病院内のカフェ、なぜ「タリーズ」が多い? 100店舗展開を支える運営戦略
病院から街中店舗へ 院内出店が生む波及効果
病院内店舗の利用が、病院の外へと波及することもある。象徴的なのが、プリペイド式の「TULLY'S CARD(タリーズカード)」だ。 「病院内店舗では、お見舞いや退院時の贈答用に購入される方が多いです。これは1000円単位でチャージでき、繰り返し使えるプリペイド式のカードで、タリーズコーヒー全店舗で利用できます」(定常氏) 一般店舗では利用者にチャージを推奨することが販促の一手になるが、病院内店舗では積極的な案内は行わない。定常氏は「これも『また来てください』というニュアンスになってしまうため、慎重に運用しています」と話す。 院内で受け取ったカードは退院後や休日に街中の店舗で利用されるほか、見舞客や医療従事者が院外店舗を訪れるきっかけにもなっているという。 さらに、人間ドック受診者向けに、病院側がタリーズカードを配布するケースもある。初めてタリーズカードを手にした利用者がその後、街中の店舗を継続利用することもあり、定常氏は「一定の波及効果はあると感じています」と話す。
「(採算が)トントンでもやる」 事業として成立するのか
病院内出店は、理念を体現する上で意義の大きい取り組みだ。一方で、事業としてどの程度成立しているのか。収益性について、定常氏は「病院によってまちまちですが」とした上で、「(採算が)トントンでもやります」と話す。 その背景には、地域に根ざしたコミュニティーカフェを目指す同社の考え方に加え、病院内店舗ならではの安定した需要がある。医療従事者や入院患者など日常的な利用客が多く、路面店に比べてリピーター率が高いのだ。 また、院外へ出にくい利用者が食事目的で利用するケースも多い。このため、売り上げ構成比に占めるフードの割合は、一般店舗より約10ポイント高いという。特に、季節に合わせた期間限定メニューが好調で、その他にも病院内店限定のフードメニューを展開するなど、病院特有の需要に合わせた商品設計を進めている。 一方で、意識すべき点もある。常連客中心であることは接客などへの評価が口コミで広まりやすいことを意味する。良い評判も悪い評判も広がりやすいため、病院内店舗では一般店舗以上に接客品質を重視している。人員も通常店舗より多く配置し、利用者が心地よく過ごせるように目を配る。 以前、病院内店舗に勤務していた、須崎未紗氏(秘書本部 秘書広報グループ、崎はたつさき)は「病院内店舗を利用するお客さまは、むしろ通常のタリーズを求めて来てくださっている方が多いです」と当時を振り返る。 「重症患者さまが多い病院でも、店内は決して暗い雰囲気ではありません。日常のようにカフェの時間を楽しみたいという方が多く、特別な空間づくりを求められているわけではないのだと、働いてみて実感しました」(須崎氏) 定常氏は「利益だけを追うのなら、もっと効率の良い立地はあるかもしれません。ですが、病院という場所で果たせる役割と、事業としての可能性の両方があるからこそ、続ける意味があると考えています」と話す。 病院内店舗100店という数字の裏には、理念だけではなく、現場と本部が一緒に磨き上げてきた運営ノウハウと、事業を成立させる仕組みがあった。タリーズは、病院という特殊な環境に合わせて特別な店を作ったのではない。その場所で求められる「いつものタリーズ」を追求し続けた結果が、100店舗という数字につながっている。
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