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【FGO】彼はただの一般人であるからこそ/Novel by おへび

【FGO】彼はただの一般人であるからこそ

6,574 character(s)13 mins

※前アカウントに置いていたものの再掲です。

守るべき有象無象の具現体だからこそ、多くのサーヴァントが彼の元に集うのかもしれない。というなんかそんな小説のような何か。エミヤとクーちゃん(キャスター)とぐだ男しかでてきません。ちょっと鯖ぐだ要素的なものがあるかもしれない。

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 人理修復。見慣れた漢字で書いてしまえばたった四文字のこの言葉は重い。レイシフトの合間の休息の時間に自室にと割り当てられた白い部屋に戻り、寝台に寝転がってこの四文字を思い浮かべると、仰向けになったこの胸の上に重石が乗せられたように胸が苦しくなる。平凡な自分にそんなことができるのか?否、やらねばならないのだ。やれるかどうかの可能性の段階の論議の機会は自分には存在しないのだ。
 考え出すと必ずたどり着くこの結論が、重石の上にあぐらをかいて座り込み、寝転がった自分をニヤニヤと笑ってくる。少し身じろぎなんかして、重みの位置を変えて、あの手この手で自分の呼吸を詰まらせる。戦っている間は生き抜くことに精一杯で考えなくていいからなのか、こういう「何も無い」時間になると「俺を忘れるな」とばかりにのしかかってくるのだ。

「忘れさせてくれよ」

 白い天井に軽薄な笑みを幻視しながら呟くと、笑みは天井に刻まれた。どうやら去るつもりは毛頭ないらしい。お前が計画を完成させるか、道半ばで倒れるまで、俺はお前に張り付くぞ。そんな声が聞こえた気がした。幻覚は視覚だけで腹一杯だというのに。

「はぁ…」

 少しでも呼吸を楽にしたくて思わず重たいため息を吐く。こんな時に近くにあの白い毛玉が居ればちょっと遊んで気を紛らわせることもできるのに、今日は生憎不在だった。たぶんマシュの方に遊びに行っているのだろう。そのマシュはというと、所謂女子会というやつを催すらしい女性サーヴァント達に連れられてどこかに行ってしまっている。こういう時くらいしか彼女の羽を伸ばさせてあげられないので、諸手を挙げて送り出したのは、はて何時間前のことだっただろうか。

(…ほんとは、ほんとうは、ほんとに、こんなことで、悩んではいけないって、わかっているのだけど)

 世界を救えるのか。英雄達を従えて、理の外側から蟻でも潰すように簡単に生命の存在ごと消し去れる相手と、戦えるのか。そんないかなる英雄よりもたいそれたことを、この自分ができるのか。何もない時間にこそ幻覚がしつこく問いかけてくる。自分の心が問いかけてくる。
 わかっているのだ、そうやって問う声が無いことの方が危ういと。己を盲信した末にあるものが悲惨な末路と願わぬ結果であることを、レイシフト先でいくつも見てきたからわかるのだ。これが背負わなければいけない重みと耐えなければいけない苦しみであることだというのはわかるのだ。大事を為さんとする者が背負う十字架であることは、重々承知しているのだ。
 けれど時々。本当に時々、逃げたくなる。だから小さな逃避として、天井の笑みを見ないためにぎゅっと目をつむり、頭が痛くなるほどきつく耳を押さえてみた。けれどそんな行動についてすら、子どもでもやらない幼稚な逃避だな、と心のどこかで嗤う声が聞こえてきた。
 それすらも聞きたくなくて痛みで幻聴をかき消したくて、さらに強くこめかみを押さえていたから、部屋に入ってきた者に気付かなかったんだろう。

「マスター!?」
「おいっ!?」

 耳を押さえる手に誰かの手が触れる。そのまま掴まれ、耳から引き剥がされる。思わず目を開くと、自分の目の前に顔面蒼白になった顔が二つあった。いや、正確に言うと蒼白な顔と褐色の顔が一つずつあった。白い方がケルトがルーツの戦士クー・フーリン(キャスターの方だ)で、褐色の方が自分の出自をはぐらかし続ける不思議な英霊エミヤだ。

「どうした、何か見えたのか。何があった」
「変な気配はねぇが…」

 自分の手を掴んだのはエミヤの方らしい。褐色の両手がすぐに自分の手を離し、額や首筋をぺたぺたと触り出す。熱がないか、脈は正常か、魔術回路に不調があるのか。思いつく限りのことを調べているのだろう。クー・フーリンはというといつもは不満そうに持っている杖を油断なく構え部屋のあちこちを見ていた。四隅とか、そういう魔術的な意味を持ちやすいところを重点的に。
 この二人は因縁のようなものがあるらしく仲が悪い。…ようにみせかけて、結構息が合っている、というのはこのカルデアの職員とサーヴァント達の共通認識である。当人達に言いでもしたら大変なことになりそうだから誰も言わないけれど。

「あ、ああ、ごめん、大丈夫」
「変な嘘をつくんじゃない。酷い顔をしているぞ」

 緩く首を振るとエミヤにぴしゃりと言われてしまった。彼に隠し事はできない。というか、契約しているサーヴァント達に隠し事はできない。自分の体の中にあるという魔術回路が彼らとの繋がりをある意味物理的に構築しているからか、こちらの調子が彼らにも少しばかり伝わってしまうらしいのだ。魔力と一緒に。

「君の魔力がぶれている。ここには敵は侵入できないはずなのに、一体何があったんだ」
「いや、ほんと、敵とかそういうのじゃないから…エミヤ達が心配するようなことじゃ、ないから」

 首を振って答えてもエミヤは納得しなかった。元々難しい表情を浮かべることの多い顔の眉間に皺を刻んでこちらをじっと見つめてくる。そんな彼の表情を見てると、ふと実家の母のことを思い出した。小学校の頃、帰り道で転んで泣いて涙を拭って帰ったら、こんな顔をして問い詰めてきたっけなぁ。元気かなぁ。

 ――いや、今は存在していないのか。

 このカルデアは擬似的特異点状態で、この施設の外の現代は焼却されて人類は生存していない。そしてその人類に、僕がこの十数年で会ってきた人達は皆含まれる。友も、バイト仲間も、家族すらも。人助けに行ってくる、と登山用具を背にして家を出た僕を、あきれ顔で、でも嬉しそうに頼もしそうに見送ってくれた母は、いないのだ。

「…っ」

 言葉が心の中で紡がれきった瞬間、視界が歪んだ。涙のせいだ、と気付いた瞬間、涙が溢れ、頬を伝って服の上に落ちた。

「……アーチャァアア!?」
「うおっ!?わ、私は何もしていないぞ!?」

 いきなり泣き出した自分を丁度こちらを振り返ったクー・フーリンが見た。見て、僕が涙を流しているということを認識した瞬間、クー・フーリンは絶叫に近い叫び声を上げてエミヤに杖を構えた。エミヤは僕の涙に驚いたとほぼ同時にクー・フーリンの絶叫で彼が変な誤解をしていることをいち早く察し、僕から両手をパッと離してホールドアップの状態になってぶんぶんという音が聞こえそうなほど激しく首を横に振った。

「く、クーちゃん、落ち着いて」
「てめぇのマスター泣かされて落ち着いて居られるサーヴァントがいると思うか!?」
「ごもっともなんだけど違うからぁ!」

 涙をぽろぽろ流しながら、それでもクー・フーリンの杖にしがみついて必死に屋内での宝具発動を止めさせた僕は、えらいと思う。

Comments

  • 風呂敷
    August 11, 2022
  • たき

    素敵です!

    November 12, 2019
  • k1z3
    December 10, 2018
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