六十六話 誰彼(たそがれ)は、誰彼コストでプレイする代わりに墓地のカードを除外しなければならない



「どーもどーも。人はワターシをミスターテロップと呼ぶ!」


「こいつは久田くだ 照文てるふみ。バリバリの日本人じゃ」


「のんのん、それは仮初の名前。テロップ! それがワタシのソウルネームんんんんんん!!」


「どっちでもいいわい!!」


 カド市長が連れてきた黒髪オールバックに、ブランドものなパリッパリのスーツを纏ったイケメン(ただし言動を無視すれば)を見た僕らの感想はこれだった。


 ……大丈夫かこんなやつで???


無問題モーマンタイ!」


 馬鹿な、心の声が読めるのか!?


「誰もが最初はワータシをそう見ますが、その全てを覆してきました。すなわちイリュージョニスト、外見詐欺の魔術師と呼んでくださっても一切過言はない!」


「自覚はあるんだ」


「覆したってどういうふうに?」


「それは、こう」


 伸ばした下向きの手のひらを、上にクルッと回すテロップ。

 うん?


「拍手喝采、褒めちぎりということです!!」


「手の平を返されてる!!?」


 悲しいのかすごいのかわからねえやつだ!!


「さて自己紹介も済んだところで仕事に掛かりましょう。レディ~、ワタシのゲストはどちらに?」


 そういってテロップは手に持っていた頑丈そうなカバンを音も立てずにおく。


「……こちらです」


 店長が手に持っていた小さなケース。

 頑丈そうな鉄の箱に着いてた鍵を開けて、取り出したのは薄い長方形の箱。

 違う。

 ガラスのような器に入った1枚のカードがあった。


「これが店長の……」


「レガシーカード」


 邪魔にならないように僕も後ろから覗き込む。

 そのデザインには見覚えがあった。

 といっても今世じゃない前世。


「あの銀河乙女……」


「あるまー?」



「そうじゃ、これがセトの切り札エース。<無知なる乙女 アルマー>じゃ」



 

 あー、懐かしい。

 ”アルマー”と”オニムス”で成り立つロックコンボ、通称セクロスロック、略してセクロック。

 確かにアニマのほうは神格しんかくレアだったし、レガシー扱いにもなるか。

 そう眺めていて気付いた。


 ん? このカード……半分に千切れてないか?


「おお、これが……触っても?」


「慎重にお願いします」


「では失礼」


 ポケットから取り出した真っ白な手袋を嵌めて、テロップがケースを持ち上げる。


「ふむ……ケースの中身は不活性ガスで?」


「はい。アルマーが、カードが破れた時に出来るだけ集めて、それ以上破損しないようにケースに入れて」


「エクセレント! 的確な対処でしょう。修復作業をしたいので、奥のテーブルをお借りしても?」


「ここでやるんですか? どこか工房なら」


「いえいえ、ただの修繕ならともかくこのレガシーカードにはスピリットが必要です。店内に満ちるファイターのスピリット、それがその息を吹き返す熱量になります! あ、エアコンは邪魔になるので天井は止めてください」


「あ、はい」


 持ち上げる手つきは優しく。


「ふぉおおおおおおおお! テンション上がってきましたぞぉおお!!」


「アルマーも上げるのやめて!?」


 しかし移動する動きはドタドタと。

 ハイテンションの変人が店長を伴って奥のテーブルにいってしまった。

 あ、なんか奥で鞄から取り出した風船みたいなの膨らませ始めた。

 あの中で作業をするのか?

 ……ブラックジャックみたいだなぁ。


「興味があるから見てくる」


「あ、私もいく!」


 そういってサレンとユウキちゃんも奥にいった

 確かに眺めるのも面白そうだけど、あまり大勢で見に行くのも邪魔になりそうなんだよなぁ。


「さて、あとは待つだけじゃ」


 その結果残ったのは僕とマリカとバニラの三人。

 そして、動かなかったカド市長はフリースペースの椅子に腰掛けた。


 今回訪れた市長の格好は前の和服ドレスとは違う、黒いゴシックロリータの格好だった。

 黒を貴重に、ところどころ銀糸のラインが入っていて、真っ白な髪の色とめちゃくちゃ整った顔と合わせてまるで美少女人形のよう。

 上磐じょうばん市の市長、常盤ときわ 火戸かどは着道楽で有名だ。

 外出する度に違う服装を着こなして、幼い見た目もあいまって美少女市長として名高い……とネットでググったら出てきた。

 こういう現実にありえさそうなのが現実にいるのを見ると、本当に前世とは違うんだなという実感が湧いてくる。


 ……いや、前世は前世でいたな。ゴスロリ若作り女狐とか。


 性根もデッキ宜しくひねくれてやがったし。


「大丈夫かなぁ」


「安心せよ。久田はあんな奴だが、が知る限り最高の修復師コンサバダーじゃ。奴が直せんかったらもう誰にも直せんじゃろう」


 おかげで呼ぶまで随分と骨が折れたがの、と肩を竦めるカド市長。


「……ずいぶんと店長のことを目にかけてくれるんですね」


「ん? まあの」


 持っていた渋いポーチ……なんだがチューリップのアップリケが付いてる奴をゴソゴソと漁って、カド市長が中から取り出したのは可愛くないキセルだった。

 なので。


「ここ禁煙です」


 店員として注意する。

 すみません、うち全館禁煙なんですよ。


「なんじゃとー?!」


 がっくりと肩を落として、キセルを仕舞うカド市長。

 見た目ロリだから犯罪的な光景になるところだったわ。


「うぅ、前は喫煙OKじゃったのに……最近どこもかしこも厳し過ぎるじゃろ、煙草ぐらいええじゃろ。なーにが健康推進じゃ、吸っても吸わなくても生きるやつは生きるじゃろ」


「すみません、うち全年齢向けの営業なんですよ」


「商売としては正しいわなぁ」


 もーとパタパタと足を動かすカド市長。

 やめてください、うちのバニラが真似っ子する。してます。


「吾がセトを目にかけるのは当然のことじゃ」


「当然?」


「奴は、天才じゃ」


 そういって、ポーチから取り出した棒付きキャンディを咥える。

 さすが市長だ。禁煙対策も備えていたようだ。


「セトがー?」


「セトさんが? 確かに十二聖座に入ってたらしいけどぉ」


 まあ世界ランキング十二番以内って頭おかしいわな。

 オリンピックだとメダルが取れてないが、そもそも参加出来るだけでやばい。

 高校生野球でいうならば甲子園出場の超グレードアップ版。


 それも。


「あやつは若干12歳で百番以内ハンドレット・スターズに登り詰めた」


「……化け物ですか?」


「うむ。そして、そこから3年。15になる頃には十二の座まで駆け上がった。異常な速度じゃ、幾ら銀河乙女の”器”とてありえん速度じゃ」


 うつわ?


「ししょーが爆速で追い抜かれてるぅ」


「吾も負けたぞ?」


 クルリと小さな口から飛び出た棒を一捻り。


「破れた吾が言うのもびみょいが、ファイターの世界はそんな甘い世界ではない。プロたるもの各々が当然の研鑽と知識を積んでおる魑魅魍魎の集まりじゃ」


「セトはそれよりつよい?」


「その大半より圧倒的に、じゃ」


 それはまあ確かに天才というのも生ぬるいわな。


「あの子は強かった」


 カードゲームの強さというのはまずデッキ相性を含む強さ、次に溜め込んだ経験を伴う知識、それらに裏付けされた最善のプレイングが出来たかどうかに左右され、最後に運が絡む。

 プレイングはセンスだ。

 どんな風にカードを切るか、どんな風にデッキを組むかどうか、相手の鋭いプレイに気付けるか、気づけても対応出来る手札なのか、それを判断出来るか。

 これらは知識があっても出来るとは限らない、その大半が経験とセンス。

 


 ……この世界では必ずしもそうじゃないみたいだが。


「でもそれって昔の話じゃないのぉ?」


「そうじゃな」


 チラリとカド市長の目線が奥のテーブルに向かう。

 遠目からも見えるハラハラとした態度で、膨らんだ作業場を見つめている店長。



「店長は腐ってませんよ」


「む。何故そう言い切れる?」


「見てましたからね」


 確かにバイトに入った時はかなり落ち込んでいた。

 自分が出来ることはこれぐらいだという感じでカードショップを開いていて、しかし商売をする気がなかった。

 閑古鳥が鳴いていて

 ガラスのショーケースは当時からあったが、その殆どがコレクションの展示のようなもので。

 まるで墓守のようだった。


 ……伸ばしっぱしの長髪でだらしなかったんだよなあ、あの頃の店長。

 見た目だけは綺麗なカフェ改装のカードショップだったのにろくな常連客もいなくて、たまたまドロシーちゃんのための下見で立ち寄らなければ知らなかった店だった。

 まあどうしても欲しいカード残らずの契約を見つけて、手に入れるためにジャンピング土下座して取り置きしてもらうためにバイトまですることになった。


 一応経営だけしてればいい、なんていう道楽商売だったのがどうにも我慢ならなかった。

 たまたま訪れた客が店内を一見してこれは駄目だなって引き返してしまうのを見て、まあそんなもんだよねってニヘラしてた店長。

 それでキレた。


 ――店を開いてるなら少しでも誰かのためになるべきですよ!


 なんてあのでかいケツをひっぱたいて……クビにされるのは困るから、言葉でペシペシしながら働いた。

 帰宅部の無駄に暇な時間を費やして内装を整理して、導線を考えて、ストレージを整理して……おざなりだった経営にも色々と注意した。

 そこらへんは前世の癖が出てたから今だと反省している。

 元公認会計士だった職業病が出てたと思う。

 高校受験の片手間で勉強してた簿記二級はさっくり取れたけど、一級になるとまたちょっと勉強し直さないと抜けが多いから危ないんだよなぁ。今世だとなんか無駄に分厚い参考書しかないし、ちょこちょこ違いあるからそこだけ気をつけないといけないし。

 公認会計士の取り直しはそれからやらんときついが、卒業前の一年も励めば取れるかな。

 思考がズレた。

 まあともかく店長は変わった。


「少なくともここ数ヶ月、店長は頑張ってましたよ」


 メガバベルの事件から特に変わったのだ。

 仕事の丸投げをすることもなくなったし、大金が入ったのもあるが店の改装もしたし、ファイトもやれるようになった。

 先日のスカーとのファイトもしっかりしていた。

 少なくとも腐ってたなんて間違っても言えないぐらいに頑張っているのだ。

 本当に、本当に立派になったものだ。

 このままずっとそうなっていてくれ。


「まあちょっとポンコツ気味ですが」


「元からじゃろ?」


「はい……」


 すまない店長、ここはちょっと嘘がつけないです。


「昔は優等生じゃったんじゃがなぁ」


「そうなの?」


「そうなんです?」


「ええー」


 バニラが疑わしそうな半眼になっている。

 店長、なにをしたんだ。もう人間性に評価が下ってるぞ。


「本当じゃよ。昔のセトは真面目な子でな、ファイターとしてはもちろん子供とは思えんほど利口な子じゃった」


「店長が?」


「うむ。教会の……まあ奴らの代表として厳しく制御されてたんじゃろうな。見ていて痛々しいほどじゃったよ」


 眉をへの字に曲げて、チュパチュパと棒付きキャンディでカド市長は音を鳴らす。


「”あれ”よりも先に進めねばという責任感もあったんじゃろうな」


「……あれ?」


「”空葬イドラ”。十二聖座ラスール・現五位にして箱舟教会最高のファイターであり、あやつの同期じゃった」


 五位?

 そりゃまたビックネームが出てきたな。


「あの子が十二位だった頃、イドラのやつは十位まで登り詰めておったが実力に差はなかった。追いつき追い越しで、先に聖座に上がったのはセトのほうじゃったしな」


「ライバル関係だった、とか?」


「傍目からはのぉ」


 クルクルとキャンディの棒を揺らして、ガリっと音を鳴った。


「今も聖座におれば間違いなく上位一桁にはいけたじゃろう。それが四位か五位かはわからんがな」


「……一位とは言わないんですね」


「それは無理じゃ」


 ? 無理?


「なんでだめなのー?」


「上位の3人、三英傑トライスターは強すぎる。吾がいうのもなんじゃが、三位はまあ鍛え上げてデッキさえ届けばまあうーん頑張ればなんとかなる……なると思うんじゃが……あの2人はうーん、無理じゃ。無理」


 なんか頭抱えだしたぞ?


「あの2人はわけがわからん。なんじゃよ、あいつら。なんでこんな時代に2人も揃うんじゃ、”覇手”だけでも大概じゃったのに”魔王”まで出てくるとかわからんわ。もう吾たちいらんじゃろ、あいつらだけでいいじゃろ。なんで毎度毎度成長してるんじゃ、わからん、もうわからん、シグルのやつも影響されておるし……まさか三位まで獲られんよな」


 うごごごとかいってる。

 どうやら僕たちの知らない気苦労があるらしい。


 プロっていうのも大変なんだなー。


「ハッ」


 なんかハッっていったぞ。


「そ、それよりじゃな。まだまだ作業には時間がかかりそうじゃな」


 ペッと吐き出した空の棒をきちんとポケットティッシュでクルクルと巻いて、テトテトとゴミ箱に放り捨ててからテトテトと同じ椅子に戻ってきた。

 その動きに何の意味があるんだろうか、カド市長。


「ファイトでもするか」


 なにっ。


「え? ファイト? もしかして、カド様がぁ?」


「当然じゃ。少しぐらいスピリットを稼げばそれだけ修復の成功率も上がるようじゃしな、どうじゃ?」


 といってカド市長が見上げたのは……こっちだった。



「少年。どうじゃ、吾とファイトせぬか?」




「あ、やります」


 マジかぁ!?

 プロとやれるのか?! やっばいテンション上がる!


「テーブルでやりますか? ボードでやりますか? 少し時間を頂ければバトルフィールド設定しますので!」


 いやチャンスというか邪魔にならないんだったら対戦してみたかったのに、あっちから誘ってくれるとかマジか!

 嬉しいなぁ!

 ……って、なんか唖然とした顔になってる。

 なんで?


「い、いいのか? 吾は13位じゃぞ?」


「はい? 知ってますが」


「じゃよなぁ……」


「? えーともしかしてただの社交辞令だったり?」


「いやいやいや、社交辞令じゃないぞ。ちゃんと誘ったわい!」


 よ、よかった。


「それならお願いします!」


「おー」


「フツにい頑張れー」



「全力でやりますんで!」


 頑張って頑張って立ち向かって、そりゃあもうボコボコにされてやるぜ!!

 楽しみだわ!




「……気を使わなくてよかったかもしれんのぉ」













「……なんかあっちが気になってきた」


「サレンさん?」


「……し、静かに! 邪魔になったらだめだからね」


「「はーい」」







――――――――――――――――――――――――――――


 殻を破り、繭を被り、蛹を破り、羽ばたいて、地に落ちる

 そしてまた芽吹く螺旋の輪よ。数奇な因果よ


                    ――転廻の理

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