6ed938f5 No.3127
「——以上の理由により、本日付で解雇となります」
無機質な声が、真新しい社長室に響いた。
デスクの向こう側に座るのは、先代の急逝により二代目に就任したばかりの千斗(せんと)いすずだ。
二十代半ばの若さ、そして冷徹なまでの美貌。彼女が手にするタブレット端末には、私の三十年に及ぶ会社への貢献など、一文字も刻まれていないようだった。
「……千斗社長、私はこの会社の黎明期から……」
「過去の話は結構です」
いすずは視線を上げず、淡々と続けた。
「当社の新方針は『AIによる完全自動化と業務効率の極大化』。あなたのこれまでの業務は、昨日導入した最新のAIパッケージ一つで、コストを90%削減しつつ、精度は120%に向上しました。高い給料を払い続ける合理的な理由が見当たりません」
彼女の言う「年寄り」とは、経験値ではなく「コスト」の同義語だった。私を含めたベテラン勢は、新しい時代の波に、一瞬で飲み込まれ、吐き出された。
会社を追われた私を待っていたのは、安らぎの場であるはずの家庭の崩壊だった。
「ごめんなさい。でも、もう先が見えない生活は無理なの」
妻は娘を連れ、書き置き一つで家を出た。
住宅ローンと、プライドだけが残された空っぽの家。
世間は冷たい。
再就職先を探そうにも、AIに代替された元社員という肩書きは、まるで賞味期限切れのレッテルだった。
自暴自棄になり、夜な夜なネットの深淵を彷徨っていたある時、一つの怪しげな広告が目に留まった。
【人生のやり直し、承ります。魂の転写薬——『憑依薬』】
かつてなら鼻で笑っていただろう。
だが、今の私には失うものなど何一つなかった。
全財産を注ぎ込み、匿名配送で届いたのは、禍々しい紫色の液体が入った小さなアンプルだった。
復讐のターゲットは決まっている。
私の人生を「効率」という言葉で切り捨てた、あの女社長だ。
数週間後。
私は深夜、退職時に密かに返却し忘れていたセキュリティカードを使い、社長室へと忍び込んだ。
運命か、あるいはいすずの慢心か。
彼女は連日の強引な経営刷新による疲労からか、デスクに突っ伏して深く眠り込んでいた。
「千斗社長……いや、いすず。お前のその若さと立場、私が有効活用してやろう」
震える手でアンプルを開け、その液体を彼女の唇に、そして残りを自分の喉へと流し込む。
意識が、急激に剥がれ落ちていく感覚。
肉体が泥のように溶け、神経が引きちぎられるような激痛。
視界が白濁し、世界が反転する。
「あああああ……ッ!」
声にならない叫びを上げた瞬間、重力が逆転した。
静寂。
ふと目を開けると、視界の高さが変わっていた。
先ほどまで見上げていたデスクが、今は目の下にある。
自分の手を見る。
白く、細く、しなやかな指先。
顔を触れば、肌は吸い付くように滑らかで、ハリがある。
傍らには、かつての「私」であった老いた男の体が、魂を抜かれた抜け殻のように床に転がっている。
私はおもむろに立ち上がり、壁に掛けられた姿見の前に立った。
そこに映っていたのは、冷徹な美貌を誇る二代目社長、千斗いすずそのものだった。
「ふふ……あはははは!」
口から漏れたのは、鈴を転がすような、若々しく高い女の声。
だが、その瞳に宿っているのは、老醜と怨嗟を煮詰めた、どす黒い復讐の炎だ。
「さあ、始めよう。AIよりも、もっと効率的な『復讐』を」
千斗いすずの肉体を手に入れた私は、彼女が作り上げた最新鋭のシステムを、今度は自分が踏み台にするために、不敵な笑みを浮かべた。
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「……ふふ、本当に信じられない」
私は社長室にある大きな姿見の前で、自分の……いや、いすずの体を愛撫していた。
白く透き通るような肌、しなやかで均整の取れた肢体。かつての老いた肉体では想像もつかなかった、圧倒的な「若さ」の感触。
指先が秘部に触れるたび、いすずの体が甘い痺れに震える。
それは、男であった「私」がこれまで味わったことのない、鮮烈で溺れるような快感だった。
「いい……すごくいいぞ、これは……!」
快感は波のように押し寄せ、次第に私を飲み込んでいく。
理性が溶け、本能だけが残る。そして、絶頂の瞬間が訪れた。
その時だ。
視界が白く弾け、私の頭の中に、まるで古い映画のフィルムが早回しで流れるように、見知らぬ記憶が流れ込んできた。
それは、いすずの過去の記憶だった。
幼い頃の彼女は、優しく、社員思いの先代社長である父親を慕っていた。
しかし、成長するにつれ、彼女の中で何かが変わり始める。
「お父様、いつまでこんな古いやり方を続けるおつもり?」
記憶の中のいすずは、父に向かって冷ややかな視線を向けていた。
「今はIT化、AI化が主流です。無駄な人件費を削減し、効率を最優先しなければ、生き残れません」
父は困ったように笑いながらも、諭すように言った。
「いすず、会社は人だよ。社員がいてこその会社なんだ。効率だけが全てじゃない」
しかし、いすずは父の言葉を「古い」「時代遅れ」と一蹴した。彼女は心の中で、父の経営哲学を馬鹿にし、自分こそがこの会社を正しい方向へ導けるのだと信じ込んでいた。
「お父様のやり方は、甘すぎる。私が変えてみせる」
彼女の瞳には、かつての純粋な父への憧れはなく、ただ自分の正義を貫こうとする、頑なで冷徹な意志だけが宿っていた。
「そういうことか」
絶頂の余韻と、流れ込んできた記憶の衝撃。私は激しい息を吐きながら、社長室の革張りのチェアに座りなおした。
「説明書のとおりだ……絶頂とともに、宿主の記憶が手に入るとはな」
私はニヤリと笑った。
いすずの過去を知り、彼女への復讐心に、新たな燃料が注がれたのを感じた。
「父の優しさを『古い』と馬鹿にし、自分の浅薄な思い込みだけで、長年会社を支えてきた社員たちを切り捨てた……。傲慢で、独りよがりな、愚かな女」
当初は、この体を使って、彼女の築き上げた会社をめちゃくちゃにしてやるつもりだった。
しかし、それではあまりにも芸がない。
「復讐の方向を変えよう。いすずの人生を、俺が乗っ取って楽しませてもらうことにする」
私は鏡に映る自分……いすずの体を、冷ややかに見つめた。
「お前の理想とする『効率的な経営』とやらを、俺が体現してやる。ただし、それはお前の望んだ形とは、少し違うかもしれないがな」
いすずの記憶と、私の経験、そしてこの若く美しい肉体。これら全てを使い、私はこの会社を、いや、この世界を、私の思い通りに変えてみせる。
千斗いすずとして。
彼女が最も蔑んでいた「古い人間」の魂を宿した、新たな女王として。
「さあ、始めよう。本当の『人生のやり直し』を」
社長室には、彼女の……いや、私の、冷酷で艶やかな高笑いが響き渡った。
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床に転がっている、かつての「私」であった老人の体。
魂の抜けたその肉体は、もはや処理すべき粗大ゴミに過ぎない。
私は千斗いすずの冷徹な思考回路をフル回転させ、最短で最適な「嘘」を組み立てた。
私はわざと自分の服を乱し、社長室の備品をいくつか床に投げ捨てて、争ったような跡を作った。
そして、いすずの震える指先で内線電話を取り、警備員と警察へ通報した。
「助けて……解雇を言い渡した元社員が、逆上して刃物を持って……!」
数分後、騒ぎを聞きつけた警備員と警察官が部屋に踏み込んできた。
私はデスクの陰で膝を抱え、計算し尽くされた角度で肩を震わせる。
「……彼、急に倒れて。自暴自棄になって、毒を仰ったみたいなんです。私が止めようとしたのに……っ」
いすずの美貌と、完璧な被害者の演技。警察官たちは、床に転がる薄汚れた老人の遺体と、若く美しい若き社長の涙を交互に見て、疑う余地もなく「逆上した元社員による無理心中未遂と自決」というシナリオを信じ込んだ。
「千斗社長、災難でしたね。後のことは我々に任せて、今日はゆっくり休んでください」
現場検証が続く中、一人の男が血相を変えて社長室に飛び込んできた。
いすずの記憶にある、政略結婚の相手であり婚約者の青年実業家だ。
「いすず! 無事か!?」
彼は私を抱き寄せた。
男の太い腕に抱かれる不快感。
だが、私は瞬時に「いすず」として、彼の胸に顔を埋めて見せた。
「……怖かったわ。でも、あなたが来てくれたから、もう大丈夫」
顔は見せない。声のトーン、吐息の混じり方、すべてがいすずの記憶から引き出した「彼が好む女」の虚像だ。
彼は私の言葉に安堵し、より一層強く抱きしめてくる。
(ふん……チョロいものだ。この男の資産も、家柄も、すべて俺が食いつぶしてやる)
警察が「ゴミ」を運び出していくのを、私は婚約者の腕の中から冷ややかな目で見送った。
明日から、私は「千斗いすず」として、この美貌と権力、そして彼女の記憶のすべてを使い、最高の贅沢と悦楽に耽るのだ。
元・俺の死体。お疲れ様。
お前の未練は、この最高の肉体で、俺がすべて晴らしてやるよ。
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婚約者の過保護なまでの申し出を、「一人で落ち着く時間が欲しいの」という、いすず特有の凛とした、それでいて脆さを感じさせる口調で制した。
彼は名残惜しそうにしながらも、私の完璧な演技に満足して去っていった。
いすずが住む高級タワーマンション。
部屋に足を踏み入れると、そこには彼女の「効率」と「虚飾」を象徴するような、無機質で洗練された空間が広がっていた。
「……さて、ようやく一人か」
私は玄関からリビングへ向かう途中で、いすずが着ていた窮屈なスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。
続いてブラウスのボタンを一つずつ外し、床に落としていく。
かつて男だった頃には決して触れることのできなかった、上質なシルクの滑らかな感触が指先に残る。
スカートを蹴り脱ぎ、鏡の前に立つ。
そこにいたのは、部屋の照明を反射して艶やかに光る肌と、その肢体を鮮烈に縁取る深紅の下着を纏ったいすずだった。
「ほう、意外に情熱的な趣味をしているじゃないか」
冷徹な鉄の女、千斗いすず。
その内側に隠されていたのは、己の美しさと権力を誇示するかのような、挑発的な赤。
それは、まるで今日流された「私」の血と、これから私がこの街で巻き起こす混沌を予兆しているかのようだった。
私は鏡越しに、自分の新しい体をまじまじと見つめた。
引き締まったウエスト、豊かな曲線を描く胸元、そしてそれらを包む繊細なレース。
「いい。実にいい……」
指先で紅いレースの縁をなぞる。
かつての私は、この女の気まぐれ一つで人生を壊された。
だが今は、彼女のすべてが俺の指先一つで、思いのままに動くのだ。
私はリビングのソファに深く腰掛け、窓の外に広がる東京の夜景を眺めた。
眼下に広がる無数の光の粒は、すべてが私の家畜であり、資源だ。
「さあ、いすず。お前の人生、骨の髄までしゃぶり尽くしてやるよ」
私は赤い下着に包まれた脚を組み、独り、勝利の美酒に酔いしれるように、暗い悦びに満ちた笑みを浮かべた。
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「ふぅ。まずは、このこびりついた『老人』の残り香を消さないとな」
私はリビングに脱ぎ捨てた赤い下着をそのままに、バスルームへと向かった。
いすずの記憶を辿れば、スイッチ一つで適温の湯が沸く。
タワーマンションとはいえ、風呂場自体は機能性を重視した、驚くほど「一般的」で無機質な空間だ。
だが、今の私にはそれがかえって好都合だった。
余計な装飾などいらない。この肉体そのものが、最高の贅沢なのだから。
服をすべて脱ぎ捨て、全裸で洗い場に立つ。
蛇口を捻り、シャワーを浴びた瞬間、私は思わず声を上げた。
「……っ! なんだ、この感覚は……!」
かつてのカサカサに乾燥し、感覚の鈍りきった老いた皮膚とは何もかもが違う。
水滴が肌を叩く衝撃が、ダイレクトに脳へと突き刺さるのだ。
弾力のある若い肌の上を、水が玉となって滑り落ちていく。
シャンプーやボディソープのボトルを手に取る。
いすずが愛用しているらしい、高価なアロマの香りが湯気と共に立ち上った。
「いい匂いだ。加齢臭に怯えていた日々が嘘みたいだ。花の蜜のような、甘くて、それでいて凛とした香り、これが『女』の匂いか」
念入りに体を洗う。指先が触れるたび、いすずの肉体は敏感に反応した。
「はは、面白い。ただ洗っているだけなのに、指が吸い付くようだ。あぁ、なんて滑らかで、柔らかい……」
ふと気づくと、下腹部の奥からじわじわと熱いものがせり上がってくるのを感じた。
無意識のうちに、体がいすずとしての本能的な昂ぶりを見せ始めている。
「おや。いすず、お前……こんなに感じやすい体だったのか?」
ふと視線を落とすと、豊かな胸の先端――淡い色をした乳首が、冷たい空気と水流の刺激で、石のように硬く尖っているのが見えた。
「へぇ。男の時とは大違いだ。ちょっと触れただけで、背筋に電気が走るみたいだぞ」
私はシャワーヘッドを手に取り、わざと水圧を強めた。
そして、その鋭い水流を、硬く尖った突起に直撃させる。
「あぁっ! くんっ、ふぁ……っ、あ、あ……」
口から漏れる声は、もう隠しようもなく艶めいている。
いすずの記憶を弄っても、彼女がこんな破廉恥な行為に耽った形跡はない。
彼女にとって体は「管理すべき資産」であり、愛でる対象ではなかったのだ。
「いいか、いすず。お前は知らないだろうが、世の中にはこういう『効率的な楽しみ方』もあるんだよ」
俺がかつて画面越しに見ていた、いわゆるエロビデオの知識。
それを、今この最高級の素材で実践する。
私はシャワーヘッドをさらに下げ、脚の間――太ももの付け根へと持っていった。
「ここに……こうして……あてるんだろ……?」
勢いよく噴き出す水流が、閉ざされた秘部を叩く。
「ひゃうんっ!? あ、あ、あぁぁぁ……ッ!!」
腰が勝手に跳ねた。
いすずの脳が、未体験の強烈な刺激にパニックを起こしているのがわかる。
だが、それがいい。脳が拒絶しても、肉体は歓喜に震えている。
「すごい……なんだこれ、めちゃくちゃ気持ちいい! 水流が、奥まで……解かしていくみたいだ……」
私はシャワーヘッドを握りしめ、水圧と温度を微調整しながら、最も敏感な場所を探り当てる。
「あ、そこっ、そこがいい! いすず、お前……今、最高に『非効率』なことしてるぞ……でも、止まらないんだろ?」
浴室に響き渡る水音と、女の嬌声。
鏡に映るいすずの顔は、苦悶と快楽が混ざり合い、これ以上ないほど淫らに歪んでいた。
「ふふ、あはは! 最高だ。会社も、立場も、この体も……全部俺のものだ。誰にも邪魔させない!」
私は、自分の、いや、いすずの肉体が奏でる未知のメロディに酔いしれながら、さらに深く、快楽の泥沼へと沈み込んでいった。
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「あ、あぁぁっ! すごい、これ、こんなの、初めてだ……ッ!」
バスルームに、いすずの高く澄んだ声が反響する。シャワーヘッドから放たれる、一点に集中した鋭い水流。
それが秘部の最も敏感な一点を叩くたび、脳髄まで痺れるような衝撃が走る。
いすずの記憶にはない、野生的な快感。
男だった頃の知識を「実践」としてこの肉体に刻み込む優越感。
「いすず……お前の体、最高だよ。あんなに冷徹な顔をして、中はこんなに熱くて、敏感なんだなっ」
私は自らの太ももを大きく割り、鏡に映る自分の姿を凝視した。
水しぶきで濡れそぼり、赤く上気した肌。苦しげに喘ぐたびに、豊かな胸が激しく上下する。
「もっと、もっと強くしてやる……。効率なんて無視して、ただ壊れるまで感じさせてやるよ!」
水圧を最大まで上げ、一点を攻め立てる。
「ひぎぃっ! あ、あぁぁぁ! いく、いっちゃうっ!!」
全身が硬直するほどの絶頂。
シャワーヘッドを握る指先にまで力が入り、私はその場にへたり込んだ。
視界が火花を散らし、心地よい脱力感が全身を支配する。
かつての老いた体では、絶頂の後はただ疲労が残るだけだった。
だが今は違う。細胞が歓喜し、次なる刺激を求めて脈打っているのがわかる。
「ふぅ。さて、仕上げといこうか」
私はシャワーを止め、たっぷりと溜まった湯船に身を沈めた。
一般的と言いつつも、一人で入るには十分すぎるほど広い浴槽。
温かな湯が、火照った肌を優しく包み込む。
記憶の海を潜り、彼女の「甘え方」をトレースする。
彼女は意外にも、婚約者の『進藤』との、二人きりの時だけは少しだけ幼い口調を混ぜる癖があった。
私はバスルームに響く自分の声を確認するように、独り言を漏らす。
「ねぇ、進藤さん。今日は本当に怖かったの。あなたがいてくれて、本当に良かった」
自分の声ながら、背筋がゾクっとするほど甘く、可憐だ。
「これじゃ足りないな。もっと、こう、男が守ってやりたくなるような……」
私は湯船の中で、自分の腕を抱きしめた。
「いすずは、あなたの前でだけは、ただの女の子になりたいの。社長なんて肩書き、今は忘れてもいい?」
私はニヤリと笑った。完璧だ。
次に彼と会う時、この演技で彼の心を完全に掌握し、その財産を意のままに操るための布石。私は湯船の中で、婚約者と密着しているシーンを想定して、さらなるセリフを試していく。
「進藤さんの手、大きくて……あったかい。ねぇ、もっと近くに来て。……ここ、洗ってくれる?」
自分の胸元をなぞりながら、艶然と微笑む。
「ふふ、驚いた? 普段は厳しい千斗いすずが、お風呂ではこんなに素直なんて……誰にも内緒だよ? 私のすべてを、あなたに預けてもいい?」
演技は次第にエスカレートし、私は独り、バスルームで「恋する乙女」を演じ続けた。
それは復讐のための訓練であり、同時に、この極上の肉体を手に入れた者だけが許される、最高の知的遊戯でもあった。
「いいぞ……いすず。お前の人生は、これから俺がもっとドラマチックに、もっと淫らに書き換えてやる」
私は湯船から立ち上がり、濡れた髪をかき上げた。
鏡の中のいすずは、もはや冷徹な女社長ではない。
復讐の炎と、飽くなき快楽への欲望に身を焦がす、美しき怪物へと変貌を遂げていた。
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風呂から上がり、軽くタオルで水分を拭った肌は、驚くほど吸い付くような潤いを湛えていた。
私はバスローブを羽織る間も惜しみ、いすずの広大なウォークインクローゼットへと足を踏み入れた。
そこは、まさに「欲望の宝物庫」だった。整然と並んだ高級ブランドの服の奥、引き出しを開けると、色とりどりのシルクやレースが、まるで標本のように美しく収納されている。
「さて、明日はどの『私』で出勤しようか」
私は手当たり次第に下着を手に取った。
まずは、記憶の中で彼女が大事な商談の日に好んで着ていた、漆黒の総レース。
「ほう。肌の白さが引き立つな。鏡の中の私は、まるでお高くとまった女王様だ」
身に着けては鏡の前でポーズを取り、すぐに脱ぎ捨てる。
次は、淡いラベンダー色のシルキーなセット。
「これは……少し可憐すぎるか。いや、この無垢な顔で冷徹な命令を下すのも、ゾクゾクするギャップがあっていい」
黒、紫、ベージュ、そして夜の街に溶け込みそうなネイビー。
私は何度も「はいては脱ぎ」を繰り返した。
男だった頃には決して分からなかった、ブラジャーのホックを掛ける際の胸の重みや、薄い布地が肌を撫でる官能的な摩擦。
そのたびに、いすずの肉体が喜びで震えるのが分かった。
「……結局、これか」
最後に戻ってきたのは、先ほどの深紅のセットに似たものだった。
私はそれを丁寧に身に着け、その上から、いすずが「リラックス用」として用意していた白のネグリジェを羽織った。
薄い上質な生地のネグリジェは、中の赤い下着をうっすらと透けさせている。
清廉潔白を装った白の奥に、燃えるような欲望の赤が隠れている――今の私の正体に、これほど相応しい装いはない。
「ふふ、これこそ『千斗いすず』の真実というわけだ」
姿見に映る自分は、どこか夢遊病者のように儚げで、同時に獲物を狙う獣のように獰猛だった。
「明日は、この格好で進藤を迎えようか。それとも、クビにした社員たちの絶望をこの服の下で笑ってやろうか……」
私はパジャマの裾を軽く翻し、いすずのふかふかのベッドに倒れ込んだ。
シーツの冷たさが、火照った肌に心地よい。
「おやすみ、いすず。お前の人生、想像以上に最高だぞ」
私は自分の細い指を唇に当て、闇に沈む部屋で、甘い勝利の余韻に浸りながら目を閉じた。
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カーテンの隙間から差し込む朝日が、私のまぶたを優しく叩いた。
ゆっくりと目を開け、無意識に体を伸ばすと、驚くほど軽やかに背筋が伸びた。
「あ、あぁ……」
漏れた声は、寝起きとは思えないほど艶やかで高い。
私は飛び起き、隣に寝ているはずの妻を探そうとして——ここが最高級マンションの寝室であることを思い出した。
「そうだ……俺は今、千斗いすずなんだ」
ベッドから抜け出し、鏡の前へ向かう。
寝乱れた白のネグリジェから覗く、昨晩のままの赤い下着。
そして何より、鏡に映る肌の輝きに息を呑んだ。
昨日の疲れなど微塵も感じさせない。目尻のシワも、重苦しい腰の痛みもない。
指先一つ動かすだけで、全身の細胞が「生きている」と叫んでいる。
これこそが「若さ」という名の特権。
かつての私が、どれほど金を積んでも手に入れられなかった奇跡だ。
「おはよう、いすず。今日も最高に美しいぞ」
私は鏡の中の自分にウィンクを投げかけ、コーヒーを淹れるためにキッチンへ向かった。
午前十時、社長室。
いすずの体に馴染んだ私は、デスクに足を投げ出し、最新のタブレット端末を操作していた。
私の目の前には、先日クビにしたばかりの「年寄り社員」たちのリストが表示されている。かつての私の同僚、そして、かつての「私」自身の名前もそこにある。
「さて、いすずのやり方なら、こいつらはゴミ箱行きだ。だが……」
私はニヤリと笑い、社長専用の高度な経営戦略AIを起動した。
「おい、AI。一つ提案だ。先日解雇したベテラン社員たちの『再雇用プラン』を策定しろ。条件は、彼らの『古い経験』と『若手の体力』を融合させ、会社のイメージをV字回復させるための戦略だ。もちろん、対外的には『多様性と経験の尊重』を謳った高度なマーケティング戦略として成立させろ」
AIの計算グラフが高速で明滅する。
本来、効率化だけを求めるなら「再雇用」などあり得ない。
だが、AIは入力されたパラメーターを元に、冷徹に「合理的な再雇用の理由」を弾き出した。
『分析完了。解雇した社員の再雇用による「ESG経営」の評価向上、及び、ベテラン層が持つ「AIには代替不可能な暗黙知」をデータベース化するコストは、新規採用コストを30%下回ります。また、元社員の自殺未遂というスキャンダルを「社長の慈悲による救済」というストーリーに変換することで、株価の5%上昇が見込めます』
「ははは! 素晴らしい! さすがは最新鋭のAI様だ」
私はタブレットを叩いた。
「採用だ。あの『死んだはずの老人』以外の全員に、復職の通知を送れ。役職はそのまま、ただし私の……いすずの忠実な犬としてな」
私は社長室の椅子に深く沈み込み、窓の外を見下ろした。
復讐の方向は完全に定まった。
会社をぶち壊すのではない。いすずが「古い」と切り捨てたものを、私がいすずの皮を被って「新しい価値」として再生させる。
社員たちは私を「心を入れ替えた慈悲深い名君」として崇めるだろう。
婚約者の進藤も、私の深みを増した経営哲学にさらに惚れ込むはずだ。
そして私は、その称賛と愛情、そしていすずの肉体がもたらすあらゆる悦楽を、骨の髄まで堪能してやる。
「みんな、喜ぶがいい。お前たちをクビにした冷酷な女社長は、もうどこにもいないんだからな」
私は赤い口紅を引き、完璧な「二代目社長・千斗いすず」の顔を作った。
今、この瞬間から、この会社も、社員の人生も、そして千斗いすずという一人の女の運命も、すべては私の指先一つで踊る、最高に贅沢な玩具に過ぎないのだ。
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月曜日の朝、私は千斗いすずとして、かつて自分を切り捨てたその会議室に堂々と足を踏み入れた。
居並ぶ役員たちは、就任早々リストラを強行した「氷の令嬢」の次なる一手に怯え、室内の空気は凍りついている。私は一番上座の椅子に深く腰掛け、いすずの記憶にある最も尊大な、それでいて理知的な笑みを浮かべた。
「皆さん、おはよう。今日は先日の人事整理について、アップデートがあります」
私はタブレットを操作し、AIが弾き出した「再雇用戦略」を大型モニターに投影した。
「先日解雇通知を出したベテラン社員たち……彼らを本日付で全員再雇用します。ただし、旧来の業務に戻すのではありません。彼らの長年の経験値を、我が社のAIエンジンに学習させる『ナレッジ・トランスファー・チーム』として再編成します。これこそが、私が目指す『人間とAIの真の融合』です」
役員たちは顔を見合わせた。
効率至上主義だったはずの社長の豹変に戸惑いながらも、AIが裏付ける「合理的数値」と、いすずの圧倒的な美貌から放たれる説得力に、反論できる者は一人もいなかった。
「さすがは社長。合理性と慈悲を両立させるとは」
おべっかを使う役員の言葉を鼻で笑いながら、私は心の中で快哉を叫んでいた。
これで私は、恩人として会社に君臨できる。
かつての同僚たちを「救済」し、彼らの忠誠心をこの手の中に収めるのだ。
会議を終え、社長室に戻ると、デスクの上のスマホが震えた。
表示された名前は「進藤」。
いすずの婚約者だ。
『いすず、昨日は大変だったね。少しは落ち着いたかな? 気分転換に、これからランチでもどうだい。君の好きなフレンチを予約してあるんだ』
私は一瞬、いすずの記憶を探った。
彼女にとって進藤との食事は、ビジネスの延長線上にある退屈な儀式に過ぎなかった。
だが、今の私にとっては違う。
「……ふふ、最高のランチタイムになりそうだ」
私は指先を滑らせ、いすずのキャラを崩さない程度に、けれど少しだけ「隙」を見せる返信を打った。
『ありがとう、進藤さん。ちょうど、あなたの顔が見たいと思っていたところなの。喜んで伺うわ』
一時間後。銀座の超一流フレンチレストラン。
進藤は、店に入ってきた私を見るなり、うっとりとした表情で立ち上がった。
今日の私は、白のタイトなワンピースに、首元には控えめな真珠。
清楚ながらも、どこか色香を漂わせる装いだ。
「いすず、昨日の事件を感じさせないくらい、今日も美しいよ」
「……少し無理をしているのかもしれないわ。でも、あなたに会えると、不思議と心が軽くなるの」
私はテーブル越しに、いすずのしなやかな指を進藤の手の上にそっと重ねた。
彼は驚いたように目を見開き、そしてすぐに狂おしいほどの愛おしさを目に宿した。
「いすず……。君がそんなに素直に頼ってくれるなんて。会社の方も、再雇用を決めたと聞いた。君のその柔軟な決断、尊敬するよ」
「ふふ、買いかぶりすぎよ。私はただ、もっと効率的に……そして、みんなが幸せになれる方法を探しただけ」
私は高級なワインを一口含み、その芳醇な香りと、自分に酔いしれる男の視線を同時に味わった。
(いいぞ、進藤。もっと俺……いや、いすずに溺れろ。お前の愛も、財産も、この体を使って全部吸い尽くしてやる)
目の前の贅沢な料理。
自分を崇拝する男。
そして、思い通りに動く会社。
私は、いすずの完璧な美貌という「武器」の威力を改めて実感し、心の底から湧き上がる愉悦を、優雅な微笑みの下に隠し通した。
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ランチを楽しみながら、私はテーブルの下でいすずの記憶の断片を指先で手繰り寄せていた。
「いすず、本当に雰囲気が柔らかくなったね。以前の君は、まるで数字と効率だけでできている精密機械のようだったのに」
進藤がデザートのフォークを置きながら、心底嬉しそうに呟く。私はワイングラスを傾け、彼の視線を艶やかに受け止めた。
「そうかしら。自分を追い込みすぎていたのかもしれないわね。でも、昨日の出来事で気づいたの。守るべきものは、効率以外にもあるって」
その時、いすずの最新型iPhoneが卓上で短く震えた。画面にはリマインダー通知が表示されている。
【15:00:ワークアウト(新体操スタジオ)】
「……新体操?」
私は一瞬、思考を巡らせた。
瞬時に入り込んできたいすずの記憶——それは、レオタードを身に纏い、リボンやボールを自在に操る、大学生時代の彼女の姿だった。
驚いたことに、彼女は今でも週に一度、人目を忍んで専用のプライベートスタジオを借り、現役さながらの練習で精神を研ぎ澄ませているのだ。
「ああ、そうだったわ。今日はいつもの練習の日だった」
「練習? ああ、例の新体操か。君がストイックに続けているのは知っているけれど、一度も見せてもらったことがなかったな」
進藤が少し寂しげに笑う。
いすずは、自分の「聖域」に他人を入れることを極端に嫌っていた。
だが、今の私は「いすず」であって「いすず」ではない。
「ねぇ、進藤さん。もしお時間が許すなら、今日は私と一緒に来てみない?」
「え……? 君の練習に、私が?」
進藤は驚きのあまり、手にしていたナプキンを落としそうになった。
「ええ。今の私を見守っていてほしいの。……独りだと、少し心細い時があるから」
私は上目遣いに、いすずの長い睫毛を伏せて見せた。
「も、もちろん! 喜んで行くよ! 秘書を通さずに直接誘ってくれるなんて……夢のようだ」
進藤は完全に舞い上がっていた。
これまでの「鉄の女」だった婚約者のあまりの豹変ぶりに、疑問を抱くどころか「自分だけに心を開き始めた」という強烈な優越感に支配されている。
一時間後。
私は進藤を連れて、都内の会員制スタジオにいた。
更衣室で独り、いすずが用意していた練習用のレオタードに着替える。
鏡に映るのは、新体操で鍛え上げられた、信じられないほど柔軟で強靭な肉体。
細いウエストから伸びる、カミソリのように鋭く、それでいてしなやかな脚。
(この女、中身まで完璧に仕上げてやがる。最高だ)
私は髪を高くポニーテールに結い上げ、フロアへと歩み出た。
壁際に座り、期待に胸を膨らませてこちらを見つめる進藤。
私は彼に妖艶な微笑みを一つ投げかけると、傍らにあったリボンを手に取った。
「見ていてね、進藤さん。これが、今の私の『表現』よ」
スピーカーから流れるクラシックの旋律に合わせ、私は……いや、いすずの肉体は、記憶に導かれるままに動き始めた。
かつての老いた体では、床に落ちた物を拾うのさえ一苦労だった。
だが今は違う。
跳躍すれば重力を感じさせず、体を反らせばどこまでもしなやかに世界が反転する。
指先からリボンの先端まで、すべての神経が研ぎ澄まされていく。
私は演技の最中、わざと進藤の目の前で大きく足を開き、大胆なポージングを決めて見せた。
「っ……!」
進藤の息を呑む音が聞こえる。
彼の瞳は、もはや私から片時も離れることができない。
彼が見ているのは、美しき婚約者の華麗な舞いだが、その中身が醜悪な老人の魂であることを、彼は一生知ることはないだろう。
(溺れろ、進藤。そして私の忠実な下僕になれ。この肉体と才能を使って、お前のすべてを支配してやるからな)
私は、いすずの記憶にある完璧な演技に、男としての攻撃的な色香を混ぜ合わせながら、自分だけのステージを狂ったように楽しみ続けた。
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「素晴らしい……! 本当に、なんて美しいんだ、いすず!」
演技を終え、ポニーテールを揺らしながら息を整える私に、進藤は立ち上がって惜しみない拍手を送った。
その目は完全に狂信者のそれだ。いすずの完璧な柔軟性と、私が意図的に混ぜ込んだ獲物を誘うような視線。
その二つが織りなす化学反応に、彼は完全にノックアウトされていた。
「ありがとう、進藤さん。あなたが見ていてくれたから、いつもより上手に踊れた気がするわ」
私はわざとらしく胸元に手を当て、激しい呼吸で上下する果実を彼に見せつけるようにして微笑んだ。
「あ、ああ……。君がこんな風に感情を表現してくれるなんて、僕は……本当に幸せだよ」
進藤はポケットから高級なハンカチを取り出し、私の額に浮いた汗を優しく拭おうとした。私はその手を受け入れ、じっと彼の目を見つめる。
「ねぇ、進藤さん。私、これからもっと変わっていきたいの。会社の経営も、あなたとの関係も……もっと、お互いの深いところまで共有し合えるようになりたいな」
「もちろんだ! 君が望むなら、僕の会社の経営ノウハウも、資金も、何だって提供する。僕たち二人が組めば、この業界のトップだって夢じゃない」
(チョロすぎる。本当に笑いが止まらないな)
いすずの頭脳が、彼の言葉から瞬時にメリットを計算していく。進藤の会社が持つ物流ネットワークを、我が社のAIシステムと連携させれば、市場のシェアをまた一気に拡大できる。しかも、主導権を握るのは「進藤に愛されるいすず」、つまり俺だ。
「じゃあ、私、着替えてくるわね。少し待っていて」
「ああ、ゆっくりでいいよ」
進藤を残し、私はスタジオの個人更衣室へと戻った。鍵を閉めた瞬間、いすずの顔から「可憐な婚約者」の仮面が剥がれ落ち、どす黒い快感の笑みが浮かび上がる。
「はは……あはははは! 傑作だな!」
鏡の前に立ち、レオタードの肩紐をゆっくりと滑り落とす。
汗ばんだ若い肌が、室内の照明を浴びて妖しく光った。
新体操で極限まで引き締まった下腹部、そしてその奥にある、まだ先ほどの運動と興奮で熱を持ったままの秘部。
私は自分の指先をその場所に這わせた。
「いすず……お前、進藤に見られている間、本当は少し興奮していただろ? 体の芯が、こんなに熱くなっているじゃないか」
指が触れると、いすずの肉体は敏感に反応し、小さな甘い声を漏らす。
男だった頃の私は、ただ社会の歯車として消費され、誰からも見向きもされずに捨てられるはずだった。
だが今はどうだ。この世の美と、富と、男の羨望をその一身に集めている。
「進藤……お前はこれから、俺のために馬車馬のように働くんだ。この最高級の肉体を、たまに報酬として小出しにしてやれば、お前は喜んで俺の奴隷になるんだろう?」
更衣室の狭い空間に、いすずの……いや、私の淫らな喘ぎ声が小さく響く。
自分自身の指で、いすずの体に快感を教え込んでいくこの背徳感。
これ以上の娯楽が、この世にあるだろうか。
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火照った体をシャワーで軽く流し、今度はシックなネイビーのワンピースに着替えて更衣室を出た。
待合室で待っていた進藤は、私の姿を見るなり、まるで宝物を見るような目で迎えてくれた。
「お待たせ、進藤さん」
「いや、全然。……ねぇ、いすず。もしよかったら、今夜は僕のマンションに来ないか? 君のために、特別なディナーを用意させたいんだ」
待ってました、と心が躍る。だが、ここで簡単に首を縦に振ってはつまらない。
「嬉しい。でも……今夜は、新しく再雇用することにした社員たちの書類に、どうしても目を通しておきたいの。彼らを早く安心させてあげたくて」
「……そっ、そうか。そうだよね、君は社長だものね。部下を思いやる君も、本当に素敵だよ」
落胆しつつも、さらに私への評価を高める進藤。
これでいい。飢えさせれば飢えさせるほど、この男は私に執着する。
「その代わり……明日、お仕事が終わったら、あなたのオフィスまで会いに行ってもいいかしら?」
「本当かい!? ああ、待っているよ!」
進藤の手を握りしめながら、私は心の中で、次のチェスの駒を動かしていた。
明日は彼のオフィスに乗り込み、いすずの記憶にある彼の会社の弱みと、我が社のAIシステムを組み合わせた「提携案」を、甘い囁きと共に承認させる。
千斗いすずの若さと美貌。
AIの冷徹な計算力。
そして、老獪な男の狡猾さ。
これらすべてを手に入れた私に、もはや不可能など何もなかった。
東京の街を走る高級車の窓から外を眺めながら、私はこの世界すべてを自分の玩具にするための、次なる計画に胸を躍らせていた。