「首長だけが読める」首長マガジン 自治体トップの孤独を癒やす中身
全国に1788ある自治体のトップたちに読者を絞った情報誌がある。その名も「首長マガジン」。取材編集を担うのは元自治体職員、元新聞記者、そして元首長たち。責任と孤独を抱えるトップたちへ、ノウハウを共有する架け橋になろうとしている。
「9月号は公共交通を特集したい」「ここのライドシェアは反対も大きかったはず」「あそこは白タク問題が大変」「珍しい施策だけど市長が1年生だからあまり関わっていないかも」。5月中旬、仙台市青葉区にある首長マガジン編集部。9人が顔を向き合わせる編集会議は白熱していた。
首長マガジンは一般社団法人「地方自治マネジメントプラットフォーム」が、仙台市の起業家支援ベンチャー「全力優」とともに2023年に創刊した。元北海道庁職員で編集長の菅野永(かんのひさし)さん(36)は「日本で一番首長に読まれている情報誌」と自負する。
どうしても読みたい人は…
誌面の中心は現役首長や元首長へのインタビュー記事。補助金をとるために国のどの役職に掛け合ったのか。どんな準備をして議会を乗り越えたのか。幹部人事をどう決めたのか。首長が知りたい細かなテクニックや裏話が満載だ。
年4回の季刊誌で、全自治体に無料で発送する。「限られた人に向けた雑誌だからこそ、本音を語ってくれる」と閉鎖性も売りの一つ。一般販売はしない。どうしても読みたければ、東京の国立国会図書館に行くか、選挙に勝って首長になるしかない。
読者は1788人だけ、無料配布なのに「収益十分」の理由
無料配布だが、収益は広告で十分に出ているという。営業の強みになっているのが「全国の首長に届く媒体」という価値だ。ITベンチャー企業によるオンライン窓口システムなど、自治体への売り込みを狙う企業広告が着々と集まる。
取材編集を務めるのは総勢10人ほど。中心となるのは元首長たちだ。滋賀県湖南市長を4期16年務めた谷畑英吾さん(59)もメンバーの一人。「経験者だからこそ首長の苦しみを掘り起こせる。それがマガジンの肝になる」。批判されない東京出張のこなし方、落選首長のセカンドキャリア……。首長目線ならではの企画アイデアが飛び交う。
元自治体職員も名を連ねる。ディレクターの佐藤美紀さん(34)は、福島県の地元紙「福島民報」の元記者であり、福島市役所の元職員でもある。「役場の中にいたメンバーだからこそ、自治体の実情に共感し、食い込んだ取材ができる」と話す。
「首長って孤独」が創刊の原点
人気コーナーは元首長たちが匿名で明け透けに語らう「覆面首長経験者ぶっちゃけ放談」。3月号には「マスコミは敵か味方か 首長のメディア活用術」との見出しで、覆面の元首長たちが語り合った。
菅野編集長は「首長って孤独なんです」という。例えば現職と敵対して当選した新顔首長の場合、「引き継ぎは不十分で、職員からも歓迎されずに自治体経営が始まる」と実情をくみ取る。「誰も教えてくれない実務を、バイブルを作ることでサポートしたい」という。
熱心な読者の一人という宮城県利府町長の熊谷大(ゆたか)さん(51)は、「議会や庁内が敵だらけだろうと背負った公約は果たさなければならず、孤独と共に働ける人でないと務まらない」と首長像を語る。「他の自治体は人口を奪い合うライバルでもあり、教えを請うのも簡単ではない」といい、ノウハウが詰まった首長マガジンの存在は貴重だという。
地方選で目立つ「現職敗退率」
一般的には現職が有利とされる地方選だが、近年は現職が敗れる傾向が強まりつつある。地方自治総合研究所が発表した調査によると、25年4月末までの1年間にあった市区長選を対象にした「現職敗退率」(無投票を除く)は37.1%で過去10年で最多だった21年(32.3%)を更新した。
東北でみても、直近3年で盛岡市、宮城県登米市、秋田市、山形県新庄市、福島市などで現職が敗れるケースが目立ち、新たな首長が続々と生まれている。
「地方の衰退が続く中で、有権者がいよいよ本気で変化を求めるようになってきているのでは」と菅野編集長。特定の候補者を応援する立場ではないとしつつ、「新首長が生まれるということは首長マガジンの出番です」と使命感に燃える。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験
- 津田正太郎慶応義塾大学教授・メディアコム研究所視点
2023年に創刊されたばかりということで、こういった雑誌が存在するのを初めて知りました。一般販売はしておらず、読むには「東京の国立国会図書館に行くか、選挙に勝って首長になるしかない」というのは面白いですね。 編集長ロングインタビューのほうも読みましたが、読者は1800人足らずで無料配布にもかかわらず、ビジネスとして成立するというのも、ターゲティングの妙だと思います。 自治体のトップと言えば、多くの人に囲まれて多様な情報が次々に入ってくるというイメージなのですが、この記事の「首長って孤独」という言葉をみて意外とそうでもないんだな、と思いました。ネットで仕入れた怪しげな情報に振り回されるよりは、こういった形で同じ立場にある人が悩みやノウハウを共有するほうがずっと健全かもしれませんね。
2026年5月16日 15:27 - 末冨芳日本大学教授=教育行政学視点
【首長って孤独、孤独だけど子どもたち・自治体と日本の未来のために頑張ってくださっているすべての首長さんを応援しています】首長さんって孤独だし、責任大きいし、よくこんな大変な仕事頑張ってくれてるよな、というのが私の首長さんたちに対する率直な感想です。 もちろんパワハラ知事、セクハラ知事や、卒業証書偽造市長さんなどもおられるのですが、報道を見ていると記事にあるとおり、当選時は四面楚歌の役所に急にトップとして着任しないといけないわけです。 あることないこと、色々な噂をたてて、こっそり楽しんでそうな日本の地方公務員・地方議員、そして地方の報道関係者も多そうですよね。 あまりプロダクティブなことではないので、そんなことしてる暇があったら、水道代滞納してる家を一軒一軒まわって、困窮者を生活保護や生活困窮者自立支援事業につなげなさいよ、と言いたいですが。 それは、私が尊敬する首長さんも同じ気持ちでしょう。 首長って孤独、孤独だけど子どもたち・自治体と日本の未来のために頑張ってくださっているすべての首長さんを応援しています。
2026年5月16日 17:11