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【EX槍弓】それは、確かな【無配SS】/Novel by なち

【EX槍弓】それは、確かな【無配SS】

3,781 character(s)7 mins

先日のシティで配布させていただいたミニSSです。
電脳兄貴×無銘さん

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 アレは自分が知っているアーチャーと同じ容姿をしているが、全く同じ存在ではない。
 それを言ったら自身も、ムーンセルが記憶する〝クー・フーリン〟という記憶、つまりは人々の伝承から霊子によって作り上げられたいわば分霊、あの第五次聖杯戦争に現界したランサーとは同じ存在ではあるが、厳密に言えば別人である。ただムーンセル・オートマンという全てを〝観察〟し〝記録〟する装置がその英霊の記憶までも記録しこの身体を編み上げる時に付与したせいか、冬木での戦いやら、その後の奇妙な日々、そしていくつかの並行世界での記憶すらこの槍兵は持っていた。
 もちろんそんな事を自身のマスター――冬木の聖杯戦争の時には敵マスターとして接し、奇妙な関係にもなった彼女に良く似た少女――に告げる気はなかったし、伝承通りの性格付けをされたランサーは戦いにこそ意義を見い出し、己が槍を少女の為に存分に振るえる今回の茶番はそれなりに気に入っていた。
 けれども。
 外見や声が同じであるからこそ、その微妙な違いが気になり、つい目で追ってしまう。あんな風に笑う男だったろうか。皮肉めいた口ぶりは変わらなかったが、その鋼色の瞳の奥に在った醒めた、全てを諦めたような、あるいは全てを切り捨てるような――そしてその感情の向ける先は己自身である、とでもいうようなある意味自虐的な――いろ、というものがあの男からは感じられなかった。
 並行世界で出会った〝彼〟らも全て、多少の違いはあれども冬木のアーチャーと同じであった。けれども。
「――まあ、アイツが楽ならそれはそれでいいけどよ」
 小さく笑う。
 己を殺さずにはいられないほどのそれ。
 それが彼には無い、というのなら大変喜ばしい事ではある。ただ、ほんの少し。
 〝ランサー〟が惹かれた魂の色が違う、というのが惜しい、と――そう。
 自身でも大変驚いた事に。
 あの冬木の聖杯戦争の後や、並行世界でのいくつかの時、ランサーはアーチャーと恋仲になった。中には身体だけの関係だったり、逆にプラトニックだったり、身も心も愛し合ったり、殺し合いの中でお互い惹かれあっていたり、と、様々であったが、〝ランサー〟は確かに〝アーチャー〟に惹かれ、愛し、その腕で抱きしめたいと望んだ。
 その感情すらもムーンセル・オートマンは再現してくれた。正しくは、全てのランサーの行動した記録を、一気に。ランサーの中にはアーチャーを独占し、自分のものにするために世界すら敵に回しても良いとまで思い詰めた存在があった。
 もちろん、アーチャーだけでなく、それまでに愛した女性へのそれらも記録されている。けれども実際に目の前にいるのといないのとでは、夢の中での出来事と、現実の出来事くらいの差はある。膨大な量の感情や記憶は、ある意味毒のようだ。そっと整理し、思い出さないよう引き出しにしまっておくしかない。
 もちろん、感情を記録と言っても、本当にそう感じたのか、どうだったのか、〝心〟そのものを記録は出来てはいない。だからこそムーンセルは人間をこの地に呼んで観測したがったのだろうし、霊子での再現は無理だ。けれども、どういう言動をしたという事が記録されていれば、自ずとそれがどういった感情から来たのかわかるのが人間であり、ましてや自分の事である。
 今こうしてアーチャーをそっと見詰めている行動も、彼に興味があるからだ。
 違う、とわかっていても。その声を、容姿を、好ましいと感じる心を止めることは出来ない。
 手を伸ばしてもいいのだろうか。
 彼を抱きしめてもいいのだろうか。

(何を馬鹿な事を)
 自分で一番最初に思った事ではないか。
 彼は、あのアーチャーは、己の愛した〝アーチャー〟では無い、と。
 けれど。
 けれども――。

「――君は、遠坂凛のサーヴァントの」
 深夜。
 どこまでも人を摸したマスター達は自室で眠りについていた。どうせ偽りの世界なのだから、疲れず、眠りも食事も必要としない身体でも良いとは考えなかったようで、あくまでも〝心〟を知るために現実の世界と殆ど同じ生活を送るようになっている。
 次の戦いまでのモラトリアム。
 僅かな猶予を己の為に使う時間がほんの少しだけ在っても良いだろうと、この弓兵も考えたのだろうか。バーチャルとは言え美しい夜空を見上げて物思いにふける横顔に見とれ、ついその姿を現してしまった。

「ランサーだ」
 僅かに掠れた甘い声音が、静かに空気を揺らしてアーチャーに届く。
「……ッ」
 クラスすら伏せるのが通常のサーヴァントだ。けれどもこの男は、問えば真名まで明かしそうだ。
 いや、そうではない。
 自分はこの男を知っている。
 だから今更正体を隠しても意味が無いのだ。
 そうして己が知っている、という事を、この美しいサーヴァントも承知している。
「アーチャー」
 そっと近づいて来る。月の光を孕んだ絹糸の様な青い髪。透き通る肌。きらめく真紅の瞳。
 その姿に思わず見とれている内に、驚くほど近くに彼は来ていた。
「ランサー?」
 す、とその長い指が伸ばされ、そっと頬を撫でる。
 かさついた、指先だった。
 その美しい姿には似合わない、固く、荒れた。
 神に寵愛され爪先から頭のてっぺんまで完璧に美しく作られた彼が、自らの意思で武器を手にし、鍛錬し、何度も何度も皮が剥け――血を流して手に入れた、固い指先。するり、と頬を辿り、首筋をなぞる指先は、この身に馴染んだそれだった。
(いや、違う――)
 何をする、と咎める声が出ないのが、自分でも不思議だった。
 つきん、と胸が痛む。
 その、痛みは。
 ――現実に、在った事、だろうか。それとも、彼を構成する〝誰か〟の記憶だろうか。
 頭では離れろ、その男に近づくな――彼はいつか殺し合いをする敵である、と、そう――思っているのに、心が、身体が、言う事をきかない。
 この記憶は誰のものだ。
 この感情は誰のものだ。
 それまで忘れていた――いや、意識すらしていなかったものが、ぶわりと沸き上がり、溢れ出る。けれどもそれは。確かに己の内に在ったもので。
 知っている。
 自分は、知っている。
 この力強い腕がどれほど温かいか。心地良いか。
 けれども。
「私は、〝君のアーチャー〟では無い……」
 かろうじて、そう言葉に出来たのは、己が矜持か。
「知ってる」
 そうして俺も、お前のランサーではない、と。
 低く甘い声が耳朶を擽る。
「では、意味が――」
 無い、と続けようとした言葉は、その真紅の瞳に見詰められる事で口の中で消える。
 偽りの身体。偽りの世界。偽りの――
 その中でただひとつ信じられるとしたら、己のこの、胸の高鳴りではないか。
「お前を抱きたい」
 余りにも直截な言葉に、く、と息を飲む。
 霊子で編まれたこの身体でセックスして、それが一体何になるのか。幻でしか無いというのに、いったいそれに意味があるのか。
 けれども、きっと。
 全てを承知して、戦う事、こうして息をする事すら、儚い、マスター達が見る夢であると解っていて、それでも。
 ――それ、でも。
 いいか、とそっと問われて。
 アーチャーは静かに、瞳を閉じた。


「……はっ」
 固い指先が触れる場所全てが。まるで、甘い毒で犯されているかのようだった。己の意思など関係無く震える身体を抱きしめられ、甘く、優しく、翻弄される。
 その猛々しい荒ぶる獣のような瞳のサーヴァントは、己の激情を抑え、まるで宝物に触れるかのように優しく、そっと、アーチャーに触れた。
 決して余裕があった訳ではないと、何度も息を飲み、己の激情を抑える姿からも知れる。まるで砂漠でやっと水にありついた旅人が一杯の水をそっと口に含んで味わうかのように。己が欲で傷付けないように、怖がらせないように、ほんの少しでも、嫌な記憶にならぬように。
 愛されている、と。
 大切に想われているのだ、と。
 ちゃんと伝わるように。
 それでも受け入れるべき場所では無いところを曝かれた時には、快感よりも痛みの方が勝った。しかし、躊躇するランサーに挿れろとねだったのはアーチャーの方だった。
 身体の痛みなど、心の充溢に比べればどうという事も無い。
「何度もすれば――そのうち、慣れる」
 以前もそうだったろうと潤んだ瞳で請われて、引けるほど余裕がある筈も無く。次があるのか等解らぬのにそう言うアーチャーが愛おしくて、可愛くて。

 強く、強く抱きしめられた腕は――記憶の通り、とても、暖かかった。


 電子の海を、漂う。
 それは、小さな、小さな心。
 人々の願い。
 祈り。

 そうして。
 かつて――正義の味方として存在した、ある男の。


                          20150125 moonbath

Comments

  • 月城 紗弥
    October 19, 2023
  • そー
    December 7, 2017
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