【社説】女子種目の遺伝子検査導入は再考を 問われる五輪の包摂性

この社説のポイント

●IOCが五輪の女子種目を「生物学的な女性」に限定し、遺伝子検査の導入を決めた
●女性に性別変更した選手や性分化疾患の選手を締め出すことになり、差別的判断だ
●多様性を尊重し、包摂性を重んじる五輪の理念に立ち返り、再検討する必要がある

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 これは五輪における後退だろう。国際オリンピック委員会(IOC)は、2年後のロス五輪から、女子種目の出場資格を「生物学的な女性」に限定し、遺伝子検査を導入して確認することを決めた。女性に性別変更した選手や性分化疾患(DSD)の選手は実質的に締め出される。参加の権利を奪う深刻な差別行為だ。

 スポーツの「性の多様性」は、社会の変化から遅れてきた。女子選手に対して医師による目視や染色体の検査などが行われ、いずれも人権侵害の批判を受け、撤廃せざるを得なかった。ルールを変えて性別変更の選手を受け入れ、重量挙げニュージーランド選手が初めて五輪に出たのは5年前の東京大会だ。

 今回の方針変更は、「性自認」を柱として性の多様性に応え人権を尊重する社会の方向性に、逆行している。

 遺伝子検査にも、人権の観点から懸念がある。五輪には、未成年の選手も多く、プライバシーの保護や、検査と性自認が違ったときの精神的な負担など心配が多い。

 IOCは、検査は生涯1度で済み、対象もエリート選手に限るというが、資格の厳格化が草の根スポーツまで波及しないとはいいきれない。本来の目的は医療や研究に使われるものだ。それをスポーツの参加基準に使うのは、「女性アスリートだけにリスクを負わせる」として、人権団体や研究者から批判が強い。

 もちろん、一般論として男女の体格や筋力には違いがある。競技や種目における公平性は大切だ。競技によってはけがも心配だが、男女差の影響はそれぞれ異なる。出場資格を各競技団体が担ってきたのは、そうした理由もある。

 今回の変更は、それぞれが競技の平等を考え、特性を生かしながら競技を進化させる機会も奪いかねない。

検討は結論ありきではなかったか

 そもそもIOCの検討過程には疑念が残る。長年のテーマなのに、作業部会の検討メンバーや詳細は公表されなかった。結論ありきの印象は否めない。在任中にロス五輪を迎えるトランプ米大統領への忖度(そんたく)も感じる。昨年初めに出た「男性と女性の二つの性別のみを認め、変更はできない」という大統領令に、対峙(たいじ)する面倒を避けたのではないか、と勘ぐってしまう。

 五輪憲章はスポーツの実践を人権の一つととらえ、「いかなる種類の差別も受けることなく、スポーツをする機会を与えられなければならない」との理念を掲げる。物差しは「生物学的な女性」のほかにないのか。方針を一度撤回し、検討を尽くすことがIOCには求められている。

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