七十一話 呪言は手札から発動し、捨てられた時にも効果が発動する
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書籍化に従い、土地(ランド)→色彩(カラー)に名称が変更されます
効果、能力は変わりませんが告知が遅れて申し訳ありません
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MeeKing、奥のテーブルエリア。
それは覆われた空間だった。
テロップさんの鞄から取り出されたのは風船のようなもの。
それが小さな掃除機みたいな機械で膨らんでいって、隔離された空間になった。
テーブルの上を、取り出された真っ白なシートが敷かれていく。
そこから同じように鞄から取り出されたのは使い込まれた革製の工具入れ、キラキラ光る粉の入った小瓶、見たこともない緑色に滑る鱗、色取り取りの金属の
並べられた品々の中で分厚い革で覆われたもの。その中から取り出された粘土のようなものがクルクルと手際よく爪先ぐらいの団子玉にして並べて、その横に木や金属、陶器? あとよくわからないもので出来たヘラが並べられていく。
「なんだろう、あれ?」
「これはつなぎデース」
いつの間にか上着を脱ぎ、分厚いエプロンと両手を覆う長手袋、そして頭を覆う青いバンダナをつけたテロップさんが教えてくれた。
「つなぎ?」
「はい、まず分断されてしまったカードを繋げなげればいけませーん。これはそのための接着剤です」
コネコネと最後に取り出した粘土に、アンプルから取り出した液体みたいなのを一滴だけ垂らす。
すると白かった粘土が一瞬で赤い色に染まった。
「これはアマゾンの奥地に住まう毒蛇から採取された毒です」
「毒!?」
「はい、こっちは雲より高い標高の山頂の砂、こちらは隕鉄から溶かした顔料、こちらのアンプルは三百年前の絵画から採取した絵の具の欠片、このつなぎは40日ほどかけて熟成させた固形スピリットと古代麦の水飴を混ぜて安定化させたものです。この材料の製造法が発見されるまでは優れたファイターの血液を煮詰める必要がありましたが、現代では必要ありませーん」
「え、え、え。なにそれ」
よどみなく言われた単語に、私は瞬きするしかなかった。
「そんなのがカードを直すのに必要なの?」
「ひつようかも」
私の疑問に頷いたのは、サレンだった。
「カードは一般配布してるものでも一度千切れたり、完全に折り目がついたら半ば死ぬ」
「死ぬ?」
「そう。コスト……オドがしっかり通らない。わかりやすくいうとボードが反応しなくなる。市販されてるものならまた買い直すとか、入手し直せばいいけど……」
「
「店長?」
「前にレガシーは伝説のカードだっていったよね?」
「うん。世界に数枚とか、一枚しかないのがレガシーだって」
「もっと深く言うとね。レガシーカードは発掘されるの」
「発掘……?」
「誰かが見つけたものだったり、隠された財宝にあったりとか、大昔の国に伝わっていた国宝だったりとかして、昔は力のある錬金術師とかが作ったものじゃないかって言われてたんだけど、1つ決定的な事件があったの」
「事件?」
「とある地層からレガシーカードが発見されたの。人類がいるはずもない古代の地層から」
「え…………ん?」
言われた言葉の意味がよく飲み込めなくて、少し考えて、そんでわかった。
「人間がいないって原始人とかそういうのより?」
「それよりずっと前。四億年以上前かな」
「よ、四億……? えーと確か学校で習った原始人って」
「何万年か前だったはず」
「16万年前だよ、サレンちゃん。高校生なんだからちゃんと憶えておこ?」
「勉強なんて憶えなくても大体カードで生きていけるし、必要ないし」
「こらっ」
ふてくされたように顔を背けるサレンさんに、苦笑するセト店長。
「話を戻すけどね。その見つかったレガシーは色彩……オドを生み出す
そう言葉を続けていって、セト店長は少しだけ天井を見上げて、息を吐き出すように。
「これを誰かが、人間が埋めたり隠したりなんて出来る? 出来るわけがない、だから」
「この世界は、カードによって生み出されたといっても過言ではありませーん!!」
「うわ、びっくりした!」
そう叫んだのは怪しいマスクの男だった。
違った。怪しいマスクを被ったテロップさんだった。
それもガスマスクのようなゴツくて、目の部分に何個も切り替えられるようなレンズが並んだものを被っている。
「最古たるレガシーカードは変容色彩……それはまさしく原因不明の環境変化、それによる大量絶滅が確認された時代! さらにアフリカで発見されたカード、今なる人類へと繋がるヘレネスの洞窟より見つけ出され、世界各地の人類へと連なる多地域起源説すらも正しくなるのでーす!」
「??? ヘレ?」
「現状人類は猿より進化したもの。しかし、その進化のきっかけとなったものとは! この高度な進化はなぁにゆえ起こったのか! 過酷な生物淘汰の果て? それとも環境への適応? 棒と縄による選択の繰り返し? ノンノンノン、それはあくまでも進化のルート、きっかけとはいえない。なぁぜ今、人類だけがカードを使えるのか! なぁぜカードの文面が、人間だけが読めるのか! そして、カードから見える他の世界に人間種が存在しているのか!! 定向進化、系統発生説、そんな都合のいいことがあるほど人類は特別か? 否! 逆説的に考えるべきです、どんな世界でも人間種がいるのではなく――人間種がいる世界のみ観測出来ているのだと!」
「???」
なにいってるかよくわかんない!
「これが意味することはつまり、今の我々の世界は彼らと同じよ「いいから修復しろ」あ、はい」
セト店長がキレちゃった!
今まで聞いたこともないぐらいドスの入った声に、すごすごとテロップさんが戻っていった。
「まあそういうわけで、レガシーは人類が創ったものじゃないんだ」
「な、なるほど」
「そしてね、今のカードはレガシーカードを模倣して作られたの」
「そうなの?」
「うん。素材とか、サイズとかね、色んな科学者、錬金術師、職人たちが、この力を引き出そう、少しでも手に入れようっていう模倣、研究して積み重ねていったものが今のLifeのカードの原型で、それが今も続いてる」
だから、同じようなサイズとかカードで統一されてるんだと店長は遠くを眺めながら言った。
「でも今のカードはあくまでも模倣。出来る限り近づけてはいるけれど素材とかはどうしても違う、特別なもの、古代からあるものとかじゃないと馴染まないこともあるから」
「だからあんな素材がいる……?」
「そういうこと。カドさん、本当に色々やってくれたんだな……直すのにどれだけお金と時間がかかったんだか」
ため息を吐き出すように言ったセト店長は嬉しさよりもなんていうか。
申し訳ないような顔をしていたのが不思議だった。
「二人ともそろそろ作業が始まる」
「う、うん」
「そうだね、見届けよう」
テロップさんが小さなノミとハンマーで慎重に透明なケースを壊して、中のカードをピンセットで取り出した。
そして、カードサイズの水晶で出来た台の上に慎重な手つきで乗せる。
それ以外の破片も同じようにピンセットで取り出して、一つ一つ並べていく。
時々用意していた綿棒や布とかで汚れを落としてから並べ直す、そんな繰り返し。
そして、おおよその形が出来上がったものをポラロイドカメラで撮影してた。
何枚目も、フラッシュを焚きながら色んな角度で撮ってる。
「あれって?」
「修復の完成図、どういう形だったのかを確認しながらするための撮影だね。どういう形だったのか記憶だけでやるのは怖いから」
なるほどなあ。
でもはぁはぁ言いながらいいねー素敵だねー、もっと足開いてーとかって言う必要あるんだろうか?
あるんだろうなぁ、きっとプロだし。
「ないからね??」
「セト、静かに。じゃまになる」
「これボクが悪いの??」
印刷された写真を手際よく、テロップさんがテーブルに並べた。
「では――修復を開始しますぞ」
形を整えたカードのパーツ、その1つをピンセットでつまみ上げて、ヘラでつなぎを付けて接着する。
それを複数のヘラで、それぞれ違うつなぎを少し、本当に少しだけ薄く剥ぎ取って欠片につけて貼り付ける。
言葉にすると簡単なんだけど、見ているこちらからするとそれがなんでもないことのように素早くやっている。
今までのゆっくりな速度とは全然違う速さ、それでいて音も立てない丁寧な動き。
そして繋げた箇所からはみ出たつなぎを、本当に薄く小さな白いノミで削っていく。
これを繰り返して、一切手に触れずに道具だけで作業していく。
そうやって全てを繋ぎ終えて、改めてテロップさんが掴んだのは何本ものペンと細い筆だった。
あのよくわからない素材類を小さなガラスの壺の中へそれぞれヤスリで削ったり、ナイフで欠片だけ落としたり、つまんでいれたりして、そこへ透明なアンプルから垂らした液体で溶かしていく。
「あれが顔料」
ボソリと小声でセト店長が教えてくれた。
そっか、あの素材が絵の色になるんだ。
そこから先の作業は、まるで魔法のようだった。
テロップさんがカードに筆を走らせていく。
絵が乱れていた箇所に小さくなぞるように筆を走らせたと思ったら、インク壺に付けたペンで小刻みに線をいれて、また筆を入れたり。
時々何もない空中でペン先をクルクルと回していて何の意味があるのかと思ったら、スピリットを集めてるんだとサレンさんが教えてくれたり。
クルクルと何度もゴーグルのレンズを変えて、横に、上から、観察しながら動く仕草はここまでのふざけた言動とは裏腹に真剣そのものだった。
「カードの修復、それもレガシーはね。普通直せないんだ」
「そうなんです?」
「うん。材料は調査すれば揃えられるかもしれない、お金もあれば繋いで直すまでなら出来るかもしれない。けどね、絵を……”器”を直すのには資格がいるんだ」
小さな声。
邪魔にならないように小さく押さえて、かすれたようになりながらも、店長は続けた。
「あの子の姿を見るのは――遠いんだって」
「遠い?」
「あのカードはね、遠い空からの授かりものなんだよ」
店長は上を見上げた。
見慣れただろう天井を、その先を見ていた。
「銀河乙女は、方舟教会でも強くて、創り出しても使い手がいなかった。宇宙の先になにかがあるって信じた天文学者たちが手に入れ、惑星の軌道を解き明かさんとしたものたちが見つけて、夢を招いたカード」
その両手は握り合わされて。
「だから、星を観るものにしか共鳴しない。どこかへと焦がれる人じゃないと選ばれない」
まるで。
「教会の修復者が何人もそれを直そうとして、けれどその絵を、直すべき手順を幻視する過程で狂いかけたんだって。直せないって、無理だって」
祈るようだった。
「だから、見捨てられた。使えないからって、ボクのように捨てられたんだ」
その手と声は震えていて。
「あの子は悪くないのに。ボクが弱いだけだったのに……」
強く強く握られる店長の手を、私は握りしめた。
「大丈夫だよ、セトさん。だいじょうぶ」
「あの子になんて詫びたら、いいんだろう……」
「大丈夫。必ず治るよ」
震えて、祈りながらすすり泣く店長の手を握りながら、私はただ励ますことしか出来なかった。
そうだったのに。
「できましたぞー!!!」
なんかテロップさんがガッツポーズ決めて立ち上がったんですけど!?
「できたー!?」
「出来ました!」
シャキーンっていいながら、マスクしたままのテロップさんが両手で持ち上げたのはあの裂けていたカード。
それが傷跡も一つもない綺麗でピカピカした姿になっていた。
「本当に治ったー!!」
あんだけ無理っぽいとか難しいって言われてたのに!?
「み、みせて! みせてください!」
「おっと、ヘイヘイおまちください、ミセス・セト。ちゃんと見せますから」
「ボクはまだ未婚です!!」
「おー、作業が終わったかー」
「おわったー?」
「おお、はやーい」
こちらの声が聞こえたのだろう。
店の奥にいっていたカドさんたちも戻ってきて……あれ?
「モブさんは?」
「あの店員なら片付け作業をしておる」
「?」
片付けってなんか作業があったのかな。
「それはそうと、セトよ。アルマーのカードはどうじゃ?」
「はい。テロップさん、見せてもらえますか?」
「どうぞ、ご確認を」
風船のようなスペースから出てきたテロップさんが、うやうやしい手つきでセト店長にカードを差し出す。
そのカードは汚れないためだろうか、白い布の上に乗せていた。
それをセト店長は震える手で掴み取って。
「アルマー……」
じっと見つめていた。
何度も何度も息を吸って、息を静かに吐いて、じっと見ていた。
やがて、上から見て、裏返しにしたり、横にしたり、あちこち見て。
「うん。大丈夫、直ってます。ボクが憶えているアルマーの通りだ」
「お、おお! やったな!」
「よかった」
「よかったぁ~」
「やったー?」
本当によかった。
カードが治ってよかった、セト店長のレガシー、ううん、相棒が直ってよかった。
≪人間でも直せるのね、すごいじゃん≫
「うん、そうだね」
アリーシャの嬉しそうな声に、私も頷く。
これで解決だ。
本当によかった。
「でも、これは使えません」
『えっ』
私たち全員が顔を向けた。
「ボクはこれを使う資格はない」
「ど、どういうことじゃ?」
「カドさん、色々手を尽くしてくれて申し訳ないんだけど、ボクはこれを使うわけにはいかないんです」
どういうこと?
「……この子は死んでる。それがわかってしまった」
そう告げるセト店長の手に持ったカードは、確かに直ってる。
けど、死んでるって。
「ボードで使えない?」
「さっきサレンさんが言ってた?」
確か折れたりしたり、千切れたりしたらもう使えないっていってた。
なら、修復は出来てなかった?
「いやいやいや、まってくださーい!」
そんな私たちの沈黙を引き裂いて、鞄の片付けをしていたテロップさんが叫んだ。
「死んでいるとはどういうことですかー?! レガシーはそう簡単に死にませーん! 千切れたり、焦げたり、落書きされたり、ちょっと化物に食われたり、盾に埋め込まれて銃弾を防ぐ防具扱いされたカードを今まで直したこともありますが、死んでませんでしたよー!?」
「カードにしていいことされてなくない?」
「扱いが乱暴なユーザーも世の中いるからね」
≪こわい≫
「ですが、どれもダメージはあれども時間をかければ復活しました! わたーしが出来うる限り、完全に修復したのです。それが死んでるとはありえなーい!」
つかづかと手袋を外しながら、テロップさんが強い口調でいった。
「レガシーは殺そうと思って殺すのは不可能です! ……いや、さすがにシュレッダーにされたり、灰になってたらもう無理だとは思いますが、うん」
それはそう。
「いや、たとえ灰になってもそれを材料に作り直したカードとして、新生させたケースもある」
えっ!?
「なんですとぉ!? 詳しく!」
「ええい、うっさいわ! あとにせい、あとに!」
マスクをしたまま迫ったテロップさんを、片手で押し返しつつカドさんが言った。
「確かに、そのアルマーからは息吹を感じられんが……見切りをつけるのは早すぎるじゃろ。単にスピリットが不足して、目覚めてないだけではないのか?」
フルフルと首を横に振るセト店長。
「無理だ」
「? いや、一応じゃな。適当にデッキにいれてボードで動かしてみよ。オドをいれて試すべきじゃ、片付けたばかりの小僧には悪いが……」
「無理だよ。動かない」
「セトよ。淡い希望を抱きたくない気持ちはわかるが、言わせてもらうぞ。まずはなんでもやってみよ、諦めるのはそれからで」
「ちがう、ちがうの……」
ちがう?
「このカードの中に”あの子”がいない」
「……精霊が?」
「だからもう……ボクはこのカードを使えない」
まるで血を吐くような言葉だった。
重い重い辛そうな声で。
――ジャコンという音がした。
「いやいやレディ、大丈夫ですよ」
音を立てたのはテロップさんだった。
カードを確認するためだろう、レンズをまた切り替えて。
「このレガシーは君でないと使えない。そうでしょう?」
そういって手を伸ばし、店長が持っていたカードを掴み取った。
「ん、んーいい仕事だ。傷跡の一つもない」
「あ、ちょっと!」
慌てて取り返そうとしたセト店長の前を、カドさんが出た。
「まて、セト」
「ユウキ、バニラ下がって」
「サレンさん?」
何故かサレンさんが手を伸ばして、私とバニラの前に立つ。
マリカちゃんに目を向けていて、彼女がなんか頷いて。
「どうしました、カド市長?」
「誰じゃ、お主」
「なにをい――」
轟音。
風が吹いた。
それが見えたのは音が聞こえたあと。
カド市長が手から出した扇子を、テロップさんが上げた膝で受け止めていた。
同時にサレンさんが出したワイヤーと後ろに回ったマリカちゃんが繰り出したキックを片手で受け止めていた。
その片手は関節を無視して、背中に回っていた。
「ちぃ!」
「切断力を耐える皮膚強度を出せば、掴み取るだけでワイヤーは無効化出来る」
グッと体を落として引っ張ろうとしたサレンさんの体が、回るテロップの動きで引っ張られ、舞った。
「ふせ」
「下がるよー!」
叫ぶより早く、マリカちゃんが私たちを掴んで後ろに飛んだ。
ガラス音が割れる音。
サレンさんが吹き飛んだ音の中で、カドさんとテロップさんが戦っていた。
「ハハハ! 何故バレましたかな?!」
目にも止まらない速度で出されてるキックを、多分受け流して、頭を砕きそうな前蹴りを――扇子で受けて、テーブルもろとも後ろから吹き飛びながらも着地。
「照文は態度以外はくそ真面目な男じゃ!!」
懐から取り出した札のようなものを、手首の返しで投げた。
「あやつが素手で他者のカードを触れるものか!!」
「Oh! HAHAHA」
それをテロップが避ける。
人の動きとは思えない動きで、いや、変な音を立てて避けた。
体を壊しながら動いてる?!
そして、それが立ちすくんでいたセト店長の側に着地して。
「セトよ、下がれ!! レディ、
「遅い」
テロップがカードを持った右手を掲げて、指を掻き鳴らすように曲げた。
「”
そして、闇が全てを飲み込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
夢見る心は天へと舞い上がり、過去を思う気持ちは地を這う
それはまさに夢のような形をしていた
――地を這えぬプシュケー
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