夏子の冒険
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三島由紀夫がどんな方なのかについては、ざっくり知っていて、それを通した彼の印象が自分は良くなかったので食わず嫌いしていたんですけど、一回はちゃんと読んだ方が良いのかなって。
結局あまり好きではなかったかもしれないですが。笑
文学的な?小説なら読んでて感じさせられること以外に特に何か心動かされるものは、以下のようにありはしたけど、強く何か動かされるとこはなかったと思います。
恋愛小説。
最近改めてよくお会いさせていただいているお兄さんがよく話す(彼は割と経済的豊かさという文脈の中の)「イケてる」の(この本は生き方としての)「イケてる」を求める、ジツハフツーナオンナ…?「正→負→正」と構造も王道。
自分がまだまだということですか。
(Quotes1 本編後の解説)
一方で三島個人の履歴を超えて考えると、本書は「近代国家」と「北海道」の関係を反映した一連の小説ー有島武郎『カインの末裔』、吉屋信子『海の極みまで』、武田泰淳『森と湖のまつり』、安倍公房『榎本武揚』、池澤夏樹『静かな大事』などーの系列に属します
(中略)
つまり夏子が北海道に乗り込むことで北海道に夏が来るー
-とかを想定してる作品ではない気がしますが、文学作品のこういう見方はそういえばあったな(この見方自体には反対ですが)と思ったのでメモ。
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要するに夏子の心理が克明に記述されるようになったからです。
登場人物にとっての小説の語りというのは、「内面」がより叮嚀に記述されちゃった者が「負け」ということが多い。
(中略)
視点が名探偵ではなくワトスン役にあるのは、真相を読者の目から隠しておく必要があるからですが、その結果として、探偵は「魅力的な他人」「わけのわからないことをする人物」として描かれることが多くなります。
(Quotes2 本編)
あの人にはどこか迫力があると彼女は思った。迫った眉や大きな手に、何かしら女の心の中へ泥濘に踏み込む長靴のように無縁力に踏み込んでくる力があった。その男が、煙草の火ぐらいで意気地なく意志を翻すとは!
夏子は情熱らしいものを宿している男が1人もいないことに絶望した。せめて烈しい欲望でも宿しているのなら話がわかるが、一番見込のありそうだった研一でさえあのざまである。
芸術家にはそういう男がいるかと思えば、画描きの青年はどれもこれも天才気取りで「芸術」という言葉をチューイングガムのように濫用した。その上いわゆる芸術的野心という奴を、女の子の心を惹くための装身具のように思っていた。
(中略)
サラリーマンは退屈であり、なんの話題もなかった。笑い話といえば、どこかの娯楽雑誌の剽窃であった。そして要するに都会の青年はすっかり目の輝きを失っていた。
(中略)
「まるで袋小路の行列だわ」と夏子が言った。
「どうして?」
「だってあの中のどの男のあとについて行っても素晴らしい新しい世界へ行ける道はふさがれていることがよくわかるもの。男の魅力ってそれ以外に何があって?ただ黙ってついてゆけば、今まで想像もしなかった新しい世界へつれて行ってくれるという魅力以外に。あれをごらんなさい。」
-南青山。
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世話女房になって襷をかけて長火鉢につやぶきんをかけている姿や、派手な社交夫人になって夜会を夜会を主宰している姿が、いろいろと想像されたものの、それらはどうしようもないほど退屈な空想であった。
「ああ、誰のあとをついて行っても、愛のために命を賭けたり、死の危険を冒したりすることはないんだわ。男の人たちは二言目には時代がわるいの社会がわるいのとこぼしているけれど、自分の目の中に情熱を持たないことが、いちばん悪いことだとは気づいていない。・・・」
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「涙が出てる時は、ああまだ生きてるなという感じがするからですよ。」
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彼はタラップの白いスーツの少女を呆れたように眺めた。
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却って何もないというそのことが、新鮮で、刺激にみち、冒険的なことに思われる。一度行ったら引き返せないということは素晴らしい冒険だ。危なくなりかけるといつも容易く引き返すことができた子供らしい色事はもう沢山だ。まだ多分に少女らしい誇大妄想にとらわれている彼女は、自分がどの男の持物にもならずに修道院へ入ってしまうことは
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暗い、どす黒い、森の獣のような光を帯びていた。
(中略)
深い混沌の奥から射し出て来るような、何か途方もない大きなものを持て余しているような、とにかく異様に美しい瞳であった。午前の海峡の明るい光を見つめているようで、その実もっと向うの定かならぬ影を迫っているような深い瞳である。
(中略)
軽薄な、実のない、空虚な目、女蕩しぶった冷たい目、子供っぽい兎のような目、・・・誰一人としてこれだけの目の持ち主はいなかった。
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「今日はね、あたくし浮世にいる最後の日なの」
「浮世は、今日はすばらしい天気だな」
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『説明も、筋道も、理由も、弁解も要らない人だ。(後略)』
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「僕はね、仇をつけ狙っているです」
青年のこの大時代な言葉には、夏子の心をそそる響があった。
(中略)
この人は世間でいちばん無駄事と思われていることを堂々とやりとおせる人だ。世間でいちばん馬鹿にさらえている感情に身を捧げることのできる人だ
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こういう急場に、夏子はしーんとおちついてしまう、(後略)
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木漏れ日その濡れて光った白い素足に、レエスの靴下をはかせていた。
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「ありがとう、って?」と夏子がきいた。
「つくろいもののお礼さ」
「ああ、そうね」
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編集長は目を丸くした。これは記事になると思ったのである。
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あのブルジョアの悪臭が野生の少女の鼻にも敏感に感じられたのが面白かった。
(中略)
しかしそれははっきりききとれた。
「あなたよ」
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彼はどこかあ子供が附髭を生やしたようなところがああった。ほっぺたは赤く、小男で、貫禄がない代りに、遊んでいるときの子供のように精力的にみえた。狩猟家というものには、どこかに子供の残酷さがひそんでいるものである。
「狩人は登山家とちがいます。もうちょっと欲深なんでございます。エヴェレストの頂を、きめたからと云って、獲物がなければ何にもなりません。」
「(略)精神にどこか物足らんものがあります。彼の追っているのは熊ではありません。彼は、どうもお星様を追っているような気味があります」
(中略)
「(略)獣だと思えばこそ、追いもし、射てもするのです。昆虫採集家は害虫だからという理由で昆虫を、つかまえはいたしますまい。」
-このエヴェレストのところだけナーニイッテンノッ
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「心」を想像すること、それは心が心を狙うことであり、人間同士の殺し合いと同じことになる
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「黙って!そんな場合じゃない。僕に任せておきたまえ」
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(略)接触も成就せぬほど完全に、合体していたのである。
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その若葉のそよぎ、その頬を切る風、その狩猟の歓喜、獲物の血をすする狂おしい喜びまでが、ありありと老い衰えた目の中によみがえるのがうかがわれた。
老人は口をうごかして何か言おうとした。しかし何も言えない。白い髭におおわれた口はみにくく歪むばかりである。するうちに、一筋の涙が、目尻から流れて光った。これを見た毅たち一同は、どんな讃辞をきくよりも感動した。
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「僕、東京へかえったら、こんな道草の埋め合わせにうんと働くぜ。(中略)君も健康な体で洗濯やなんかすればいい。週に一回、二人で映画へ行こう。君、ダンス好き」
(中略)
若いから輝いている。それだけのことだ。
(中略)
夏子の今の気持は誰にもわかるまいと思う。説明したって、わかってくれる人はいない。生意気な我儘娘、貼られるレッテルはそれだけだ。
(中略)
夏子は黙っている。スカートのポケットに手をつっこんだまま、丸窓の前へ行った。船はやがて青森港へ入るらしい。
(中略)
「夏子、やあっぱり修道院へ入る」


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