出発前夜
王都に出発する前の日に、ホテルに領主の使いの人が来た。
護衛任務中に着る服とブーツだった。
着替えは毎日宿で支給すると言う。
「え? なんで?」
思わず、敬語を忘れてしまった。
あれか? 道中、俺たちが臭くなるのが嫌だとか? 冒険者は道中、下着くらいしか替えないもんな。
「襲撃者がターゲットを絞りにくくするためです。
わかりやすいと『あの、ビキニアーマーを狙え』とか、指示を出されてしまうでしょう」
使者はたとえを言った後に、こほんと咳払いをした。
まるで、あくまでたとえで自分は見ていませんよと主張するかのように。
まあ、気持ちはわかるよ。
俺は試着して、動きに問題がなさそうなことを確認した。
さて、いわゆる女子部屋に行ってみようかな。彼女たちも兵士の装いをするのだろうか。
ノックをして、名前を名乗る。
「トーマ? ちょっと待って」
ルナの声に続き、ごそごそ、ばたばたと音が聞こえる。
かすかにサァラの声もした。
「いい? 開けるわよ」
と室内の人間に確認してから、フォンが扉を開けてくれた。
ルナがベッドに座っていて、その周囲に服が散乱している。
「服が来たんだろ? 試着してみた?」
「してた、してた。あたいも兵隊さんみたいだったにゃ」
サァラがけらけら笑う。
その隣で、ルナが顔にシワを作っていた。
「ビキニアーマーの何が悪いんだ。動きが阻害されて、気持ち悪い」
「服の面積で、空気の抵抗が生じるわよね。
でも、この機会に服を着て戦闘することを覚えてもいいんじゃないかしら。
毒液を吐くモンスター討伐もあるかもしれないわ」
フォンがルナをなだめにかかる。
「そうだけど、師匠を裏切るみたいで……」
「ん? ルナの師匠だって、飲みに行くとき服を着てるだろ」
深刻そうなルナに、俺は当然のことを言った。
「え?」
「この前、見かけたよ」
ドワーフに連行されて行った酒場にいた。
俺たちのビキニアーマー談義に、聞き耳を立てていたような気もする。
「ええ? ビキニアーマーは自分の分身とか、誇りだとか言ってたのに?」
「場所に合わせて、着替えてるんじゃないか?」
俺の言葉に、サァラもフォンも「そうだろうなぁ」とばかりにうなずく。
「言いつけを守る良い子だもんね、ルナは」
サァラが突然お姉さんの目線で、ルナの頭をなでた。
「今度、他の弟子に会ったら訊いてみるといいわね」
フォンからは、現状を確認してみましょうという提案があった。
多分、いつでもビキニアーマーの人は少ないだろう。
そんな雰囲気が漂った。
「……嘘だろ」
ルナが燃え尽きた灰のように、虚無な顔になった。
そんな空気を変えるように、サァラが細い布を持ち上げた。
「それとね、三人ともヘッドバインドをするんにゃ」
サァラは布を額に当て、後頭部で縛った。
「サークレットを隠して、誰がフォンかわからなくするんだって」
立ち直ったルナが説明してくれた。
「でも、二人を危険に晒すなんて……」
フォンは申し訳なさと、領主の容赦ない作戦に戸惑っているらしい。
「すごい作戦が次々と出てくるな。俺はそんなの思いつかなかった。
悔しいけど、この機会に勉強させてもらおう」
はぁ、まだまだだと思い知らされる。
でも、実力が足りていないと嘆くのは、時間の無駄だ。
気持ちを切り替えて、明日からの護衛では、できることをやるしかない。
「そうだね。護衛のコツも身につけたいよね」
ルナは明るく言って、袖をひっぱりながら、へにょりとうなだれた。
「この、服がなぁ……」
サァラが俺に「ルナって、意外と頑固だにゃ」と囁いた。
うん、知ってる。