「役に立つバカ」ーー「正義感」があなたを操る?SNS時代そうならない方法
「自分はしっかりと情報を集め、正しい判断をしている」という甘い考え
そう自信を持っている人ほど、実は誰かの掌の上で踊らされているかもしれません。
「役に立つバカ(Useful idiot)」という言葉をご存知でしょうか。
最近この言葉が、政治系ニュースや言論の中で踊る日が増えてきました。字面だけ見るとただの強烈な悪口に思えますが、これは政治や情報戦の歴史において、非常に重要な意味を持ってきた言葉です。
そして、現代のSNS社会において、私たちはいつでも、そしていとも簡単に、この「役に立つバカ」に転落してしまう危険性を孕んでいます。
今回は、この言葉の歴史を紐解きながら、私たちが無自覚に「誰かの養分」にならないための思考法について考えていきたいと思います。
「役に立つバカ」のはじまり
この言葉の起源は、冷戦時代のソビエト連邦に遡ります(ウラジーミル・レーニンの言葉だという説が有名ですが、確たる証拠はないとも)。
当時、西側諸国(資本主義陣営)には、政府の方向性に反対する、平和運動や反戦運動に熱心な知識人たちが多くいました。彼らは純粋な正義感から自国の政策を批判していたのですが、ソ連側から見れば、「勝手に西側社会を内側から混乱させてくれる、非常に都合の良い存在」でした。
つまり「役に立つバカ」とは、「本人は独立した思考と良心に基づいて行動しているつもりだが、無自覚のうちに特定の勢力に利用され、その利益に貢献してしまっている人々」を指す言葉とされています。
ここで重要なのは、彼らが決して「ただのバカ」ではなかったということ。むしろ、知性が高く、社会問題に関心を持ち、世界を良くしようという「善意」を持っていた人々……。だからこそ、巧妙に結果的に利用されてしまったのです。
SNSは「役に立つバカ」の大量生産工場
現在の日本、とりわけXを初めとするSNS空間を見渡すと、この「役に立つバカ」がかつてない規模で大量生産されているな……と思う人も多いはず。
例えば、誰かの失言や不祥事に対する大炎上。あるいは、特定の政治家やマイノリティに対する過激なバッシング。 こういった話題を見つけた時、「許せない!」「みんなに知らせなきゃ!」という義憤に駆られて、引用リポストや「いいね」を押してしまう……。あなたは「一度もそんなことはない」といい切れますかね?
しかし、そのあなたの「正義の指」は、本当に社会を良くしているといえるでしょうか?
現代のSNSにおいて、最も価値のある通貨は「アテンション(関心)」です。インプレッションを稼ぐことで収益を得る人々や、社会の分断を煽ることで支持を集めたい極端な政治勢力にとって、あなたの「怒り」や「正義感」は最高の燃料になります。このタイプの手法は、よく見られるようになりましたね。さらに加速している気もしますが。
彼らは、わざと炎上するような極端な意見やフェイクニュースを流し、私たちが怒りに任せて拡散してくれるのを待っています。私たちが「こいつはなんて酷いんだ!」と批判すればするほど、結果的に彼らのインプレッションを稼がせ、彼らのメッセージをより遠くまで届ける「拡声器」になってしまっている。無自覚に。そして操作された正義のために。
まさに、現代版「役に立つバカ」の完成です。
なぜ、いとも簡単に操られてしまうのか?
「自分はリテラシーが高いから騙されない」と思っている人ほど、実は危ういと考えています。
なぜなら、俺たちが利用されるのは「情報が足りないから」ではなく、「感情をハックされているから」。
人間は、自分の価値観や正義感に合致する情報(=確証バイアス)、特に「共通の敵」を叩くような情報に触れた時、脳内で快楽物質が分泌され、強い快感を覚えます。SNSのアルゴリズムは、この人間のバグを熟知しており、それを最大限に利用して、あなたが最も「気持ちよく怒れる」そして「責任を追う必要がない安全な」情報を次々とタイムラインに運んできます。そういう「快感を簡単に得られる価値ある情報」ばかりを選び、その手のエサを与えてくれるアカウントばかりをフォローしてたとしたら……
「自分は正しいことをしている」という自己効力感と、「悪い奴を罰している」という快感。この2つが合わさった時、驚くほど簡単に思考停止に陥り、特定の誰かのシナリオ通りに勝手に暴れ回ってくれる「フライングモンキー」になり下がってしまうってわけです。
「正義の怒り」を感じた時こそ立ち止まる
では、私たちが「役に立つバカ」にならないためには、どうすればいいのか? ニュースの裏取りをする?ファクトチェックのサイトを見る?
もちろんそれも大切ですが、私はもっと手前にある、非常にシンプルなルールを提案したいなと思います。
それは、「自分が強い怒りや正義感(義憤)を感じた時ほど、一度スマホから手を離す」というアナログなことです。物理的に出来なくすればいいのかなと。タメになる動画を見て時間を潰すほうがよほど生産的です。
タイムラインを眺めていて、「これは許せない!」「絶対に間違っている!」と血圧が上がるのを感じたら、それは赤信号。
誰かが意図的にあなたの感情を揺さぶり、利用しようとしている可能性を疑いましょう。だいたいその直感は当たってるから。
手法として考えてみます。
何かを発信する前に、以下の3つを自分に問いかけてみましょう。
この情報を拡散して、最も得をするのは誰?
今、「正義感」という名の快感に酔っていない?
この行動は、本当に問題の解決に繋がる?
自分の頭で考えることの本当の意味
「役に立つバカ」の対義語は、「何もしない傍観者」ではないと考えます。
「自分の感情の動きを客観視し、行動の結果を想像できる、本当の意味で独立した個人」
ではないでしょうか。
世の中の不正に対して声を上げること自体は尊い行為だと思います。だけど、その声が誰かの用意したフィルターを通したものだったり、気づかないうちに誰かのビジネスや悪意に加担しているのだとしたら……
こんなに無駄で悔しくて不本意なことはないですよね。
現代の複雑な情報社会を生き抜くための最強の盾は、「情報を見極める目」以上に、「自分の感性や感情を今一度疑う冷静さ」ではないかと考えます。
あなたのタイムラインに流れてくる「怒り」の火種に、あなたは燃料を注ぎますか?それとも、静かにスルーする強さを持ちますか? 選択権は、いつでもあなたの指先ひとつ。
最後までご覧いただきありがとうございました。



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