生地をこねる時って楽しいよね!


「ふふ、楽しみにしててね」

「どんな料理かわからないけど、とりあえず、オレの歓迎会ってんなら、美味いもの食わしてくれ!」


 多分、人間姿では胸を張っているのだろう。もっふんと丸っこいお腹を突き出してきた(といっても、全身丸いから突き出てもほぼ変わりないけど)。


「そういうところ白ちゃんそっくりだね」


 丸いお腹を指でつつきながら言う。

 祝ちゃんは、「あうっ、あうっ」と転がりそうになるのを懸命に踏ん張りながら、「お、親父殿にか?」と、嬉しそうに笑っていた。


「さて、私も広間に戻ろうかな――っと、そうだ。祝ちゃんにひとつお願いがあった」


 私は懐から一枚の紙を取り出し、祝ちゃんの可愛らしい唇に差し込んだ。「んむっ」と声が上がる。


「それ、冬長官に届けてほしいんだ。内侍省だけど、場所はもうわかるよね?」

「んむむう」


 うん。なんて言ってるかわかんない。

 けど、祝ちゃんは竈からぴょんと飛び降りると、翼をパタパタ羽ばたかせて飛んでいった。きっと、「了解」とか言っていたのだろう。


 祝ちゃんは鳥姿という利点を活かして、白瑞宮に来てからは暇さえあれば後宮内を飛び回って散策していた。内侍省の場所も知っているようだ。


「……どうなってるんだろう、あの飛行原理……」


 身体の大きさに比べて小さすぎる翼を羽ばたかせ飛んでいく祝ちゃんを、私は地上から見送った。




 

        ◆




 昼食を終え、腹ごしらえも済んだことだし、私と菜明は厨房に入った。


「材料はいつものように食膳処からもらってきましたが、ぴざというのは、マントウの材料とほとんど同じなんですね」

「そうそう。マントウは歯ごたえからして、多分薄力粉を使ってると思うけど、ピザはね、もっちりパリッとさせたいから強力粉を使うんだ」


 今朝、菜明に頼んで用意してもらった材料を、ずらりと調理台に並べる。

 強力粉、塩、砂糖、油、そして――。


「発酵のタネ! これこれ!」

「冬花様の国ではそのように言うのですね。我が国では『ラオメン』と言うんですよ」

「老麺かぁ。なんかお洒落」


 マントウがあるし、絶対発酵方法はあると思ってた。

 ドライイーストなんてないし、どうやってマントウを作っているのか分からなかったけど、発酵のタネ――老麺を混ぜた生地を少し残して、次回のタネとして残すという方法で作っていたみたい。


 発酵させる方法は、他にも色々ある。

 米のとぎ汁を利用したり、果物や酒粕を使ったりしても天然酵母は作れる。ただ、この発酵のタネも含めて、総じて現代の叡智であるドライイーストの発酵力よりも弱いから、発酵時間は通常よりも長めに取らなければならない。


「ああ~会いたかったよ、老麺さん……っ!」


 私は、布巾が被さった老麺入りの器に頬ずりをする。


「冬花様にそれほど喜んでもらえて嬉しいです」

「ありがとう、菜明。何度も頼み込みに行ってくれて大変だったよね」

「冬花様のためですから。全然大変ではありませんでしたよ」


 なんて、菜明は笑ってくれてるけど、絶対に大変だったはずだ。

 実は、以前から発酵のタネがあれば分けてくれないかと、食膳処に頼んでいた。しかし、毎度断られていたのだ。


「ただし、今回やっと分けていただいたんですが、条件がありまして……」

「『一度ですべて使い切ってくれ』だっけ。まあ、それは仕方ないよね。自分達が好意で分けたもので、もし私が死んだりしたら堪ったもんじゃないしね」


 こういう手作りの発酵物には、常に危険が付き纏う。

 老麺は注ぎ足していけば、半永久的に使えるのだが、保存方法や発酵の維持が難しく、慣れた者でないと異変には気づけない。簡単に腐ったりカビたりする。


 そんな老麺で作られた料理を食べてしまうと、食中毒になったり、最悪、この世界の医術では対応できず死ぬことになる。


 実は、タネさえもらえれば、注ぎ足しでこれからずっと白瑞宮でパンが作れるな~とか考えてたんだけど、お世話になってる食膳処の人達に迷惑は掛けたくないし、諦めるとしよう。


「だけど、今日のピザを作るには充分! それじゃあ、作っていこう!」

「かしこまりました!」


 まず、鉢にぬるま湯と老麺を入れて、しっかりと混ぜる。


「ふわぁ、発酵って言うから酸っぱい匂いかと思ってたんだけど、ふんわり甘くて良い香り」


 ぬるま湯に溶けたことで、鉢から仄かに甘い香りが立ち上る。小麦粉の甘さだろう。

 次に、測っていた粉類を投入して、ヘラである程度混ぜたら、素手でこねていく。ヌッチヌッチと粘り気がすごい。


「ここは力仕事なので、私が担当します。実家でもマントウを作っていましたし、慣れてますから」

「ありがとう、菜明。それじゃあ、私はその間にピザ用のソースをいくつか作ろうかな」


 本当、菜明が侍女になってくれて良かった。普通の侍女はきっとマントウ作りなんかしたこともないだろうし、こうやって上手に生地をこねてくれなかっただろう。


 菜明は、綺麗に纏めた生地を鉢から取り出し、打ち粉をした台の上で、油を加えながら再び力強くこねていた。袖まくりの下から見える二の腕が逞しい。うん、さすが経験者。説明しなくても手際よくやってくれてるし、頼りになる。


「冬兎、いるー?」


 私は天井に向かって呼びかけた。






――――――――――――

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

ネクストで新連載がはじまったばかりですが、

明日からまた新連載をはじめます。

こちらはMFブックスのコンテストに応募するもので、

『今世は、悪役令嬢の姑です~バカ息子を再教育して幸せ家族を目指したら~』

というタイトルです。


ライトな読み心地と、主人公は絶対不幸にしない!という信念+幸せな家族にするぞ!という野望のもと書いております(笑

白瑞宮のように、クスッとのんびり読んでいただけると思いますので、是非ご一読いただけますと嬉しいです。

(大声じゃ言えませんが、コンテストなので★やブクマをしてくださると、とっても嬉しいです!)


それでは、また明日白瑞宮と龍の初恋と新連載でお会いしましょう!

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