コネクテッド・インク2024レポート #7 「挑戦と共創の空間」は続く
創造的混沌(クリエイティブ・カオス)をテーマに、「挑戦と共創の今」を見せてくれたコネクテッド・インク2024東京。アート、人間表現、学び、そして、それらを支えるテクノロジーの新しい方向性を探求するワコムのアニュアルイベントには、2024年11月15日(金)と翌16日(土)の2日間で約1,500人の方にご来場いただきました。会場となった東京・新宿 住友ビル三角広場には、驚き、発見、期待に満ちた濃密な時間が流れていました。
コネクテッド・インク2024東京のレポート記事としては最終回となる今回は、ワコムとともにコネクテッド・インクを共催するコネクテッド・インク・ビレッジ の果たす役割に改めてフォーカスしつつ、そのビレッジが育んできたコミュニティとのつながりをご紹介。(ご参考:レポート #0)さらには、初めての取り組みとなったプライベートブースについてもお伝えします。そして最後、少し気が早いですが、コネクテッド・インク2025のテーマにも触れていきます。
コネクテッド・インク・ビレッジの果たす役割
コネクテッド・インクは、ワコムと一般社団法人コネクテッド・インク・ビレッジ(愛称:ビレッジ)の共催という形を取っています。ビレッジは、アート、テクノロジー、学びを中心に、多様でクリエイティブな活動を推進するため、2021年に設立された団体です。技術の進化と人間の創造性が融合する未来に向けて、個人や団体が共に学び、成長し、社会全体に貢献するクリエイティブなコミュニティの形成を目指しています。
コネクテッド・インクには「創作に関わるあらゆる人々を支えたい」というワコムの想いが投影されています。ペン&インク体験はワコムの得意領域。一方で、音楽、ダンス、演劇、パフォーミングアートといった人間表現とのつながりも持ちたい。ここで存在感を発揮するのがビレッジというわけです。ワコムだけではカバーしきれない無限の領域、そして、その領域で情熱を持って創作に取り組む人たち。ビレッジには、まだ出会っていない人間表現のプロフェッショナルたちと対峙し、理解を深め、共通言語を持って信頼関係を構築していく役割が期待されています。
ビレッジは、コネクテッド・インクの成功に大きく貢献している。
井出信孝
「ワコムが最高のペン&インク体験を届ける営利企業であるのに対し、ビレッジは新たな文化や価値を届ける非営利組織です。各々の得意領域を活かすことで、コネクテッド・インクの創造的混沌が形になっています。ビレッジはあくまでも独立性を持ったひとつの組織なので、ワコムとの接点が明確ではないコミュニティに対しても、別の角度からアプローチすることができます。ワコムとビレッジ、お互いが補完し合うことで、コネクテッド・インクの世界は広がり続けているのです」と、井出は語ります。
ワコムとビレッジが築く数々のコミュニティ
コミュニティと共に生きる。これはワコムの決意です。これまでワコムが磨き上げてきたペン&インク体験、そしてそこから生まれる新しいアイデアをコミュニティに届ける。意味あるものを提供することでコミュニティの信頼を獲得する。そして、そのコミュニティとともに次の価値を共創する。ワコム単体では実現できる世界も広がっていきません。コミュニティと共に生きることが、ワコムらしさを最も発揮できる道。そのときに、営利企業であるワコムだけでは手が届かない、大きな可能性を秘めたコミュニティの信頼を得るために、ビレッジの存在が欠かせないのです。
今回のコネクテッド・インクでも、ワコムとビレッジが信頼を積み重ねてきた数々のコミュニティの面々が会場を沸かせてくれました。そのなかから一部のステージプログラムをご紹介します。
ゲームクリエイターが語る「ゲームと日常の関係性」
ワコムとも関わりの深いゲームの世界。会場内では、いま話題のゲームも展示されました。そのひとつ『ムーンレスムーン』のクリエイター Kazuhide Oka氏と、展示作品のキュレーター IGN JAPANの今井 晋氏を迎え、井出とのトークセッションを展開。ゲームクリエイターの日常、そして、その日常からどうやってゲームが生まれるのか。そのリアルが語られました。
Tokyo Anim Uniteから世界で活躍する2人のアニメーターが登場
ワコムやビレッジともつながりのあるTokyo Anim Uniteはアートと学びと楽しみを融合したイベント。そのTokyo Anim Uniteから主催者であるヨーヘイ氏と、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで活躍するホルヘ・E・ルイズ・カノ氏が登場。ハリウッドで活躍する2人のアニメーターは、自身のこれまでの人生とキャリアを振り返るクイックドローイングを披露しました。作品づくりに影響を与えたパーソナルエピソードを語る姿に、会場はたくさんの笑顔と涙に包まれました。
ハリウッドで活躍するコンセプトアーティストが描く「新宿の日常」
同じくTokyo Anim Uniteに登壇された伊藤より子氏にも、ご参加いただきました。ハリウッドのCGアニメ業界で活躍するコンセプトアーティストである伊藤氏は、日本で「姐御スケッチ会」を開催しており、今回はその特別版。東京支部スケッチ会の仲間(会員もしくは同志)がコネクテッド・インク開幕と同時に新宿の街に出向き、2024年11月16日当日の新宿の日常を描きました。ステージでは、会員の皆さんの作品に向けて伊藤氏からの温かい言葉があふれ、絵を描く楽しさがストレートに伝わるプログラムとなりました。
MINAMOTOが贈る「フィギュア × 3Dアバター × 身体表現」の可能性
MINAMOTOはビレッジが推進するプロジェクトのひとつで、「原型師」の世界をより広く知ってもらい、クリエイターとしての可能性をさらに広げようとするもの。会場では、『九尾の傍観者』(2022年にMINAMOTOから生まれたフィギュア)の3Dアバターと、モーションキャプチャデバイスを持ったコンテンポラリーダンサーがシンクロするデモンストレーションが披露されました。ダンサーの変幻自在の身体表現がリアルタイムで3Dアバターに反映される様子からは、フィギュアから生まれた新たな可能性が感じられました。
リアルビジネスへの足掛かりとして
2024年に始まった取り組みのひとつに、ビジネスパートナー向けのプライベートエリア、Behind The Curtain(ビハインド・ザ・カーテン)があります。そこはワコムの最先端技術、そして、開発途中の技術に触れることができるショーケースであり、ワコムの目指す世界観を体験していただく特別な場です。デジタルペンによってVR空間に手書きの情報を書き込むことが可能で、クリエイティブワークフローや学び・教育の領域での活用が期待されるWacom VR Pen。作品の軌跡をデジタルインク技術で捉え、その特徴量の変化をAI技術で可視化するKISEKI ART(キセキ・アート)プロジェクト(ご参考:レポート #6)など、各種事例も披露されました。
会場の一角に設けられたこのクローズドなスペースで、すでにワコムとのビジネスを進めているパートナーも、あるいは、これから共に取り組める可能性を模索しているパートナー候補も、ワコムの技術を活用したビジネス、その無限の可能性について語り合いました。コネクテッド・インクという、ある種、ビジネスとは一線を画した創造的混沌に満ちた空間だからこそ、人間の持つ多面性に向き合おうとするワコムの姿勢がより明確なイメージを伴って理解されやすいのかもしれません。このことはリアルビジネスにも良い影響を及ぼすことでしょう。
実際、コネクテッド・インクでのご縁をきっかけにリアルビジネスへと発展した事例も現れ始めています。レポート #5でご紹介した、手書き×デジタルを活用した新しい学習に関するZ会様との取り組みは、まさにその好例です。想像力をかき立ててくれるコネクテッド・インク独特の空気が、アイデアとビジネスを加速させる。そのことが結果を伴って証明されつつあります。「この新しい取り組みも、思い返せばコネクテッド・インク2024の2日間が始まりだった」 近い将来、そんな事例が現れてきたら面白いですよね。これからのコネクテッド・インクはリアルビジネスのインキュベーター(孵卵器)としての価値をますます高めていくでしょう。
2025年のテーマは「タカハシ」
コネクテッド・インク2025は、今年11月14日(金)と15日(土)の2日間にわたって開催される予定です。会場はこれまでと同じく東京・新宿 住友ビル三角広場。ワコムの中期経営方針 Wacom Chapter 4 がスタートして最初のコネクテッド・インクは、様々なコミュニティとの共創が一層加速し、例年以上の熱気が期待されます。
毎回コネクテッド・インクでは翌年のテーマを発表しています。2025年のテーマは「タカハシ」。「ん?」と眉を顰められた方もいらっしゃるかもしれません。そうですよね。でも、少しだけ聞いてください。このタカハシというフレーズには、40年近くにわたって井出が抱き続けてきたかけがえのない想いが託されています。
高校2年のとき同じクラスにいた、タカハシ。
それまで話したこともなかったのに、
僕に一本のカセットテープをくれた。
そこに入っていたのは、
「シオン」というミュージシャンのアルバム。
一発で好きになったシオンの曲達。
教室で話すようになった、どの歌詞、どの歌い方が好きか。
僕が好きな歌を貸してあげても、
タカハシはあまり気に入らないようだった。
卒業式の日に別れてから、一度も会っていない。
連絡先も知らない、SNSでも繋がっていない、
生きているか死んでいるかもわからない。
でも、シオンの曲はずっと聴き続けている。
人生の辛い時期を何度も救ってくれた。
「タカハシ」 “TAKAHASHI”
仲間でもなければ、友達でもない。
今となっては知り合いでもない。
ただ人生の一点の交錯ポイントで、
かけがえのないインパクトをくれた唯一無二の存在。
あなたにとってのタカハシは誰ですか?
あなたは誰かのタカハシですか?
あなたはまだタカハシに出会っていないですか?
これが2025年に立てられる新たな問いです。「何気ない、ほんの一瞬の出会いが、一人の人生にかくも大きな影響を与えるのか」と、激しく心を揺さぶられます。あの日、あの時、あなたを支えてくれた、そして今も支え続けてくれているあなたのタカハシ。まだ出会っていないけれど、未来であなたを助け、導いてくれるあなただけのタカハシ。そんな存在を思い浮かべながら、ぜひコネクテッド・インク2025に足を運んでみてください。開催に関する詳細は決定次第、ウェブサイトや各種SNSにてお伝えいたします。今年の秋、この挑戦と共創の空間で再びお会いできることを心から楽しみにしています。
*文中の所属・肩書はコネクテッド・インク2024東京(2024年11月)時点のもの
Writing: Chikara Kawakami
Editing: Emiko Yoshikawa
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