神も時には嫉妬するのデス!

「ど、どど、どうしたんだよ! 何かあったのか!?」

「冬花ァ! なんぞあったか!?」


 背中に赤い雛鳥を乗せた子牛――もとい、祝ちゃんオンザ白ちゃんが、ドドドと土煙を巻き上げながら、鋭いコーナリングを決めて猛スピードでやって来てくれた。


 そういう感じで来るんだ……。


 二人ともぜぇぜぇと息を荒げている(なぜか背中に乗っていた祝ちゃんまでも)。


「ご、ごめんね。ちょっと祝ちゃんに火の調整をお願いしたかっただけで……」


 二人は、「驚かせるなよ~」と、その場で尻餅をついていた。


「はは、ごめんね」


 いらぬ心配をさせてしまったが、良いものを見ることができた。仲よくやっているようで何よりだ。


「竈の火なんだけど、できる?」

「おう、任せろ」

「ふむ、ワシも見守っててやろう」


 私が厨房の裏口を開けてやると、トットコトと祝ちゃんと白ちゃんは厨房へと入っていった。







「すごいです、冬花様! 掛口に平鍋を置いたままでも、玉葱も大蒜も焦げませんよ!」

「フハハハハ、当然だぞ! オレの力があれば、この程度ちょちょいのちょいだぜ」


 祝ちゃんは、竈そばの地面でふんっと胸を反らしていた。

 竈は焚口で薪を燃やし、その上の掛口に鍋を置いて使用するのだが、火を強くするのは比較的容易なのに対し、弱くするのは苦手なのだ。焚口の様子を見ながら薪を減らしたりしなければならないのだが、その際うっかり鍋の中を焦がしてしまうこともある。


 だから、弱火にしたい時は、掛口から鍋を浮かせて調理するのだが、正直鍋が鉄鍋のせいで、重くて腕がしんどい。


「あ~本っ当、祝ちゃんが来てくれてよかった。火加減が簡単にできれば調理が楽になるし、作れる料理も増えるもん」


 厨房に大蒜の食欲をそそるスパイシーな香りと、玉葱の甘い香りがふわりと広がる。この二つの香りは何度嗅いでも飽きない。


「ここにトマトとハーブと塩胡椒も入れて、あとは煮込むだけ。祝ちゃん、火力ちょっとだけ強めて。中火ね」

「任せろ」


 祝ちゃんが焚口を向いて羽を上げると、あら不思議。ボッと火が大きくなる。

 うーん、神様ってすごい(便利)。

 さて、湯むきしたトマトは潰さずとも煮込んでいけば勝手に崩れていくから、十分くらいこのまま放置だ。


 そこで、チョイチョイと袖を引っ張られた。

 誰だと目を向ければ、調理台に上に乗った冬兎だ。


「トート、ハ? 楽ナリュ?」

「――――ッッッッ!?」


 ヒュッと喉が引きつった。

 コテンと首を傾げて見上げてくる冬兎。その顔はどこか不安、いや不満そうだ。


「……ッさ、菜明……っ」

「はい冬花様、お水です!」


 胸を押さえて呻き声を漏らす私に、菜明がすかさず水を渡す。私は受け取った水を、ゴッゴッゴッと一気に飲み干し呼吸を整えた。


「――っふう、危うく可愛さによる呼吸困難で死ぬところだった」


 これはもしや、祝ちゃんに対する嫉妬なのか? 都合良く嫉妬していると受け取ってもいい? うん、受け取ろう。


「もっちろんだよ~冬兎~! 冬兎がいてくれてとっても嬉しいし、料理もすっごく楽になってるし、美味しいものがたくさん作れて感謝だらけだよぉ~! ずっと傍にいて!」


 私は冬兎を掬い上げ、その小さな身体に目一杯愛情を伝えるために、めちゃくちゃ頬ずりをした。


「ヘヘッ、トーカ……」


 目を線にして、照れたように垂らした耳を手で撫でながら笑う冬兎さん。


「菜明、水」

「ご用意できております」


 危ない危ない。可愛さで塵と消えるかと思った。


 地面から注がれる、紅白饅頭のドン引きした視線には気付かないふりをした。いや、これは無理だから。人間でこの可愛さに抗えるものはいないから。あの鬼の長官ですら思わず「かわっ……」と言ってしまうレベルだから。


 さて、気を取り直して料理の続きだ。


「それじゃトマトソースはこれでいいとして、次はクリームソース作りだね」


 何事もなかったように、私は空いているもうひと口に鍋を置く。今度は丸底の中華鍋だ。


「まずはバターを投入! ……って本当はしたいんだけど無いから、いつもの油を使いまーす」


 私は中華鍋にトポポと油を入れていく。


「はい、じゃあ祝ちゃん、こっちの火加減もよろしく。弱火ね」

「ったく、神使いの荒い巫女だぜ」


 ヤレヤレと言いながらも、祝ちゃんは短い足でトテトテ隣の焚口までやって来ると、「ほらよっ」とまた羽を上げて火を点けてくれた。便利~、最高。


 油が温まったら、ふるいながら小麦粉を少量ずつ、ダマにならないように入れては混ぜていく。火が強いと、小麦粉がすぐに焦げてホワイトじゃなくてブラウンソースになっちゃうから、火加減はとっても重要。


 すると、足元にいた白ちゃんから「冬花」と呼ばれる。


「どうしたの、白ちゃん」

「先ほど言っていた『ばたー』とはなんだ?」


 あ、そっか。こっちではバターじゃなくて別の単語で呼ばれてるんだ。チーズの時もそうだったが、私の言葉が自動翻訳されるのって、お互いの共通認識がある時だけみたい。会話は難なくてきるけど、固有名詞になると、トマトみたいにこうやってちょっと引っ掛かる。



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