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【キャス弓個人誌再録】Odds and Ends/Novel by ちくわぶ

【キャス弓個人誌再録】Odds and Ends

8,923 character(s)17 mins

版権元:Fate/Grand Order
カップリング:クー・フーリン(キャスター)×エミヤ(シャドウアーチャー)

※Fate/Grand Order第2部6章「アヴァロン・ル・フェ」の多大なネタバレを含みます。プレイしてからお読みいただくことを強く推奨します。また、エッセンス程度にFate/hollow ataraxiaの要素を含みます。
※アーチャーはカルデアのエミヤではなく特異点Fのシャドウアーチャーですが、pixivタグ内の作品傾向から言えばキャス影弓ではなくキャス弓とする方が適切と判断してタグ付けしています。

使命を抱えて冬木を目指すキャスター――が、冬木に到着するより前にあったかもしれない話。(完売済み)

今を逃すと再録する目がないと思い再録することにしました。再録がやや早くてすみません、当時お手にとってくださったみなさんありがとうございました。

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 着地してすぐに、失敗したと悟った。
 いや、着地そのものは成功している。問題はここが狙っていた地点とは異なるという点だ。
 辺りを見渡す。夜の森の中――と言っても、目を凝らすほどもなく眼下に街並みが広がっているのがわかる程度の浅い森だ。今は自分の着地の際の余波で木々が避けて・・・いるので余計に見晴らしが良い。
 街にはコンクリート造りの高層ビルを含め、神代には考えられない規模の建造物が何の神秘も関与しない形で建ち並んでいる。だが、それを築き上げた人々、建物を利用すべき人々の姿はどこにもなく、炎の赤だけが静かに、しかし未だ絶えることなく燻っている。
 人の気配も、霊の気配も何もない。聖杯戦争が行われているとは、とても思えなかった。
(出る時点を間違えた――?)
 冬木は冬木だが、もう聖杯戦争が終わってしまったところに来てしまったのだろうか。そう自問しつつ、同時に違うだろうなとも結論する。
 単に召喚される時代、機会を間違えたようには思えない。やはり出る〝場所〟を間違えたという最初の感覚が一番近い。
 なんとも幸先の悪いことだ。フードを取っ払ってがしがしと頭を掻く。
 何もかもがぶっつけ本番、二の矢はない。なんとか軌道修正を図らなければと、情報収集のため街へ下ろうと足を向けた。
「随分と派手な登場だな、ご客人」
 その爪先を制するように、声がかかった。
 杖の握りを深くする。見れば進行方向のやや斜め前、周辺一帯の中では一番大きな樹上に一人の男が陣取っている。
「誰だ、テメエ?」
 赤と黒から成る軽武装姿。人間と言った感じではない。霊体――サーヴァントと見なすのが一番しっくりくる。
 だが、霊の気配もない、と判断したのはつい先ほどのことだ。つまりオレはこいつの存在を見落としていたことになる。それが警戒の理由であった。
 今こうして姿を現していても、周囲の光景に紛れるように存在感が薄くやけに気配が読みにくい。アサシンだろうか?
「そう警戒されても、私にはもう大した力はない。森を退かして・・・・悠々着地する神霊殿とは、比べるのも馬鹿らしいくらいのしがない掃除屋だ。
 気配がわかりづらかったのかもしれないが、こっちは身を隠していたつもりすらないし、奇襲したいならこうやって声をかけずに挑んでいる」
 誰何に答えているんだかいないんだか。
 誤魔化し――というよりは煙に巻こうという態度が感じられて眉根が寄ったが、少なからず会話は成立していて、自分よりこの地に詳しそうな貴重な人物だ。
 息を吐いて警戒を散らす。人を食ったような態度はともかく、相手の言葉にも、武器も持たずに現れた振る舞いにも、こちらへの敵意を感じない。
「わアったよ、敵じゃねえって言いたいんだろ。こっちだってやる気のねえヤツに喧嘩を売って回る気はねえよ」
「それは重畳。いや、実際どうしたものかと考えていたんだ。怪獣か何かが降ってきたのかと思ったからな、下手につついては一息で消し飛ばされかねん」
 揶揄なんだか本気なんだかわからない態度で安堵らしき言葉を漏らした男は、ようやく樹上から飛び降りてきた。
 喧嘩を売る気はないと言った手前文句を堪えたが、ジト目となって歩み寄る男を迎える。
 ちょっと出現が上空高くなったのは認めるが、至って穏便にクレーターの一つもなく華麗な着地を決めたのだ。怪獣呼ばわりされる筋合いはない。
「この何もない燃えかすの街へようこそ、ドルイド殿。見るからに、来たくて来たわけではなさそうだが」
「ドルイド呼びは止めろ。せめてキャスターにしてくれ」
 キャスタークラスとて性に合わないが、 ドルイド祭司扱いよりはマシだ。
 嫌がるこちらを鼻で笑った男は、「その顔でキャスターとは」と明らかに面白がっている調子で言って、
「では、私はアーチャーを名乗っておくとしよう」
 含むところが大いにありそうな自己紹介を返した。
「……アーチャーってことは、聖杯戦争の参加者か」
「一応は。そういう君は、まさか聖杯目当て――いや、聖杯戦争が目当てなのか?」
 微妙な言い換えであったが、こちらの事情をよく言い当てている。オレは聖杯が欲しいのではなく、ここ冬木の聖杯戦争にこそ用があるのだ。
 なので頷いて返したのだが、なぜか正気を疑う目で見られる。
「君な……。ここは西暦で言うと二〇〇四年の近代都市だ。サーヴァントの重みは、七騎揃ってようやく聖杯を満たす程度、というのが精々だぞ。
 まさかとは思うが、一人で聖杯全部を満たせそうなその重さ・・のまま冬木に辿り着こうとしていたとか言わないだろうな?」
「…………」
 指摘に思わず黙り込む。
 キャスターというクラスの鋳型に適応するために泣く泣く愛槍まで手放したのに、まだ全然足りなかったらしい。
 しかし確かに、元々のオレの霊基にどこぞの無茶ぶり大神の権能が乗っているなら、最低でも今のオレには、通常の英霊二騎分の重みがあるだろう。
「……していたんだな。それで重量制限に引っかかって、こっちに落ちてきたというわけか」
 やれやれと言わんばかりに首を左右に振るアーチャーに腹が立たないと言えば嘘になるが、十割こちらの落ち度であるので反論が思いつかない。
 こちらがぐぬぬと押し黙っているうちに、アーチャーは呆れた様子で現状分析を終了させた。
「ここは焼け尽きた後の塵、終わりすらもない灰の街だが。おかげで君が引っかかる・・・・・ことができたらしいな。寄る辺ないまま意味消失の憂き目に遭わなくて何よりだ」
 二の矢はないとか言っていきなり大ポカやらかしそうになっていたのは事実だが、幸いこうして存在が続いているのでセーフだろう。結局こうして、目的地にほど近い地点には到着している。いくらでも挽回が利くはずだ。
 それよりも、気になることができた。
「……お前、やたらとこっちの事情に詳しいな。アーチャーってのも嘘じゃなかろうが、それだけじゃねえだろ」
 この街が半ば非現実、どこにも接続していない夢のような世界であるというのはなんとなくわかった。
 しかし、そこでただ一人活動を続けるこの男は一体何者なのか。オレの目指す特異点の関係者であるのは明らかであるものの、オレの立ち位置や目論見が割れているような口ぶりなのは納得がいかない。
 疑惑に濡れたこちらの眼差しに気付いていないわけでもあるまいに、アーチャーは呆れた様子を継続させたまま肩を竦めた。
「自分でもわかっているだろう? どうせ今からの霊基圧縮ダイエットでここのことなんて忘れるんだ。
 ――私が誰か・・・・がわからないような君に対して、語れるような話はないな」

 嫌味なんだか親切なんだかわからない口調のアーチャーの案内で辿り着いた洋館内部。暖炉前の床に座り込んで、ヤツが言うところのダイエットを試みる。
 自己改造のスキルなんざないし、霊格を落としていく作業というのは自分で自分の肉を削ぎ落とすような行為だ。腰を据えて集中してもそれなり以上に難航した。
 真っ先に捨てるべきなのは、どう考えても一番の邪魔になっている大神の部分なのだが。これを全て脱ぎ捨ててしまうと肝心の己の役割を覚えておくことができなくなってしまう。
 四苦八苦しながら、なんとかクー・フーリン一騎相当にまで霊格を調整した。
「何も始まってねえのにもう疲れたぜ……」
 安堵と疲労からついボヤキが口をついて出る。達成感に、両腕を大きく広げてバタリと後ろに倒れ込んで大の字になった。
 これならば目的地である冬木――聖杯戦争開催地に顕現することも可能であろう。幸いここも位相違いとは言え冬木である。今度こそは弾かれずに喚ばれることができるはずだ。
 そう思って、感覚を世界の外側、目指す降霊地へと伸ばす。

 ――の、だが。
 仰向けに倒れ込んだまま、眉間に皺を寄せた。知らず口もへの字に曲がる。
 錨を降ろしても何にも引っかからないような感覚。聖杯に『あんたなんて誰も喚んでないんで』と拒否られているような、梨の礫感。
「オレはお呼びじゃねえってわけか」
 冬木に縁があると判定されたから、オレにこの無理難題が降ってきたはずなのだが。
 今更ながらに思い至る。こんな日本の地方都市が、一体オレと何の所縁があるというのか。
 いい大人なので暴れるのは我慢したが、いい加減嫌になってきた。無茶と面倒は別物なのだ。初代グリム殿にはもうちょっと丁寧な仕事をしろと文句をつけたい。
 しばらくは寝転がったまま、なんとか降霊のとっかかりがないか試行してみたが、よくて成功率一割といったところだろう。このまま未確定領域に身を投げれば、それこそ、意味消失の憂き目に遭いかねない。
 仕方なし、むくりと体を起こして立ち上がった。やる気なく大杖を引きずって舘の外へ出る。

 これでオレ一人なら勝率一割のギャンブルに挑むしかなかっただろうが、幸か不幸か、ここには事情に通じているらしき男がいるのだ。
 何か解決の糸口を握っているかもしれない。業腹だが、解決策に心当たりがないか、訪ねてみるしかないだろう。

 気配がわかりにくい男なので見つけられるか心配だったが、幸いにも表に出たこちらに対して、アーチャーの方から出向いてくれた。
 変哲のない(というにはどこもかしくも火が残っているが)アスファルト製の道路、交差点ど真ん中でばたりと出くわす。
 これ幸いと正直に事情を話したのだが、呆れ度合いがさらに増した視線を返ってきた。
「今の私には君達の挑戦を邪魔するつもりはないが。しかし、あまりにも出たとこ勝負ではないか?」
「うるせー、オレに言うなよ」
 いや、オレはオレなので、あっちからしたらオレに言うしかないわけだが。
「まあ、訴えはわかった。そして確かに、君の直面している問題を解決する方法について、私には心当たりがある」
「マジか? それはそれで都合がよすぎるだろ」
「私もそう思うが、全くの偶然だ。私にとっても君の来訪は予想外だよ」
 言うと踵を返し、先導するように歩き始める。案内のつもりだろう、オレも大人しく後に続く。


「思うに今の君は、本来とはかけ離れた格好をさせられているのではないか?」
 どこへ向かっているのやら、前を歩く男が不意に口火を切った。
 言われて思わず、長く引きずるような自分の格好に目を落とす。
 ランサークラスとキャスタークラスで装備品の傾向が代わってしまうのは当然ではあるが、しかしそれにしたってこの格好は自分の趣味ではない。
 クー・フーリンには確かにルーン魔術の素養があるが、魔術師として振る舞ったことはなく、あくまで戦士として駆け抜けた生涯であった。
 つまるところ今の服装はオレ由来ではなく、オレに役目をおっ被せてきた神サン由来のものである。
「正直、動きにくくてかなわねえとすら思っている」
「だろうな」
 先導するアーチャーの表情は窺えないが、声音からして少し笑った感じなのがわかった。オレの悪戦苦闘ぶりを肴に笑っているようにも、オレの境遇に少し同情を寄せているようでもある。
「だから、君は本来身につけているはずのものを身につけていない」
「槍のことか?」
「いいや、もっと他愛のないものさ。私が由縁も知らないほどに」
 口ぶりからして、オレと冬木の縁に関することを話しているはずだが。
 はて。オレの格好が普通とは変わっているからといって、何の支障があるのかよくわからない。鎧の類が宝具になるような連中ならばともかく、オレにはそういう逸話はないからだ。
 しかしアーチャーは言うだけ言って口を閉ざし、これ以上語る気もなさそうだ。
「…………」
 そもそもにして、この男自体がよくわからない。おそらく最初のやりとりからして、オレはコイツを知っていて然るべきなのだろうが……。
 訳知り顔で街の案内を買って出るあたり、聖杯戦争の関係者であることに間違いはあるまい。しかし単純なサーヴァントかと言われれば、どうも違う気がする。
 この世界の成り立ちからして、オレとは前後関係が逆、本来は聖杯戦争の終わったでなければ来るべきではない世界であるのだ。そのねじれが、アーチャーの口を重くしていると思われた。

 ヤツが何者なのか。気にならないと言えば嘘になる。というか、ものすごく気になっているが。
 しかし、彼は本人が語るように、事の趨向を左右するほどの人物には見えない。いわゆる大事の前の小事。アーチャーの正体は、少なくともオレがこれから為そうとする仕掛けと比べれば、そう大したものにはなるまい。
 実際に、彼の正体がわからないままであっても、少なくとも解決方法とやらに向けて歩いてくれているのだから、行く先に辿り着けばオレの大目的は達成されるワケだ。
 ここ・・といいあっち・・・といい、人理には問題が目白押しだ。この際、個人の興味関心は後回しとするしかない。
 オレは甲斐のない追求を諦めて、無言のままに足を進めた。

 弱々しくもくすぶり続ける種火に炙られるように歩き続けた先、わずかに湾曲した坂道を登り、やがて一つの建造物が姿を現した。
 一際高い塔を中心に、白を基調とした大きな建物がシンメトリーに聳えたっている。敷地に入ってから聖堂に辿り着くまでの通路の長さが、教会の権威を示しているようだった。
 どこか見覚えがあるような気がするのは、この手の建物は基本の様式を同じくしているからだろうか。

 先を歩くアーチャーは真っ直ぐと教会に向けて進み、しかし肝心の建物に辿り着く前の石畳の道で足を止めた。身を屈めて、何かを拾い上げている。
 その間にも背中に追いついたので、ひょいと首を伸ばして、彼が何を拾ったのか覗き込む。
「――――」
 オレはそれに、はっきりとした見覚えがあった。
 しかし何故ここにコレがあるのかわからずに、しばし瞑目する。
「何の縁もないサーヴァントが喚ばれるためには、触媒がいる。そして、かつて冬木には触媒になりうる遺物があった。――これが、君と冬木との縁だ。
 しかし、肝心の君の側が身につけていないのであれば触媒として機能すまい」
 振り返ったアーチャーは、そのまま手にしたものを差し出してきた。思わずこちらも手を差し出すと、そのまま掌の上に二つの耳飾りが落とされる。
「ここは灰と塵の街。炎で燃やされ、それでも残ったものたちが集まってできたガラクタの街だ。
 ……持っていってやるといい。ここでこのまま潰えるよりは、ずっといい」
 ――それは何の変哲もない、鉱石でできた耳飾りであった。
 見覚えはある。この鉱石に刻んであるルーンはただのルーンではなく、オレのオリジナルのものだからだ。触媒とはよく言ったもので、これを使えば誤解の余地なく、クー・フーリンを指定した召喚ができるだろう。
 だが、刻んだルーンとて別段の効力もなく、宝具はおろか護符アミュレット程度の効果も期待できない。どこぞの王の鞘のような霊験灼かな見目もしておらず、聖遺物のように連綿に管理が続くようなものには思えない。
 なにせオレ自身、今の今まで自分の耳になんの飾りもついていないことに、一つも違和感を覚えなかった。
 本当に、その程度のものなのだ。
「……こんなもんを、後生大事に二千年もねえ」
 呆れるような、感心するような。なんとも言えない苦笑いが浮かぶ。
 管理がよかったためにか傷んではいないが、これが随分と長い時を過ごしてきたというのは手に取ればわかった。この二〇〇四年にまでこれを大切に引き継いで、この冬木にまで持ち込んだ誰かが確かにいたのだろう。

 耳につければ、不思議と慣れた重みに感じられた。だけどそれだけで、魔術的にはやはりなんの効果も発動しない。
 しかし、これが触媒だというアーチャーの推測は正しかった。
 最後の歯車が嵌まった感覚に思わず空を見上げる。
 今ならば、聖杯戦争ただ中の冬木に辿り着くことができるだろう。妖精の園から端を発した壮大な根回しが、これでようやくはじめられる。


 そうと決まれば善は急げ。オレはさっさと杖を振るって階段・・を作った。
 もちろん概念的なもので、機能としては門の方が相応しかろうが、オレの目指す世界は今いるここよりも〝上〟にある。魔術的に符号を一致させるには、階段なり梯子なり昇降機なり、〝上る〟ものであった方がいい。
 遙か天上にまで伸びる階段を見上げつつ、礼くらいは言った方がいいだろうなと、口を挟まずオレの出立を見守ろうとしていたアーチャーに目を向ける。
「あー、なんだ。色々助かったぜ」
「それは何より。私も大怪獣がさっさといなくなってくれそうで一安心だ」
「けっ、かわいくねえヤツ」
 礼くらい素直に受け取れよな。
 ていうか、これだけ霊基を改造したんだからもう怪獣じゃねえだろ。……ねえよな?
 我ながら劇的なビフォーアフターを遂げたと自負するくらいに精一杯に能力を削ぎ落としたのだ。これでも駄目なら打つ手がない。
 ちょっと心配になって自分の体を再確認していると、アーチャーが笑って「すまない、言葉の綾だ。ヘラクレスが通るのだから、今の君なら大丈夫だろう」とお墨付きをくれた。
「……わかりにくいこと言うなよ」
「言い方が悪かったのは認めるが、最初の君の登場の仕方は本当に心臓に悪かった。その意趣返しくらい見逃してくれ」
 言われて、努めて意識しないようにしているこの男の正体についての好奇心が、またむくむくと湧き上がる。
 アーチャーを名乗ってこそいるが、男の存在はサーヴァント――記録帯ライナーから落ちた影であり、そもそもが本体からは弱体化している――と比べてもなお、比較にならないくらいに弱々しい。
 本人がここを塵と灰の街だと例えたが、この言い回しは本質をついているのだと思う。
 生木に無理矢理に火を付けて燃やしに燃やし、最後に残った木の形をしただけの灰の塊――ほんのひと突き、風の一吹きで瓦解しそうなほどの力しか感じられないのだ。
 ここまでくると、よくこれで自然崩壊せずに存在を保って活動できるものだと一周回った感心を覚えるくらいであった。
「お前さんはこんなところで一人で、一体何が目的なんだ?」
 どうも芸術的なバランスと本人の忍耐強さに依って存在を維持しているらしいが、そこまでして現界を続けて何をしているかと言うと、この誰も何もいない街の守人だ。
 オレが来たのは事故みたいなもので、そうでない限り無人のこの地で、なんのために一人留まっているのだろう。
「……昔から、ガラクタいじりが趣味でね。もう無価値に思えるジャンク品でも、丁寧に手を加えれば意外と、また動き出したりするものだ。
 まあ、つまるところはただの個人的な嗜好だな。誓って何の企みもしていないさ」
「別にそこを疑ってるんじゃないがよ……」
 決まりが悪く、口を尖らせる。最初はともかく、二度も世話になった手前、彼の暗躍を疑っているわけではない。
「どうでもいいだろう、私の狙いも正体も。どうせ放っておいても、君が本当に目指すところへ辿り着いたなら、私が何者かなど勝手に明らかになる」
「お前の口ぶりからしてそうなんだろうがよ。オレはここのコトを忘れるんだから、今わからなきゃ意味ねえだろうが」
 言うと、アーチャーはきょとんと目を丸くした。
 ずっと訳知り顔な男だったので、こういう無防備さを目にするのは初めてだ。こうしてみると、存外に年若そうな顔をしている。
「……馬鹿な男だな。忘れるからこそ、今わかっても意味がないだろう」
 そうぼやいた男の口ぶりは、台詞とは裏腹に僅かな柔らかさが滲んでいた。
 だけどやはり、口を割る気はないらしい。
 フン、と鼻を鳴らして視線を逸らす。こうなりゃ意地だ、なんとかしてちょっとだけでもここの記憶を持ち帰れるように、この階段を登りきってみせるしかない。

 忘却補正のスキルが生えてこないかと無益なことを考えつつ、一気に駆け上がろうと足首を回したりと準備体操をしながら、「そういえば」と思いつく。
「触媒がなけりゃあ来られないほど縁が薄いなら、なんでオレはここには来れたんだ?」
 そりゃあ冬木を目指して飛んだが、この耳飾りのなかった当初、多少ずれているとは言えこうして冬木の異相帯に辿り着いたのは今思えば奇跡に近い。勝率一割どころかゼロコンマパーセントの確率だろう。
 大神の後押しがあったとは言え、すでにかなりの無理筋を通しているところ、まだこんな都合のいい奇跡をたぐり寄せられるものだろうか。
 今更ながらに首を傾げてみれば、アーチャーも一度は同じく首を傾げたが、少しすると「なるほど」と何やら一人頷いている。
「出たとこ勝負と思っていたが、意外と考えられた計画だったのかも知れないな」
「……なんだよ、計画って。縁がないって言ったのはテメエの方だろ」
「君が求める聖杯戦争に対して言えば、そうだ。だが君がここに来たのは、ここに私がいたからだろう」
「…………?」
 私、と言ってアーチャーは自分の左胸を指している。
 はあ? と思わず顔が引き攣った。オレはコイツのことを何も知らないのに、召喚の縁にまでなったとか怖すぎる。
「――いや、お前はオレのなんなんだよ」
 半ば呆然と零したオレに弓兵はおかしそうに口を開けて笑ったが、やはり、何も教えてくれることはなかった。


     了/あるいは、特異点へ

Comments

  • なぎさん
    Jan 7th
  • reina
    December 24, 2025
  • 桃瀬
    December 20, 2025
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