※ご注意※

 

本記事は、映画および舞台作品『十二人の怒れる男』のネタバレを含みます。

 

 

 

 

名作『十二人の怒れる男』

 

 

作品解説、前編はこちら👇

 

 

この記事の中で、『十二人〜』という作品に関する疑問点をいくつかピックアップしました。

 

 

▶︎ 真犯人が見つからないという、スッキリしない結末

 

▶︎ 無罪へと投票を変えていく理由が、みんな「合理的疑問がある」という一言だけ。

 

▶︎ そもそも「合理的疑問」って何??

 

▶︎ 被告の少年の「無罪を立証する証拠」は何ひとつ出てこないのに、なぜ「無罪」の結末??

 

▶︎  第8号は、なぜ最初に「無罪」に手を挙げた??

 

▶︎ 主人公の「第8号」さん、何者!?

 

 

ざっと挙げてみても、これだけの疑問点が浮かび上がり。

こうしてみると、法廷サスペンスとしてもすっごく「変」な気がしてくるんですね。

 

 

さぁ。

それではまず、こちらの疑問から解き明かしてみましょう。

 

 

  主人公「第8号」の謎

 

……そもそも、主人公の人物像がめちゃくちゃ謎

 

バックグラウンドが一切描かれていない上に、第一、なぜ最初に「無罪」に挙手したかの明確な理由が示されていないんです。

 

 

さて、考えてみましょう。

 

 

この物語をパッと見るだけだと。

なんとなく、第8号は、裁判に関する疑惑を最初から気づいていて、それを指摘したがっているようにも感じます。

 

 

その「裁判に関する疑惑」とは、

 

▶︎裁判の弁護士のやる気がなさそうだった

▶︎「殺してやる」という声が、電車の騒音でかき消されていたかもしれず、隣人や階下の証言は怪しい

▶︎階下の老人の「ドアを開けるまでの移動時間」にズレがあるという指摘

 

といった点です。

 

 

 

しかし。

もう一度、作品をきちんと見直してみましょう。

 

 

 

第8号は、最初の段階で「なぜ『無罪』だと思うのか?」という他の陪審員からの問いに対し、

「わかりません。ただ、もうちょっと話し合いたいんです。」

とだけしか回答していない。

 

 

つまり、よくよく物語を見てみると。

当初は、上に挙げた「裁判に関する疑惑」は、第8号自身、気がついておらず。

 

そこからの議論の中で、後付けで明らかになっていったに過ぎないのです。

 

 

 

……さて、ここですでに。

 

多くの観客の心の中に、

「第8号は主人公だから、最初から何かを知っていたんだろう」

「主人公だから、真実を見通していたんだろう」

というバイアス(偏った視点)が存在し、その色メガネによって、主人公を贔屓して見ていたことに気付かされるのではないでしょうか。

 

これはつまり、前回も指摘した「偏見」の目です。

 

 

誰だって、主人公には肩入れをしたくなるものですけれど。

ところが、『十二人』という作品の主人公・第8号は、皆さんが期待・贔屓するほど賢い男でも、特別な男でも無かったのかもしれない……。

 

 

そう考えていくと。

そもそも、物語のスタート地点で、第8号が何を考えていたのか……

果たして、本当に「無罪」と思っていたのかすら、怪しくなります。

 

なぜなら、被告の少年に不利な証言・証拠を前に、第8号は何ひとつ、それに反する「無罪」の論拠を持ち合わせていなかったのですから。

 

 

う〜ん、一体どういうことなんでしょう……??

 

 

  第8号が手に入れた “もう一本のナイフ”

 

結局、第8号は。

この裁判に対する疑惑も、疑問も、何もかも。

 

最初の段階では、実は何も分かっていなかった…??

 

 

そうお伝えすると、おそらく、この点を指摘されると思います。

 

 

「でも、被告の少年が持っていたとされ、そして犯行にも使用された “特殊なデザインのナイフ” と同型のものを、第8号は手に入れていたよね??」

 

 

……確かに。

実際は、他の陪審員よりも一歩だけ先回りして、第8号は “同型のナイフ” をもう一本、手に入れています。

 

このナイフ(犯行に使用され、同じデザインのものを被告の少年も持っていたとされるナイフ)のデザインは非常に特殊で、警察も同じ型のナイフを見つけ出すことができなかった。

しかし、第8号は、それを独自ルートで手に入れているんですね。

 

 

手に入れた経緯について、第8号は、

 

「被告の少年の家の近くの、小さな店で見つけた。2ドルで買えた」

 

と言っています。

 

 

 

さて。

実はここにも、観客を欺く “トリック” が仕掛けられているのです……!!

 

 

 

 

 

 

「被告の少年の家の近くの、小さな店で見つけた。2ドルで買えた」

 

 

このセリフから、その “同型のナイフ”「簡単に見つかった」と思われがちなんです。

 

 

「被告の少年の家の近く」

「小さな店」

「2ドル」

 

そのワードのどれもが、「簡単に」見つけ出せる、という印象を抱かせるコトバなんですね。

 

 

そう理解した結果。

観客は、きっとこんな風に、第8号について推測するはずです。

 

 

「第8号は「簡単に」ナイフを見つけることができた。

それにより、警察の捜査が非常にずさんであったことに気づき、この裁判自体にも大きな疑問を持った。

だから彼は、少年が「無罪」である可能性を強く抱いたのだ……」

 

 

 

しかし!!

 

 

 

僕は、「第8号がナイフを “簡単に” 見つけた」という説は、誤っていると思います。

 

 

いえ、それだけではありません。

 

「第8号が、被告の少年に対して『無罪』の可能性を強く抱いた」というのも、大きな誤解

 

実は、最初の段階では、第8号は「無罪」に手を挙げながら、ホントは、被告の少年を「有罪」だと思っていたのではないか?? と、僕は考えているのです!!

 

 

▲え!?

「無罪」に手を挙げておきながら、ホントは「有罪」だと思ってた……って、どーゆー意味??

 

 

  果たして、第8号の真実は……??

 

さぁ、謎を解き明かしましょう!!

 

 

こういう時に必要なことは、台本に書かれている、明らかなる事実を見逃さないこと。

スタニスラフスキー・システム“与えられた状況” というものを、細部までしっかり捕まえることです。

 

 

まず。

この裁判において、提出された証拠や証言は、ことごとく被告の少年の「有罪」を物語っています。

何せ、父親を刺した瞬間を「目撃した」という隣人まで現れているのです。

 

それに対し、裁判の中では、少年の有罪を疑わせるような証言・証拠や、「無罪」側の証言・証拠は、何ひとつ提出されていないのです。

 

つまり、裁判の経緯だけで言えば、「ほぼ100%、少年の有罪!!」だと言える内容なのです。

 

 

だって。

そうでなければ、他の11人の陪審員が、全員、有罪に投票するわけがありません。

 

なぜなら。

彼らは、そんな馬鹿な人たちの集まりじゃないはず。

 

 あくまでも、一般常識や分別、豊富な人生経験を持ち、中にはとても優れた思考能力を持っているキャラクターもいます。

 

 

まず何よりも、この状況は、確実に押さえておかなくてはいけません。

 

 

▲ただ推測や想像ばかりを進めすぎると、真実から遠ざかってしまいます。

しっかり、台本に書かれていることの隅々まで見落とさないように。

 

 

次に、「同型のナイフ」について。

 

これは「珍しいデザイン」ではあるものの、「世界でたった一つのデザイン」のものだとは、一言も語られていません。

つまり、今日で言うところの「なかなか手に入らないが、もしかしたらメルカリに出品されているかもしれない」というレベルのものだと考えられます。

 

 

そして、第8号は、「被告の少年の家の近くの、小さな店で見つけました。2ドルでした」と言っていますが。

 

 

「少年の家」がある区域とは、どんな場所だったでしょう??

 

 

 

……これ。

劇中では「悲鳴が絶えることのない、治安の悪いスラム街」だと語られています。

 

 

 

 

一方、第8号という人物は。

職業や所得、生活は一切明かされてはいないものの、その物腰や態度、教養などから、おそらく、アメリカ国民の中で大多数(マジョリティー)を占める「中産階級」の人物だと想像されます。

 

(※物腰、態度、教養という言い方に「偏見」を感じるかもしれませんね……。ところが、第8号が「中産階級」だと推測できる理由は、他にもあるんです。それは後述。)

 

 

1957年の映画版のビジュアルでも、第8号を演じた俳優ヘンリー・フォンダは、スーツを着て、いかにも一般的で平均的なビジネスマンという姿をしています。

 

 

 

▲ヘンリー・フォンダという俳優が第8号にキャスティングされた理由も、「いかにも一般的で、平均的な、アメリカ国民」という人物像と関係があるでしょう…。

シュワちゃんでは、ダメなんです。

 

 

 

もし、こんな男が。

悲鳴が絶えないスラム街に足を踏み入れたら、どんなことになると思いますか??

 

 

 

……そうなんです。

第8号は、決して「簡単に」この(同型の)ナイフを手に入れたのではなく。

 

「身の危険を冒しながらも、必死でナイフを見つけ出した」というのが、真相なのです。

 

 

もっと言えば。

「身の危険を冒してでも、何か『有罪の評決を崩せる手段』を探し回った」のではないか??

 

そうして、徹夜であれこれ考え、探し回った結果。

ようやく、最終日の前日あたりで、ついに「同型のナイフ」を手に入れたのではないだろうか??

 

 

しかし、それだって。

メルカリを探せば見つかるかもしれないというレベルの、本当に小さな小さなもの。

 

こんなものでは、被告の少年の評決を「無罪」へと傾けることなど到底できないだろうということは、第8号自身が、よく分かっていたはず。

 

 

 

つまり。

第8号は、最初から「無罪」だと考えていたのではなく。

 

 

最初は彼自身も「有罪」だと思っていた。

なぜなら、これまで提出された証拠や証言のすべてが、被告の少年の「有罪」を物語っていたから。

 

しかし、第8号が抱える “なんらかの理由” のために。

彼は、「有罪」であると分かっていながら、「無罪」を主張しなくてはいけなかった(少なくとも、話し合いを続けなくてはいけなかった)……!!

 

 

そう考える方が、ずっと自然だと考えられるのです!!

 

 

 

▲ココ、『十二人〜』を紐解くのに、めちゃくちゃ重要なポイントです!!

 

 

  主人公が、平凡な「名もなき男」である理由

 

前の項で、「第8号は「中産階級」に属する人物である」(スラム出身や貧民階級ではない)とお伝えしました。

実はここにも、作品を紐解く大きなヒントが隠されているのです。

 

 

まず、彼が「スラム出身ではない」という理由を、明らかにしていきましょう。

 

 

理由の一つは、劇中の描写から分かります。

 

 

今回の、12人の陪審員の中には、スラム出身の「陪審員・第5号」という男がいます。

 

そして彼は、劇の後半で。

スラムでナイフの喧嘩をする人が、どんな風にナイフを持つのか、その「持ち方」を説明するくだりがあります。

 

その際。

第5号以外に、その持ち方を知っていた人物は他にいませんでした。

 

これが、今回の陪審員の中で「 “スラム出身者” は第5号だけ」ということの論拠です。

 

 

 

 

 

そして、もう一つの理由。

それは、この作品の「劇構造」にあります。

 

 

通常。

物語において、登場人物には必ず「名前」があります。

少なくとも、主人公や、メインになるキャラクターたちには、名前がある。

 

 

ところが、時々、主人公にも名前がない作品というのがありますね??

 

ミュージカルで言えば、帝国劇場で上演されていた『レベッカ』が、それ。

あるいは、最近の映画では『テネット』もそうでしたね。

 

 

 

ここには必ず、「名前がない(劇構造上の)理由」が存在します。

 

 

 

……今回の『十二人の怒れる男』。

この作品では、主人公のみならず、ただの一人も、名前が語られることはありません。

 

 

その最大の理由は、前回記事でもお伝えした「社会派サスペンス」という側面から紐解けます。

 

 

偏見や差別に関して “問題提起” する作品という意味で言えば。

主人公に名前がないということは、イコール、「主人公は、観客である、あなた」であり。

「この社会的問題に向き合い、解決するのは、観客のあなたですよ」と、テーマを投げかけている可能性があります。

 

 

登場人物に名前がない=「観客の “あなた” と登場人物を重ね合わせ、偏見や差別の問題に向き合わせる」という図式を、劇構造に導入していると考えられるんですね。

 

 

だから、キャラクターから固有名詞(個人名)を排除しており。

 

主人公を「客席のあなた」と重ね合わせる都合上、その人物像は必然的に、「広く世間一般の、平均的(マジョリティー)」という設定になってくるわけです。

 

 

 

▲マイ・ネーム・イズ……「あなた」。

 

 

 

そして。

偏見や差別の矛先は、通常、マジョリティー(多数派)から、マイノリティー(少数派)に向けられています。

 

 

と、いうことは。

この作品の主人公は、アメリカ国民にとっての「平均的な生活を営む、もっとも人口比率の多い “一般人”(マジョリティー)」である必要があり。

 

それがすなわち、「中産階級の白人男性」という主人公のキャラクター造形になっているのです。

 

 

そして、だからこそ。

特に主人公の第8号は、観客一人一人が自分と重ね合わせられるようにするために、個人的なバックグラウンドやパーソナリティーが一切描かれていないんですね。

 

(他のキャラクターたちも、必要以上に具体的なバックグラウンドが描かれていないのは、同様の理由です。)

 

 

 

▲多くの物語では、脇役か、エキストラになってしまいそうなほどの「フツーの人」。

それが、第8号。

そんな平凡な男が、なぜ、たった一人「無罪」に手を挙げたのか??

 

 

 

……いかがでしょうか??

登場人物に名前がないのは、「観客の “あなた”」と重ね合わせるための手法なのです。

 

 

そして。

それが、「互いに名前も明かしてはいけない、個人情報は秘密厳守の “陪審員制度”」という状況と相まって、非常に説得力のある設定になっている。

 

 

これが、『十二人の怒れる男』という作品が非常に優れている、一つのポイントです。

 

 

 

12人の、名も無い白人男性たち。

それは、平均的で大多数(マジョリティー)の一人である「あなた」。

 

あなたは、色メガネで物事を判断し、真実を正しく見る目を失っていませんか??

偏見や差別的な思考で、世界を見ていませんか??

 

 

 

……ここまで読み解いてくると、この作品が少し、深まってきましたね。

 

 

 

さて。

まだまだ、謎は残されています。

 

 

今回の話の中で。

 

「だったら、なぜ第8号は、被告の少年が有罪』だと思っていながら、無理やりにでも無罪』に挙手しなくてはならなかったのか。

その理由は、一体……??」

 

という、新たな謎も浮上しました。

 

 

 

『十二人』作品解説は、さらに続きます…👇

 

 

 

 

 

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