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Conversation

「生成AIにはこれまでのアーティストに対するリスペクトがないからダメなのだ」という言説を目にしたとき、真っ先に疑問に思ったのは、リスペクトというのは人間以外の「モノ」が持ちうる性質なのだろうか、ということでした。 例えば「金槌」には「大工さん」に対するリスペクトがあるだろうか?「包丁」には「料理人」に対するリスペクトがあるだろうか? ひょっとすると、それらの道具を作製した鍛冶職人には、利用者や、材料を採取した労働者に対するリスペクトがあるかもしれません。それが道具に宿るということも、(僕は目にしたことが無いのですが)ありうるのかもしれない。 もしリスペクトの宿った金槌というものがあって、それを感じ取ることのできる大工さんが居ると仮定すると、金槌には「リスペクト:ある/なし」というパラメータが追加されることになります。そうすると……「リスペクト:ある」の金槌と同時に、「リスペクト:なし」の金槌が生まれるのです。 つまり、「リスペクトの宿った良い金槌」が生まれた瞬間に、「リスペクトの宿っていない悪い金槌」が、同時発生する。これは、パラメータが何らかの値を取る以上、回避不可能です。 ただ、このパラメータには致命的な問題があります。金槌に宿ったリスペクトの値を、誰がどうやって取り出すのかという問題です。目には見えません。何か装置を使って測ることもできません。 「大工に対するリスペクトが宿っていない金槌など到底良い金槌とは言えない」と言ってみたところで、リスペクトを計測する方法がないのですから、「良い金槌」など探しようもないわけです。逆にどれが「悪い金槌」なのかもわかりません。 ただ、どうでしょう。大工さんの立場からしたら、おそらく「金槌には良し悪しがある」と言うでしょう。それは金槌に宿ったリスペクトの値を検知したからではなく、実際にある程度使って、いくつか使い比べてみて、はじめてわかることではないでしょうか。要するに、リスペクトなどというパラメータがもしあっても、まったく意味がないのではないだろうか、ということです。 最初の問いに戻りましょう。上記の喩えに破綻がなければ、金槌に「リスペクト」というパラメータが存在しない、もしくはあっても意味がないように、生成AIに「これまでのアーティストに対するリスペクトがない」と指摘するのはナンセンスです。 「でも生成AIはアーティストの仕事を確実に奪う。既に奪っている。リスペクトがないからそんなサービスを展開できるのだ」という反論がありそうです。 確かに、生成AIは既存の職種の仕事を奪うでしょう。アーティストも然りです。アーティストだけが産業構造の大変動から特権的に守られるということはないと思います。それ以外は正直、この先どうなるのか予測できません。 ただこれは、「リスペクトがない」「だから仕事を奪う」のではなくて、「生成AIに対する需要が、これまでのアーティストに対する需要を上回った」「だから仕事が奪われた」です。「リスペクト:なし」だけであれば、「リスペクト:あり」にすればよいことになりますが(もちろん、それはナンセンスですが)、「需要」はまた異なるパラメータなので、リスペクトは関係ありません。 僕自身は、手作業での作曲も、生成AIを使った作曲も、どちらもやります。どちらか一方に偏った思い入れはありません。結果的に自分が「これだ」と思う曲が作れれば、手段は問わないからです。 ただし……「生成AIを扱えないこと」が「言い訳にならない」時代が、すぐにやってくるような気がしています。僕はIT技術者でもあるので、余計にそう感じるのかもしれませんが。はたして。僕はまだまだ現役で生きていかなければならない。だから「好き嫌い」をする余裕もなく、生成AIを道具として使いこなす道を選択しています。別の道を選んだ人も、未来のどこかで、「あんときゃ大変だったな」って言いあえたらいいね。