AIより先に、この月末をどうにかしてほしかった
「AIは使っているけど、業務が変わった実感がない」
「ちょっとした作業には使えるけど、本当の意味で活用できている気がしない」
「自分は使えても、チームに広げられていない」
これを読んでいる方も、似たような気持ちを抱えていませんか。
実は、私たち「じさぽ」も少し前まではまったく同じ状況でした。
私たちのことを、少し紹介させてください
「じさぽ」は、マネーフォワード社内での私たちの通称です。
正式名称はRevOps部といい、自社サービスの納品・請求・入金確認・問い合わせ対応といった、販売管理業務を幅広く担っています。
ちなみに私たちの会社・マネーフォワードは、「お金の見える化」や「バックオフィス業務の効率化」を掲げたサービスを世の中に届けている会社です。
そう、バックオフィスを楽にする会社の、バックオフィスが、全然楽じゃなかったのです。
お恥ずかしながら、これが私たちのリアルな現実でした。
2020年から2025年までの5年間で、納品件数は約4.8倍、請求書の発行件数は約14倍になりました。
それでもチームメンバーの数は当時から変わらず、今も9名程度で業務をこなしています。
「AIを活用しよう」はわかった。でも月1万件の請求書発行、誰がやるんですか?
数字だけ見るとすごいと思われるかもしれませんが、現場の感覚はそんなに格好いいものではありません。
毎日バタバタとタスクをこなし、気づいたら夕方になっていて、「今日も何もできなかった」と感じながら帰ることもしょっちゅうでした。
「AIに仕事を奪われる」より、「とにかく今をラクにしたい」
ここ数年AIの進化が話題になり、「AIに仕事を奪われるかも」という不安をよく耳にするようになりました。「もっとAIを使わなければ」というプレッシャーを感じている人も多いかもしれません。
ですが、正直じさぽには「ちゃんと使えているのか」を考える余裕もありませんでした。目の前には毎月3,000件の納品があり、10,000件の請求書発行があります。
特に月末は業務が逼迫するので、「AIの可能性」よりもまず、「今日の業務をどう終わらせるか」で頭がいっぱいでした。
「改善したい」「新しいことを始めたい」という気持ちはあるのに、目の前の業務をこなすだけで一日が終わってしまう。改善のための時間を捻出しようにも、その余裕がない。その繰り返しでした。
バックオフィスの方なら、この感覚に覚えがあるのではないでしょうか。
変化のきっかけは、モヤモヤをそのまま打ち込んでみたことでした
じさぽでは、半期ごとに「不備を半分に減らす」「チームのサーベイ結果の数値を向上させる」といったプロジェクト目標が与えられます。
これまではいつも、何から始めればいいかがわからず、期初に手が止まっていました。
たとえば「メール返信を自動化する」という目標が与えられたとき、どんな方法があるのかわかりませんでした。「自動化 メール」で検索しても情報が多すぎて、自分たちに合うのかどうかも判断できない。わからないことへの対処がわからない、という詰まり方でした。
そこでAIに「どんな方法が考えられるか」をそのまま聞いてみました。
いくつか案が出てきたところで、今度は自分たちの制約を話しながら絞り込んでいきました。
チームみんなで対応しているから対応が被らない仕組みが必要なこと、請求や入金の状況はSalesforceを確認してからでないと回答できないこと、お金が絡む以上ミスは許されないこと。
AIが答えをくれたわけではなく、自分たちの状況を話しながら、今の私たちにできる現実的な方法の輪郭が見えてきた、という感覚でした。
うまくいくかどうかより、まず動けるかどうか。最初の一歩が見えれば試行回数が増える。
それだけのことなのですが、それがすべてだったと今は思っています。
「難しい」「時間がない」も、そのまま伝えてみる
AIが示してくれた最初の一歩が「それは難しい」「そんな時間はない」と感じることも、当然あります。
そういうときは、その気持ちもそのまま壁打ちしてみてください。
「それをやるのは難しいです。もっとハードルが低い方法はありますか?」
そう返すと、AIは別のアプローチを出してくれます。
「それなら、まずこれだけでも試してみませんか」と、自分が動けるレベルまでハードルを下げてくれます。
私たちがAIを使い始めて感じた一番の驚きは、「答えを出してくれる」ことではなく、「次の一手を一緒に考えてくれる」という感覚でした。
答えをくれる存在というより、壁打ち相手という方が近いかもしれません。
チームへの広げ方に、正直悩んだ
チームに広げるフェーズで、同じ悩みを抱えた方も多いのではないでしょうか。
私自身、隣のみんながどれくらいAIを使っているのか、まったくわからず不安でした。
「押しつけがましくなるのでは」
「温度感の違う人がいたら気まずい」
——そんな気持ちがあり、いきなり「みんなもAIを業務に使いましょう」とは言いにくかったのです。
そこで最初に作ったのは、Slackの「AIカフェ」というチャンネルです。
ルールはひとつ、「こんな使い方してみたよ」を気軽に共有することで、業務効率化とはいったん完全に切り離しました。
最初に盛り上がったのは、みんなで撮った集合写真をAIに読み込ませて「ギャル風にして!」「漫画風で!」と変換して大笑いする、完全に仕事と無関係な遊びでした。
チームのテーマソングを作ったときは、日常のあるあるがメロディーに乗ってでてきて大笑いしました。
その雰囲気がチームに育ってきたころ、誰かに言われたわけでもなく、メンバーの一人が「初心者向けにワークショップやってみます」と手を挙げました。テーマはあえて業務ではなく、引っ越し時の家電取説まとめや遺伝子検査結果の管理など、プライベートな活用事例。
「私にもできそう」と感じてもらうことだけを目的にしました。
結果として、AI業務利用率は前期の44.4%から88.9%へ、約2倍になりました。
「AIを広める」と気負うより、まず自分たちが楽しむ場所を作ること。
それが一番の近道だったと、今は思っています。
実際に、チームはどう変わったのか
AIカフェを始めてから、みんながごく自然に日々の業務へAIを取り入れるようになりました。
以前は「改善したい」と思っても、話し合いの熱量はその場限りで終わることも多く、やる気はあっても翌日には日常業務に飲み込まれてしまう。その繰り返しでした。
今は話し合ったことをAIでまとめ、目的や次のアクションを言語化することが当たり前になりました。
「私たちは何のためにこれをやるのか」「次に何をすべきか」が明確になると、動き出すまでの時間がとても早くなります。
数字では表しにくい変化ですが、手が止まらなくなったという実感はチームみんなが持っています。
最近は、脳疲労でミスを誘発しないように意識的に休憩を入れないといけないな、と思うくらいです。これは以前とはまったく異なる種類の悩みで、悪くない変化だと思っています。
その流れの中で、「やりたいけど後回しにしていたこと」が少しずつ動き始めました。
その中から、3つの話を紹介します。
1.コードなんて書いたことがないメンバーが、自動化を実現した
私たちの業務の中でミスが起きやすかったのが、システム間は連携されているけれど、連携された後に発生した変更を手動で反映する作業でした。
基本のデータは自動でシステム間を流れるものの、支払方法や納品先が急遽変わるといったイレギュラーが発生した際、すでに連携済みの進行中データと、大元となるデータの2ヵ所を手作業で修正しなければならないことがあります。
手動で対応している以上、どうしても片方は修正したけれど、もう片方を直し忘れるという更新漏れによるデータのズレが発生しがちでした。
これまではこのデータのズレを検知することが出来ませんでしたが、プログラミングに触れたことのないメンバーが、AIと一緒にこれを解決するSQL(データベースから特定の条件で情報を引き出すための言語)を作成することができました。
AIに「大元のデータと、連携後のデータを見比べて、片方だけ値が書き換わっている(=変更漏れしている)案件だけをリストアップするコードを書いて」とそのまま聞いたのです。
SQLの基礎の基礎だけ学んだあとは、「こういうデータ出したいんだけど、どうコード書けばいい?」「エラーが出たけどどこが間違ってる?」と壁打ちするだけです。
SQLが書けたとき、「自分たちにできないことなんてないのかも」という気分になりました。
結果として変更漏れによるミスはゼロになり、不安からも解放されました。
「私にもできるかも」という空気がチームに広がり、面倒な手作業を自動化・効率化する取り組みが次々と生まれています。
2.テンプレートを直す手間が消え、15分の作業が3分になった
お客様からの問い合わせメール対応も、大きく変わった業務の一つです。
AIを導入する前から、よくある質問への返信テンプレートは用意していました。
でも、実際のお客様からの問い合わせ内容は千差万別で、テンプレートをそのままコピペして終わり、というケースは少なく、結局は個別の状況に合わせて文章を書き換えたり、新しく説明を追加したり…毎回かなりの時間を要していました。1件の返信文を整えるのに、15分ほどかかってしまうことも珍しくありません。
そこで、社内のセキュアなAI環境を活用し、過去のテンプレートや請求・入金まわりのマニュアルを読み込ませ、言葉遣いやトーンを細かく設定しました。
今では、個人情報をマスキングした上でお客様からの問い合わせ内容をAIに投げるだけで、読み込ませたデータをもとにその問い合わせにピンポイントで沿った回答の下書きを自動で組み立ててくれます。
これまで15分かかっていたような返信でも、今ではAIが作った高クオリティな文章をサッとチェックするだけになり、わずか3分程度で完了するようになりました。
「今まで苦労して作っていたのは何だったんだろう?」と拍子抜けでした...。
対応スピードが劇的に上がっただけでなく、一から文章を考えるという作業がなくなり、繁忙期のしんどさが大きく軽減されています。
3.新しいメンバーが、マニュアルに「聞ける」ようになった
じさぽの業務マニュアルは、気づけば数えきれないほどのページ数になっていました。ページが多いこと自体は悪くないのですが、必要な手順がどこにあるか探すだけで時間が消えていく問題がありました。
これは新しいメンバーには特につらく、「これってどうするんでしたっけ?」とベテランメンバーに聞く場面が日常茶飯事でした。
そこで、マニュアル全体をデータベース化し、Notion AIで「聞ける」仕組みを整えました。
たとえば「契約譲渡ってどう対応する?」と打ち込むと、該当する手順を準備→実行ステップ→完了の定義の形で整理して返してくれます。
複数のマニュアルがヒットしたときも、どのページを採用するかのルールが決まっているので、答えがブレません。
また、書いていないことは「書いていない」と明示するよう設定しているため、AIが勝手にルールを作って誤案内するリスクも防げています。
「マニュアルを読む」から「マニュアルに聞く」へ。
新しいメンバーが自分で正しい手順を引っ張ってこられる仕組みは整いました。
全ての業務がマニュアルとしてきれいにデータ化されたとき、もっとすごいことになるぞ!とひそかに楽しみにしています。
AIが定型業務を担ってくれた先に、やりたいこと
最近は、忙しいながらも「いつかもっとAIに定型業務を任せられるようになったら」と、少し先のことも考えるようになりました。
マネーフォワードのプロダクトは多岐にわたり、オペレーションも複雑です。
だからこそ、システムだけでは解決できない個別事情やイレギュラーな相談が必ず発生します。
もし定型業務をAIに任せられるようになったら、「今忙しいのに…」とため息をつきながら処理するのではなく、「どうすれば解決できるか、一緒に考えましょう」と心から言える余裕を持ちたいなと思います。
セールスメンバーに「じさぽがいてくれてよかった」と感動してもらえるような、受け身ではないサポートができるはずです。
定型業務をAIに任せられるようになったとき、どんなことをしたいですか?
私たちはまだ答えを探しながら、今日もAIと壁打ちを続けています。
まず、今一番しんどい業務をそのまま打ち込んでみてください
仕事で手が止まったときには、ぜひこのプロンプトをそのまま使ってみてください。
以下の業務で毎日バタバタしています。ハードルを極限まで下げて、今日からできる小さな改善案を1つだけ提案してください:[業務内容]
[業務内容]の部分には、今自分が一番しんどいと感じている業務を書くだけで大丈夫です。
「社内チャットやメールの確認だけで午前中が終わってしまう」
「細々としたタスクが多すぎて頭の整理が追いつかない」
——といった具合で十分ですし、箇条書きでも、少々愚痴っぽくなっても構いません。
返ってきた答えが「それは難しい」と感じたら、「もっとハードルを下げてください」とそのまま返せばいいのです。
じさぽもまだ道半ばですが、毎日を乗り切るのに必死だった私たちの体験が、皆さんの業務を少しでも楽にするきっかけになれば嬉しく思います。



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