民事裁判の手続き、きょうから全面IT化…訴状の提出や判決文の受領・オンラインで証人尋問も可能に
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民事裁判の提訴から判決までの手続きを全てオンラインで行える全面IT化が21日、スタートする。改正民事訴訟法の施行に伴うもので裁判が利用しやすくなる一方、弁護士のIT化対応が課題の一つとなる。(中川慎之介)
「飛躍的に便利に」
今月13日、東京地裁の法廷。住宅の建築代金の支払いを巡る訴訟の弁論があった。法廷にいるのは裁判官と書記官の2人のみ。裁判官が「事務所から参加でいいですか」と尋ねると、法廷内の大型モニターに映し出された原告側と被告側の弁護士がそれぞれ、「はい」と応じた。裁判官が提出された書面を確認して1分で結審し、判決を6月に言い渡すことが決まった。
かつての民事裁判は、短時間の手続きでも弁護士らが裁判所まで足を運ぶ必要があった。ウェブ会議での争点整理や口頭弁論など段階的にIT化が進められ、21日以降に提訴される民事裁判では、訴状の提出や判決文の受領、訴訟記録の閲覧もオンラインでできるようになる。紙の裁判記録は電子化されるほか、裁判所以外の場所にいる証人のオンラインでの尋問も可能となる。
13日の訴訟で原告側代理人を務める今西大介弁護士(46)は「遠方の裁判所まで出張することもあったが、全面IT化で飛躍的に便利になる」と期待する。
米韓など先行、国際的に遅れ
国が裁判のIT化を進めてきたのは、手続きが非効率だとの経済界からの批判や、国際的に遅れているとの指摘があったためだ。世界銀行が公表するビジネス環境ランキングの2017年版で、日本は契約執行(裁判所手続き)の分野で経済協力開発機構(OECD)加盟35か国中23位にとどまった。裁判のIT化は米韓などが先行し、後れを取れば国際ビジネスの舞台として選ばれにくくなるとの懸念が高まった。
政府の有識者検討会は翌18年、IT化の推進を求める報告書をまとめた。その後、民事訴訟法の改正などが行われ、20年以降に見直しが進められてきた。
今後は、従来通り弁論期日などで対面でのやり取りも可能としつつ、手続きをオンラインだけでも完結できるようになる。
審理の充実へ
司法統計によると、全国の地裁への提訴は年間14万件超(24年)。弁護士はIT化した裁判に対応する能力も問われる。
弁護士をつけずに訴訟を行う当事者は、引き続き「紙」でも提訴できる一方、弁護士はウェブ上での書面提出が義務づけられ、裁判所のシステムに登録する必要がある。日本弁護士連合会によると、登録者は昨年10月時点で全弁護士の6割強にあたる約3万人だった。
システムの利用方法を周知するため、日弁連は昨年11月と今年1月、最高裁の担当者を講師に招くなどし、研修を実施した。
IT化の浸透によって、裁判官と直接顔を合わせる機会が少なくなる中、当事者の訴えを裁判官にどう理解してもらうかという点も課題となる。
日弁連「民事司法のデジタル化に関する検討ワーキンググループ」委員の井崎淳二弁護士(52)は「難しい争点を含む裁判では、裁判官に丁寧に主張を伝える必要がある」として、「弁護士にはウェブ会議にすべきか、対面にすべきかを見極める力が求められる」と指摘する。
山本和彦・中央大教授(民事訴訟法)の話 「大きく遅れていた裁判のIT化が国際水準に追いついた。手続きが効率化する分、裁判官や弁護士は裁判を迅速化させつつ、争いの本質的な部分の審理に時間をかけて、裁判を充実させる工夫に力を注ぐべきだ」
刑事手続きも今年度末まで
刑事手続きも2027年3月末までにIT化する。逮捕状や捜索令状を「電子令状」としてオンラインで請求・発付できるようになり、捜査に着手するまでの時間が短縮される見通し。
昨年5月に改正刑事訴訟法などが成立し、実施が決まった。逮捕状などは現在、捜査機関が紙の書類を持参し、裁判官が内容を確認して発付している。IT化後は、警察官らがタブレット端末で電子令状を表示し、執行する。最高裁は令状の電子化に伴い、平日夜間や休日の令状請求への対応を東京、大阪の裁判所に集約する方向で検討している。
そのほか、捜査機関が収集した証拠も電子化される。裁判所や検察庁で行われる弁護人の証拠の閲覧やコピーも、オンラインでできるようになる。被告が病気や障害で法廷に出向くのが難しい場合、オンラインでの「出廷」も認められる。