一枚岩ではなくなりつつあるAIPAC
米国政治におけるイスラエル支持の担い手が静かに変わりつつある。長年、対イスラエル政策を支えてきた中心的アクターは、親イスラエル系団体の政治ロビーであるAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)だった。
AIPACは冷戦期から超党派の議員と緊密な関係を築き、米国の対イスラエル政策の安定性を支える「政治的インフラ」として機能してきた。
しかし近年、その影響力は相対的に低下しつつある。AIPACの能力が落ちたのではなく、米国社会の価値観と政治構造が変化した結果、AIPACが占めていた位置が縮小しているのである。
第1に、若い世代がAIPAC型の「縦型ロビー政治」に距離を置くようになった。
ミレニアル世代やZ世代は、草の根運動、SNSを通じた市民参加、進歩派政治家への直接的支持といった「水平型の政治参加」を好むといわれる。
そのため、AIPACのような伝統的ロビー活動に心理的距離を感じやすい。これは敵意ではなく、政治参加のスタイルそのものが変化した結果であろう。
第2に、民主党内で進歩派が台頭し、議論が多様化した。
AOCやサンダース氏ら進歩派はイスラエル支持そのものを否定しないが、そのあり方について幅広い議論を求める。
かつて民主党内でAIPACの立場はほぼ自動的に尊重されていたが、現在は党内の意見が分散し、AIPACの影響力が相対的に低下している。
第3に、情報環境の変化である。
AIPACが最も強かった時代はテレビ・新聞・議会が情報空間の中心だった。しかし現在はSNSが主役であり、ガザやヨルダン川西岸地区の映像がリアルタイムで拡散される。
映像が世論を動かす時代において、ロビー活動よりも「市民の感情」が政治に影響を与える場面が増えている。これはAIPACの努力とは無関係に、情報環境そのものが変わった結果である。
第4に、共和党ではイスラエル支持の中心が親イスラエル系ロビーから「キリスト教福音派」へ移行している。
福音派は宗教的価値観から強いイスラエル支持を示し、選挙動員力も大きい。そのため、共和党のイスラエル政策はAIPACより福音派の影響を受ける場面が増えている。
総じて、AIPACは依然として米国で最も影響力のあるロビー団体の一つであり、その役割は今後も続く。しかし、世代交代、情報環境の変化、民主党内の多様化、共和党での福音派の台頭といった構造変化によって、AIPACが占めていた中心的な位置は相対的に変わりつつある。
これはAIPACへの批判ではなく、米国社会の価値観と政治構造が変化した結果としての相対的変化である。