ビットトレント損害賠償請求事件に関するよくある質問と回答
よくあるご質問
Q. 民事訴訟は権利者側にとって割に合わないので、積極的には行われていないのでは?
A. 違法ダウンロードの抑止という権利者の正当な利益を実現するためには、民事訴訟は不可欠の手段です。とりわけ、著作権侵害を軽視する態度を示される方や、事実関係に争いがある方については、裁判所による判断を求める以外の解決方法はありません。また、消滅時効の経過が迫った場合も訴訟提起を検討せざるを得ません。提訴の判断は、採算の問題ではなく、権利保全と侵害抑止の必要性に基づくものです。
Q. この問題に強い弁護士に依頼すれば、訴訟は回避できるのでは?
A. 訴訟提起の判断は、相手方代理人の専門性とは関係がありません。提訴するかどうかは、請求原因が認められるか、立証に足る証拠があるか、交渉による解決の見込みがあるか、という三点で決まります。
むしろ、相手方が長期間和解に応じず、事実関係や法的評価の前提にも争いがあり、交渉による解決が困難であると判断される場合には、訴訟へ移行する可能性は高まります。
請求原因については、開示請求が認められた時点で発信者であると推定されると考えられますので、実質的には損害論の問題に集約されます。したがって、民事訴訟を提起することへの障害は限定的です。
証拠についても、過去の裁判例における経験を踏まえ、保存方法および立証方法を継続的に改善しております。ある裁判で立証が認められなかったとしても、立証構造が異なる他の事案で同じ結果になるとは限りません。
Q. 実際には訴訟はほとんど行われていないのでは?
A. 当事務所では、月100件以上の民事訴訟を提起しております。令和8年5月21日から開始される民事訴訟手続のデジタル化に伴い、申立件数の増加を予定しております。
Q. 期限を過ぎても訴訟されないのなら、期限は無視してよいのでは?
A. 期限経過後は、民事訴訟および刑事告訴へ移行する場合がありますので、ご注意ください。
Q. 連絡をするとターゲットにされ、時効が進行して不利になるのでは?
A. ご連絡をいただいたからといって、和解を強く迫るような運用はしておりません。当事務所では、和解や示談を押し付けることはなく、事実関係や主張に相違がある場合(損害額に関する争いを含む)には、裁判所による判断を求めるべく訴訟による解決を図っております。
また、ご連絡をいただいたことにより消滅時効の進行が止まることはありません。連絡を控えることにより不利益が生じる可能性はあっても、連絡することにより不利益が生じる構造は存在しません。
Q. 裁判になってから対応すれば足りるのでは?
A. 訴訟段階に至った場合、以下の負担が新たに生じます。
弁護士に依頼する場合の打ち合わせ、陳述書の作成、弁護士費用および裁判費用等の追加費用、証人尋問の可能性、和解期日への出頭要請、そして裁判の公開による氏名等の露出(過去の裁判例においても、訴訟記録を閲覧した第三者が複数存在するとの報告があります)です。
Q. 裁判例では損害額として3万円程度しか認められないと説明を受けましたが、本当ですか?
A. 裁判例を前提としても、すべての作品について3万円程度しか認められないわけではありません。
参考となる裁判例として、大阪地裁令和5年8月31日判決(令和4年(ワ)第9660号 債務不存在確認請求事件)があります。本件では、ダウンロード価格1,450円、利益率38%、当日のダウンロード回数547回という事実を前提に損害額が算定され、37,675円が認定されました。
仮に同じ大阪地裁の算定基準を用いた場合でも、作品のダウンロード価格によって損害額は大きく変動します。
ダウンロード価格3,180円の場合:約80,482円
ダウンロード価格2,680円の場合:約71,158円
加えて、本件の対象作品は比較的古く、ダウンロード回数も少ない作品でした。新規の人気作品の場合、ダウンロード回数はさらに多くなる傾向にあります。なお、知財高裁の算定基準を用いれば、さらに高額となる可能性もあります。
Q. 損害額の減額や免除には一切応じないのでは?
A. そのような事実はありません。以下のような事情がある方については、減額または免除に関するお話を伺っております。ただし、減額・免除の合意に至るかどうかは、事情を伺ったうえでの反省の程度等を考慮した個別の総合判断であり、当然に減免をお約束するものではありません。
真摯な反省と謝罪が認められる方(前提条件となります)
生活保護を受給されている方
障害をお持ちの方
債務整理中の方
和解の意思はあるが支払能力に不安のある方
作品単価が低い、利用期間が短い等を理由に減額をお求めの方
その他、経済的に困窮されている等の特別な事情のある方
Q. 減額や免除されたケースは聞いたことがないのですが?
A. 示談交渉や和解の結果には守秘義務条項が付されることが通常であるため、減額・免除が成立した場合でも第三者がこれを知ることは通常ありません。
Q. 民事訴訟を提起されました。和解は可能ですか?
A. 和解は可能です。ただし、原則として裁判所を通じての和解手続となります。
Q. 刑事告訴は実際には行われていないのでは?
A. 刑事告訴は実施しており、告訴は受理されております。今後も、刑事事件であることを否定する方など悪質な方については、やむなく刑事告訴の代理人を務めてまいります。
Q. アップロードの故意がないので、刑事事件にはならないのでは?
A. アップロードの故意がない場合でも、刑事事件となる可能性があります。
著作権法30条1項に定める私的使用目的のダウンロードであっても、有償著作物等について、違法にアップロードされたものと知りながらダウンロードした場合には、録音・録画物については一回の行為で、その他の著作物については反復・継続して行う場合に、刑事罰の対象となります。法定刑は、著作権法119条3項1号・2号により、2年以下の拘禁刑もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの併科です。
Q. BitTorrentの違法ダウンロードやアップロードで有罪になった事例はありますか?
A. あります。埼玉県在住の50代男性が、ファイル共有ソフト「qBittorrent」を用いて著作物をインターネット上に公開していたとして、越谷簡易裁判所は2024年8月19日、著作権法違反(公衆送信権侵害)で罰金30万円の略式命令を下しました。本略式命令は同年9月5日に確定しています。
本件は、公開ファイルの中に著作権者の著作物が含まれていたことを契機に、著作権者が2024年6月10日に栃木県宇都宮東警察署へ告訴したことから手続が進行したものです。同署が宇都宮地方検察庁へ書類送検し、さいたま地方検察庁への移送を経て、越谷区検察庁が同年8月9日付で略式起訴し、本件略式命令に至りました。
Q. BitTorrentの利用で逮捕された事例はありますか?
A. あります。大阪府警は2019年4月15日、インターネット上で動画を違法にアップロードした疑いで、三重県四日市市在住の会社員(当時29歳)を著作権法違反の容疑で逮捕しました。
同人はファイル共有ソフト「BitTorrent」を通じて違法に動画を公開しており、ダウンロード回数は累計70,000回以上と推定されています。大阪府警サイバー犯罪対策課がIPアドレス等の情報から同人を特定したものです。
Q. アダルトコンテンツはそもそも違法なので、著作権では保護されないのでは?
A. アダルトコンテンツであっても、著作権法による保護の対象となります。
宮城県警は2022年11月15日、アダルト動画13作品の海賊版サイトへ誘導するリーチサイトを運営していたとして、東京都豊島区在住の会社役員(50歳)を著作権法違反の疑いで逮捕しました。本件は東北地方におけるリーチサイトの初摘発事例です。
容疑者は「広告収入のためにやった。法律に詳しくなく、犯罪になると思わなかった」と供述したと報じられていますが、著作物の内容がアダルトであることは、著作権による保護の有無に影響しません。
Q. BitTorrent利用は常に親告罪で、6か月で刑事は時効になるのでは?
A. そのような説明をしばしば見かけますが、正確ではありません。市販アダルトビデオのBitTorrent配信は、通常、著作権法123条2項により非親告罪に該当し、その場合の公訴時効は7年となります。
そもそも「6か月」とは何か
混同されがちですが、6か月は公訴時効ではなく、親告罪における告訴期間です(刑事訴訟法235条1項)。親告罪では、犯人を知った日から6か月以内に告訴しなければ、それ以降は有効な告訴ができず、結果として公訴提起ができなくなります。
これに対し公訴時効は、検察官が公訴を提起できる期間そのものを定めたものです(刑事訴訟法250条)。著作権侵害罪の法定刑は10年以下の拘禁刑であり、同条2項4号により公訴時効は7年です。
つまり、「6か月で時効」という言い回しは、そもそも公訴時効と告訴期間を取り違えた表現です。
著作権侵害は常に親告罪なのか
原則は親告罪です(著作権法123条1項)。しかし、平成30年改正により導入された同条2項は、一定の要件を満たす侵害行為を非親告罪としました。
123条2項は次のように定めています。
侵害者が、有償で公衆に提供され、又は提示されている著作物等(その提供又は提示が著作権、出版権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。「有償著作物等」という。)について、原作のまま著作物等を複製した複製物を公衆に譲渡し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行い、又は原作のまま著作物等の複製を行つたことにより、当該有償著作物等の提供又は提示により得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合(侵害者が有償著作物等の対価を得る目的又は当該有償著作物等の提供若しくは提示により得ることが見込まれる利益を害する目的を有していた場合に限る。)
整理すると、①対価取得目的または利益侵害目的、②有償著作物等を原作のまま公衆送信等、③権利者の利益が不当に害されること、の3要件をすべて満たす場合に非親告罪となります。
市販アダルトビデオのBitTorrent配信は3要件を満たすか
3要件すべてを満たすケースが多いです。
要件②(原作のまま公衆送信)は、市販品の完全ファイルがBitTorrentネットワーク上で流通している事案では当然に認められます。BitTorrentプロトコルは原ファイルをハッシュ値の同一性を保ったまま分割・再構成するもので、創作的改変を伴わないため、「原作のまま」の公衆送信に該当します。
要件③(利益が不当に害される)も、市販AVがDVD販売・有償配信を主要な収益源とする著作物である以上、その完全ファイルを無償配布する行為が正規販売・配信と直接競合し、権利者の販売利益を侵食することは明らかです。
要件①(目的要件)については、「対価を得る目的」と「利益を害する目的」が選択的に規定されていますが、後者は前者より緩やかに解する余地があります。市販品の完全ファイルをBitTorrentで送信可能状態に置く行為は、正規販売・配信の利益を侵食することが客観的に明白であり、行為者がその客観的性質を認識しながら行為に及んだ場合、「利益を害する目的」は通常認められると解することができます。
具体的には、①当該作品が市販品であることの認識、②BitTorrent利用がアップロードを伴うことの認識、が認められれば、目的要件は充足されると評価し得ます。BitTorrent利用者は、ファイル名・トラッカー情報・コミュニティの文脈から市販品であることを通常認識しており、またBitTorrentがプロトコル仕様上アップロードを伴うことも通常認識しています。「ダウンロードだけのつもりだった」という主張は、アップロードが不可避なプロトコルをあえて選択した事実の前では有効な反論となりにくく、多くの事案で目的要件が認定されるといえます。
それでも逮捕事例が少ないのは、親告罪扱いされているからでは?
違います。非親告罪であっても、捜査機関が事件を認知しなければ捜査は始まりませんし、権利者からの被害申告が捜査の事実上の端緒となることは、傷害罪や窃盗罪など他の非親告罪と同じです。立件事例の多寡と、法律上の訴追条件は別問題です。
また、検察官は起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)により、示談成立や被害弁償等を考慮して起訴猶予とすることができます。示談の効果は「告訴回避」ではなく、「捜査端緒の抑制」と「起訴猶予獲得のための情状形成」にあります。
まとめ
市販アダルトビデオのBitTorrent配信は、著作権法123条2項の非親告罪に該当するケースがある。
要件②③は完全ファイル流通事案では当然に認められ、要件①の「利益を害する目的」も、市販品認識とプロトコル認識が認められれば充足する。
非親告罪に該当する場合の公訴時効は7年であり、6か月の告訴期間は適用されない。
「BitTorrent利用は常に親告罪で6か月で時効」という説明は不正確である。


コメント