BitTorrentでアダルトビデオをアップロードした場合の刑事事件の時効は6か月とは限りません
Q1. BitTorrentで市販のアダルトビデオをアップロードした場合、刑事責任は親告罪ですか。
著作権侵害罪は原則として親告罪ですが(著作権法123条1項)、同条2項により一定の要件を満たす場合には非親告罪となります。BitTorrentによる市販アダルトビデオの無断配信は、通常この非親告罪に該当します。
「BitTorrent利用は常に親告罪で、6か月経てば時効」という説明をしばしば見かけますが、これは正確ではありません。
Q2. 非親告罪となる要件は何ですか。
著作権法123条2項は、123条1項にかかわらず、次の場合には告訴がなくとも公訴を提起できると定めています。
侵害者が、有償で公衆に提供され、又は提示されている著作物等(その提供又は提示が著作権、出版権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。「有償著作物等」という。)について、原作のまま著作物等を複製した複製物を公衆に譲渡し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行い、又は原作のまま著作物等の複製を行つたことにより、当該有償著作物等の提供又は提示により得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合(侵害者が有償著作物等の対価を得る目的又は当該有償著作物等の提供若しくは提示により得ることが見込まれる利益を害する目的を有していた場合に限る。)
整理すると、①対価取得目的または利益侵害目的、②有償著作物等を原作のまま公衆送信等、③権利者の利益が不当に害されること、の3要件です。
Q3. 市販アダルトビデオのBitTorrent配信は、この要件を満たしますか。
通常、3要件すべてを満たします。
要件②(原作のまま公衆送信)と要件③(利益が不当に害される)は、市販品の完全ファイルがネットワーク上に流通している事案では当然に認められます。市販AVは有償販売・有償配信されている著作物であり、その完全ファイルを無償で配布する行為は、正規販売・配信と直接競合するためです。
要件①(目的要件)については、「対価を得る目的」と「利益を害する目的」が選択的に規定されていますが、後者は前者より緩やかに解する余地があります。市販品の完全ファイルをBitTorrentで送信可能状態に置く行為は、正規販売・配信の利益を侵食することが客観的に明白であり、行為者がその客観的性質を認識しながら行為に及んだ場合、「利益を害する目的」は通常認められると解することができます。
具体的には、①当該作品が市販品であることの認識、②BitTorrent利用がアップロードを伴うことの認識、が認められれば、目的要件は充足されると評価し得ます。BitTorrent利用者は、ファイル名・トラッカー情報・コミュニティの文脈から市販品であることを通常認識しており、またBitTorrentがプロトコル仕様上アップロードを伴うことも通常認識しています。「ダウンロードだけのつもりだった」という主張は、アップロードが不可避なプロトコルをあえて選択した事実の前では有効な反論となりにくく、目的要件が認定される可能性が高いと考えます。
Q4. 非親告罪となった場合、時効は何年ですか。
公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号、著作権法119条1項の法定刑が10年以下の拘禁刑であることによる)。
「6か月」と混同されることがありますが、6か月は親告罪の告訴期間(刑事訴訟法235条1項)であって、公訴時効ではありません。非親告罪に該当する事案では、そもそもこの6か月の制約は適用されません。
Q5. 実際に逮捕事例が少ないのは、親告罪扱いされているからではないですか。
違います。非親告罪であっても、捜査機関が事件を認知しなければ捜査は始まりませんし、権利者からの被害申告が捜査の事実上の端緒となることは、傷害罪や窃盗罪など他の非親告罪と同じです。立件事例の多寡と、法律上の訴追条件は別問題です。
また、検察官は起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)により、示談成立や被害弁償等を考慮して起訴猶予とすることができます。示談の効果は「告訴回避」ではなく、「捜査端緒の抑制」と「起訴猶予獲得のための情状形成」にあります。
Q6. まとめると。
市販アダルトビデオのBitTorrent配信は、著作権法123条2項の非親告罪に該当する場合がある。
要件②③は完全ファイル流通事案では当然に認められ、要件①の「利益を害する目的」も、市販品認識とプロトコル認識が認められれば通常充足する。
非親告罪に該当する場合の公訴時効は7年であり、6か月の告訴期間は適用されない。
「BitTorrent利用は常に親告罪で6か月で時効」という説明は不正確である。


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