【槍弓】前評判が良すぎた
アーチャーのアーチャーはアーチャーだったんですか?個人的には卵が先か鶏が先か系エミヤも好みです。◆◆◆注:原作にない英雄がちょっと出てきます
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その少年は―――あるいは子どもと言ってもいいほどに幼かった彼は、その少女めいた見た目に反して、めっぽう強かった。
それはもう、衛宮士郎など及ぶべくもないほど。
当然と言えば当然で、衛宮士郎は見習い以下のへっぽこ魔術使いであるのに比べて、彼は血統書付きの英霊様だ。そもそも、英霊に人間がかなうと考えることがおこがましい。
それでも、見た目はほんの幼い子供・・・小学校低学年ほどにしか見えない彼を戦わせて、自分は下がっているなど衛宮士郎にはできなくて、初めは喧嘩もした。それと同じ数だけ、仲直りをした。仲直りの時は必ず士郎が腕によりをかけてご飯を作って、彼がそれを食べる。小リスみたいに頬を膨らませ、目をきらきら輝かせて自分の料理を食べるさまは文句なしにかわいらしかった。
だけど彼は、紛れもなく英霊だった。
『これでお別れだ、シロー。・・・行け、セイバー。リンを頼む。』
『待てよ!アーチャーだけ置いてくなんてっ!!』
『リン、急げ。』
『・・・ありがとう、アーチャー。貴方を呼び出せて、よかったわ。』
『はは!おれも楽しかった。ありがとな!』
セイバーが、士郎の手を引く。そうなれば士郎も、状況を把握しないわけにはいかない。アーチャーの覚悟を犠牲にしないためには、今何をすべきか。
『コンラっ―――!!』
士郎はもう、振り返らなかった。彼らの後ろを守る戦士を信じて、森を駆けて行く――――。
***
花の女子高生と楽しげに話す不審人物を目にして、アーチャーは眉間に指を抑えて目を閉じた。
いったい何をしているのか、あの女たらしは。これだから古代の英霊は・・・とジェネレーションギャップと言うには開きすぎた時代の差を感じながら、アーチャーは買い物袋をかさりと鳴らしながら彼らの横を素通りしようとした。
いくら節操のないランサーでも、いつどうなるかわからぬサーヴァントの身で、学生に手を出すことはしまい。
それぐらいの分別はあるだろうという一種の信用がアーチャーをそうさせたのだが、横切る寸前にアーチャーの襟元を掴む手があった。
「っぐ」
「おい弓兵、挨拶も無しか?」
「・・・うら若き女子高生に鼻の下を伸ばす軟派男と、知り合いとは思われたくなかったのでね。」
「あ?ったく、相変わらずつまんねえ野郎だな。で、今日のメシ何?」
「・・・今日は英雄王が来ると言うので、中東風にしようかと思っている。」
買い物袋の中身を覗き込むようにするランサーを、花の女子高生三人組がぱちくりと見ている。
「中東風?お前、何でも作れんのな。」
「私くらい料理に熟練すれば、レシピさえあればある程度再現できるが。それとは別に、中東には長いこと・・・」
・・・紛争地域だった中東には、かなり長い事居たことがある。そうは言っても、ほとんどは戦場にいたのだが、家庭料理を食べる機会が皆無と言うわけではなかった。一度など、宮殿に潜入していた事さえある。
魔術で変容してしまった肌の色が目立たないのも、便利だった。乾いた風と土埃の匂いが、思いのほか肌に馴染んで・・・。
ハッと、飛びかけた追憶から意識を戻して、アーチャーはがさ、と音を立てて買い物袋を持ち直す。
最近の、ふと湧き出す生前の記憶が、アーチャーの感情に波風を立てていた。
「・・・とはいえ、私の居た地と英雄王の国ではあまりにかけ離れている。彼の故国の料理に似通っているかさえ分からないが。」
「ふーん。」
一般人に聞かれてもいいように、時代については口にしないように気を付ける。
見透すような赤い目で、ランサーがアーチャーを見て言る。彼の瞳は苦手だ。だってあんまり、『彼』に似ている・・・。
「あの・・・」
一瞬の沈黙を破ったのは、凛や桜と同じ制服を纏う女生徒だった。
「お二人は、一緒に住んでいるんですか?」
「「違う」」
そんなところばかり息ぴったりに、即答した二人だった。
***
最近の衛宮邸は、暗黙の了解的に食事当番が交代制になっている。
基本は衛宮士郎と桜が担当し、ときどき凜の中華が入るという感じなのだが、その三人全員が用事があったりする日・・・主に士郎のバイトと桜の部活が重なる日は、アーチャーが担当することもある。
今日は朝の内から、三人とも用事があることを明言していたために、アーチャーが作ることになった。
居合わせた英雄王が居丈高に
「では我が裁定してやろう。せいぜい気を張るが良い、贋作者。」
と言ってきたために、今夜のメニューは決まった。
(ふむ、では今夜は中東風にでもしてみるか。)
衛宮邸の高校生三人マスターは、三人とも一般的な水準で言えばかなりの料理上手だ。しかも三人が、和食・洋食・中華と得意分野もわかれている。そうなると自然に、アーチャーの作る料理はやたら気合の入った和食(奴に気を使う必要など1ミクロンほどもない)、そして普段食卓に出ない多国籍風の料理になる。この間はピロシキとペリメニ、ボルシチにビーフストロガノフでロシア風にまとめて藤村大河に絶賛された。
結局あれから連れ立って帰ってきたアーチャーとランサーは、衛宮邸に入ると対照的な動きを見せた。
方やすぐさま台所に入って先ほど買ってきた具材を冷蔵庫にしまい、すぐに夕飯の支度に入る。もう片方は、居間のテレビを無造作につけ、ごろりと横になりながら地元放送局ののんきなテレビ番組を見ている。
アーチャーはてきぱきと中東料理には欠かせないひよこ豆を水で戻し、サンブーサク(ひき肉とチーズを詰めたパイ)を仕込んで後は焼き上げるだけにしておき、デザートのバクラヴァに取り掛かる。
「む。」
ふと居間を見て、アーチャーは眉をしかめる。
「ランサー、もうすぐ夕飯だ。煎餅を食べるのは止めたまえ。」
「へーいへい。目ざとい事で。」
目ざといとはなんだ。こちらは腕によりをかけて夕食を作っているのだから、夕食前の間食くらい我慢するのは当然だろう。
こういうとき、思わず文句を言いたくなる。
(・・・話が違うんじゃないか、コンラ。)
あの忘れがたい戦いのなかでの、つかの間の休息。
修学旅行みたいな気分で、二人で枕を並べて眠った夜、彼は生前の話をしてくれた。
彼の母の凛とした美しさを、叔母にあたる師の厳しさと優しさを。そして共に過ごすことはできなかった父の、故郷に並び立つ者のない武勇と気高さを――――。
「あ、アーチャー、酒残ってるかー?」
「・・・自分で確かめて、足りないと思うなら買ってくるが良い。」
「おー。」
ずかずかとあまり広くはない台所に入ってきて、酒類の保存してある戸棚をヤンキー座りで覗き込む大英雄。
・・・思い出した。聡明で人徳がある、とかも言ってなかったか?
(・・・「オレ」の時のランサーはかっこよかったのに・・・)
本来敵である自分たちを庇ってくれた彼。その背中は確かに大英雄と呼ばれるにふさわしく、少年だった衛宮士郎は彼を憧憬と共に見送ったのに・・・。
「んー、足りねぇか?でも金ぴかが来るんだよなぁ。あいつどんな酒買って来ようが文句言って自分の蔵から出すからな。それを貰えりゃいいけどよ・・・。セイバーもあれで酒豪だしなぁ。」
その憧れた大英雄は、今はぶつぶつ言いながら酒の残量を確かめている。ヤンキー座りがこんなに似合う英霊も他に居まい。
思わずため息が出る。
「・・・はぁ。」
しかめ面をしながらも、酒席になるならばとツマミ用の料理を増やしている自分もむなしい。慣れた手つきでナスを切るアーチャーに、ランサーがふいに近づいた。
「おい、この間からなんだってンだ。」
「・・・何が何だというのだね?」
「分かってねえとは言わせねえぞ。人の顔見て仏頂面しては溜め息ついたり、これ見よがしに顔しかめたり。なんか言いたいことがあんなら言いやがれ。」
「・・・・。」
アーチャーは一瞬口を閉ざした。ランサーはそうは思わなかったようだが、アーチャーにはとんと自覚がなかったのだ。が、言われてみればすぐに原因は思いつく。「彼」のことを思い出したからだ。
この懐かしい冬木で過ごすうちに、アーチャーの記憶はじわじわと、潮が満ちる波打ち際のような緩やかさで戻ってきている。
「・・・そんなのは以前からだと思うがね。」
「嘘付け。今変な間があっただろう。理由を言えよ理由を。」
「理由などない。気に障ったのなら今後は気を付けよう。それでいいだろう、」
「よくねえ。」
ぐい、とランサーがアーチャーの襟元を掴んでまっすぐにこちらを睨む。
ああ、やっぱりその赤い瞳は彼に似て―――。
「ほらまただ。何で瞳を合わさない?」
「・・・日本人は元来視線を合わせて会話をする文化は持ち合わせていないのだよ。古くは貴人は御簾の後ろにいて顔さえ見せなかったほどで―――」
「テメェの薀蓄は今はどうでもいいんだよ。こっち見ろアーチャー。」
「・・・。」
アーチャー。
かつて自分が彼を呼ぶために用いた称号は、今や自分を指し示すものになっている。コンラはランサーによく似ていた。赤い瞳も、戦いを・・・あまりにも早く生涯を終えた生前には得られなかった、騎士として主人を守る戦いそのものを望んだその潔い心根も。
アーチャーはいっそ意地になってランサーを睨み返した。
「悪いが私には心覚えがない。夕飯づくりの邪魔をするなら、今日の夕食はランサーの妨害で作れなかったと申告するが、いいかね?」
「うっ・・・ち、今は引いてやる。」
低レベルな争いだが、夕飯がないとなれば腹ペコ王セイバー、なんだかんだアーチャーの夕食を楽しみにしているだろう英雄王、さらに冬木の虎まで敵に回すことになる。いくらランサーだってそこまで命知らずではない。
諦めたらしいランサーに満足して、アーチャーはファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)を仕上げるために気持ちを切り替えた。
***
「おらアーチャー、セイバーの酒が飲めないとは言わないよな?」
妙に煽ってくるランサーを苦々しく横目に見ながら、アーチャーは逃げるタイミングを逃したことを後悔した。
「さあアーチャー、どうぞ一献。あなたはいつも給仕にばかりまわりますから、こういう時くらいもてなされてください。」
もてなされると言っても、用意されたごちそうはすべてアーチャー製なわけだが・・・。セイバーがにっこり笑って差し出す杯を、受けないエミヤシロウがいるだろうか、いやいない。
「贋作者(フェイカー)、今宵の晩餐はまあ悪くなかった。褒美を取らせる故、杯を持て!」
エミヤシロウはそれほど酒に強くない。が、ここで断ればまた後が煩わしい。しかも、英雄王の蔵に収められた酒は文句なしに美味い。神酒ともいうべきその魅力に抗いきれず、アーチャーは無言で杯を差し出す。
「アーチャーさーん、飲んでますか―?ささ、私からもご一献!」
・・・姉代わりの彼女とこんなふうに酒を酌み交わせるなんて、思っていなかった。
そんな感傷に引きずられて、また杯を重ねる。
結果、アーチャーは褐色の肌をほの赤く染めて、くったりと潰れることになったのだった。
「は、だらしないな贋作者。」
「人種の違いと言うやつですかね。」
こちらも筋金入りの蟒蛇(うわばみ)のライダーが、冷静に評価する。既に居間は酒瓶が林のように林立しており、宴もたけなわを過ぎている。
「んじゃ、こいつ部屋に突っ込んでくるわ。」
「私が行きましょうか?今夜はあまり飲んでいないようですが、ランサー。」
「うんにゃ、セイバーに姫抱きされたって知ったらこいつ落ち込むだろうし。物珍しくてつい食べ過ぎて、腹いっぱいだわ。」
「む。確かに今夜の夕食はどれも絶品でした。」
こくりと重々しく頷くセイバーに苦笑しながら、ランサーはアーチャーを担いで部屋へと向かう。
十年以上部屋を無駄に遊ばせていた衛宮邸は、今はそれを取り戻すようにフル活用されており、普段滞在していないメンバーにまで部屋が用意されている。もともと自分の部屋があった衛宮士郎を除いて、基本的に男女の部屋は遠ざけられており、その都合でランサーとアーチャーの部屋は隣同士である。
「おーい、アーチャー?まだ寝るなよー。」
「ん・・・。」
「なぁおい、なんで最近変な態度取るんだよ?」
「へんな・・・?」
『教えてくれよ。な?』
暗示とも言えない、ただ単純に言葉に力を乗せて囁く。いくら抗魔力の低いアーチャーでも、酔っていなければ効かなかっただろう。
「だって・・・似てるから・・・」
「似てる?」
「アーチャーに・・・」
「は?」
「瞳が・・・」
ランサーは眉を上げる。アーチャーが「アーチャー」と呼ぶのなら、それは英雄王しか考えられない。確かにランサーとギルガメッシュの目は、神性を帯びた赤い目で似ていると言えなくはない。
「ギルガメッシュに似てるって?だがなぜ今になって態度が変わる?」
「ぎるがめっしゅ・・・?ちがう、オレにとっての・・・オレの時の、アーチャーは・・・」
「うん?」
酒精にとろりと揺らめく鋼の瞳を、ランサーが覗き込む。
横たえた時に乱れた前髪が額にかかって、妙に表情が幼い。
「・・・あの時は、かっこよかったのになぁ・・・」
「・・・何?」
よくわからない感想を呟いたきり、アーチャーはすーすーと寝息を立ててしまった。
「・・・つまり?」
ランサーは片膝を立てて座り、情報をまとめる。
アーチャーの「オレのときのアーチャー」は、ランサーに似た赤い瞳を持っていた。
最近の彼は、ランサーの瞳が「彼」を思い出させるために視線を合わせなかった。
しかも彼はかっこよかった、と?
「・・・んだそりゃ、気に入らねェ。」
その相手が自分の実の息子で、しかも「かっこよかった」のは平行世界の自分の分霊だとも知らず、ランサーは見も知らぬ相手に対抗心を燃やすのだった。