世界の「1秒」63年ぶり改定、島津製作所の時計活用へ 国際機関と提携
島津製作所と理化学研究所は12日、時間や距離の単位を管理する国際機関、国際度量衡局と覚書を交わした。2030年に世界の「1秒の長さ」の基準が変わる。日本発の「光格子時計」が改定に有用か共同で実証する。
川崎市の島津の施設で12日に調印式を開いた。国際度量衡局のアネット・クー局長と島津の山本靖則社長、理研の五神真理事長、光格子時計の発明者である理研の香取秀俊チームディレクター(東京大学教授)らが参加した。国際度量衡局は単位の国際ルールを決める「メートル条約」の事務局・研究機関だ。
クー局長は「(秒の再定義に向けた)ロードマップでは世界の様々な研究所、都市、国の光標準(時計)を比較する手段が非常に重要だ。今後の調査検証に期待している」と語った。島津の山本社長は「秒の再定義に向けた新たな国際協力体制をつくり、科学技術がさらなる高みに向かうための一助になればうれしい」と述べた。
1秒の長さは1967年から現在まで「セシウム原子時計」に基づいて定義している。光格子時計はセシウム原子時計の100倍以上の正確さが保証され、100億年に1秒ほどの誤差しか生じない。2025年に島津が世界で初めて製品化した。発明者の香取教授はノーベル物理学賞の有力候補とされている。
メートル条約の最高機関である国際度量衡総会は1秒の長さの定義を見直す議論を進めている。光格子時計は欧米で研究が進む「単一イオン光時計」とともに、1秒の長さを再定義する手段として有望視されている。
香取教授は「四半世紀に至る研究の成果がこのような形になり、想像もつかない未来にたどり着いた気がしている」と研究の歩みを振り返った。
26年10月にフランスで開かれる国際度量衡総会で最終候補が選ばれる予定だ。30年の総会では1秒の長さの新定義を決める見込み。光格子時計と単一イオン光時計のそれぞれで複数の種類が検討されており、1種類の時計を選ぶ案と複数の時計を組み合わせる案がある。
1秒の長さを再定義するための技術検討には異なる国や研究機関の時計の厳密な比較が必要だ。国際度量衡局と島津、理研は小型で持ち運び可能な光格子時計を比較検討などに役立てるための調査検証で協力する。他国の研究機関などの参加も想定する。
1秒の長さがより正確な基準で定義されれば、最先端の物理学や天文学で精緻な実験や観測が可能になる。高精度な時計は次世代インフラの基盤技術にもなる。通信ネットワーク内で時刻のずれが生じにくくなり、通信の遅延低減や効率化につながる。自動売買する金融取引などの高速化や信頼性の向上にも役立つと期待される。
光格子時計はレーザー光で作った格子状の枠である「光格子」にストロンチウム原子を1つずつ閉じ込め、原子が吸収する光の振動回数を精密に計測して時間の基準に使う。1秒に429兆回という非常に細かい振動を目盛りにすることで超高精度な時計になる。多数の原子を同時に計測する仕組みで誤差を減らし、高い安定性も実現した。
島津は17年から香取教授と共同研究に取り組んできた。製品化した光格子時計は小型で運搬しやすい。島津はレーザーの緻密な制御技術を生かした。レーザーの特定の波長だけを増強する共振器や温度制御などを工夫し、独自の溶接技術で組み立てた。
最先端の光格子時計の開発によって、島津は自社の技術力を世界的に訴求できるとみる。「秒の再定義」の手段に採用されれば数十年間は定義が維持される。光格子時計の普及とともに製品の保守運用も商機として期待する。
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