不動産ファンド「みんなで大家さん」を運営する共生バンクのグループ会社が、現職の成田市議が関係する事業に対し、総額で約10億円に上る資金を提供していたことが判明した。この議員は上田信博氏。市議会の議長も務めたベテランで、10年以上にわたり、自身や親族が経営する法人を通じて継続的に支払いを受けてきたとみられる。
過去には、成田プロジェクト用地の4割を保有する成田国際空港株式会社(NAA)と、借地契約の期限を控えた共生バンクとの間を取り持った疑いも浮上。年金世代を中心に1500億円超の資金を集めたものの、元本償還の停止や分配金の遅延が続く成田プロジェクトをめぐり、事業者と政治家との深いつながりが浮き彫りになった。
地権者紹介で“両手取引”か
公式ウェブサイトなどによると、上田氏は日本航空(JAL)に勤務した後、1995年に成田市議に初当選。以後8期、30年以上にわたり市議を務め、議長や空港対策特別委員会の委員長といった要職を歴任してきた。現在は議会会派、豪政会(こうせいかい)を率いている。
議会関係者は語る。「上田さんは、空港関係者と行政の双方に顔が利く数少ない議員です。議会内での発言力も小さくありません」。
そんな有力議員と共生バンクの代表、栁瀨健一氏との関係は、同社が成田プロジェクトの構想に着手した2014年前後までさかのぼる。以降、上田氏の親族が代表を務める会社は、土地の売り主を紹介する見返りとして、共生バンク側から手数料の支払いを受けてきたという。17年ごろにはおよそ用地買収が完了したが、支払いはその後も継続し、シリーズ成田商品の配当停止が話題となった25年夏ごろまで続いたもよう。累計額は数千万円に上るとみられる。
上田氏が紹介した売り主とは、当初、計画地全体の2割ほどを保有していた千葉県内の不動産会社のことだ。関係者の証言からは、同氏が土地の買い主である共生バンクから手数料を得る傍らで、この不動産会社からも手数料を受け取っていた様子がうかがえる。これが事実だとすれば、同氏はプロさながらの「両手取引」を手がけたことになる。
不動産会社の代表は「一帯の土地は細切れで、そのまま使える状態ではなかったが、時折商談があったため周囲の地権者との関係作りを進めていた。あるとき上田先生から先代社長に話があり、当社の土地を売却すると同時に、残りの地権者と共生バンクとの交渉を取りまとめることになった。共生バンクからも手数料が支払われていたとは、今まで知らなかった」と述べている。
蜜月示す倉庫建設、県と市が補助金を投入
上記を金額規模で大きく上回るのは、「成田農産」(千葉県成田市)など上田氏関連の農業法人に対する資金供与だ。共生バンクのグループ会社が提供した資金の総額は、前述の紹介手数料とあわせて約10億円。全29人の議員報酬を含む、成田市の議会費(今年度約4億4000万円)の2倍あまりに相当する。
両者の蜜月ぶりを象徴する存在が、空港から車で20分ほどの場所に建てられた成田農産の農業倉庫。ひときわ目を引く白い外観の建物は、掘り出したサツマイモを出荷時期まで低温貯蔵するためのもので、その建設費はおよそ8500万円である。
地元を取材していると、この倉庫建設費のうち、6000万円あまりが共生バンク側から支出されたとの情報を得た。残りの約2000万円は、千葉県と成田市からの補助金で賄われたことが、情報公開請求で入手した資料によりすでに判明している。
補助金の額は県が約1250万円、市が約750万円で、成田農産(当時の成田農園)は24年9月にいずれも満額を受給した。つまり、上田氏は自身の事業拡大のために、自らが議員を務める成田市から補助金を引き出したことになる。
成田市の担当部局は取材に対し、「共生バンクとの関連については知らなかった。申請企業の代表者が議員であるかどうかを確認する規定はない」と回答している。
矢継ぎ早に事業を展開、成田市内から兵庫県まで
成田農産のウェブサイトによると、同社は20年の設立。合計29ヘクタールほどの農地と10人の従業員を抱える。
さつま芋や米を主力とする農業生産の一方、矢継ぎ早に新規事業の展開を図る成田農産だが、それらの経費も基本的に共生バンク側が負担したもよう。大半は出資金として扱われたが、事業の配当として共生バンク側に還流した資金はごくわずかとみられる。
成田農産は24年、成田市との市町村合併で遊休化していた旧大栄町(たいえいまち)役場の借地権を得て、もみ殻を原料とした肥料生産などに着手。その後も、成田市が運営する公設市場内にさつま芋関連の店舗を出店したほか、25年1月には兵庫県にパン屋を出店。店頭では、定番の食パンやフランスパンに加え、成田産の芋ペーストを使った菓子パンや焼き芋などを販売している。
一目見た限り、不動産クラウドファンディングを手がける共生バンクとのシナジーを感じさせる事業は見当たらないが、唯一の例外は市内で営まれていたバナナの温室栽培である。
共生バンクは「凍結解凍覚醒法」と呼ぶ特殊な技術を用いて、本来の生産地である熱帯地方以外でも良質なバナナを栽培できると主張。九州各地の栽培施設を「みんなで大家さん」シリーズの不動産ファンドに仕立てて販売してきた。店頭価格は1本900円ほどになるという「神バナナ」である。
成田市内にも同社のバナナ農場が確認できるが、かつてはその栽培を成田農産が請け負っていたとみられる。収穫したバナナの売り上げから配当するとの触れ込みだったが、販売は振るわなかったようだ。
NAA面会に同席、借地料の減免促す発言も
成田プロジェクト開発用地の取りまとめが終わってからも、共生バンク側がここまで上田氏に有利な取り計らいを続けてきた理由は何か。その一端をうかがわせる資料が手元にある。
日経不動産マーケット情報が入手した議事録によると、23年3月、共生バンクの開発責任者とNAAの役員、用地部長との会合に上田氏が同席。借地契約を巡って、共生バンクに有利な計らいを求める趣旨の発言をしていたことが確認できる(一部は25年5月号「成田借地問題 迷走と先送りの顛末」で既報 ⇒記事リンク)。
当初、24年度中の開業をめざしていたプロジェクトの遅れは、この時点ですでに明らかだった。会議では共生バンク側が、それまで娯楽・商業施設を建設するとしてきた計画を、食料品の流通施設を核とする「日本版フードバレー」に大幅変更する構想を説明。NAA側に理解を求めた。
上田氏が会議に同席した経緯は明らかになっていないが、「共生バンクから言いづらい内容」と述べながら、NAA役員に対してコロナ禍を理由とした借地料の減免を助言。さらには、計画地内に点在する借地の集約化や、共生バンクに対する物流倉庫の貸し出しまで提言している。NAA側からは継続協議に応じる意向が示され、会議は終了した。
果たして、共生バンクは協議から半年後の23年9月、当初設定した期限を迎えたNAAとの借地契約について、延長を取り付けている。
上田氏は、共生バンクと成田市との関係においてもキーパーソンだった。小泉一成市長は19年以降、栁瀨代表と6回にわたり面会。同年8月には、共生バンクが運営する三重県のテーマパーク「伊勢忍者キングダム」視察のため、同社手配のヘリコプターに搭乗した。市の広報担当者は問い合わせに対し、いずれの機会にも上田氏が同席していたことを認めた。
議会有志が審査会開催を要求
日経不動産マーケット情報は25年10月以降、繰り返し上田氏に取材対応を依頼してきた。その後も、複数回にわたり質問状を送付し接触を試みたが、26年5月12日時点で回答は得られていない。
一方、共生バンクの広報担当者は取材に対し、「上田市議はもとより、第三者の助力を受けた事実などは全くない」と説明している。NAAは、「個別の打ち合わせについての回答は差し控えるが、指摘されるような借地料の減免などについて当社で検討した事実はない」(広報部)とした。
成田市議会では、一連の上田氏の疑惑追及に向けた動きが始まった。5月8日、超党派の議員有志が政治倫理審査会の開催を請求。規程に従い、議員総数の4分の1にあたる8人の署名を議長に提出した。開催の判断は、5月14日の議会運営委員会での議論に委ねられる。
これらの議員は、上田氏と同じ会派に属する鬼澤雅弘議員についても、今回の審査請求の対象としている。鬼澤氏には、自身が代表を務める会社を通じて、共生バンク側から成田プロジェクト関連の警備業務を請け負った疑いが持たれている。成田農産の前身である成田農園においても、24年6月まで役員を務めていた。
市議会の議員政治倫理条例は、「議員は、政治倫理に反する事実があるとの疑惑を持たれたときは、自ら率先して、真摯かつ誠実に事実を明らかにし、その責任を明確にしなければならない」と定める。
巨額の投資プロジェクトを巡るいびつな関係は、なお多くの疑問を残している。


















