アイヌ差別的展示めぐり市施設の利用制限議論へ 札幌市が専門委設置
アイヌ民族が先住民族であることを否定する内容のパネル展が、札幌市が管理する札幌駅前通地下歩行空間(チカホ)で開かれたことに対し、アイヌ民族らから批判が高まっている問題で、市の付属機関は26日、公共施設の利用制限のあり方を議論する第三者機関を発足させることを承認した。6月上旬にも初会合を開く。
札幌市は同様のパネル展の開催に備えるため、アイヌの差別に特化して議論を進める。市の付属機関「市アイヌ施策推進委員会(アイヌ委員会)」の枠組みを利用。26日、アイヌ委員会の専門部会という形で第三者機関の設置を決めた。
メンバーは憲法や法律を専門とする大学教授と弁護士計5人で構成。このうち1人はアイヌ委員会の委員長である尾崎一郎・北大大学院法学研究科教授を選んだ。
メンバーの承認をめぐっては、あらゆる差別を禁じた人種差別撤廃条約などの観点からも議論が必要だとし、国際法の専門家を入れるべきだとの声が上がった。
一方で公の施設を使用する判断基準を策定するには、高度な法的な技術論が必要だという意見があり、まずは法律の専門家で発足させることにした。
市は専門部会で論点整理や関係者のヒアリングなどをしたうえで、年度内のガイドラインの策定をめざす。ガイドラインには、どういう場合がアイヌ民族の差別に該当し公共施設の使用を制限できるか、客観的な基準を盛り込みたい考えだ。
パネル展は保守系団体の主催で昨年9月と今年3月、チカホで開かれた。昨年9月のパネル展では、「(アイヌ民族は)先住民族とは言えないのでは」といった差別的な内容を含む主張が展開された。
これに対して複数のアイヌ団体が、市が公共施設において差別的な展示を許したのは、「差別の容認、加担だ」などと批判を強めてきた。
川崎市は禁止条例、京都市はガイドライン
幅広い人に利用されるべき公共の施設における差別的言動を、自治体はどう食い止めていくべきか。近年、外国人などを対象にしたヘイトスピーチ(差別表現)の高まりで、ほかの自治体でも、苦慮している問題だ。
地方自治法は、自治体は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と定める。札幌市はこの規定や表現の自由などを根拠に、パネル展のチカホ利用を拒むことは難しいとの立場をとってきた。
だが、利用を制限しないままでは、公の場での差別的言動に苦しむ人が出てくることは事実だ。
在日コリアン集住地区がある川崎市では2019年に、全国で初めて罰則を盛り込んだヘイトスピーチ禁止条例を制定した。16年に国のヘイトスピーチ解消法ができたが、この地区を標的にしたヘイトスピーチがなくならないおそれがあったためだ。実効性を高めるために、50万円以下の罰金を導入した。条例施行以降、違反行為に該当するものはなく、罰金を科した例はないという。
ガイドラインを設ける自治体もある。
京都市が18年に策定したガイドラインでは、公共施設でのヘイトスピーチは「本市が事態を容認していると解されるおそれがある」として、「不当な差別的言動」の要件を満たせば、公共施設の使用制限を可能にしている。これまでに使用制限について第三者機関で審議したケースは1件あるが、使用制限にはいたらなかったという。
憲法学者「ガイドラインだけは安直だ」
この問題に詳しい北九州市立大の中村英樹教授(憲法学)は、「ヘイトスピーチや差別に対して公共施設の利用をどう制限するかは、各自治体においても正解が見いだされていない。個別的、具体的なケースに即してそれぞれ判断していくことが重要だ」と話す。
そのうえで、ガイドラインは各公共施設の設置管理法令に対して策定するため、ヘイトや差別の解消にあたって具体的な使用制限の可否基準を明確化するには適していないという。
中村教授は「問題が深刻化する自治体が緊急避難的にガイドラインを策定するのは仕方がないにしても、ガイドラインの策定だけで済ませるのは安直だ。先住民族であるアイヌ民族への差別解消にきちんと向き合うのなら、時間やコストをかけて条例を制定することが最善策だと考える。その議論の過程自体が、アイヌ問題に対する市民の認識を深めるきっかけにもなる」と指摘する。
ヘイトスピーチ禁止条例を定める主な自治体と施行時期
大阪市:2016年
東京都:18年(全面施行は19年)
大阪府:19年
川崎市:19年(全面施行は20年)
愛知県:22年
沖縄県:23年
*地方自治研究機構の調べ
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