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Blue sinks in Red(1)/Novel by なち

Blue sinks in Red(1)

3,847 character(s)7 mins

◇◇パラレル槍弓で『格好良い兄貴を書く!』という目標で書き始めました。特殊部隊に所属する槍と、ワケ有り弓との出会いです。◇◇特殊部隊の知識は映画とかその手の資料とかしかないなんちゃってヤロウなので、詳しい方どうかご教授願います。マジでお願いです。◇◇弓の正体について、アンケート取らせていただき、それの1位で続きを書く、という事をさせていただきました。その節は本当にありがとうございました!◇◇

2014年10月15日 ほんのちょっとだけ、改訂

1
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 “その事件”は白昼堂々、衆目の中で突然行われた。
 数人の乗客を乗せたバスがいきなり武装した男たちにジャックされたのだ。
 近くの銀行から鳴り響くけたたましいベルの音と、大破した中古の車から、銀行強盗に成功だか失敗だかした犯人たちが逃走用の車を動けなくさせて、止む無く近くに停まったバスをジャックした、という経緯だろう。軽く眩暈を覚えながら、そう推理し、ランサーは小さく舌打ちした。
(ンで、こんな時に――)
 これから楽しいデートだというのに。やはり出かけにエンストした骨董品とも言える愛車をなんとか復活させればよかった。あるいは、隣のガキの新型トヨタを脅して借り受ければ。たまにバスになんて乗るから。
 あいにく銃器は携帯しておらず、武器と呼べるものもない。
 対するバスジャックの犯人は三人。ライフルを持っている男がやっかいだが、他の二人の武器はどうやらエアガンを改造したものらしい。物慣れない様子といい、手際の悪さといい、素人だな、と見て取る。刺激したら何するかわからない怖さがあるのがやっかいだった。
 チラ、とランサーは同じバスに乗り合わせている他の乗客を見やる。
 奥に固まってぶるぶる震えている二人の老婦人と、その孫らしき少女。その2つ前の席には、たぶんアジア人だろう若い青年――アジア人の年齢は一見してわからないことが多いので二十代後半、とその体格や服装から見当を付ける――と、必死に身体を縮込ませようとしているでっぷり太った中年の白人。
 問題はないか、とほんの少しだけほっとする。騒ぎ立てる者が一人でもいると、これからランサーがしようとしていることに支障が出る。
 犯人たちが人質を取る事を思いつく前に、一気に片付けるしかない。

 俺は手品が使えるんだよ。
 デートの時に何もない場所から小さな花や、ちょっとしたプレゼントを取り出して女の子を喜ばせる。そんな風にしか使った事がなかったが、ランサーにはある特技があった。
 今風に言えば“超能力”とでもいうのだろうか。
 タイミングを計り、運転手の右足を思い切り踏ませる。
「うわぁ、何しやが――」
 犯人たちがよろけた瞬間に、飛び出し、ライフルの男の腕を蹴り上げる。ぐしゃり、と嫌な音がして反対方向に曲がった腕を抱え、男が叫び声を上げて蹲る。くるり、と反転しながら、もう一人の男の胸を思い切り蹴り倒す。肋骨の砕ける嫌な音と共に、男が通路に吹っ飛んだ。
「う、わあああああっ!」
 あと一人、と身を沈めた瞬間、その男の肩に何かが刺さり――ぷしゅっ、と血潮が飛び散る。
 痛みに泣き喚く男の喉を軽く蹴り昏倒させると、ランサーはその肩に刺さったものを見た。ただのボールペンのようだが、そんなものがこんな風に刺さる訳はない。何の魔法だ。
「失礼、私の助力は必要なかったかもしれないな」
(………ッ!?)
 ぎ、と振り向くと、青年が無表情のまま立ち上がってこちらを見ていた。
「てめェ、何モンだ――」
 男たちがバスに乗り込んでから90秒。ランサーが行動を起こすのを見越していたわけではあるまい。普通の人間ならぶるぶる震えているしか出来ないはずだ。
「何、ただの観光客だよ。君は警官か、あるいは軍人かね? ずいぶんと鮮やかな手並みだ」
 その見事なクイーンズイングリッシュに、ランサーは眉を顰める。近くで見ると予想よりも若く、二十代前半、というところか。ファックだのシットだの連発するような年齢に見えるのに、ずいぶんと高尚なお勉強をなさったらしい。
「あんた、日本人か」
「良くわかったな。この外見ではそうは見えないのが常なのだが」
 褐色の肌に、白い頭髪。顔立ちはアジア系だが確かにその色味は珍しい。
「はん、そんなお綺麗な英語をしゃべるのは日本人と本場英国人しかいねェよ」
「そうかね。確かに教師は英国人だったが――それより、君」
 その男たちはさっさと病院に運んだ方が良くないか、と苦笑と共に付け足される。
「そっちの彼は今にも死にそうだ。君の上司に同情するよ」
「ハッ、銀行強盗の上にバスジャックじゃ殺されたって文句は言えねェだろーが」
「いや、どう見ても犯人の二人は未成年だからね。まあ、裁判沙汰になったら証言してもいい、彼は素手で武装集団と戦ったので、いわば正当防衛だと」
「そりゃどうも」
 あながち青年の言うことも的外れではない。たとえ犯罪者でも相手が未成年だと色々面倒なのだ。そして持っていたのがエアガンだとわかっていたと、もしバレたら。
 ランサーはバスの運転手に通報を指示すると、バスの乗客たちにウィンクする。
「――ということで、この犯人をやっつけたのはそこの勇敢な日本人。皆証言はソレでよろしく」
「君、逃げるのかね?」
「俺、これからデートなんだよ。面倒な手続きはゴメンだ」
 それに、ランサーは現在少々困った立場にある。地元の警察ともめるのも面倒だし、この青年の言う通り、上司の頭髪がまた悩みで薄くなるのも困る。
「ふむ」
 青年はひとつ頷くと、ランサーの真似をして乗客たちに
「この犯人をやっつけたのは、そこの勇敢な中年の男性だ。それでよろしく」
 と告げ、ランサーの後に続きバスを降りる。
「ちょ、マジかよ。それは無理があるだろ」
「君は特殊部隊か何かの所属で、身バレが面倒。違うかね?」
 言い当てられて、ランサーがうっと黙る。
「そして今は休暇中。もしかして、謹慎中なのかもしれない」
「あんたエスパーか何かか」
「ふ、まさか。推理しただけだよ。その身体能力と判断力は、普通の警官ではありえない。軍人だとしたらその頭髪は少々、ね」
 まさしく青年の指摘どおりだった。ランサーの緩く後ろで結んだ長髪は、あの場所以外ではありえない。謹慎中、というのも。
「それから、君、あの時運転手に“何”をした?」
「何も」
 即座に否定することで、何かはしたが詮索するな、という意思を込める。青年は正しくそれを受け取った。
「――まあいい。で、だ。私は実は今やっかい事に巻き込まれていてね。腕利きの護衛が欲しいと思っていた所だが、君、私に雇われてみる気はないかね?」
「護衛だぁ? あんた充分一人で戦えそうだけど」
 投げられたボールペンを思い浮かべ、そう反論する。
「うむ、それについては光栄だと答えておこう。けれども私はあまりこの国に詳しくないし、どうにも多勢に無勢でね。――バスで移動すれば目をくらませるかと思っていたが、どうやら無駄だったらしい」
 ホラ、と目で差し示す方向に、黒塗りのいかにも、なワンボックスがこちらへと突進して来る。 賭けてもいい。
 あの車にはきっとマシンガンやらライフルやらを抱えた数人の男がこちらを狙っていて、数秒後にはこの青年は蜂の巣だ。
「――マジ、かよっ」
 どんなギャング映画だ。
 ランサーは青年の腕を掴むと、目の前のビルの扉を蹴破り中に引っ張り込む。
 嵐のような銃弾が一瞬後、二人の居た場所を嘗め尽くす。
「問答無用っていったいどんな相手だよ」
 ビルの階段を駆け上がりながら、ランサーは怒鳴る。
「っていうか、俺、もう既に巻き込まれてねェか、コレ!」
「すまない。報酬はかなり支払えるのだが、どうだろう」
「どうだろうって、だからもう既に……あー、もうアンタ、マジで天然だなッ」
 日本人はみんなそうだ。ランサーは小さく吐き捨てた。
 平和ボケで。広場で日本人を見分ける方法は簡単だ。銃を一発ブッ放って、地に伏せずにつっ立ってるヤツがそうだ。そんなジョークを思い出す。
 いやこの男なら無言で銃を撃ったヤツにまたボールペンだかその場にある何かを武器にしてやっつけるだろうけれど。
「ああ、そうだな。君はもう顔を知られてしまった……私に出来ることなら何でもするから許してくれ」
「……だから“何でも”とか、簡単にッ、ああもう、わかったよ!」
 乗りかかった船だ。
 ランサーはビルの屋上まで一気に駆け上がると、またもやドアを蹴破り外に飛び出す。
 ランサーの速度に付いて来れ、息切れひとつしていない青年に、ちょっとだけ感心する。
 無言で隣のビルに飛び移れと合図すると、青年は躊躇もせずに従う。
 見事な跳躍。身体能力は同僚たちに引けも取るまい。
「あー、なんだかすげェ面倒なんだけど」
 面白い、ヤツ。
 ランサーを無言で待つ青年の隣に降り立ち、ごろごろと転がり衝撃を消す。
「ホラ、突っ立ってねェで、行くぞ!」
「――まだ返事を聞いていないが」
「答えは“イエス”だ、くそガキ。俺はランサー。てめェは?」
 キッド呼ばわりが気に入らなかったのか、ちょっとだけむっとして、青年は低く返す。
「アーチャー」
 思い切り偽名か。ランサーは己の呼び名と対になるそれに、なにやら運命めいたものを感じた。
「そうか、アーチャー。よろしくな!」
 にか、と笑ってやる。大変な時こそ笑え。それがランサーの持論だ。
「……よろしく、ランサー。君は頼りになりそうだ」
 私は運がいいな。
 小さく笑い返すアーチャーにちょっと驚いて、ランサーは推定年齢をまた少し、引き下げた。

Comments

  • 水菓子
    January 14, 2016
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