大きく溜息をつき、
そろそろ潮時だな、と思った。
人理修復後、俺こと藤丸立香の扱いは
思っていたものより全然良かった。
人体実験とか、そんなことをされるのかな、と思っていたのだが。
魔術協会は“藤丸立香”への対処について暫く悩んだ末、保留という曖昧な結末をだした。
ただ、レイシフト適性が100%なだけの素人が、選ばれたほかの優秀な魔術師を押しのけ、数々のサーヴァントを召喚し、使役しているという現実は魔術協会のプライドが許せないらしい。
素人なままなのはいかなものなのか。という魔術協会の上の人達の意向で1年間、俺に時計塔で徹底的に魔術やらなんやらを学ばせる事にしたらしい。
それ自体は別に良かった。元々はなにも知らす、日本の東京で平凡に人生を過ごしていた俺は、魔術という非現実的なソレに知識欲を常に刺激されていたし、人理修復中も特異点を探してる合間や、たまの休みにはカルデアの図書室やらサーヴァントから魔術を学んでいた。
キャスターのクーフーリンにルーン魔術について教えて欲しいとねだっていたのは日常茶飯事だし、賢王の方の王様やらダヴィンチちゃんやら色々な人に教えて貰っていたくらいだ。時計塔で勉強をする、というのは俺にとって嬉しい事だった。
しかし、俺が時計塔に行く、という事は新しい特異点が現れた時の場合の対処ができないという大きな問題があった。
それに対し魔術協会は優秀な俺の代わり、つまりは新たなマスターを数人カルデアに送るといってきた。
これが目的だったのだろう。俺に拒否権はなく軽く100以上いた俺と仮契約していたサーヴァントとの絆は簡単に切られてしまった。
俺の左手にはもうあの赤いサーヴァント達との絆の印はない。そんな事実を認めたくなくて、1年間ただただ書物を漁り、勉強に明け暮れた。
最初は素人の俺をみる冷やかしの目も
多く、ぼそぼそと、時に聞こえるように悪口やらなんやら言われたものだが、ただただ勉強をする俺を見て自分達とさほど変わらないということが分かったのか、時計塔で半年も過ごすと、学友というものもできたし、悪口も言われなく、友好的になった。
実際、1年間でほかの魔術師に引けをとらない知識や技術を身につけることができた。
そしてカルデアに帰った俺に待っていたものは、耐え難いものだった。
1年ぶりにカルデアに戻った俺が見た光景は、
俺以外の人間をマスターと呼ぶ、愛しい愛しい俺のサーヴァント達。いや、俺のサーヴァントだった、英霊達。
ロビンはフードを外して相変わらずの美しい顔で新たなマスターと仲良く喋っていた。
エミヤは新たなマスターに自慢の手料理を振舞っていた。クーフーリンも、アステリオスも、エウリュアレも、
エリザベートも、ネロも、アンデルセンも、ベディヴィエールを初めとする円卓の騎士達も。みんな、みんなみんな。
俺の中の何かが急速に色を無くしていく。
音を無くしていく。体が冷たくなる感覚を覚えた。
帰った俺にいち早く気づいて近づいてきたマシュでさえ、俺に気づくまで、ほかのマスター達と話していた。
自分の中にこんな醜い感情があるとは思わなかった。皆と会えればそれでいいと、そう思っていたのだ。
「おかえりなさい、先輩。
先輩?先輩!顔色が優れないようです、体調が悪いのでしょうか??大丈夫ですか、今すぐダヴィンチちゃんに…」
優しい後輩は変わらない。
それをしっている。マシュが俺に気づいた事でほかのサーヴァント達も俺に気づいたらしく、
わらわらと集まってくる
「よぉ坊主。久々に帰ってきたっていうのに嬢ちゃんの言う通り顔がひでぇぞ?」
「どうしたのよ?」
皆心配してくれている。分かっている。皆は変わらず俺に接してくれる。でも俺は、みんなとはもう関係ない、一般人だ。
でもそれを口に出すのは良くない気がした。
ここでそれを言えば全てが終わる気がした。だから俺は、体に力を言われて、顔の筋肉を動かした。
「みんな、久しぶり。顔、そんなに酷い?疲れちゃったのかな。後でダヴィンチちゃんのとこ行ってくるよ。
そういえばオルタとか王様達はいないの?」
うまく、笑えていただろうか。いや、笑えていたはずだ。
時計塔での生活である程度の狡さを俺は覚えた。面白くなくても笑わなければいけない機会はいくらでもあったし、笑顔を作るのにもなれた。
「…ギルガメッシュ王や、エクストラクラス、バーサーカーの方々や一部のサーヴァントの方々は座に還ってしまわれました。ほかのマスターたちが何度も召喚を試みたのですが、全て失敗に終わり…」
そうか。そうなのか。王様やエドモン、オルタはだれのものでもないんだ。
じわじわと嬉しさがこみ上げてくる。
ふと、強い視線を感じた。
今のマスター達だ。時計塔で最初に感じたような嫌な雰囲気でこちらをみてくる。
あぁ、俺が邪魔なんだな。と思う。
思わず笑いがこみあげてきて、ふはっと笑ってしまう。それをみて不思議そうな顔でこちらをみてくる英霊達。
俺は新たなマスター達の方に近寄っていった。
「やぁ、こんにちは。初めまして。藤丸立香です。よろしくね、仲良くしようね!」と、満面の笑みで言った。
そんな俺を奇妙な目で見てくるマスター達。
あぁ、無視か。酷いなぁ。
まぁ、いいや。やることをやってしまおう。
「せ、先輩!どちらに?」
後ろから焦った後輩の声が聞こえてくる。
「ん〜?座に還っちゃった人達呼びに〜。」
さらに後ろのマスターから声が上がる。
「はぁ?この1年間俺達がどれだけ手を尽くしてもこなかったのにくるわけがないだろう!」1人がそう言うとそうだそうだ、とほかのマスターからも声があがる。
可笑しくて可笑しくて、つい振り返って言ってしまった。
「そりゃあね?あの人たちは俺の。俺だけのサーヴァントだから。君たちなんかに呼ばれちゃあ困るし呼ばせないよ。」
嗚呼、俺は笑えていただろうか。