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欠勤を理由とする懲戒処分の有効性(令和2年3月25日東京地裁)

概要

ジェネリック医薬品等の開発・製造を行う会社に勤務する研究職の従業員が、交通事故後の欠勤、休職、復職過程での会社対応等をめぐり、会社に対して損害賠償等を請求した事案。
原告は、交通事故による負傷や父親の介護等を理由に長期間欠勤し、その後、会社指定の医療機関の診断書を提出して復職を希望した。しかし会社は、軽作業可能との診断がある中で休職命令を出し、復職に際して2週間の試用期間を設定したうえ、業務指示書・報告書の提出を継続的に求めた。また、原告の欠勤対応を問題として始末書の提出を求め、職位を中級職2から中級職1へ降格する懲戒処分を行った。原告は、これらの一連の対応がハラスメントや退職強要に当たると主張し、慰謝料、未払時間外手当、付加金、降格による役職手当の減額分等を請求した。

結論

一部認容、一部棄却

要旨

裁判所は、会社が行った降格の懲戒処分は無効であると判断しました。会社は、原告が交通事故後に無連絡欠勤をし、その後も正式な休職・欠勤手続を取らずに欠勤を続けたとして、職位を中級職2から中級職1へ降格しました。しかし裁判所は、原告から会社関係者にSMSや電話による連絡が複数回されていたこと、9月中旬には欠勤に関する文書や診断書も提出されていたことを重視しました。確かに、原告の連絡や手続は十分とはいえず、所定の勤怠届も提出されていませんでしたが、懲戒事由となるほどの無連絡欠勤や指示違反があったとは認められないとしました。また、平成29年2月17日以降は会社が休職命令を出しており、その後を欠勤として懲戒理由にすることもできないと判断しました。そのため、降格処分は無効とされ、減額された役職手当の支払が認められました。

裁判所は、会社の休職命令の出し方にも違法性があると判断しました。原告が提出した会社指定医療機関の診断書には、「軽作業であれば就業可能」と記載されていました。裁判所は、復職の可否について、原則として従前業務を通常どおり行える状態かを基準としつつも、軽作業から短期間で通常業務に戻れる見込みがある場合や、現実的に配置可能な他業務がある場合には、会社側にも配慮義務があるとしました。原告の従前業務のうち、打錠作業、試作業務、分析業務などについては、左上下肢の神経症状が残る原告に担当させるのは困難と判断した会社の考えにも一定の合理性があるとされました。しかし、原告は欠勤前に文書チェック業務にも従事しており、そのような軽作業的な業務が存在していたにもかかわらず、会社はそれを担当させる可能性を十分に検討していませんでした。また、診断書提出後に原告本人の体調を確認せず、産業医への相談も行っていませんでした。そのため、会社は復職判断に必要な検討を尽くしておらず、従事可能業務への配慮が不十分であったとして、休職命令は違法とされました。

一方で、裁判所は、原告が主張したハラスメントのすべてを認めたわけではありません。休職通知書に解雇規定を記載したこと、復職面談で懲戒解雇の可能性に言及したこと、2週間の試用期間を設定したこと、図書整理作業や産業廃棄物処理業務を命じたこと、業務指示書・報告書の提出を継続的に求めたことなどについては、違法とはされませんでした。

特に、復職前の2週間の試用期間について、裁判所は、採用時の試用期間ではなく、復職可否を判断するための試し出勤に近いものと評価しました。長期欠勤後であり、主治医の診断書だけで直ちに復職可否を判断するのではなく、実際の勤務状況を確認しながら職場に慣らす必要性があったこと、期間が2週間と短く、賃金も支払われていたことなどから、違法とはされませんでした。

復職後に業務指示書を交付し、報告書の提出を求め続けた点についても、原告には勤務態度、報連相、上司・同僚との関係に問題があったと認定されており、業務指示を明確化する必要性があったとして、業務上の必要性・合理性が認められました。連日または隔日の頻度であっても、本件事情の下では人格権侵害やハラスメントには当たらないとされています。

もっとも、裁判所は、始末書の提出要求については違法と判断しました。会社が示した始末書案には、原告が無断欠勤をしたことを認め、就業規則上の処分を受けることに異議がない旨が記載されていました。裁判所は、この始末書は単なる反省文ではなく、懲戒処分に付随する意味を持つものと評価しました。そして、前提となる懲戒処分が無効である以上、その付随処分として始末書を求めたことも違法であるとしました。

損害については、裁判所は、①従事可能業務を十分検討しないまま休職命令を出したこと、②始末書を提出させたこと、③無効な懲戒処分を行ったことについて、会社に少なくとも過失があるとしました。原告には復職が遅れたことによる無収入期間が生じ、適応障害を発症した事情も考慮されましたが、原告の主張するハラスメントの多くは否定され、原告側にも欠勤手続や職場対応上の問題があったことから、慰謝料は30万円、弁護士費用相当額3万円、合計33万円にとどまりました。

未払時間外手当については、原告の請求は認められませんでした。タイムカードの打刻時刻だけでは、会社の指揮命令下で労働していたとはいえず、早出についても会社が始業前労働を命じた客観的証拠はありませんでした。終業後についても、会社には残業申請制度があり、原告もその制度を理解していたこと、申請をしていなかったこと、終業後に食事やネットサーフィンをしていたとして帰宅を促されていたことなどから、タイムカード上の退勤時刻まで労働していたとは認められないと判断されました。

欠勤手続に不備がある場合でも、電話、メール、SMS、診断書、文書報告などにより実質的な連絡がある場合には、直ちに無断欠勤と評価して懲戒処分をするのは危険です。正式様式が未提出であれば、提出を明確に指示し、期限を示し、不備がある場合の取扱いを事前に通知しておくべきです。

始末書を求める場合は、懲戒処分との関係に注意が必要です。本人に無断欠勤を認める、処分に異議がないといった内容を記載させると、後に処分の前提事実が争われた場合、始末書要求自体が違法と評価される可能性があります。反省文や経緯報告を求める場合でも、事実認定が固まる前に一方的な非違行為の承認を迫る文面は避けるべきです。

復職後の業務指示書や報告書は、必要性があれば有効ですが、対象者を限定して長期間行う場合には、その理由、頻度、内容、終了基準を説明できるようにしておくことが望ましいです。本件では適法とされましたが、態様によっては監視的・排除的な対応と評価されるおそれがあります。

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