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資料室:「ウクライナ応援団」はいかにして崩壊したのか

秋に出す新刊『なぜ「まちがえた」と言えないのか』を今月入稿する予定で作業していたら、いまになって編集者から「この記事は必ずチェックしてください!」の通知が来てしまった。勘弁してくれとはこのことである。

そうなるのも、同書の副題が「専門家依存が壊すメディアの信頼」だからだが、まぁ、いいです。とにかく、その記事のダイジェストはこちら。

ROLESといえば、東大の池内恵教授が代表を務め、安全保障外交戦略などのプロジェクトに取り組むシンクタンクだ。2020年に設立され、2023年以降、外務省から計約8億円の補助金を獲得し、ロシア軍事専門家の小泉悠准教授や国際政治学者の東野篤子・筑波大教授ら著名研究者が参画してきた。
 (中 略)
しかし、今年4月に副代表の小泉氏が辞任し、学外から参画した東野氏ら複数の研究者も座長を外されるなど、異変が顕在化。

元記事は『週刊文春』2026年6月4日号
(強調を追加)

ぼくは関係者じゃないので、内部の情報を持っているわけではないが、メディアでよく見る人どうしが「ケンカしてた」みたいな、芸能人ゴシップのように不まじめに消費する人が大量に湧いているのは、感心しない。

なので、専門家批判のプロの視点から、この記事(誌面で全文を閲覧)を "まじめに" 読み解き、いま「なにを考えるべき」だと思うかについて、記録として残しておく。

まず押さえておくべきは、このROLESがある時期まで、ウクライナ戦争に関して参謀本部ならぬ「応援本部」に近い立ち位置で見られていたことだ。関係者による詩的な紹介を引いておこう。

この夏はROLESでROLE漬けになってくださいね!
私も、会場で皆様にお会いできるのを楽しみにしております。

東野篤子氏、2024.7.5

しかし研究業績に鑑みて、ROLESの主要メンバーだと思われる篠田英朗氏は、2024年4月の時点で、当時のメディアで主流だったウクライナ戦争の捉え方につき、明快な批判を表明している。

前年末の2023年12月の記事でも、軍事力による勝利は難しく有利な和平を追求すべきだと、強く示唆している。「ロシアに領土を一切譲らず、武力で取り戻すべき」といった論調とは異質である。

今回の『週刊文春』の報道によると、前後する2024年2月~8月の時期に、ROLESのシンポジウムへの篠田氏の登壇をめぐって、トラブルがあったらしい。その経緯は、非常に不自然である。

在外公館勤務を経てJICAに所属する、ウクライナ研究者T氏(記事では実名)が「講演料が高すぎる」と異を唱えたというのだが、3回登壇して計11万円というから、1回3万円台。社会通念上、とくにおかしな額ではない。

進行中の戦争は、極めてセンシティブな話題だ。政府系の機関に連なる人ほど、公式な立場と異なる主張の識者を "排除・抑圧した" と取られかねない言動には慎重であるべきだと、(これは記事の著者でなくぼくが)考える。

ところが、ことウクライナ戦争に関しては、そうした常識のタガが、長らく外れたままだった。

後の掲載だが、戦時下にあるウクライナの国営の情報宣伝機関に出演して、より著名な研究者が滔々とこう語る例を見れば、どんな雰囲気がこの分野の「専門家」を覆ってきたかがわかる。

ウクライナは日本にとって国防上の最大のパートナーになり得ると思います。……ウクライナの方々も、最近は、自分たちが一番実践〔実戦の誤か〕経験がある、自分たちから学んでください、と言うようになっています。
 (中 略)
パッと見て、ウクライナを応援・支援しているというメッセージを伝えることが大事だと思っています。……単に分析するだけでなく、ウクライナは支援されるべきであり、ロシアは撤退すべきだという価値判断まで示さなければならないと考えていますし、その象徴としてヴィシヴァンカを着続けています。

東野篤子氏、2026.2.17

あたりまえだが、政治を研究することと、「政治をする」のとは別のことである。究極的には区別できない、とか色んな議論はあるが、少なくとも区別する努力をしなければ、すべてが政治になって「学問の自由」はなくなる。

とりわけ戦争が絡む政治の場合は、いっそうの注意が必要だ。あいつの主張は「敵を有利に "し得る" 」から、あいつも敵国側だと見なそう、といった風潮を放置すれば、戦争を研究するどころか研究そのものが戦争になる。

ここまで考えて週刊誌の記事1本を読む人も、まぁそう多くはないだろう。だいたいの人は、

「学者って専門家ぶってTVでエラソーに説教するけど、裏では殴りあってドロドロの関係らしいよ()」

「しかも原因は補助金の分捕りあいだって。みっともないね(苦笑)」

くらいの感想で、流していく。いわゆる、ダメな反知性主義である。

これに対して、あるべき反知性主義――学者を名乗る人の権威に依存しておきながら、炎上したときだけ「実はショボいよね」と嗤うのではなく、ふだんからあらゆる権威を一度は疑い、自立して考えようとする態度がある。

ダメな反知性主義と戦うと称して、あるべき反知性主義まで見失った状態が、2020年代の日本を呑み込んだ「専門家依存」だった。24年の3月からずっとそう指摘してきたぼくが、その批判のプロであるゆえんである。

ROLESに関しても昨年夏の記事で、当時わかっていた問題点につき、主題的に書いていた。だからこそ、いまスキャンダリズムに基づく無責任な "面白がり" で、学者絡みのニュースが流布することには危惧の念を持つ。

いま問うべきことは、ほんとうはなにか。

詳しくは秋に出す『なぜ「まちがえた」と言えないのか』を待ってほしいが、端的な結論を、改めてひと言で伝えておこう。この問いに向きあうことなしに、学者への敬意や信頼が、社会に甦えることは二度とありえない。

学問の信用ほど築くのに時間がかかり、かつ一瞬で壊してしまえるものはない。

拙note、2025.7.30

参考記事:

(ヘッダーは、ROLESの公式サイトより)

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コメント

1
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rust_mons

学者が裏でドロドロならまだマシだったんですけどね ヤフコメ、MSN、したらばなどのコメントの主流は「池沼とかいうキチガイがここ二年でキチガイを加速して戻れなくなった」「(東野さんら)他のロールズ可哀想」でしたよ 無論何故ウクライナ応援団を離脱したかは内緒にしてキチガイにな…

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2025年5月に『江藤淳と加藤典洋』を出して、「戦後批評の正嫡」になりました。もとは日本史のお店で修業したので、歴史の素材を活かした味つけに定評があります。ここに載るのはささっと仕上げた軽めの料理ですが、楽しんでくだされば幸いです。(2023年11月開店)
資料室:「ウクライナ応援団」はいかにして崩壊したのか|與那覇潤の論説Bistro
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