自宅での老々介護の末、認知症の妻にうそをつき介護施設へ…「これが最善なんだ」と自分に言い聞かせ
ケアラーの風景 ささえるあなたへ…小説家・阿刀田高さん
小説家の阿刀田高さん(91)は昨年、認知症だった妻、慶子さんを87歳でみとった。自宅で2年以上介護をした後、妻にうそをついて介護施設に入所させたという。「やれることはやり切った。後悔はない」と振り返る。 【グラフ】一目で分かる…認知症のタイプと割合 「レビー小体型」は4.3%
最後の言葉を聞いて「ああ、よかった」と
妻の異変に気付いたのは、2020年正月の温泉旅行の時。興奮した状態で、「あなた一人で行けばいい」などとわめきちらしたのです。その後、病院を受診して、「レビー小体型認知症」と診断されました。
自宅で妻を介護する生活が始まりました。ごはんを炊いて、おかずは近所のスーパーで総菜や刺し身を買って。洗濯や掃除もしました。結婚前に7年ほど一人暮らしをしていてよかったと思いました。家事経験が少なかったら、もっと大変だったでしょう。
介護を始めて1年もたたない頃、妻は自宅の階段から転げ落ちて背中や腰を骨折し、以後、一人で歩けなくなりました。介護のためにヘルパーさんにほぼ毎日来てもらい、恥も外聞もなく洗濯や掃除を外注するなど、いろいろな人に頼りました。でも、夜から朝にかけては妻と2人きり。妻のおもらしの後始末などはつらかったです。
認知症の症状が進むと、妻は突然、私に水をかけて「離婚してやる」となじったり、ヘルパーさんに当たり散らしたりしました。たしなめると怒りが大きくなるため、当座は黙っておき、ヘルパーさんが玄関を出た後で追いかけて謝るということもしばしばでした。
妻は子育てが落ち着いた後、「文学作品を読みたい」と言い、朗読家になりました。プロとしても活躍して、私は誇らしく思っていたのです。それだけに、人が変わったような妻の姿を見ることは、精神的に苦しくもありました。
妻を施設に入所させようと思ったのは、22年の冬頃です。「この状況が半年続いたら危機的状況になります。あなたがダメになります」。知人に紹介された介護に詳しい方から、そうはっきりと言われたことがきっかけになりました。
でも、妻がすんなり受け入れてくれるとは思えません。そこで23年1月、私は「新しいデイサービスに行ってみよう」と妻をだまし、介護付き有料老人ホームへ連れていきました。職員の方には、妻が落ち着くまでしばらく面会を控えるように言われました。