阿部慎之助監督「逮捕」報道、警視庁は広報なし…「捜査関係者によると」が生む危うさ
●「発表」と「非発表」では意味が大きく異なる
警察が正式に逮捕を発表する場合、被疑者の名前などを記載した「報道メモ」が記者クラブに配付される。これは情報公開請求の対象にもなる。 しかし、今回のように「発表なし」のケースでは、記者クラブに加盟しない記者や一般市民が逮捕の事実を把握することは格段に難しくなる。 また警察側も「正式発表していない」という立場を取れるため、報じられた内容に対する公式の責任もあいまいになる。 結果として、事実関係が十分に検証されないまま情報だけが流通し、誤報が訂正されにくくなるリスクもある。
●見えにくい「発表基準」
警視庁には「広報規程」があり、次のように定められている。 <職員は、官公庁の運営や活動状況を正しく国民に知らせることが報道機関の使命で あり、国民はそれを知る権利を持つていることを深く理解し、発表、連絡及び取材へ の協力に遺憾のないよう常に留意しなければならない。 報道発表に当たつては、なるべく発表資料を整備し、新聞記事締切時間などを考慮 の上、公平正確に行うこと> もっとも、どの事案を発表し、どの事案を発表しないのか、その線引きは外部からは見えにくい。 警視庁は、弁護士ドットコムニュースのこれまでの取材に対して、次のように説明している。 <報道発表については、関係者等のプライバシー等の権利・利益、公表することによって得られる公益、公表が捜査にあたえる影響等を個別具体の事案ごとに総合的に勘案して、発表の適否、その内容等を判断している> ただ、基準が不透明な以上、恣意的な運用や世論誘導、組織不祥事の隠蔽に利用される余地は完全には否定できない。
●捜査機関のリーク、静岡地裁「広報にも寄与し得る」
捜査機関による“リーク”をめぐっては司法判断も出ている。 静岡県に住む男性が、逮捕される時の様子を事前に情報を得ていた静岡放送(SBS)に撮影・報道されたとして、SBSや静岡県などを訴えた裁判で、静岡地裁は2025年10月、県警による逮捕情報の事前提供について次のように判断した。 「警察の活動を広く市民に知らせる広報にも寄与し得るという正当な目的の下に行われたとうかがわれることにも鑑みれば、これが不当なリーク、即ち公務員の秘密漏洩に当たるという原告の指摘も当たらないというべきである」 一方で、判決は「情報の取扱いを報道機関の健全な良識に委ねることも許されるべき」とも指摘した。 つまり、警察だけでなく、情報を受け取るメディア側にも強い自律が求められているといえよう。
●「捜査関係者によると」が生む危うさ
本来、警察が正式に発表すべき事案を、「捜査関係者」という匿名情報源によって流通させる慣行は、権力側の“意図”に報道が利用される隙を生む。 「捜査関係者によると」という一文を見たとき、その情報は誰の責任で発信され、誰が検証できるのか──。読者にもそこを問い続ける視点が求められている。
弁護士ドットコムニュース編集部