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Vol.574「雑誌文化の終わり~ネット戦略」

(2026.5.12)

【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…「雑誌文化」は終焉を迎えている。時代を作ってきた数々の有名雑誌が部数をどんどん減らしていき、休刊(廃刊)に追い込まれていっている。もう雑誌文化は終わる。それでも表現を続けたければ、そのためのインフラを自分で作るしかない。そもそも「雑誌文化の終わり」とは、ただ紙の雑誌がなくなるというような単純な話ではない。雑誌文化とは、編集者が作り上げたある雑誌を読者が定期的に買い、同じ時代感覚を共有し、広告と流通がそれを支え、そこから流行・作家・思想・漫画・ファッション、そして読者共同体までが生まれるという、非常によくできた20世紀の文化装置だったのだ。「雑誌文化」というものが根こそぎ消滅するということの深刻さを、どれだけの人が意識しているだろうか?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…今年1月の「ゴー宣道場」に晴れ着で参加したことがきっかけで、かれこれ半年間、着物の着付けを習ったのだが、気づけば食事に出かけるぐらいのことは難なくできるようになっていた。着物を着ると、なぜか控えめで澄ました表情になり、いかにも慎ましやかに視線を下げて、手指など揃えて “おしとやかな女性”を演出してしまう。この《楚々とした私》はどこからやってきたのだろうか?着物の歴史を辿ってみると、意外なことがわかってきた。現代の「正しく、美しく、適切に」着こなすための「ルールの重ね着」のような着物とは違う「着物の姿」とは?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…40代のおっさんが少女マンガを読むのはおかしい?いつか男子もスカートを選ぶ日が来る?先生の考える「バカ」とは、一言で言うとしたならどんな人間のこと?今後、単行本の発売はどうなる?史実と違う、全くの創作の大河ドラマの展開はアリだと思う?中道の中の尊皇派議員は立憲に戻るべきでは?…等々、よしりんの回答や如何に!?


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1. ゴーマニズム宣言・第603回「雑誌文化の終わり~ネット戦略」

 SPA!のゴールデンウイーク合併号の値段が770円だったと聞いて、驚いた。
 でもおそらく、扶桑社としてはそれでもそんなに収益は出ていないはずだ。何しろ部数が少なすぎる。もはやギリギリまで追い込まれているのだろう。
 もう雑誌文化は終わる。それでも表現を続けたければ、そのためのインフラを自分で作るしかない。

 そもそも「雑誌文化の終わり」とは、ただ紙の雑誌がなくなるというような単純な話ではない。
 雑誌文化とは、編集者が作り上げたある雑誌を読者が定期的に買い、同じ時代感覚を共有し、広告と流通がそれを支え、そこから流行・作家・思想・漫画・ファッション、そして読者共同体までが生まれるという、非常によくできた20世紀の文化装置だったのだ。
 アナログレコードが完全に絶滅してはいないのと同じように、紙の雑誌自体は今後も細々と残ってはいくだろう。だが、問題はそこではない。
 重大なのは、「雑誌文化」というものが根こそぎ消滅するということだ。だがその深刻さを意識している人は、そんなに多くはない。

 そもそも雑誌とは、単なる「情報商品」ではなかった。
 雑誌は流行を発生させて社会を活性化する媒体であり作家・漫画家・評論家・写真家・編集者などを輩出する登竜門であり、出版社にとっては収益の柱であり読者にとっては様々な文化に目を向ける入り口だったのである。
 例えば週刊誌はニュースとスキャンダルを、漫画雑誌は娯楽と若者文化を、女性誌はファッションや恋愛観を、文芸誌は作家の評価を、思想誌・論壇誌は政治や社会への見方を発信していた。
 読者は雑誌を読むことで「いま何が流行っているか」「どの作家が面白いか」「どんな服を着るべきか」「どんな考え方が新しいか」を知った。
 もちろんそこには情報を恣意的に操作しうるといった弊害もあったのだが、「価値」が作られていたということの意味は決して軽視できない。
 また、かつて雑誌には強い時間支配力があった
 毎週何曜に出る、毎月何日に出る、創刊号を買う、特集を待つ、連載の続きを待つ等々、読者の生活リズムの中に雑誌の発売日が組み込まれていた。
 週刊少年ジャンプの発売は毎週月曜日だが、どこそこのコンビニは日曜の深夜に雑誌が到着したらすぐに並べるとかいって、ほんの数時間フライングして読むために、真夜中に走り回っていた読者も大勢いたのである。

 雑誌が衰退していった理由は、単に読者が活字を読まなくなったというだけのことではない。むしろ大きいのは、やっぱりネットの出現である。
 週刊誌が担っていたニュース報道や速報性は、ネットのニュースサイト、SNS、動画配信などに取って代わられた。
 ファッション雑誌が担っていた流行の紹介やファッションの提案は、ネットのインフルエンサーに取って代わられた。
 カタログ雑誌が担っていた新商品や優良な商品の紹介は、ネットショップ、レビューサイト、検索広告に取って代わられた。
 アイドル・芸能雑誌が担っていた情報発信は、公式SNSやファンクラブの配信で十分になった。
 漫画や連載小説は、電子コミックやWeb小説に移行した。
 批評や論説に至っては、ブログ・メルマガや動画で誰でもできるようになってしまった。その質はともかくとして。

 こうなると一見、雑誌がなくても何の支障もないように思える。
 だが、ここには大きな問題がある。
 雑誌は、編集者が形成するひとつの「世界」だったのだ。
 編集者は、何を載せ何を載せないかを決める。新人を発掘する。特集の切り口を作る。読者の少し先を読む。誌面の順番、写真、タイトル、余白、表紙、連載陣を組み合わせる。
 そうして一冊の「世界観」を作っていたのが雑誌であり、読者は単に情報を仕入れるためだけではなく、その世界観を共有したくて雑誌を買っていたのである
 ところが現在のデジタル空間では、読者は記事単位、投稿単位、動画単位で情報に接する。
 情報はジャンルごと、個人ごと、アルゴリズムごとにバラバラに分散していて、読者はスマホ上で、自分に最適化された情報の断片を次々に見ることになる。
 そこには雑誌全体を通して読ませるような構成力や世界観はなく、ただ検索に強い見出し、SNSで拡散される一文、短い動画、アルゴリズムに拾われる話題性を重視した、情報のカケラが氾濫しているだけなのだ。

 雑誌は単に「情報」を売っていたのではなく、ひとつの「世界」や「価値」を作りあげ、読者の行動様式までも牽引していた。
 代表的な例は60年代後半の全共闘世代の若者を象徴する流行語「右手にジャーナル、左手にマガジン」だ。
 当時の若者は硬派な政治・思想雑誌『朝日ジャーナル』と、漫画表現を革新していた『週刊少年マガジン』を同時に読んでいた。このフレーズは「思想」と「娯楽」が別々のものではなく、同じ若者文化の両輪となっていたことを表していたのだ
 70年代にはファッション雑誌『anan』『non-no』から生まれた「アンノン族」が流行った。両誌が旅行ガイド、ファッション、写真、ライフスタイルを結びつけ、「女性が自分の感性で旅をする」という行動様式を作り、これに触発された若い女性が一人旅や少人数旅行に出るという、それまでになかった行動を起こすようになったのだった。
 雑誌が世界観を作り上げ、読者がそれに呼応していくというパターンは特にファッションやサブカルの分野で80年代以降も相次いだ。「Hanako族」を生んだ『Hanako』、「オリーブ少女」を生んだ『Olive』をはじめ、アメリカンなシティーボーイ文化を提唱した『POPEYE』、エンタメ文化の発信地となった『ぴあ』、サブカル文化の入り口になった『宝島』から、「コギャル」ブームを作った『egg』まで、その例は枚挙にいとまがない。

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