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【完売】士弓合同誌【サンプル】/Novel by ちくわぶ

【完売】士弓合同誌【サンプル】

4,855 character(s)9 mins

版権元:Fate/stay night
カップリング:士弓(衛宮士郎×アーチャー(五次))
同人誌タイトル:夜はまだ寒いから
概要:A5 54P
 よしともさまおよびヨシヒトさまとの合同誌
頒布予定価格:600円

「AKUHEKI」のよしともさま、「ysht」のヨシヒトさまとの合同誌です。
本記事はちくわぶの執筆分のみのサンプルです。大凡3割ほどをサンプルとして収載しています。
なお、表紙画像はよしともさまに作成していただいたものです。

完売しました(2019/11/30確認)。ありがとうございました。

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 今日の朝餉は随分と豪勢だ。
 口に入れたときの至福の時を想像すれば頬も緩むが、正面に腰を下ろす少年の様子がいつも違うのに少し眦を険しくした。
「えー、っと。どうした、セイバー? 早く食べないと冷めるぞ。今日は藤ねえがいないから、セイバーが食べてくれなきゃ余っちまう」
 言いながらもそわそわと落ち着かない。これは何かあるぞ、と直感した。サーヴァントスキルとは関係ない、ごく普通の予感である。この少年には、ご機嫌とりのために人の天ぷらをちょっと大きめにしてみたり、いつもよりワンランク上の肉を買ってきたり、そういう即物的なところがあった。
 とはいえ用意された食事に何ら罪はない。いつもの箸を手に取りつつ、何でもない風に澄まし顔で言った。
「ええ、いただきます。しかし、今日はいつにも増して質と量ともに豪華なようですが――私に何か言いたいことでも?」
 開始二言目で言及されると思わなかったのか、シロウは「え」という間の抜けた発声の後にフリーズした。
 再起動を待つ間に早速一口目を頬張る。これは確かサワラだったか。焼くだけというシンプルな調理法にも関わらず、シロウの細やかな下準備のおかげか、生臭さはまったくなく、身はしっとりとして噛むほどに素材の味が染み出てくる。何度味わっても芸術的な出来だ。
「……うん、その、言いたいことというか、文句とかじゃないんだけどな。セイバーさんには改めてお願いがあります」
 黙々と食べ進めていると、ようやく戻ってきたシロウが改まってそのような申し出をしてきた。
「ほほお、陳情ですか。慣れたものです、聞きましょう」
「セイバーの寝る場所、今日から変えないか? 隣にいられると困るんだが」
 ふむ。内容を吟味して一つ頷く。
 私がシロウの隣室に控えているのは戦争当時から続く習慣だが、それを改めよという申し出らしい。
「なぜです?」頷いた首をそのまま傾けた。
「変更する利がありません。聖杯戦争の勝利者として今後狙われるあなたの身辺を警護するのは私の役目。そして、凛からの命でもあります」
「けど普通はおかしいじゃないか、セイバーみたいな女の子がすぐ隣の部屋だなんて。聖杯戦争はとっくに終わってるわけだし、俺もすっかり元気だしさ。それに、今のセイバーが守るべきは遠坂だろ?」
「……ほう?」
 鈍感な気のある少年にもわかるよう、声にはたっぷりの不服を込めた。剣を捧げるというあの日の誓いを忘れているわけでもなかろうに、シロウは未だにこういう的外れなことを言う。
 心情を切り離して考えたとしても、衛宮士郎と遠坂凛とでは襲撃に対しての対応能力がより高いのは凛であるし、いざとなれば令呪を切れる凛と違ってシロウは余りに無防備だ。よって、とてもではないがこんな理由で護衛を放棄するわけにはいかない。
「そうですね。あなたがもう少し危機管理能力を磨き、凛くらいまともな結界でも設営できるようになってくれれば凛も私を傍に戻す日とてあるでしょうが」
「う……いや、でもだな。せめて客間で寝るっていうのはどうだ?」
「そもそも夜と言えども今の私は寝ていませんが……。ふむふむ」
 戦闘行為ももはやない。今でも食事は摂るし魔力の節約には努めているが、毎夜ぐっすり眠り込むような例外は少年をマスターに据えていた時くらいだ。
 しかし今のシロウの代案で、彼の求めるところがわかってきた。私を遠ざけようとするこの動き。最近の彼の不審なところと無関係とは思えない。
「そういえば、シロウは最近寝付きが悪いようですね。ようやく寝息が聞こえてきたかと思えばすぐに目覚める」
「う」
「――聖杯戦争が終わってまだ一週間。今しばらく様子を見よう……という判断だったのですが、どうやら私が甘かったようだ。
 心配する従者に向けて『離れに移れ』とはなんたることです? 今日日ディナダン卿でもそのような冗談は言いませんよ」
「ちょ、ちょっと待て。心配をかけたのは謝る、セイバー。だけどちょっと寝付きが悪いだけでなんともないから」
 現在は布団の上に正座をして寝ずの番を続ける日々である。隣室の彼が夜中に寝たり起きたりを繰り返していることは知っていた。魘されているのを見かねて起こしてやったのも一度や二度ではない。
 しかしまだようやく傷も癒えてきたようなみぎり。この少年の性格から言っても、過度な心配は却って無理をさせるだろうと配慮をしていたつもりだったのだが……。
 如何にももの憂いげな表情を繕い、致し方なしと言ったため息を吐く。
「残念ですがシロウの大丈夫は信用しないことに決めています。今晩からは監視をより強化することにしましょう。隣室と言わず同室に控えさせていただきます」
「悪化してる?! なんでさ、なんでもないって言ってるだろ!」
「なんでもなにも、私を遠ざけるほどの何かが夜半に発生しているのでしょう? シロウはこういうとき素直に救難信号を発してくれませんので、強引にいかせていただくまで」
「くっ、セイバーのやつ、こういう時はホント容赦ないな……!」
 何やら負け犬が吠えているが澄まし顔を維持した。獅子たるものどのような獲物に対しても全力を示すべきなのだ。
「こっちは夜中セイバーが寝てないことすら初耳だぞ……。やっぱ余計なこと言わなきゃよかった」
「ブツブツと何を言っているのです、シロウ。反論がないなら今夜から私はあなたの寝室に入って寝ずの番を務めますが、本当にそれでよいのですね? 今ならばまだ説明と弁解の権利がありますよ」
 窮地に立たされた少年は難しい顔でしばらくウンウン唸っていたが、口を割れば容赦してやるという飴をちらつかせると、渋々ながらようやく口を割った。
「うう……。いいか、笑ったり怒ったりはナシだからな」

* * *

「で、『最近あの赤いアーチャーの夢ばかり見るのだ』と白状したというわけです」
 頼りになる従者からの相談ごとだと言うからなんとか真面目な顔を維持して話を聞いていたが、まさかのオチについに表情から優雅さが飛んでいった。
「……はあ? 夢なんて好きに見たらいいじゃない。セイバーが横にいようが藤村先生がそこら辺に忍び込んでいようがなんにも関係ないでしょ?」
「いえ、私もそう思ったのですが、問い詰めてみると『セイバーがいるのに気づくと逃げ出す』などと言い出しまして」
「……はああ? 夢の話をしてるんじゃなかった? 逃げ出すってなんなのよ」
「それが私にはさっぱりで……」
 ここにいないトーヘンボクの意味不明さについ語気が強くなったが、困り顔のセイバーにはなんの非もない。慌てて咳払いをして表情も元に戻した。
「とりあえず士郎の要求を額面通り捉えると、アーチャーの夢を見てセイバーが横にいると逃げるから夜は遠くにいててくれってことね?」
「ええ。夢の詳細を尋ねたところ、どうもアーチャーの過去を見ているようだと言っていました。シロウが私と契約していたとき、私の過去を見たように」
「……まさか。レイラインからの流入現象?」
 そう口から零れて、すぐにあり得ないと首を振った。士郎とアーチャーに契約関係はないし、そもそもアーチャーはもういない。
 本来は夢枕に立つなんて言葉があるくらいだし、夢っていうのは故人との交信手段としてはありふれたものなのだが――アーチャーを故人とするのもおかしな話だ。なにせまだ死んでいない、未来の英霊である。……かといって今生きているかと言えばそうとも言えないややこしい男なわけだが。
「今の話だけじゃどうにも要領を得ないわね。単純に思春期到来でセイバーが横にいるのが恥ずかしくなったんじゃないの?」
「それだけが理由なら一蹴するまでですが、問い詰めた先に夢の話が出てきたのです。やはりこちらが本命なのでは」
「うーん。けど夢のために部屋を変えてくれーだなんて、そこまでする?」
 それから二人であーだこーだとしばらく議論を重ねてみたが、当然の如く結論がでるわけがない。
 あーもう、と討論の間に体の前に垂れてきた髪を払って悪態を吐いた。
「埒が明かないわ、本人をとっちめて聞き出しましょう! 士郎のやつはどこへ行ったの?」

* * *

 太陽から弱々しさが抜けてきた、昼に近い午前。
 俺は長い階段を横目に、森の中の獣道をこそこそと抜けて柳洞寺にまで来ていた。
 寺への入場規制はなんとか解除されているが、瓦礫の撤去なんかもまだ始まったばかりだ。あちこちに破壊の爪痕が深く残っている。寺の人達が目まぐるしく働いて散乱した境内を整理し、復興の準備を始めていた。
「……確か、あっちからだったよな」
 見知った顔が忙しそうにしているのを無視するのは気が咎めたが、今日ばかりは他にやることがある。記憶を元に大体の辺りをつけて目的地を定めると、よしと一つ頷いて移動を再開した。
 円蔵山中腹にある寺を背中に、山を少しずつ登っていく。そこまでの距離はなかったはずだが、登山道なんて気の利いたものはないので思ったより体に堪える。戦闘のダメージが癒えきってないのもあるかもしれない。
「セイバーにバレたらまた怒られるな」
 今日は一日のんびりと療養に努めることになっている。商店街に買い物くらいなら許してもらえただろうが、登山はどう考えても療養とはカウントされない。家にいないといつ発覚するかわからないが、連れ戻されるまでになんとか探し出したいところだ。
 正直に話した方がよかっただろうかとも思ったが、俺にも確証があるものじゃあないのだ。仮に俺の思う通りにヤツがこの街にいたとして、遠坂とセイバーが絡んだ方が発見難易度は上がる予感がする。
 現状唯一の交渉口である夢を介しての対話でもうちょっと情報を集めたかったのだが、今朝は余計なことをしてしまった。セイバーは見るからに怪しんでたし、遠坂の耳に入りでもしたら『もう直接問いただしてやる!』ってな実力行使に出かねない。
「……急ごう」
 想像したせいかちょっと背筋がぞくりと来た。今頃彼女たちは本当に今朝の俺について話してるかもしれない。一人で動ける内にやれることをやっておかねば、だ。
 日当たりが悪いのかこの辺りの地面は腐葉土の上に濡れた落ち葉が積み重なっていて歩きにくい。滑らないよう注意して足を進める。

 ――今朝方セイバーに問い詰められてほとんど白状した俺ではあるが、全部を伝えたわけではない。
 わざと黙っていたままのこともある。例えば、アーチャーが実は消えていないかもしれないということがそうだ。

 聖杯戦争最後の夜。それを無事に乗り越えた翌日、遠坂共々ぶっ倒れた俺はセイバーの厚い看病を受けながら自室の布団で唸っていた。
 怪我の痛みより何よりとにかく頭が痛かった。頭痛がようやくマシになって動けるようになったのは夜も暮れてからで、それまでの間俺は寝たり起きたりを繰り返していたのだろう。
 初めは、錬鉄場の如き剣戟を聞くような夢だった。鋼を鍛つ音はそのままに、次第に辺りの光景だけが変化しているのに気づいたのはいつごろだったか。
 見覚えのない国、馴染みのない空気、聞き慣れない言語。剣戟とノイズに紛れて見通しづらいそれらは、どうやらアーチャーの生きていたころの景色らしかった。
 そこまではいい。普通はもう退場した上に契約関係にもないサーヴァントの過去なんて本来は知りようがないが、アイツに限っては身を削るように刃を交わした間柄だ。そういうこともあるだろう、と俺は特に深く捉えずにいた。
 さすがに違和感を覚え始めたのは三日後。似たような夢が続き、『おいおいまさか寝る度に一生この夢を見るんじゃなかろうな』という感想とともに目覚めるような日々の中でふと気づく。
 繰り返される過去の上映。それを観る観客が、俺一人ではないことに。

(後略)

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