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何ものにも代えがたい場所で、特別な映画を届ける喜びと責任/プログラマー(番組編成)の仕事

文化芸術を支える“裏方の役割”にスポットライトを当てる「Behind Bunka」。第3回は、プログラマー(番組編成)です。Bunkamuraル・シネマから、現在のル・シネマ 渋谷宮下にわたりプログラミングを担っている中村由紀子さんと野口由紀さんの二人に、デジタル化に伴う変化や、映画館のカラーを決める編成の仕事だからこその難しさや、これまでのエピソード、大切にしていることを聞きました。

映画館のカラーを決める編成の仕事

コンサートホールや劇場、美術館などの施設やカフェ・ショップから成り立ち、渋谷の人気スポットとして親しまれてきた大型の複合文化施設Bunkamura。現在Bunkamuraル・シネマは休館中のため場所を移して、渋谷駅からほど近いBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で営業中です。独自の作品選定による、芸術性の高い、こだわりあるアートハウス目線を貫き、これまでのファンと新たなファンに支持されています。

プログラミングは、その名の通り番組編成を担っています。劇場に合う作品をピックアップし、いつの時期にどれくらいの期間にわたって上映していくかを決定。その映画館のカラーを決める仕事と言えます。

『髪結いの亭主』『さらば、わが愛 覇王別姫』『トリコロール3部作』『ポネット』『花様年華』『RENT/レント』、近年では『ディオールと私』『偶然と想像』などなど、多くの作品を上映してきたBunkamuraル・シネマ。「あの映画を、あのときにル・シネマで観た!」と思い出が蘇る人も多いのではないでしょうか。

中村さんはBunkamuraル・シネマが誕生した1989年からル・シネマに携わってきました。野口さんは大学時代に、新聞に掲載されていた“ル・シネマで働く中村さんの紹介記事”を読んでいたそう。その後、配給会社とベンチャー企業での経験を経て、中村さんとル・シネマで編成業務をしています。

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ル・シネマで上映してきた数々の名作のチラシ。2018年公開の『君の名前で僕を呼んで』は、今やハリウッドを代表する大スターになったティモシー・シャラメが主演を務めて、その年のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたラブストーリー。この作品から、スターへの階段を駆け上がっていった。2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞、2022年アカデミー賞国際長編映画賞オーストリア代表作品の『大いなる自由』は、Bunkamura初配給作品。Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下で2023年7月に公開された。

デジタル化で上映本数が激増

1年先のスケジュールも決まっている映画館の編成ですが、コンサートやバレエ、舞台などの収録映像であるODS(「other digital stuff」および「other digital source」の略で、映画館で上映される映画以外のコンテンツのこと)や、旧作上映をふくめ、かかる作品の数は、ル・シネマオープン当初に比べ、3倍ほどになっているといいます。

中村「2010年ぐらいを境に、上映素材が35mmフィルムからデジタル素材であるDCPへ変わり、いちいちプリントを用意しなくてよくなりました。昔は全国の映画館300館で同じ作品を同時上映するためには、プリントも300本必要でした。データになり、番組編成もフレキシブルに対応することができるようになったことで、金土日の興行収入をみて翌週のタイムテーブルを決めていくシネコンが出てきました。映画館のタイムテーブルを載せていた雑誌がなくなったのも仕方ありません。昔は映画のチラシの裏にもタイムテーブルが載ってましたけれど、先が読めませんからね。Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下は2スクリーンですが、2作品しかやらないわけでもありません。多い時は1日5作品くらい上映しています。ほかの劇場さんもしかりです」

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Bunkamuraル・シネマ誕生時から携わってきた中村さん。「中学生のころにどうしても『小さな恋のメロディ』を映画館で観たくて、友達と日比谷の劇場に行きました。マーク・レスターとトレイシー・ハイドの、12歳ぐらいの男の子と女の子の初恋物語です。大ヒットしていて、劇場の回りを人がとぐろをまいて並んでいました。私たちも目指した回ではなく、次の回を見ることになったんです。とっても瑞々しい映画で、ビージーズの音楽も素晴らしかったですね。その頃は安全面からも、気楽に子どもが映画館に行けるというわけでもなかったので、いつもはテレビの洋画劇場などで楽しんでいましたけれど、改めて“やっぱり映画館で観るのはいいな”と感じました。それ以降、お小遣いをためて前売り券を買って、無理をしてでも銀座の映画館に行きました。“将来、映画につながる仕事ができたら素晴らしいな”と思ってましたね」

数が多くなればなるほど、“選ぶ”作業も増えますが、編成は“選ぶ”ことよりも、それ以外の作業が多いとか。

野口「編成やキュレーションと聞くと、“選ぶ”ということが、表に出がちです。でもこの仕事についたときに中村に言われました。“もちろん選ぶことも仕事に含まれているけれども、調達調整係だ”と。“選んだ後、その映画を配給会社も劇場もどうみながハッピーになれるか調整する係なんだ”と。たまに、完成前の作品を決めることもあります。そうすると完成が予定より遅れることがあって、スケジュールがズレて穴が空くことがあります。そうした場合のトラブルシューティングを含め、調整も多いです」

中村「それから、大事なこととして作品を選ぶのは、通常、合議制ではありません。みんなで観てよかったものを選ぶわけではない。最終的には自分の判断になる。そこには覚悟が必要になります。興行的にも成功すれば万々歳ですけど、そうでない場合も自分の責任として、その補填を考えなくてはならない。そこの覚悟も持たなくてはいけない仕事だと思います」

野口「ですから面白いけど怖いという意識はずっとあります。最近だとベルギーのバス・ドゥヴォス監督の作品を上映したのですが、海外映画祭では既に認められた存在ですが、日本では未紹介の知られざる作家でした。『Here』はベルリン映画祭のエンカウンターズという2020年に新設された優れた独立系映画や新人作家の発掘に重きをおく部門で昨年上映された作品で、とてもいい映画でポテンシャルはすごくあると感じました。今の人の感性にも合うと思ったのですが、何しろ日本では知名度がなくて小さな宝石のような印象でした。そこで『Here』を提案してくれた配給会社と話し合いを重ね、監督の前作『ゴースト・トロピック』と合わせて2本同時公開すれば監督の才能の幅も見せられ、主人公の年代も異なるので広い世代の観客が“自分の映画だ”と興味を抱いてくれるのではないか?となりました。公開してみたら、ちゃんとお客様が来てくれてホッとしましたね」

重要なのは「出会い」

長年この仕事をしてきた中村さんは、「やっぱり重要なのは出会い」だと口にします。

中村「いかに人と出会うか。そして配給会社や宣伝会社とお付き合いしていくなかで、素晴らしい作品とも出会える。いい結果が出れば、また次も一緒にやりましょうとなる。さらに作家との出会いがあります。ル・シネマで言うとパトリス・ルコント(『髪結いの亭主』)やクシシュトフ・キェシロフスキ(『トリコロール3部作』)とか。ハンドリングしている配給会社さんも同じですし、“あの監督の作品はル・シネマでやるよね”と観客の皆さんにもインプットすることができました。初のアジア映画として上映した『さらば、わが愛 覇王別姫』の素晴らしい俳優、レスリー・チャンとの縁もそうです。亡くなってしまいましたが、今年も彼の命日の4月1日には彼の主演作を上映しました。そうした出会いはとても大切です」

野口さんは「出会いの大切さ」から、中村さんとのエピソードを教えてくれました。

野口「私は、2015年にBunkamuraに入社したのですが、以前、配給会社で働いていたときに、フレデリック・ワイズマンの『パリ・オペラ座のすべて』をどうしても日本で配給したくて、ル・シネマだったらいけるんじゃないかと思ったんです。でも肝心の作品がまだ完成していませんでした。完成前のドキュメンタリー映画ですから、会社としては“ええ?”という反応で(笑)。それをそのときのオペラ座のエトワールが全員出ているとか、どういった演目が出てくるとか、映像の一部とともにパソコンを持って中村にプレゼンしに行ったら、“コケる気がしませんね”と言ってくれて」

中村「即決でした。すぐにやりたいと思いましたよ」

野口「それで会社に戻って、“中村さんにコケる気がしないと言ってもらいました”と言ったら“じゃあ、やろう”となって。そのとき私はまだ30歳くらいだったので、信用度の違いを感じました(笑)。それでめでたく上映できることになって、初日にル・シネマに行きました。当時はオンライン予約ではなかったのですが、シネマの前にずらっと行列ができていて、本当に嬉しかったです。その後、何年かして配給会社を辞めて、一度は別の仕事をしたんですけど、また映画関係の仕事をやりたいなと思っていたそのタイミングで、中村に声をかけてもらって今に繋がります」

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ル・シネマには2015年に入った野口さん。「初めて映画館で映画を観たのは、5歳のときの『E.T.』だったと思います。字幕が読めなかったので、隣の母親にずっと内容を囁いてもらいながら観ました。子どもの頃は、独身で働いていた叔母の家を掃除すると映画に連れて行ってもらえるというルールがあり、『インディ・ジョーンズ』や『グーニーズ』なんかに連れていってもらいましたね。自分で映画館にたくさん通えるようになったのは、大学に入ってアルバイトするようになってからですが、映画はずっと好きでした。ビデオ屋さんでビデオのパッケージを眺めて、“この作品は、何年のアカデミー賞を取ってるんだ”なんてチェックしたりして。中学生になると、図書館のビデオコーナーを利用しました。淀川長治さんの本に“映画が好きだったら映画バカになるな。人形浄瑠璃もオペラもバレエも観なさい”と書かれているのを読んで、いろんなものを観るよう心掛けました」

その映画館で映画を観る、届ける

最後に、編成の仕事を通じて映画を届ける仕事を続けるお二人に、この仕事をしていて改めて感じる喜びややりがいを聞きました。

野口「今はSNSでもお客様の感想を知ることができるようなりましたが、自分がいいと思ったことはもちろん、自分が気づかなかった良さをみなさんが語ってくださっているので、映画をお客様に届けて、その映画の良さを再発見していく喜びがあります。それと、映画館にはやっぱり“空気”があります。すごい傑作をやっているときって、お客様が一瞬も見逃すまいと瞬きを惜しむような“気”が充満してるんです」

中村「熱気があるよね」

野口「それって家で一人で観ていては感じられないもの。周りの人たちの反応とか、集中力とか。目に見えないはずのものが感じ取れる。それをお客様と一緒に感じるとき、特別な場所だなと思います」

中村「作品によっては、上映が終わったときに拍手が起きたりするのも本当に嬉しいです。映画館で観ていただくこと、どこの映画館で観たということも記憶に残ると、やっぱり嬉しい。映画館は特別な箱だと思っていますから。そこに身を置いて、頭を空にして浸っていただくというのは、とても貴重な時間だと思います。映画は一種の旅ですよね。自分でも想像しなかった、入口と出口が全く違うところに連れて行ってくれる旅。自分が思いも寄らなかった感情を引き出してくれる旅。それが映画だと思います。それから今世界中で起きていることを、より身近に実感できるものでもあります。それを提供できるなんて、やっぱり喜びある仕事です」

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文:望月ふみ

〈Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下〉
東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F(1F:チケットカウンター)
開館時間:10:00
※混雑状況により早まる場合がございます。

「Behind Bunka」では、文化芸術を支える“裏方の役割”にスポットライトを当て、ご紹介しています。ぜひご覧ください。

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