UFCは単なるスポーツ興行ではなく、トランプ大統領にとって格好の政策PR材料になりつつある。そこにヴァンの存在を重ねると、構図はさらに鮮明になる。
トランプ好みの要素が詰まったUFC
トランプ政権の移民政策は、不法移民に対する強硬姿勢を前面に押し出している。だが同時に、政権側が描きたいのは「法に従い、米国に貢献する移民は受け入れられる」というリーガル・イミグレーションの線引きの物語でもある。
ミャンマーの混乱からマレーシアの難民キャンプでの生活を経て米国へ渡り、ヒューストンで鍛え、合法的な市民として世界王者になったヴァンは、その筋書きにあまりにも収まりがいい。
もちろん、ヴァン本人がトランプ政治の宣伝塔を引き受けているわけではない。彼の物語は、あくまで本人と家族、祖国ミャンマー、そしてケージで積み重ねてきた努力の結晶である。
ただ、政治はしばしばアスリートの物語を利用する。軍政下の祖国を離れ、自由の国で成功した若者。合法的な移民として米社会に根を張り、暴力ではなく競技のルールの中で頂点に立った王者。トランプ大統領の側から見れば、これほど扱いやすい「成功した移民」の肖像はない。
もう一つ、UFCとトランプ外交が重なる部分がある。ロシアである。
ウクライナ侵攻後、多くの国際競技団体はロシア選手の出場制限や国旗使用制限に踏み込んだ。UFCも一時は選手の国旗掲出を制限したが、最終的には解除した。ロシア出身選手を一括排除する道も選んでいない。イスラム・マカチェフ、マゴメド・アンカラエフ、モフサル・エフロエフら、ロシアや旧ソ連圏にルーツを持つ強豪は今も各階級で存在感を放つ。UFCの論理は一貫して「国ではなく個人が戦う」という実力主義にある。
この姿勢もまた、トランプ大統領の外交観と奇妙に響き合う。トランプ大統領は他の西側首脳と比べ、ウラジーミル・プーチン露大統領との直接対話を重視してきた。制裁や国際協調の枠組みよりも、トップ同士の交渉で局面を動かそうとする。
良し悪しは別として、そこには「相手が誰であれ、力を持つ者とは直接ディールする」という発想がある。UFCが政治的正しさよりも「強い者をケージに上げる」ことを優先する団体であるならば、その世界観はトランプ政治のロールモデルにも映る。
ホワイトハウス大会は、その象徴的な完成形だ。米国の中枢に世界中の強者を集め、国籍も出自も政治体制もいったんオクタゴンの外へ置く。最後に残るのは、ルールの中で勝った者が称賛されるという単純な秩序である。トランプ大統領が好む「強さ」「勝利」「忠誠」「ショーアップ」のすべてが、UFCには詰まっている。