてまてー!! またんかー!!」


「オウ! 吾輩のあまりにも眩しき威厳に、怯えてしまったかな? ソーリィソーリィ!」


「なにこれぇ」




 この数分後、すごい勢いでやってきた契約警備の人に誤報ですと必死に謝罪した。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 お前程度の歩みならばこれで十分だろう。



                 ――浅い泥溜まり

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