年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課税枠を埋めるゲーム”に夢中になる人々の盲点
◆「新型貧乏」と呼ぶべき状態が発生
かつて貧乏とは、収入や資産が少なく、経済的に苦しい状態を意味した。だが、税金や社会保険料など公的負担が増す一方で実質賃金が上昇しない今、ある程度の収入を得ているのに生活が苦しい「新型貧乏」と呼ぶべき状態が生まれている。
「SNSは新NISAで儲けたという情報で溢れているため、それらを見て焦りを感じて、急かされるように投資に走っている人もいます。その様子は、まるで1800万円の非課税枠をいかに早く埋めるかを競うゲームをプレイしているかのよう。制度をハックする快感を得ているのかもしれませんが、それでは資産の価値を維持するための試みという、本来の目的からは逸脱します。投資のために生活費が不足した結果、高利のリボ払いやキャッシングを利用するようになってはもったいないです」
◆不合理な行動を取ってしまう原因は?
なぜこのような不合理な行動を取ってしまうのか。心理研究に関するベストセラーを多く手がける明治大学教授の堀田秀吾氏が解説する。
「過剰な老後不安が原因です。ミネソタ大学の行動経済学者の研究では、お金の心配を想起させると、人は冷静な判断ができなくなり、IQが13ポイントも下がったという結果があります。これは徹夜明けの脳の状態と同様の水準でした。つまり、お金の不安が脳のリソースを占領し、認知能力が低下した結果、人は通常では考えられない不合理な行動を取るのです」
NISA貧乏は、老後不安に焦るなかで目先の利益や快楽を追求した結果、新型貧乏に陥るパターンと言える。
◆新型貧乏に共通する3つの危険な心理
新型貧乏には、一定水準の収入がありながら多すぎる支出が収支バランスを崩しているという共通点がある。新型貧乏になる法則を、堀田氏はこう読み解く。
「人間には、①『ヘドニック・アダプテーション(快楽順応)』という心理的傾向があります。これは例えば、給料が上がって喜んだのに少したつとそれが当たり前に感じるような状態です。だから収入が増えると、ライフスタイルのインフレを引き起こす。フードデリバリーやタクシーを頻繁に使い、サブスクの利用が増え、趣味や投資に多額のカネを費やすようになる。
しかし、一度上がった生活水準を下げるのは難しい。これは行動経済学の②『損失回避』という心理で、人間は失うことや、やめることを極端に嫌うからです。さらに、遠い将来の大きな利益よりも目の前の小さな利益(快楽)を優先してしまう③『現在バイアス』が働くので、支出を削ることも難しい。これら①~③の要素が個人の性格や特性と絡み合うことで、新型貧乏になる可能性が生まれるのです」
これらの心理状態が重なり家計の収支バランスが崩れると、一気に新型貧乏に陥る危険性が高まる。特に影響が大きいのが、家計に占める割合が高い住居費だ。首都圏の新築マンション価格は4年連続で過去最高を更新し、東京都の家賃が3年で15%も上昇している現在、生活苦の大きな要因になっている。
「『同僚が買ったから』と住宅の購入に踏み切る人は今も昔も多いですが、同じ年収や年次だから同じ経済状態とは限りません。若い頃から貯蓄していたり、親が裕福で援助してくれる人もいる。年収は当てになるパラメーターではなく、買ったときはよくても後々ローンの支払いに苦しむ人もいます。一方、賃貸住宅に住む人なら家賃が安い郊外に引っ越す手もありますが、忙しいのに通勤時間が長くなるといったバランスで選びづらい人もいます」(風呂内氏)