ごく普通の無名の人がツイッターに何か少し不穏当なことを書き込む。その人のフォロワー自体はせいぜい100人くらいのものだ。しかし、それが何かのきっかけで大勢の人たちの目に触れ、非難の嵐となってしまうことがある。
これが、いわゆる「炎上」だ。僕は、実際に炎上の事件の犠牲者となった人物に多数会い、話を聞いてきた。会うと皆、ごく普通の「善良な市民」たちだ。ただ、炎上によって何もかもを失い、憔悴(しょうすい)「しきっている。本当に、皆がそろいもそろってそうなのだ。
ジョークのつもりの「つぶやき」が、悲劇の始まり
僕が会ってインタビューした1人が、ジャスティン・サッコである。彼女は「世界最大のツイッター炎上」の当事者だといっても過言ではない。発端は、彼女がアフリカへ向かう空の旅の最中に、本当に軽い気持ちで書いたツイートだった。
「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」
乗り継ぎのために降り立ったイギリスのヒースロー空港で、搭乗直前に彼女はこんな投稿をした。彼女は日頃からよくツイッターで品の悪いジョークを飛ばしており、そのときのツイートもそんなジョークの1つにすぎなかった。
初めのうちは静かだった。彼女としてはうまいジョークを言ったつもりだったので、何らかの反応が欲しかったのだが、誰一人、コメントするものがない。彼女は寂しい思いを抱えたまま飛行機に乗り込んだ。11時間のフライトである。飛行機にいる間はインターネットには接続できない。フライト中、彼女はほとんど眠っていた。
目的地のケープタウンに着いた彼女が携帯電話の電源を入れると、思いがけないものが目に飛び込んできた。高校卒業以来、話をしたことがなかった知人からのメッセージである。「こんなことになるなんて、とても悲しいよ」とある。
ツイッターを開くと、恐ろしいことが起きていた。彼女のツイートに対する非難のリプライが続々と書き込まれていたのである。そして、親友からは「今すぐ電話して。今、あなたはツイッターで全世界のトレンド第1位になっているのよ」というテキストメッセージが届いた。
問題になったのは、サッコのツイートに人種差別とも受け取れる言葉が含まれていたからである。白人だからエイズにならない。エイズになるのは有色人種だけ。そう受け取れる言葉を見て、大勢の人間が怒り、非難の言葉を彼女に浴びせた。
「ジャスティン・サッコのツイート、人種差別があまりにひどすぎて、恐ろしい。言葉も出ない。恐怖以上の何かを感じる」「このとんでもない女のことを皆に知らせるべきだ」
ごうごうたる非難が寄せられている中に、サッコの勤務する会社からのツイートがあった。「あまりに非常識で、言語道断なコメントというほかありません。弊社の社員ですが、現在、国際線の飛行機に乗っており、連絡がつきません」。
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【「ジャスティンはもう着陸したか」がトレンドワードに】
これが火に油を注ぐかたちとなった。炎上しているというのに、当人はそれをまったく知らずに空を飛んでいるとわかったからだ。
「#hasjustinelandedyet(ジャスティンはもう着陸したか)」というハッシュタグが全世界でトレンド入りした。サッコ本人がいつケープタウン国際空港に到着し、大炎上している事実を知るか、それを皆が興味津々で見守るという事態になったのである。彼女がどの飛行機に乗っているかをわざわざ手間をかけて調べる者まで現れた。しかも、フライトトラッカーのサイト(飛行中の航空機をリアルタイムで追跡できるサイト)へのリンクが貼られたことで、彼女の乗っている飛行機が今どこを飛んでいるかを皆がリアルタイムで確認できるようになった。
そしてついに、ジャスティン・サッコが飛行機を降りるときが来た。ケープタウン国際空港では、1人の男性が彼女の到着を待ち構えていた。報道関係者でも何でもない一般人だ。彼は空港に現れたサッコの写真を撮り、ツイッターに投稿した。
検索すれば、「炎上」の事実はすぐバレる
問題となったサッコのツイートは、確かに品はあまりよくないものの、実際には人種差別を意図したものではなかった。むしろ逆で、人種差別主義者たちの言いそうなことを真似し、揶揄したつもりだったのだ。普段から彼女の人柄を知る人であれば、誤解するはずもなかった。
だが、彼女を攻撃する人にとっては、本人の意図など、どうでもよかったのだろう。いったんその人が悪者だと決まり、一斉攻撃が始まってしまえば、たとえそれを否定する意見があっても、場の空気によってかき消されてしまう。人間にはそういうところがあるのは否定できない。中には意図を故意に誤解する人さえいる。
ジャスティン・サッコは結局、この件が原因で職を失い、社会的に破滅してしまった。立ち直りは非常に難しいと思われる。炎上のことを隠してどこかに就職できたとしても、雇用主が彼女の名前を1度、インターネットで検索すればすぐに発覚してしまうからだ。
恐ろしいのは、同じようなことは私たちの誰にでも起こりうるということである。そして、彼女を攻撃した人たちのほとんどが悪人というわけではなく、ごく普通の人たちであるというのも恐ろしい。むしろ倫理観、正義感の強い人たちが「加害者」になりやすいということが、この問題を根深いものにしている。
(翻訳・構成:夏目 大)