「国家情報会議」創設法案が参院本会議で審議入りした。高市早苗首相は、外国情報機関による諸工作を防止するため、スパイ防止法制定に向けた検討を加速する考えを示している。
米国、英国、ドイツ、中国、ロシアなど、世界のほとんどの国には自国の安全保障に関わるスパイ行為を直接的に厳罰化する専門法がある。例えば米国の「スパイ活動法」などがそれに当たる。
しかし、日本にはスパイ防止法が想定するような国家の機密漏えいや、情報収集を取り締まる専門的な法律はない。先進国の中で日本がほぼ唯一の例外で、スパイ活動の取り締まりは次のような限定的な関連法で行われている。
まず、2014年12月に施行された特定秘密保護法だ。防衛や外交などの「特定秘密」の漏えいを防止・処罰する法律で主たる対象者は公務員だ。
次に、25年5月に施行された重要経済安保情報保護活用法だ。国が安全保障上の重要情報を指定し、政府の調査・承認を経て信頼性が確認された人(クリアランスホルダー)のみが、その情報にアクセスできる仕組みで、主たる対象者には民間人が多く含まれる。
さらに、外患誘致罪などの刑法や企業の営業秘密を対象とする不正競争防止法などがある。ただ、旅館の増改築のようにパッチワークのように対応してきたために使い勝手はよくなく、穴も多い。
筆者は、特定秘密保護法の制定に関与したが、民間人が居酒屋で話すだけで処罰されるというデマを流されて往生した。特定秘密保護法や重要経済安保情報保護活用法により一歩先進国に近づいたが、まだ不十分だ。
この弊害は少なくない。スパイ防止法がないために、日本はスパイ天国とも言われる。各種機密情報が抜かれるという本質的な問題だけでなく、先進国では、自国民が相手国のスパイ防止法で拘束された場合、既に自国のスパイ防止法で拘束している人との交換で、自国民を助ける方法がとられることが多い。
日本人が何人も隣国のスパイ防止法で拘束されているのに、その奪還にあたり日本は有力な手だてがないのが実情だ。これは国損だ。
(たかはし・よういち=嘉悦大教授)