指を舐めて審判に止められた高橋遥人 それでも5連勝した理由
指を舐めたら、球審にボールの交換を命じられーー。
6回、ダルベックへの投球前、高橋遥人の左手の指先が唇に触れた。テレビ解説の前阪神監督・岡田彰布は即座に言った。「審判が注意してたでしょ。あそこからでしょ。ちょっと意識したのかもね」と。その直後、ダルベックに適時打、岸田に4試合ぶりの四球。ともに今季ワーストとなる8安打4失点での降板と負の連鎖が降りかかった。
それでも、阪神は7-4で勝った。高橋遥人は自身5連勝だ。
長年、プロ野球の取材を続けてくると、本当に凄い投手の定義とは何だろうと考えることがある。一言では片付けられないのだが、その要素の一つとして挙げられることは「本来の姿ではない日」に真価が出るということ。つまり、調子が悪かろうが何とかするというファクターだ。
今季の高橋遥人の数字は、なかなかに人間の所業とは思えない。3月の開幕から4月末まで失点はわずか1点。防御率0.27。この期間までに3度の完封勝利は球団では1966年のバッキー以来60年ぶりということだった。5月6日にも3試合連続完封を達成し、防御率は0.21にまで下がった。54イニングを投げて長打すら許さず。プロ9年目にして初めて開幕ローテーションに入った男が、と思うとエゲツナイ。
その「完璧な高橋」が5月22日の東京ドームには巡って来なかった。当たり前だ。人間だもの。6回に今季初の長打を許し、審判に動きを制止されて集中力が乱れ、被安打は今季最多の8本。それでも5回まで二塁すら踏ませなかった事実が、この試合の本質を語っている。
試合後の高橋はいつも通り謙虚だった。バッテリーを組んだ当人だけではなく、バッテリーミーティングで話し合った全員への感謝を込めて発言する。もちろん当日、バッテリー組んだ坂本への信頼と感謝が言葉の端々から感じられる。初々しく見えてももう9年目。故障という苦労を乗り越え、30歳を超えた左腕はグラウンドで躍動するたびに残す結果を、自分だけのものとは思っていない。
開幕から無傷の5連勝。すべてビジターでの白星は先発投手として球団初の快挙だそうだ。逆にいえばホームの甲子園では一度も勝ち投手になっていないのだが、今季登板ゼロなのにどうしろというのか。これはむしろ「甲子園のマウンドで高橋が勝つ日」という楽しみを残してくれていると考えた方がいい。
チームは3連勝でヤクルトと0.5ゲーム差。週末は村上、才木と先発投手が続いていく。シーズン山場の天王山のようなローテに見えるが、季節まだまだ交流戦前。指を舐めた夜に5勝目を積み上げた男が、この夏は阪神をどんな方向へ導いてくれるのか。“傑物”のシーズン完走までの道程を見守りたい。