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あなたに/Novel by いみさん

あなたに

7,865 character(s)15 mins

これ(novel/1058006)の続きです。タグを頂いて嬉しかったので書きましたが、ぐだぐだ長い割に内容がない話になりなした。剣槍が結婚していたり凛ちゃんに旦那さんがいたりします。また前作読まないと話がわからないと思いますのでお気を付けください。

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 わたしの料理を楽しみに待つ姿が好きだった。皿を並べてやるとぱああっと輝く表情が好きだった。うまい、と言うしあわせそうな笑顔が好きだった。見てるこっちが嬉しくなるくらいの良い食べっぷりが好きだった。
 でもきっとわたしは、彼の全部が、好きなのだ。


 ぱちりと目が覚める。
 胡座をかいた足の上に広げられたレシピ本が視界に入り、寝起きの鈍い脳が午前中出掛けた際に買ったものだと、たっぷり時間をかけてから認識した。どうもうたた寝をしてしまったらしい。ベッドの縁に寄り掛かった態勢からゆっくりとした所作で立ち上がる。ぐうっと背伸び、深呼吸。仕事は別段忙しいわけじゃなかったが、自分の知らないうちに身体は疲れていたのかもしれない。昼寝なんていつ以来だろう。ぺたぺた、と足音が鳴る。レシピ本を本棚に戻して、少々痛む首をぐるりと回した。ごきごきと内側から骨の嫌な音がして、眉をしかめながら小さく息を吐く。珍しく昼寝なんかするからだ、ランサーの夢など見てしまったのは。
 ―――もう10年以上も前の話だというのに何を今さら。未練がましいにもほどがある。
 もやもやとした感情を持て余して、本棚から別のレシピ本を抜き取る。ぱらぱらと捲りながら、真上に掛けられた壁掛けの時計に目をやった。午後2時16分。中途半端な時刻だ。掃除も洗濯も午前中に済ませているし、やるべきことは特にない。
 ふむ。
 顎に手を添える。久し振りに菓子でも作ろうか。気も紛れるし。レシピを片付けて、冷蔵庫の中身を確認すると貰いものの白桃が視界に入る。旦那が出張先でたくさん貰ってきたから、という形で凛がお裾分けしてくれたものであるが独り身の自分への嫌がらせなのか何なのか明らかに食べきれない量を渡された。ちょうどいいし桃で色々作ろう。生クリームもバターも買ったしタルトとパンナコッタと。あとはそうだ、シャーベットにしよう。今のむし暑い時期にはぴったりだろう。

 メニューも決まり早速作業に取り掛かろうとエプロンを身に付ける。と、同時にテーブルに置き去りにしていたスマートフォンが高らかに鳴った。初期設定のままの着信音。画面を見ると、着信相手は凜であった。噂をすればなんとやら。
「――もしもし。どうかしたのかね、凜」
『ごきげんようアーチャー、お元気?』
「まずまずだね。君はどうかね?まあ1週間前は元気だったと思うが」
 明朗な声を聞きながら、冷蔵庫からバターを取り出した。戸棚からはごそごそとシュガーポットと小麦粉の袋を掴んで肘を使って戸を閉める。
『変わりないわよ。それで、今日の夜は暇かしら』
「特に予定はない」
『じゃあわたしの家に来なさい。また女子会するわよ。あ、旦那は飲みに行ってるし心配は無用だから』
「……。凛、前々から思っているのだが、何故当たり前のようにわたしを女子会メンバーに含めるんだ…?」
『だってアンタそこらの女よりずっと女らしいもの。それに間違っても手を出すこともないし』
 反論できないのが悔しいところである。
「……どうせ面倒で女々しい性格のゲイだよ」
『全くね。せめて女に生まれてたら誰か貰ってくれたと思うわ』
「ふ、言い返す言葉がない」
 凛が電話越しに溜め息をつくのを聞き取った。物言いこそきついが心配されているのだろう。四捨五入すれば40にもなるのに浮いた話のひとつもないのではそれも仕方がないことだが、この性癖が心配を増やす要員でもあった。お互い両親を幼い時に亡くしているからこそ、家族を持つことがどんなに幸せかを教えたいのだと凛は言うのだ。現状からして理解する日は遠そうだ。
『…まあいいわ。とりあえず8時にわたしの家ね』
「承知した。が、道連れにひとり呼んでもいいかね」 
『ディルムッドのこと?いいわよ、ていうかどうせセイバーが連れてくると思うし』
「一応こちらから連絡しておくとしよう。買い出しは必要か?」
『桜とライダーが言ってくれてるから平気よ』
「わかった。では桃のデザートはいるかな?君から貰った桃だが、傷む前に食べてしまいたいんだ」
『勿論持ってきなさい』
「了解。夜にまた」
『楽しみにしてるわ』
 通話を切ると直ぐにディルムッド宛のメールを作成する。拒否権はないことをしっかり明記して送信した。流し台の下の収納スペースからボウルと泡立て機を取り出した。そうしてシャツの袖をしっかり捲り、心置きなくお菓子作りに取り組むのだった。



「おれ女子じゃないんですけど!」
「それは私もだ」
「アーチャーさんは女子力高いじゃないですか」
「…ほう、タルトはいらないと」
「ごめんなさい食べたいです、食べさせてください」
 一転して平謝りのディルムッドに鼻を鳴らし、切り分けた桃のタルトを乗せる。さらにパックで別に用意した桃の果汁を混ぜたホイップクリームを掬ってたっぷりと乗せるとディルムッドはわあ、と目を輝かせた。このイケメンは無類の甘党であるが、三十路を目前にしてこの反応はいかがなものか。酒が入っているにしてもあまりに少女的だ。
「言っておくが、参加に何の反論もない時点で君も女子会に呼ばれるに値する人間だからな」
「それはセイバーが男前だからそういう扱いになっちゃうんです!…たぶん」
「夫としてその発言は悲しくないかね?」
「だって、あの王様みたいな気品溢れるオーラ出しながら『貴方は私が幸せにします』なんて言われてみてくださいよ!ときめくしかないでしょう!」
「そんなだから君はオトメンと呼ばれるんだ」
 心底不服そうな顔のオトメンことディルムッドだったが、タルトを渡すと花のような笑顔を見せるから尚更だ。フォークで一口分取ってぱくりと食べる。すぐさま表情がほっこりとし始めたので彼の舌にはかなったようだ。
「桃に染み込んだシロップと白ワインの風味が絶妙です…。この生クリームも桃の味と甘さがまた…なんでアーチャーさんのお菓子ってこんなに美味しいんだろう…」
「気に入ってくれたなら何より」
「気に入らない時なんてありませんよ!あ、またレシピ教えて頂いても?」
「ふ、君も大概料理好きだな」
「美味しいって食べてくれる人がいますからね」
 好きにもなりますよ、とはにかみながら言うディルムッドの言葉は少し懐かしい気持ちにさせた。脳裏にまたランサーの笑顔が浮かんだがすぐに追い出して、惚気は聞かんぞ、と言っておく。

「わたしは聞きたいですね」

 突然割って入った声に振り向いた。セイバーが空の皿を持って立っていたので、お代わりをしに来たのだなとわたしは判断する。
「アーチャー、今日のお菓子も実に美味でした。お代わりを頂いてもよろしいですか?」
「勿論、たくさん作ったからな」
「有り難うございます。パンナコッタはまた後で頂きますね」
「好きなときに食べるといいさ」
 セイバーは微笑みながら頷き、ディルムッドの隣に空いたスペースにその華奢な身体を収めた。それで、と切り出す。
「ディルムッドが口説いてくれると聞きまして」
「えっ」
 何やら惚気からステップアップした。いやでも惚気は本人に言えば口説いてることになるのか。何はともあれ当てられたくないしバカップルに巻き込まれたくもないので逃げるの一手だ。
「あ、ちょ、アーチャーさん!」
「さあ思う存分口説いてください!わたしも貴方への愛を高らかに叫ぼうと思いますので心配なく!」
「何の心配だ!ていうかそれは今やるべきことじゃないだろう!」
「恥ずかしいのですか?全く、貴方って人はいつまでも愛らしい…。ではわたしの胸へ飛び込んできなさい!」
「お前実は酔ってるな!?つまみ食べるペースで飲むなって言ったはずだぞ!」
 ぎゃあぎゃあと一気に騒がしくなった二人の元からグラスだけ持って退散して、1人静かにグラスを傾けているライダーの元に逃げ込んだ。ライダーはわたしに目配せして赤ワインのボトルを差し出してきた。有り難く頂戴して腰を下ろす。
「すみません。セイバーが酔っているとは気付かず」
「ああ、いや。彼女は顔に出ないタイプだから仕方ないさ。ところで凛と桜は何処へ?」
「大河を迎えに行きました」
「藤ねえも来るのか?酒が足りなくなりそうだな」
「ついでにコンビニで買っていくそうです。大河も日本酒を持参するらしいので大丈夫でしょう」
「荷物も重いだろうに。言ってくれたらわたしが行ったのだがな」
「わたしも申し出ましたが断られました。酔い醒ましもしたいから、と」
 これからが本番ですものね。ライダーはそう言って優雅な仕草でワインを口にする。藤ねえが現れた時点で誰かは潰されるのでわたしは苦笑いをこぼすしかない。傍らにきちんと並べられたワインボトルやら焼酎ボトルやらチューハイの空き缶やらを見る限り彼女もそこそこ飲んでいるはずなのだが、ライダーは相当なザルなので酔い醒ましは不要どころかまだまだいけるようだ。
「貴方は潰されないで下さいよ。大河を止める人がいませんから」
「君にも同じ言葉を返すよ」 
「ご心配なく。アルコールに強いのが自慢なもので」
 ライダーが得意気な笑みを見せたそのタイミングで、玄関の方から何やら賑やかな声が聞こえる。大虎のお出まし。酒宴はこれから。わたしは立ち上がって、三人を出迎えに玄関に向かった。


Comments

  • わんわんお
    July 26, 2024
  • にゃんこ
    May 31, 2023
  • September 25, 2022
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